上 下
115 / 144
第3章 魔導帝国ハビリオン編

魔導帝国の危機

しおりを挟む
「やっぱり馬車で送ろうか?」

「いや、大丈夫」


 異世界太陽が傾き空を紅く染める頃
俺とアスキルは城の前でそんな会話をしていた

 アスキルの部屋で少し過ごしたあと、すごく豪華な昼食をご馳走になり、そこから書庫で本を読んだり、武器庫を再び見に行ったりと色々していたらすぐに時間が経ってしまった

 学院に帰る時間になり、アスキルが馬車を用意しようとしてくれたが、俺は断った
ゆっくり街を歩いて帰りたい気分だったからだ

「気を付けてな」


 そんな言葉を背に、城の門へと向かう
門の前に立つ門番に頭を下げ門をくぐると貴族地区に出る
城の周囲を囲むように存在する貴族地区は入るのが厳しい分、出るのは簡単だったりする
なので徒歩で帰っても問題無し

 そして貴族地区と他の地区をへだてる門から出たその時
ゴーレム部隊から怪しい者達を発見したという報告があったのだ


(行くか…行くまいか…)


 偶然にも、その怪しい者達は俺がいる場所から離れてはいなかった…が、どんな相手かもわからないのに近付くのは自殺行為だと思う

 まぁ、それなら近付かなければいいということだけど
…やってみようかな

 俺は夕方で賑わう道を逸れて人通りが少ない場所に移動し、魔法を使う

「【地平線を見通す目ホライズンアイ】」


 一瞬にして視界が切り替わる
先程まではレンガの壁を見ていたのに、今は目の前にたくさんの屋根が見える状態だ

 意識して屋根の上から下を覗くと、俺の黒い頭が見える
それで分かると思うけど、決して瞬間移動したわけじゃない

 【地平線を見通す目ホライズンアイ】は【遠視】の能力を(賢者先生が)改良したものだ
一体どうなってるのか、どうやってるのか、全く理解できないけど、一定の範囲内にある場所全てを見ることが出来るらしい
マジチートですわ

 ただ、長時間使用してると気分が悪くなってくるので、さっさと目的の者達を探すことにする

 再び視界を意識するとグングン景色が進んで行く
屋根を飛び、人をけ、道を駆け抜け…、数秒もせずに目的の者達は見つかった
ゴーレム達の報告で場所はわかってたからね


 視界に入った怪しい者達はフードを被り数人で行動していた
そんな姿でコソコソしてたら逆に怪しいんじゃ…、と思っていたがフードに認識阻害系の魔法が編まれているようで、周りの人は気にした様子も無い

(もっと近くで見れば顔が見えるかな…?)

 俺に対して認識阻害の魔法なんてほぼ無意味に等しいし、そもそも初めから相手の事を認識しようとして探したのだから効果なんて無いも同然

 なので、さっさとヤツらの顔を見てウィアベルさん達にでも伝えようかな…と、近付いたその瞬間


 フードの一人がこちら側に勢いよく振り向いた


(んんっ!??)


 俺は二つの意味で驚いた
一つは、直接見られてるならともかく、スキルを使って見ているのに気付かれたことだ
そりゃ、精神系だったり攻撃系のスキルなら気付かれるって事もあるだろうけど、【地平線を見通す目ホライズンアイ】は視界を拡げるっていう単純なスキルなんだよ?
もしかしたらこっちが知らない感知能力を持ってるのかも…



 そしてもう一つの驚いた理由は、振り向いたフードの顔がわからない事だ
知らない顔だったとかじゃないよ?
顔にモザイクがかかってるみたいに顔が見えないって感じ
犯罪者感が半端ないわ


 たぶんフードのヤツは何らかのスキル妨害しているんだと思う
こっちは直接見てる訳じゃなくてスキルを介して見てるだけだからね


 そんな事を思っているうちにフードのヤツらはササッと人混みへと隠れてしまった
まぁ、こちらとしても急に戦いにならなくて済んで良かったと思っているけど…
だって振り返ったフードの人って確実に強いと思うし…


 うーむ、思った以上にまずい事態になってるかも…
やっぱりもっと早く準備を進める必要があるね
寝てる時間無い…ね

(よし…!)

 俺は、これから来るであろう日に備え寮へと走りだす
夕焼けが街を包み込み、ゆっくりと影を落としていく
それはまるでこれからの未来を暗示しているかのように…



・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・




「お?ユウトか、はよー」

「おはよう、3人とも早いね」


 食堂にフェルと朝ご飯を食べていると、仲良し3人組がやってきた
俺達の対面の席に座って食事を始める
今日もフェル達はどこかに出掛けるようで、俺も誘われたけど、今日はギルドに向かおうと思っていたから断る事にした


 城に招待されてから数日が経ちあれから何事も無く生活している
全く何も無いわけじゃないけど…

 戦闘訓練からスキル兵器や魔道具の製作などなど…を賢者先生と相談しながら頑張ってるし、ゴーレム部隊の監視も強化している

 この間の怪しいフードの人達はゴーレム部隊が追跡したけど撒かれてしまい現在行方不明
怪しい事この上ないので早く見つけたいところだ

 そんな感じで俺は色々頑張ってるのさ!
え?ほぼ賢者先生とゴーレム達がやってるって?
そんな事は気にしないでいいのよ?


 そんな事を考えていたその時――

(ん?これは…?)

ガシャンッ!ガラガラッ!ガタッ!

「え…?」

 何らかのスキルを感知した瞬間、周囲で突然バタバタと人が倒れ始めた
それはフェル達も例外じゃないようで、料理に顔を突っ込む形で倒れ込む

「フェル!?みんなっ!?」

 急いで立ち上がりフェルの様子を見ると眠っているだけのように見え、調べたところ睡眠の状態異常になっていた
他の人も同じような状態になっている

(ついに来たか…!)

 何かあるだろうとは思っていたが、こんな事をしてくるとは…!
感知範囲にいる人達のほとんどが眠っている事がわかる
眠っていない人もいるが動けていないようだ


 急いでゴーレム部隊に指示を飛ばしながら、フェルの睡眠状態の解除を試みる
…が、一瞬消えたと思った睡眠状態がすぐに復活してしまった

 賢者先生に確認をとると、睡眠のスキルを発動し続けているということらしい
そんなバカな…と思ったが現実に起こっている事なので気にしてもしょうがない

(仕方ないここに放置するしか無いか…)

 幸いにも睡眠以外の力はかけられていないらしいのでこのまま放っておいても大丈夫だろう
一応フェル達にだけ簡単な結界をかけてから、俺は食堂を出て外へ向かった


「ここも…」


 外にも生徒が倒れており、中には先生まで倒れていた
街全体は静かで騒ぎが起きていない事がわかる
つまり国全体が眠っているという事だ

(まずい…こんなに大規模だなんて…)

 あれだけコソコソしていた連中がこんな事をするなんて思ってなかった
いや、みんな眠らせてるからコソコソとも言えるかもしれないけど…


「ユウト君!無事じゃったか!!」

 呼ばれた声に振り返るとそこには走ってくるウィアベルさんの姿があった
焦っている顔を見るのは初めてだ

「大変な事になってます…」

「うむ…これはまずいのぅ」

 ウィアベルさんは空を睨みながら考える…、そしてすぐにこちらへ顔を向けた

「一緒に行きます!」

「なんじゃ!?」

 ウィアベルさんの顔から推測するに、危険だからここにいるのじゃ!的な事を言うつもりだろう
その前に言ってやったのさ!

「ウィアベルさんには程遠いですけど、自分の身は自分で守れます、それに戦力は多い方がいいでしょう?」

 お願いします!と頭を下げるとウィアベルさんのゴホンッという咳払いが聞こえてきた


「先に言われてしもうたか…仕方ないのぅ…」

 俺はウィアベルさんの許可を得ることに成功したらしい
諦めた感があるけども…


「これを起こした者共の目的は一つじゃろうな」

 ウィアベルさんはそう言い顔をそちらに向ける
俺もその視線の先を見るとそこには大きな城が存在感を放っていた

「行くぞい」

「はい!」


 俺とウィアベルさんは城へと向かい走り出した







――――――――――――――――――――――――――――――

アオネコさんです!
久しぶりに登場しました!


遅くなりましたが、お気に入り件数が1200件を突破しました!!
報告が遅れて申し訳ありません…

皆様にこれからも読んで頂けるように頑張って参りますのでどうぞ応援よろしくお願いします!





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~

きのこのこ
ファンタジー
旧題:神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜 突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

え?私、最強なんですか?~チートあるけど自由気ままに過ごしたい~

猫野 狗狼
ファンタジー
神様の手違いで転生してしまう主人公ナナキ、ちょっとボケた神様はステータスすらとんでもないことにしちゃって…!?ナナキの所に神様やら聖獣やら精霊王やら集まってくるけど、周りの人達のおかげで今日も今日とて元気に暮らせます。そして、自分からやらかすナナキだけどほとんど無自覚にやっています。そんな女の子が主人公の話です。 表紙は、左上がハデス、真ん中がナナキ、右上がゼウス、ナナキの隣がアポロ、右下がヘファイストスです。 ド素人な私が描いた絵なので下手だと思いますが、こんな感じのキャラクターなんだとイメージして頂けたら幸いです。他の人達も描きたかったのですが、入りきりませんでした。すいません。 稚拙ですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。 お気に入り700人突破!ありがとうございます。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

処理中です...