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第1話 ボーイ・ミーツ・カスガール
しおりを挟む「カスのライフハック研究会?」
思わず、口からすっとんきょうな声がもれる。
ぼくとしては、その声に「なんですかそのバカみたいな名まえの団体は」という困惑のひびきをこめたつもりなのだが、目のまえの女性はムフンと鼻息をあらくしてこうこたえた。
「そうです。われわれがあの『カスのライフハック研究会』であり、私はその会長代行を拝命しております」
胸をはり、誇らしげに胸に手をあて言い放っている。
ヘアピンで前髪を分け、広くおでこを出した彼女には、むしろじまんするきっかけにしかならなかったようだった。
ぼくと彼女のイスの周辺に立つ、似あわないサングラスをつけた男数名も、うむうむと厳粛にうなずいている。
「あのみなさまご存じ」のようなノリで言われているが、『カスのライフハック研究会』だなんてまったく聞いたことがない。
大学の敷地内にあるオープンテラス席に座らされたはいいものの、四月になったとはいえまだ肌寒い日で、ぼくはぶるりとふるえた。
が、「カス」などという侮蔑的なワードを含む話をしてまわりに聞き耳を立てられるのもあまり歓迎できない話で、そういう意味ではよかったのかもなとむりやり自分を納得させる。
ぼくとしては、女性が補足の説明をしてくれるのを待っていたのだが、腕組みして胸をはったまま一向に話を展開しようとしないので、しかたなくこちらからうながす。
「それ、どんな活動をする研究会なんですか」
「よくぞ聞いてくれました! そんなにも聞きたいというのなら、しかたないですね。お教えしましょう」
「いえ聞かないですむならそうしたいんですが……」
「まず、ライフハック、という言葉はご存じですね?」
都合のいい言葉以外はまったく耳にはいらない仕様になっているらしく、ぼくはわざとらしくため息をついて、質問にこたえる。
「ご存じというほどではないですけど……ライフとつくぐらいだし、なんか『生活がちょっと楽になるテクニック』みたいなことかなと、勝手に解釈してます。スマホの便利な活用法とかでもライフハックって言葉をつかったりしますよね」
「だいたいですが、そのとおりです。生活だけでなく、仕事術みたいなもののときにもつかう、というよりもともとはそちらのほうを想定した造語だったようですね。ライフハックという言葉がわかるなら……あとは、おわかりですね」
女性はひとくち紅茶をふくみ、育ちのよさを感じさせる優雅な所作でニコリと笑んだ。
しかしこっちの意図はまったく汲んでくれないのに、自分たちの意図は「おわかりですね」で察知させようとは少々不公平にすぎないか。
「その言いかたって、『わからないほうが察しがわるい』みたいな印象になるんで卑怯ですよね。ぼくみたいな察しのわるい人間は、『カス』と『ライフハック』をどうつなげたらいいのかなんてまるでわからないです。ぼくから突然『われわれが提唱するスペシャル・ゴミ・ソリューション……意味はおわかりですね』と言われたら『わかるかボケ』って思いません? ぼくはいままさにそういう気もちですよ」
いらだちが募り、つい攻撃的な返答になってしまったが、女性やとりまきたちはそれに憤るというより存外に感心するような表情になった。
「なかなかの口のわるさ……スーパーで買いものをしていただけのあなたを、わざわざ呼びとめたかいがありました。『カスのライフハック』をあえて言いかえるならば、『カスが行うライフハック』とすることもできます。そも、『カスのライフハック』には2種類あると、われわれは定義づけています」
講義でもはじめたつもりか、女性はイスから立って、ゆっくりとテーブルのまわりを歩きながら語る。
ぼくはこのスキに逃げ出せないかなと周囲を一瞥するが、男たちがすぐまうしろにかまえていることから、この男たちをどうにか移動させたり気をそらしたりしないと難しいかと思案をめぐらせる。
「ひとつは、『カスみたいなささやかさのライフハック』です。たとえば、自室を汚部屋にしつつ現金を日ごろから雑に扱うことで、部屋の掃除をしたときふとゴミの下からお金が見つかってうれしい! のようなささやかなライフハックを指します」
「……ライフハックっていうより『ズボラなカッス』では」
「もうひとつが、われわれの理念の結晶である『カスが行うライフハック』――いえ、あえて露悪的に表現するならば『カスがカスゆえに行うカス的ふるまい』――そう言ってもよいでしょう」
「カスがカスゆえに行うカス的ふるまい……たとえば?」
「たとえば、そうですね……あなた、ラーメンはお好きですか?」
「好きっていうか、まあ、そうですね。月に一回ぐらいは食べます」
「ラーメン店のなかには、麺のかたさを注文時に聞いてくるところがあるでしょう? 『かため』『ふつう』『やわらかめ』の3種類から選べるとき、あなたならなにを選びますか」
「選べるとき……えー、そうですね。ほとんど『やわらかめ』ですかね」
ぼくがなにげなくそうこたえると、女性は「やわらかめ!」と興奮したようすで復唱し、こちらにずずいとおでこを近づけてきた。
「すばらしい! やはり、あなたに声をおかけした私の目に狂いはなかったようですね。わが研究会の創始者<偉大なるカス>も、常にやわらかめを頼むおかたでした……ちなみに、あなたがやわらかめを頼む理由は?」
カス・ザ・グレイトってダサすぎるだろと思いながらも、いきなり迫られるのでやむなく理由を考える。
首をさすりつつ、ななめ上を見て、こたえた。
「いや、なんとなくですかね……っていうかあくまであれですよ、やわらかめがほかのにくらべたら多いってだけで、常にじゃないですよ。なんなら確率的には半分か、もうちょっと少ないぐらいかも……」
それを聞くと、一同は落胆の色をかくそうともせずため息をつく。
「はぁ……まあ、そうですよね。常人ではそんなものですよね。<偉大なるカス>がやわらかめを頼む理由はですね、『そのほうがラーメン店のコストがかかるから』です。仮にあなたと、あなたのとなりの人が同じラーメンを頼んでいたとして、そのかたが『ふつう』を頼んでいた場合、あなたの麺のほうが長くゆでられることになりますよね? 長くゆでられるということは、その分ガス代が多くかかるということ。つまり、同じラーメンで、同じ価格にもかかわらず、あなたのほうが原価の高いラーメンを食べられるということです!! 圧倒的にお得なのです!」
「……それ、そのぅ、カスすぎません? 人格的な意味でもライフハックの規模的な意味でも」
「なればこその『カスのライフハック』です! われわれが志す『カスがカスゆえに行うカス的ふるまい』の意味……わかっていただけましたか?」
女性――『カスのライフハック研究会』の会長代行が、握りこぶしをつくって力説したあと、どこか淫靡にほほえんでぼくを見やる。
そんなカス話でドヤ顔されてもなぁと思いつつ、ぼくは応じる。
「で、そういうカスのライフハックを研究する団体だから『カスのライフハック研究会』ってことですか。なるほど、それはそれで自由にやっていただいたらいいと思うので、ぼくはもう帰ってもいいですか?」
「おっと、なぜあなたをお呼びとめしたのかまだお話ししていませんでしたね……これは失礼。あなたは先ほど、スーパーで買いものをされてましたよね? そこで、私に声をかけられた」
「そうですね、ただ牛乳を選んでいただけなのに、突然知らない女性に手首をつかまれて、奇声まであげられて、たいへんな迷惑でした」
会長代行の話に、イヤミをまぜつつ補足する。
ついさっき、大学近くのボロアパートに住んでいるぼくは、帰りがてら大学近くのスーパーで買いものをしていたら、この女性に「なにをしてるの!?」という怒声とともに手首をつかまれたのだった。
やや腰をかがめた窮屈な姿勢で、のばした両腕のうち片腕をおさえられたぼくは「なにって、牛乳を買おうとしてただけですが……」と弁明する。
場所はスーパーで、商品片手に「なにをしてる」ととがめられる人間。
シチュエーションとしてはまさしく「万引き現場をおさえられた盗っ人」という風情だが、ぼくは神に誓って万引きなどというゲスな犯罪行為をしたことはない。
とはいえそんな誓いは、口に出さねば周囲の人には伝わらず、さわぎを聞いた人々がぼくたちのことを奇異な目で見はじめたことで心がチクチクと痛んだ。
「失礼……ここでは目立ちますね。買いものが終わったら、少し時間をいただけますか。そとで待っています」
と告げて女性が去っていき、ひとりとりのこされたぼくは気まずさから周囲にペコペコと頭をさげつつ、手にとった牛乳をあわてて買いものカゴに放ってその場をはなれたのだった。
ぐしゃりと、カゴのなかの食パンがつぶれて変形したのもそのままに。
できればほかの客に混じってそのまま帰れないかと、コソコソ身を小さくして移動していたのだが、スーパーの出口はひとつしかないためにあっけなく見つかって連行され、いまに至るのだった。
スーパーを出たときにはこのボディガード然とした男たち3人がいたのだが、あとでさらに2人が合流して5人になった。
5人もの男にとりかこまれてはなかなか逃げるに逃げられない。
「代行、本当にこの男がわれわれの追い求めたカスですか……? <偉大なるカス>のようなほとばしるカスオーラはありませんし、どこにでもいる平凡な男のように見えますが……」
ひときわ体格のいい男が、まゆをひそめながらうろんげな声を発する。
勝手に期待ハズレ扱いされるのもそれはそれでムカつくが、とはいえそう思ってもらえたほうが都合がいいにはちがいないので、ぼくは声に怒気をまぜてのっかる。
「人をカス呼ばわりするとは失礼ですね! そのとおりぼくはよくもわるくも平凡な男なんで、あなたたちのご期待には沿えないと思いますよ。ぼくが万引きするようなカスだとでも思ったんですか?」
「われわれのカス行為は、決して犯罪行為とイコールではありません。カスのライフハック研究会の活動において、犯罪行為に手をそめたことは一度としてない、と断言できます。あくまでも道徳的・倫理的観点におけるカス行為であること。それがわれわれの鉄の掟、いえカスの掟、あるいは掟から出たカスだからです。私は――あなたの万引きをうたがって声をかけたわけではありません」
「それならなおさら節穴ですね。牛乳を買ってただけのぼくに声をかけるだなんて、いや、あるいは『善良な一市民に周囲からの疑念の目を向けさせる』っていうカス行為だったってことですか? カスのライフハック研究会とやらもずいぶん――」
「本当に」
とうとうとしゃべるぼくの非難を切り裂くように、会長代行のするどい眼光がさえぎった。
「牛乳を買ってただけですか?」
ほっそりとしたしなやかな指を、テラス席のテーブルにかろやかにのせ、威圧するようにぼくの目をのぞきこむ。
のどがしまって、ことばがつまる。
「それ以外に……なにがあるって、いうんですか」
ごくりと、つばをのむ音が、ひとごとのように聞こえた。
まさか、バレていたっていうのか。
そんな疑念が頭をもたげ、そんなわけはないと、心のなかで首をふる。
これまでだって、バレたことはなかったんだ。
「……こんな話を知っていますか?」
そんなぼくの動揺など意に介さぬように、こんどは逆まわりにコツ、コツとゆっくりテーブルまわりを歩きながら、会長代行が語りはじめる。
「スーパーの牛乳が、多くは『賞味期限順にならんでいる』という話です。お客さんが手にとりやすい前列のほうに賞味期限が短いものを置いて、期限切れの商品がお店にのこらないようにする、という工夫ですね。ま、これは一般の消費者にも広く知れ渡っている話ですから、スーパーで買いものをするような人間にとってはなかば常識といってもいいぐらいのものでしょう。そのため、賞味期限が一日でも長い商品がほしい消費者は、奥に置いてある商品をとろうとします」
「…………」
「さて、そんな『賞味期限が一日でも長い商品がほしい消費者』は、はたして全員が、毎回、牛乳の賞味期限をひとつひとつ確認して選んでいるでしょうか? これは――否でしょう。そうしたお客さんの中には、『奥にあるのが賞味期限が長い商品だろう』と思いこんで、大して確認もせずに牛乳を手にとっている人もいるはずです。もちろん、全員がそうであるという話はしていません。中にはそういう人もいるというだけの話です。これに、異論はありませんね?」
ぼくは肯定も否定もしたくなかったので沈黙していたが、会長代行はぼくが首肯したかのようにほほえんでつづけた。
「さて、ここからは私の推測です。妄想、といってもいいかもしれません。あなたは、いまの話とは逆に、『賞味期限を厳密に確認する人』のように見えました。手をのばし、一本一本の牛乳の賞味期限を確認し、一番遅いものをカゴに入れるやや心配性のお客さん……。ですが、あなたはそうではなく、牛乳の前後を入れ替えていたのではありませんか? そう、大して確認もせずに奥の牛乳をとるお客さんが、誤認して賞味期限の短い牛乳を手にとるようしむけるカス行為をしていた――ちがいますか」
会長代行が立ちどまり、指の先を、ぼくに向ける。
レイピアでも突きつけられたかのように、ぼくは、動けなくなった。
かろうじて、舌に抗弁を強いる。
「……たいそうな妄想ですね。ぼくはおなかが弱いんで、万が一のために、少しでも賞味期限が長いものがほしかっただけですよ。それで賞味期限を吟味していた……ただそれだけです」
「ふむ……それでは、あなたが買ったものを見せていただけますか? あなたに声をかけながら、私は牛乳の賞味期限も確認していたのですよ。短いものは4月15日、長いものは4月16日になっていました。あなたの言うことが正しければ、あなたが買った牛乳は4月16日のはずです」
「……べつに、ぼくに潔白を証明する義務はありませんよね。あなたがたがそう思いたいなら、思っていたらいいんじゃないですか? 用事があって急いでいるので、このへんで失礼しますよ。では」
そう言ってぼくが自分のバッグをもって逃げようとすると、会長代行がパチンと指をはじく。
みごとなまでに訓練された軍隊の精緻さをもって、一部の男がぼくを拘束し、一部の男がぼくからバッグをはぎとる。
「こ、このカスども! 他人のバッグを勝手に見ていいと思っているのか!」
「カスというのは、われわれにとって最大のほめ言葉……。なに、ほんの少し上部をめくって、牛乳の賞味期限を見せてもらうだけですよ。よけいなものまで見やしません。われわれには鉄の掟、いえカスの掟、あるいは掟から出たカスがありますからね」
「それ毎回言うの?」
ぼくの必死の抵抗もむなしく、バッグはあけられてしまった。
出てきた牛乳にきざまれた賞味期限は、言うまでもなく――4月15日だった。
「まさか2本も買っていたとは……1本だけならまだしも、2本とも短い賞味期限であるということは、これ以上の言いのがれはしませんよね?」
ぼくはふうと息を吐くと、「はなしてくれ、もう逃げない」とあきらめて告げ、ドサリとイスに腰をおろした。
整髪料で好青年風にととのえていた髪も乱暴にくずす。
「まさか、おれの<牛乳ちゃんこっち来てね>が見抜かれることがあるなんてね……。成功つづきだったから、慢心ってやつかな。こわいもんだ。『竜馬のつまずき』ってことばを、もっと真剣にとらえておくべきだったよ」
態度を変えて容疑を認めると、「わざわざ技名つけるとかこいつ厨二病か?」というつぶやきが男たちからもれる。
「技名といえば、あんたが得意げに言ってた『ラーメン店で毎回やわらかめを頼む』ってのは、おれは<麺はドゥルドゥルで>って呼んでる。まさか、おれと同じ動機で、同じことをしてるヤツが世のなかにいたなんてね……」
「ということは、あなた、本当は……」
「そ。さっきは適当にとりつくろったが、ほんとは毎回やわらかめを頼んでるのさ。そのほうが本来必要のなかったコストごとラーメンを味わえるからね」
「野生のカスだ……!」
「まさか、独力で<偉大なるカス>の領域に到達するカスがいるとは……」
「技名ぜんぶダサい」
と男たちが嘆声をあげる。
会長代行はふるえながら、問うてきた。
「ち、ちなみに、味としてはどうなんです? やわらかめが好きだからっていうのも、あるんですか」
「個人的嗜好の話かい? <麺はドゥルドゥルで>はあくまでお得感の話であって、味としてはむしろかためが好きだね。『もっと噛みごたえがほしいんだよな』って思いながらしぶしぶ食ってるよ。ま、これもカスに課せられた宿命ってやつだね」
「な、な、なんていうこと……!」
会長代行はそういっておでこをおさえるが、それは怒りというより、歓喜の感情であるようにおれには見えた。
ひと息つくと、地面に片ひざをついてキッとおれを見あげる。
「強引に呼びとめた非礼をお詫び申しあげます。私どもは、あなたのようなカスを、極上のカス野郎をさがし求めていたのです。私の目に狂いはなかった……。あなたのスーパーでの挙措から、<偉大なるカス>の面影を、私はたしかに感じとっていたのです。どうか、どうかわがカスのライフハック研究会の会長になってはいただけないでしょうか……!」
「おいおい、おれは自分のことカスだと思ってるけど、人からカスと呼ばれるのは少々不愉快だぜ。それに、その<偉大なるカス>とかいうダサい名まえのヤツが会長なんじゃないのかい?」
「ダサいだと、おまえの技名とかしゃべりかたのほうがよっぽど……!」
と、いきり立ってつかみかかってこようとする男を、会長代行が細腕で制する。
え、おれのしゃべりかたがダサい……?
「<偉大なるカス>は、当研究会の創始者であり、会長ではたしかにありましたが、卒業されたのです……!」
「正確には卒業じゃなくて中退です。『おれはカスの道を極める』といって……」
とぼそりと耳打ちをしてくる男がいる。
「私はもともと、自分で言うのもあれですがそこそこいいとこの箱入り娘でした。『いい子でいなさい』と言われて育ち、いい子としてふるまうことでほめられ、それに不足を感じたこともありませんでした。でも、ある日、『いい子であったことで、私にはなにが残ったんだろう。私は何者になれたんだろう』と考えたとき、その答えがカラッポであったことに、私は愕然としたのです。――<偉大なるカス>と出会ったのはそんなときでした。人からうとまれる『カス』という蔑称をみずから名のり、カスとしてふるまいつつ、しかし犯罪行為などの一線は越えない……私はうちふるえました。おのれの小ささを、無色透明さを恥じました。たとえ汚泥のごとき濁りであっても、自分に色があることを誇りたい……そう思って彼に弟子入りを志願し、共感してくれたここにいるメンバーとともに当研究会を立ちあげたのです」
とりまきの男たちは、彼女の話からなにを思い出すのかうんうんと涙ぐみながら聞き入っている。
会長代行は熱に浮かされたようにしゃべりながらも、顔をくもらせた。
「しかし……私には、カスの才能がありませんでした。<偉大なるカス>の話を聞き、熱心にメモをし、<偉大なるカス>のふるまいを真似る……しかし、それは結局彼の薄皮をなぞっているにすぎません。言うなれば『黄金のカスの魂』ともいうべきそれを、真髄を、私はおのれのものとすることができなかったのです……!」
「カスの才能ってないほうがいいんじゃないの?」
というおれのしごくまっとうな指摘は、特段耳にはいらなかったようだった。
「彼の卒業後、副会長であった私は会長代行に就任しました。しかし、会長職は空白のまま……私は、会長として会を導けるレベルのカスではないからです。そしてここにいるみんなも、残念ながら同レベルのカスでしかありません。だからこそわれわれは、会長職にふさわしいカスがどこかにいるのではないかとさがしていたのです! そう、あなたのようなクソカスゴミ野郎を……!!」
ずいぶんな言いぐさである。
聞いていると、だんだん、彼女の「会を導けるレベルのカスではない」という言葉が謙遜なのか、「あたいはおまえほどのカスじゃねぇぞ」というマウントなのかがよくわからなくなってきた。
おれはボリボリと頭をかき、先ほどみなのまえにあばかれたバッグをもっとひらいて、荷物の全容を見せた。
「これ見て、なにか感じる?」
一同に問うが、みなキョトンとして、こたえられない。
バッグのなかに入っているのは、牛乳、食パン、菓子パン、カップラーメン、キャベツ半玉、30%引きの豚コマ肉など通常のものばかりである。
そう、おれはひとつとして、何かおかしなものを買っているわけではない。
そうだろうなぁとため息をつき、おれは
「んー、さっきも言ったけどおれは自分のことをカスだと思ってるだけで、ほかの人からカス扱いされたいわけじゃないんだよね。たぶん、あんたがたとおれでは見ているものがちがうからやめといたほうが――」
とまで言ったところで、「ハァーハッハァー!」というマンガでしか見ないような邪悪な高笑いにジャマされ、思わずそちらを見やる。
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