上 下
133 / 226
:第4章 「危険なシゴト」

・4-20 第134話 「結成、被害者の会」

しおりを挟む
・4-20 第134話 「結成、被害者の会」

 自身の持っていたプリーム金貨が、偽物だった。
 そう告げられた巫女は、その事実をすぐには信じることができずきょとんとした表情を見せている。
 それは、この王都・パテラスノープルまで贋金を本物だと信じて運んできた源九郎たちがその正体を教えられた時の反応と、概ね同じものだった。

「ああ、間違いねぇ。この指輪は、偽プリーム金貨に反応するように特注したものなんだ。そいつがこうやって反応してるってことは、こいつは偽物ってことさ」

 相手の知らないことを自分は知っている、そのことに少し得意そうなトパスはそう言うと、「見てな、お嬢さん」と言いつつ、懐から肉厚のナイフを取り出した。
 そして、巫女が見つめている前で、ゴリゴリ、と偽プリーム金貨の表面を削り取っていく。
 すぐに金メッキがはがれて、鉄の部分が姿をあらわした。

「どうだ? ホンモノのプリーム金貨なら、ちょっと削っただけでこんな風に鉄の層が出てくるはずがねぇ。なにしろアレは、ほぼ純金でできてるんだからな」
「そ、そんなはずは……! 第一、そのような鉄にメッキしただけの硬貨なんぞ、秤で調べればすぐに見分けがつく! わらわは秤にかけるところをしっかりとこの眼(まなこ)で確かめておるし、重さは十分にあった! 」
「それよ、それ。そいつがこの贋金の巧妙なところさ。重さをごまかすように、魔法を使ってるんだ。この芯になってる鉄の層に魔法陣が刻まれていてな。そのせいで、重さじゃ贋金だって見抜けねぇ。表面には本物の金を使ってるから、見た目でもわからねぇ。コイツはそういう、実に手の込んだ、よくできた偽物なのさ」
「な、なんということじゃ……っ! 」

 トパスの説明を聞き、自身が持っていたプリーム金貨が贋金であるということを信じざるを得なくなった巫女は、へなへなとその場に崩れ落ち、両手を地面に突いてガックリとうなだれた。

「わらわの……! わらわたちの、一週間の苦労が無駄に……っ! せっかく溜めた、路銀じゃったのに! これでは、無一文ではないか……! 」

 その声は涙ぐみ、震えていた。
 源九郎は、彼女が相棒のアカギツネと一緒になって大道芸にいそしみ、おひねりをもらっている姿を目にしている。
 苦労が無駄にというのは、路銀とするために一週間大道芸を続けて稼いだお金を、どこかの両替商でプリーム金貨に交換したということなのだろう。
 そうした理由はおそらく、多くの雑多な硬貨を持ち歩くのは重いしかさばるからだ。しかしそこで贋金をつかまされてしまい、すべての苦労が水の泡となってしまったのだ。
 悔しそうに握り拳を作る彼女に、小夜風が心配そうにそっとよりそい、気づかうようにポンと前脚を主の方の上に置いた。

(わかる、わかるよ、その気持ち)

 巫女と同じく贋金の被害に遭っている源九郎には、突然自分が無一文であるということを知ってしまった時の絶望感を容易に共有することができた。
 自然と、うんうんと何度もうなずいてしまう。

「まぁ、そう落ち込みなさんなって」

 あまりの落ち込みように同情したのか、あるいは単純に言いたいだけなのか。
 トパスはゆっくりと巫女に近づいていくと、数歩手前で立ち止まり、しゃがみこんで慰めの言葉を述べる。

「コイツはあんまり巧妙で出来がいいから、ついしばらく前まではワシらも、この王都中の両替商が騙されとったんだ。おまえさんが見ぬけんのも当然のことさ。ほれ、そこにいる猫人(ナオナー)も、こっちの大男も、みーんな騙されちまった被害者なのさ。コイツをお前さんに渡したところも、損切りをしたかったんだろう。よそ者のお前さんなら別に贋金渡してもいいだろうって、甘く見てな」

 マオも源九郎も、神妙な顔をするしかなかった。
 自分たちもすっかりこの偽プリーム金貨を本物だと信じ込んでしまったことがあり、その結果、現在のような不本意な状況に置かれてしまったのだから、巫女が受けているショックはよく理解することができるのだ。
 ———だがその時、トパスはその口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

「けどな、ワシらはこの贋金の出所をつかんでいるのさ。そして今から、その製造法をかっぱらって、ワシらを騙した奴らをぶっ潰しに行くところだ」
「……贋金を作った者たちを、潰しに行く、じゃと? 」

 禿頭のドワーフの言葉に、ハッとしたように巫女が顔をあげる。
 すると悪の親分はあの似合わない愛想笑いを浮かべて見せた。

「どうだい、旅のお嬢さん。あんたも一枚、かまねぇかい? 」
「な、なに? どういうことじゃ? 」
「あのな、そこでのびてる犬頭の獣人と、お嬢さんがのしちまった鼠人(マウキー)、それに脱走騒ぎを起こした猫人(ナオナー)に、そこの大男。この四人はな、これから贋金作りの本拠地に行くところだったのさ。……見たところ、あんた旅慣れしてるようだし、おもしろい相棒を連れとるし、戦力になりそうだ。おまけに、ワシらと同じで、贋金の被害にも遭っている。協力して、贋金の出所を潰してやろうじゃねぇか」

 その提案に、巫女は最初、唖然としていた。
 しかしどうやら魅力を感じたらしく、身体を起こした彼女は「ふむ……」と真剣な表情で、繊細な指先を自身の形の良いあごにあてて、視線を伏せて思案する。

「い、いや! やはり、ダメじゃ! 」

 だが、すぐに彼女は首を左右に振った。

「お、お主らのような悪党と、たとえ善行を成すためであろうと、手を組むなどあり得ぬ! そもそも、なにか良からぬことを企んでおるかもしれんし、信用ならんからの! 」

 その言葉に、主がどんな判断を下すのかをじっと見守っていた小夜風が、うんうん、と力強くうなずいてみせる。
 どうやらこの魔獣は、ある程度人間の言葉を理解することができるらしい。

「まぁまぁ、そう言わずに、な? 」

 明確な拒絶を示されたのだが、トパスはまだ諦めなかった。
 どうやら彼は、最初からこの不運な旅人たちを一時的な仲間に誘うために近づいて行ったようだった。

「お嬢さんたち、せっかく稼いだ金を、贋金に替えられちまって困ってるんだろう? ワシらに協力してくれるなら、それ相応の報酬を支払おうじゃねぇか」
「ほ、報酬じゃと? ……いや、ダメじゃ、ダメじゃ! 」

 巫女は報酬という言葉に興味を示し、ピクリ、と食指を動かしたが、すぐに頭(かぶり)を振って篭絡されそうになった気持ちを振り払う。
 揺らいでいる彼女に少し顔をよせると、悪党の親分は、トドメとばかりにささやいた。

「前金で、メイファ金貨を十枚出そう。成功したら、あらためて三十枚出す」

 そのセリフに、悪の組織の手下たちがざわつく。
 源九郎にはまだ価値がよくわからないのだが、提示されたのはけっこうな大金であるのだろう。
 その証拠に、

「……その話、乗った! 」

 顔をあげた巫女は、凛とした表情で一切の迷いなく、悪に加担することを了承してしまっていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...