殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

文字の大きさ
上 下
109 / 226
:第3章 「王都、賑やかに」

・3-11 第110話 「トラブル」

しおりを挟む
・3-11 第110話 「トラブル」

 源九郎とフィーナは驚いた時の表情のまま固まって、呆気に取られて両替商の方を見つめている。
 周囲の人々の反応も、概ね同じだった。誰もがいったいなにが起こっているのかという顔で騒音のしている方を振り返り、立ち止まって凝視したり、知り合い同士で噂し合ったりしている。

「ぎにゃーっ!! ミーはそんな、騙そうなんてしてませんにゃーっ!!! 」
「うるせぇっ、大人しくこの金貨の出所を吐きやがれっ!!! 」

 店の中からは、マオの悲鳴と、ドスのきいた低いだみ声の怒鳴り声が響き、ドタドタと何人かの人間が走り回る音、物が倒れる音、何かが割れる音が途絶えることなく聞こえてくる。

「すまん、ちょっと降りてくれ」
「う、うん、わかっただおさむれーさま」

 まだ事態は飲みこめてはいなかったが、とにかく、マオが何者かによって追いかけられ、店の中で乱闘騒ぎになっているのだということは理解することができる。
 だから源九郎は背負っていたフィーナを下ろすと、しっかり身に着けていた刀を左手で確認し、いつでも抜けるように心づもりをした。

「わ、わーっ! た、助けてっ! 助けて源九郎さーんっ!!! 」

 サムライが扉を蹴り破って突入するよりも先に、中から猫人(ナオナー)族の商人、マオが、必死の形相で両目を恐怖でカッと見開き、パニックと恐ろしさで涙をあふれさせながら飛び出して来た。
 そして彼は店の近くにいた二人を見つけると、慌ててその背中に隠れ、源九郎の腰に爪を突き立てる勢いでしがみつく。
 ガタガタと震えているのがはっきりと伝わってくる。

「絶対に逃がすなッ! 追うぞ! 」

 低いだみ声でそう叫び声をあげながら、店の中からは三人の、なんだかガラの悪そうな連中が飛び出して来た。
 一人は人間で背丈は中くらいだが筋肉がついた身体つき。いかにも荒々しい性格をしていそうな顔立ちで、浅黒い肌を持つ髭面の中で双眸が剣呑な輝きを見せている。
 もう一人は、マオと同じ猫人(ナオナー)族だ。顔面の中央、鼻の上に横一文字に切り傷の跡を持つ虎柄で、両目を怒らせ、鼻でフー、フー、と荒い息をしている。
 三人目はまだ名前を知らない、鼠のような姿をした種族だ。フィーナの背丈よりも小さい小柄な種族だったが、右目に眼帯を身に着けており、場慣れしている雰囲気でこちらを下から睨みつけてきている。

(こいつら、カタギじゃなさそうだぜ)

 マオを追いかけて見せの中から飛び出して来た三人の姿を観察した源九郎は、緊張からゴクリ、と唾を飲み込んで、いつでも刀を抜刀して応じることができるように体を半身に開き、柄に手をかけて身構える。
 目の前にあらわれた三人の手には、それぞれ武器らしきものがすでに握られていた。
 木製の棒に、縄、刺股の先端に返しがついたような長柄のマンキャッチャーと呼ばれる器具。
 直接殺傷するというよりは、相手を弱らせたり捕まえたりするためのもの、といった雰囲気だ。

「なんだぁ、てめぇは? 」

 マオとフィーナをかばうように立っている源九郎に向かって、虎柄の猫人(ナオナー)族が威圧するような声で誰何する。

「旅の者か? いったいどこから来たお上りさんか知らねぇが、部外者は引っ込んでいろ! オレたちはそこのペテン師野郎に用があるだけなんだ」
「ペテン師野郎? 」

 サムライが意識をガラの悪い三人組に向けつつちらりと横目でマオの方を見やると、彼は怯えた様子で表情を青ざめさせながらブンブンと顔を横に振った。

「し、知りませんにゃ! ミーはただ、プリーム金貨の両替をお願いしただけですにゃ! そしたら突然、コイツは偽物だ、なんて言われて……。と、とにかく、ミーは人を騙すようなことはしていませんにゃ! 」
「黙れっ! 贋金でこっちから金を巻き上げようとしたくせに! 」

 視線を戻すと、一歩前に出た鼠人がマンキャッチャーの先端をこちらへと向けながら凄んで来る。

「お、おい、贋金って……、いや、そんなはずはねぇはずだ! 」

 一瞬、まさか、と思った源九郎だったが、すぐにそんなことはあり得ないと確信する。

「俺はこの人と、マオさんとここまで旅をして来た者なんだが、マオさんのプリーム金貨は城門のところで役人たちにしっかり検査してもらってるんだ! 偽物のはずがないっ」
「ハッ! 城門で検査した、だと? 」

 しかしその言葉を、浅黒い肌の髭男は嘲笑する。

「どうせ技師が表面を観察したり、重さを計ったりしたくらいだろう? そんな簡単な調べ方で、本物か偽物か、見分けがつくわけがないだろう!? 」
「そうさ、うちは両替が専門で、商売をやってんだ! 」

 髭男の言葉に続いて、鼠人がキーキー声でがなり立てる。

「そいつの持ってきたプリーム金貨は、とにかく偽物なんだよ! うちらにはそれが分かるんだ! おい、デカブツ! 大人しくその猫人(ナオナー)族を引き渡しな! こっちできちっと、贋金だって証明してやらぁ」
「マオさんはちゃんと検査を受けてるんだ! そんなの、言いがかりなんじゃないか!? 」
「そうだっぺ! おらたちも、技師のドワーフの人がしっかり調べてるのを見たっぺ! マオさんの金貨が偽物なんて、そんなはずがねぇだよっ! 」

 サムライが言い返すのに続いて、今までマオと同じように怯えながら源九郎の背中に隠れていたフィーナが、黙っていられなくなったのか叫ぶように断言する。
 すると、虎柄の猫人はぺっ、と唾を地面に吐き捨て、その手に持ったロープを左右に引き、ピン、と張って姿勢を低くする。

「どうやら、らちがあかねぇようだな! 俺たちを騙そうとしたことのオトシマエ、きっちりつけさせてやるから、覚悟しやがれっ! 」

 どうやら、対立は避けられないようだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko
ファンタジー
ある日私は、男の子4人、女の子4人の幼なじみ達が出てくる乙女ゲームを買った。 魔法の世界が舞台のファンタジーゲームで、プレーヤーは4人の女の子の中から1人好きなヒロインを選ぶ事ができる。 ・可愛くて女の子らしい、守ってあげたくなるようなヒロイン「マイヤ」 ・スポーツ、勉強と何でもできるオールマイティーなヒロイン「セレス」 ・クールでキレイな顔立ち、笑顔でまわりを虜にしてしまうヒロイン「ルナ」 ・顔立ちは悪くないけど、他の3人が飛び抜けている所為か平凡に見られがちなヒロイン「アリア」 4人目のヒロイン「アリア」を選択する事はないな……と思っていたら、いつの間にか乙女ゲームの世界に転生していた! しかも、よりにもよって一番モテないヒロインの「アリア」に!! モテないキャラらしく恋愛なんて諦めて、魔法を使い楽しく生きよう! と割り切っていたら……? 本編の話が長くなってきました。 1話から読むのが大変……という方は、「子どもの頃(入学前)」編 、「中等部」編をすっと飛ばして「第1部まとめ」、「登場人物紹介」、「第2部まとめ」、「第3部まとめ」からどうぞ! ※「登場人物紹介」はイメージ画像ありがございます。 ※自分の中のイメージを大切にしたい方は、通常の「登場人物紹介」の主要キャラ、サブキャラのみご覧ください。 ※長期連載作品になります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...