105 / 226
:第3章 「王都、賑やかに」
・3-7 第106話 「まずは両替商へ」
しおりを挟む
・3-7 第106話 「まずは両替商へ」
王都・パテラスノープル。
源九郎とフィーナの、旅の目的地。
なんとかそこにたどり着くことができたものの、一行はもうくたくたで、その日はなにもするつもりになれずに、入城許可証を受け取る時に役人から教えてもらった宿屋へと直行した。
なかなかいい宿屋だった。
建物の造りはしっかりとしていて外も中もきれいで清潔だったし、部屋もたくさんあったから一行が部屋を取るのも簡単だった。
しかもそこには名物まであり、海で豊富にとれる貝類を利用した料理が美味しいと評判で、他の宿屋と同じく併設している食堂には宿泊する客以外にも大勢の客が訪れていた。
だが一行は、その名物料理を堪能することもしなかった。
城門をくぐるまでにずいぶん長い間待たされただけではなく、特別検査まで受けさせられ、肉体的にも精神的にもあまりにも疲労してしまっていたからだ。
だから彼らは部屋を取るとすぐにそこに向かってすぐにベッドに横になり、食事も、旅の途中で食いつないできた携帯食料の残りで済ませてしまった。
「まぁ、なにをするにしても、明日にしましょうにゃ」
「賛成、賛成。今日は本当に疲れちまったぜ」
「ぅぅっ、村の人らには申し訳ねーけど、このベッド、いい感触だべ……」
その日はそれぞれそう言い合うと、そのまま、襲って来る睡魔に身を委ねた。
────────────────────────────────────────
夜が明けると、一行は強い空腹を覚えていた。
昨日は携行食糧の残りで食事を済ませていたが、疲れもあって軽く済ませてしまったからだ。
だから三人はまずは食事をということで意見が一致し、朝一で、宿泊客のために早くから営業している食堂へと向かった。
「ミーはさっそく、このプリーム金貨を売りに行って来ようと思いますにゃ」
みんなで食事をしながら、まずマオがそう言って今後の予定について話し始める。
「つきましては、約束通りこちらを。金貨二枚、確かにお渡しいたしますにゃ。王都まで無事に護衛していただき、感謝を申し上げますにゃ~」
それから彼は、革袋から金貨を二枚取り出すとテーブルの上に置き、源九郎とフィーナに差し出す。
「いや、やっぱりそれはふぎゃふっ!? 」
その美しい黄金の輝きに源九郎はまたもや遠慮しそうになってしまったのだが、フィーナがすかさず彼の太腿をつねって黙らせた。
もう、金銭面については自分がしっかりせねばならないのだと、彼女はそう腹をくくったらしい。
つねり方に容赦がなかった。
「ありがたくいただくだよ、マオさん! だけんど、おらたちこれをどこに持って行ったら売れるんだべか? 」
「両替商に持って行けば、代わりにメイファ金貨でもアセスター銀貨でも、それ以外にでも引き替えてもらえるはずですにゃ。なにせここは交易の街ですから、どの国の通貨にでも交換できますにゃ! ただし、いくらかの手数料を取られますし、中には交換比率をごまかす悪徳業者もいるので、注意ですにゃ」
「なんだ、それ? そんなことをする奴らがいるのか? 」
サムライが顔をしかめつつ、つねられたところをさすりながら問いかけると、「はいですにゃ」とマオははっきりとうなずいてみせる。
「まぁ滅多にいないんですがにゃ。いいですか、プリーム金貨一枚は、メイファ金貨八枚、もしくはアセスター銀貨十枚と交換になりますにゃ。これは銅貨に換算しますと、メイファ銅貨で八千枚、アセスター銅貨で一万枚になる計算ですにゃ。手数料は一パーセントくらい取られるのが相場ですから、それ以上高額な請求をされる場合は悪徳業者の類に入りますにゃ。騙されないように気をつけて欲しいですにゃ~」
それから彼は、源九郎とフィーナが損をしないように必要な情報を嬉々として教えてくれる。
「な、なんだって? 」「も、もーいっぺん、おねげーするだ! 」
しかし二人は一度では覚えきれずに戸惑い、朝食のスープを口に運んでいたスプーンを止めて、困った顔をマオの方へと向ける。
サムライはこの世界の通貨単位やルールにまだ慣れていなかったし、元村娘はそもそもお金という物に縁のない生活を送っていた。
だから急に交換比率だの手数料だのと言われても、わけがわからないのだ。
「ふぅむ、でしたら、こういうのはどうでしょう? 」
そんな二人の様子を見て取ると、マオは一瞬だけわずかに双眸を開き、それから体の前で肉球と肉球を重ね合わせ、揉み手をし始める。
「お二人にお渡しする分の金貨も、ミーが両替して差し上げましょう。そしてそこから手数料を差し引いた分をお渡しいたします。……ただし、手間賃として、手数料と同額をいただきたいですにゃー」
「んなっ!? そ、そこはしっかり取るのかよー」
「もちろんですとも! ミーは商人、タダで[お仕事]はしないんですにゃー」
源九郎は驚いて口をへの字にしたが、マオは少しも悪びれた様子もなく、揉み手を続けている。
「……な~んて、冗談ですにゃ! 」
だが、すぐに彼はそう言うと、ぽん、と手を叩いてみせた。
「ここまで旅をしてきたのも何かのご縁ですし、今回はおまけして手数料はミーの方で負担しちゃいますにゃ! お二人にはプリーム金貨二枚分をきっちりお渡しいたしましょう! 」
「えっと、手数料負担って、いいのかい? マオさん? 」
「あっはっは、まぁこちらも十分利益が見込めますから、初回限定サービス、ということで。ただ、もしよろしければ、またどこかで出会った時にごひいきにしていただきたいですにゃ~」
「ああ、もちろん、そんなことでよければ! 」
「マオさん、太っ腹だべ! 」
そのサービスの申し出に、二人とも喜んで乗ることにした。
王都・パテラスノープル。
源九郎とフィーナの、旅の目的地。
なんとかそこにたどり着くことができたものの、一行はもうくたくたで、その日はなにもするつもりになれずに、入城許可証を受け取る時に役人から教えてもらった宿屋へと直行した。
なかなかいい宿屋だった。
建物の造りはしっかりとしていて外も中もきれいで清潔だったし、部屋もたくさんあったから一行が部屋を取るのも簡単だった。
しかもそこには名物まであり、海で豊富にとれる貝類を利用した料理が美味しいと評判で、他の宿屋と同じく併設している食堂には宿泊する客以外にも大勢の客が訪れていた。
だが一行は、その名物料理を堪能することもしなかった。
城門をくぐるまでにずいぶん長い間待たされただけではなく、特別検査まで受けさせられ、肉体的にも精神的にもあまりにも疲労してしまっていたからだ。
だから彼らは部屋を取るとすぐにそこに向かってすぐにベッドに横になり、食事も、旅の途中で食いつないできた携帯食料の残りで済ませてしまった。
「まぁ、なにをするにしても、明日にしましょうにゃ」
「賛成、賛成。今日は本当に疲れちまったぜ」
「ぅぅっ、村の人らには申し訳ねーけど、このベッド、いい感触だべ……」
その日はそれぞれそう言い合うと、そのまま、襲って来る睡魔に身を委ねた。
────────────────────────────────────────
夜が明けると、一行は強い空腹を覚えていた。
昨日は携行食糧の残りで食事を済ませていたが、疲れもあって軽く済ませてしまったからだ。
だから三人はまずは食事をということで意見が一致し、朝一で、宿泊客のために早くから営業している食堂へと向かった。
「ミーはさっそく、このプリーム金貨を売りに行って来ようと思いますにゃ」
みんなで食事をしながら、まずマオがそう言って今後の予定について話し始める。
「つきましては、約束通りこちらを。金貨二枚、確かにお渡しいたしますにゃ。王都まで無事に護衛していただき、感謝を申し上げますにゃ~」
それから彼は、革袋から金貨を二枚取り出すとテーブルの上に置き、源九郎とフィーナに差し出す。
「いや、やっぱりそれはふぎゃふっ!? 」
その美しい黄金の輝きに源九郎はまたもや遠慮しそうになってしまったのだが、フィーナがすかさず彼の太腿をつねって黙らせた。
もう、金銭面については自分がしっかりせねばならないのだと、彼女はそう腹をくくったらしい。
つねり方に容赦がなかった。
「ありがたくいただくだよ、マオさん! だけんど、おらたちこれをどこに持って行ったら売れるんだべか? 」
「両替商に持って行けば、代わりにメイファ金貨でもアセスター銀貨でも、それ以外にでも引き替えてもらえるはずですにゃ。なにせここは交易の街ですから、どの国の通貨にでも交換できますにゃ! ただし、いくらかの手数料を取られますし、中には交換比率をごまかす悪徳業者もいるので、注意ですにゃ」
「なんだ、それ? そんなことをする奴らがいるのか? 」
サムライが顔をしかめつつ、つねられたところをさすりながら問いかけると、「はいですにゃ」とマオははっきりとうなずいてみせる。
「まぁ滅多にいないんですがにゃ。いいですか、プリーム金貨一枚は、メイファ金貨八枚、もしくはアセスター銀貨十枚と交換になりますにゃ。これは銅貨に換算しますと、メイファ銅貨で八千枚、アセスター銅貨で一万枚になる計算ですにゃ。手数料は一パーセントくらい取られるのが相場ですから、それ以上高額な請求をされる場合は悪徳業者の類に入りますにゃ。騙されないように気をつけて欲しいですにゃ~」
それから彼は、源九郎とフィーナが損をしないように必要な情報を嬉々として教えてくれる。
「な、なんだって? 」「も、もーいっぺん、おねげーするだ! 」
しかし二人は一度では覚えきれずに戸惑い、朝食のスープを口に運んでいたスプーンを止めて、困った顔をマオの方へと向ける。
サムライはこの世界の通貨単位やルールにまだ慣れていなかったし、元村娘はそもそもお金という物に縁のない生活を送っていた。
だから急に交換比率だの手数料だのと言われても、わけがわからないのだ。
「ふぅむ、でしたら、こういうのはどうでしょう? 」
そんな二人の様子を見て取ると、マオは一瞬だけわずかに双眸を開き、それから体の前で肉球と肉球を重ね合わせ、揉み手をし始める。
「お二人にお渡しする分の金貨も、ミーが両替して差し上げましょう。そしてそこから手数料を差し引いた分をお渡しいたします。……ただし、手間賃として、手数料と同額をいただきたいですにゃー」
「んなっ!? そ、そこはしっかり取るのかよー」
「もちろんですとも! ミーは商人、タダで[お仕事]はしないんですにゃー」
源九郎は驚いて口をへの字にしたが、マオは少しも悪びれた様子もなく、揉み手を続けている。
「……な~んて、冗談ですにゃ! 」
だが、すぐに彼はそう言うと、ぽん、と手を叩いてみせた。
「ここまで旅をしてきたのも何かのご縁ですし、今回はおまけして手数料はミーの方で負担しちゃいますにゃ! お二人にはプリーム金貨二枚分をきっちりお渡しいたしましょう! 」
「えっと、手数料負担って、いいのかい? マオさん? 」
「あっはっは、まぁこちらも十分利益が見込めますから、初回限定サービス、ということで。ただ、もしよろしければ、またどこかで出会った時にごひいきにしていただきたいですにゃ~」
「ああ、もちろん、そんなことでよければ! 」
「マオさん、太っ腹だべ! 」
そのサービスの申し出に、二人とも喜んで乗ることにした。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます
Teko
ファンタジー
ある日私は、男の子4人、女の子4人の幼なじみ達が出てくる乙女ゲームを買った。
魔法の世界が舞台のファンタジーゲームで、プレーヤーは4人の女の子の中から1人好きなヒロインを選ぶ事ができる。
・可愛くて女の子らしい、守ってあげたくなるようなヒロイン「マイヤ」
・スポーツ、勉強と何でもできるオールマイティーなヒロイン「セレス」
・クールでキレイな顔立ち、笑顔でまわりを虜にしてしまうヒロイン「ルナ」
・顔立ちは悪くないけど、他の3人が飛び抜けている所為か平凡に見られがちなヒロイン「アリア」
4人目のヒロイン「アリア」を選択する事はないな……と思っていたら、いつの間にか乙女ゲームの世界に転生していた!
しかも、よりにもよって一番モテないヒロインの「アリア」に!!
モテないキャラらしく恋愛なんて諦めて、魔法を使い楽しく生きよう! と割り切っていたら……?
本編の話が長くなってきました。
1話から読むのが大変……という方は、「子どもの頃(入学前)」編 、「中等部」編をすっと飛ばして「第1部まとめ」、「登場人物紹介」、「第2部まとめ」、「第3部まとめ」からどうぞ!
※「登場人物紹介」はイメージ画像ありがございます。
※自分の中のイメージを大切にしたい方は、通常の「登場人物紹介」の主要キャラ、サブキャラのみご覧ください。
※長期連載作品になります。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる