殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

文字の大きさ
上 下
99 / 226
:第3章 「王都、賑やかに」

・3-1 第100話 「持つべきは商人の友達」

しおりを挟む
・3-1 第100話 「持つべきは商人の友達」

 転生したアラフォーのおっさん、今はサムライとなった源九郎と、元村娘のフィーナの旅は当初、難航していた。
 目指すべき場所はとうに定まっていたものの、どうすればその場所にたどり着くことができるのかを知らず、また、困っている人々を見過ごすこともできず、人助けをしているうちに、一か月もの期間、辺境地域でさまようこととなってしまったのだ。
 だが、旅の商人、猫人(ナオナー)族のマオと[取引]を成立させてからは、すべてがトントン拍子、今までが何だったのかと思うほど順調に進んで行った。
 マオは旅をしているというだけあって、地理に詳しかった。どの道を進んで行けば王都にたどり着くことができるのかを知っていたし、その途中、どこにどんな街があって、そこがどんな場所なのかも把握していた。
 それだけでも彼が旅の仲間に加わって本当に良かったと思えるのだが、他にも源九郎たちにとってありがたいことがあった。
 マオのおかげで、道中で助けた村人たちから仕事の報酬を受け取りそびれることがなくなったのだ。
 今までもその極めた殺陣を活用していくつかの村を救って来た源九郎だったが、まともにその代価を得られたことなどなかった。
 村人たちに支払いの意志がなかったわけではない。
 なんだかんだあって、いつももらいそびれることになってしまったのだ。
 しかしその点、商人であるマオはしっかりしていた。
 彼は村の状況から見て実際に支払い能力があるかを見極め、無理なく払える適正な報酬というものを探り当てることができたし、一度[払う]と約束させたものはきっちりと受け取った。
 村人たちによる、村の安全と持続的な繁栄のために源九郎とフィーナを定住させようとする試みは相変わらず激しかったが、これも、間にマオが割って入ることで円満に納まるようになった。
 彼の、人懐っこく、親しみやすい話術によるものなのだろう。
 彼は村に定住してくれと懇願する村人たちとそれを断ろうとするサムライと元村娘の間にさりげなく割って入ると、巧みに話題を変え、いつの間にかなにを話そうとしていたのかわからないようにしてしまうのだ。

「いやぁ、本当に。持つべきは商人の友達だな。ありがたや~、ありがたや~」

 マオを旅の仲間に加えてから二週間足らずで、もうあと数日で王都にたどり着けるというところまで来た時、すっかり感心した源九郎は、この旅の商人のことを思わず拝んでいた。
 村人たちにとっての救世主は彼だったが、そのサムライにとっての救世主は、今、王都に向かう途上にある一万人ほどが暮らす街の宿屋の一階にある食堂のテーブルにつき、ぐびぐびとジョッキのビールを飲んでいる猫人(ナオナー)族だった。

「なにをおっしゃるんですか! 源九郎さんとフィーナさんがいらっしゃらなかったら、ミーは今頃、どこかで野垂れ死んでいたんです。持ちつ持たれつ、お互いさまというものですにゃ! それに、そういう契約ですから! 」

 空になったジョッキを上機嫌でテーブルの上に戻したマオは、口の周りにビールの泡のヒゲをまといながらまんざらでもなさそうに笑う。
 それから彼は、「店員さん、店員さーんっ! 」と呼びかけ、ビールのお代わりを注文した。

「いや、ホントすげぇよ……、商人、すげぇ」

 源九郎の方はというと、マオのように景気よくではなく、噛みしめるようにしみじみと呟きながら、ちびちびとジョッキを傾けている。
 ぐびぐびと豪快に、代金のことを気にせずに飲めないわけではない。
 今の一行の財布は、なかなか潤っているのだ。
 村人たちから野盗退治などの報酬として得た動物の毛皮などの商品を街に出てから売り、そのお金を元手に新たな商品を買い、別の街に立ち寄って売る。
 それをたった二回繰り返しただけで、一行の手元には清潔なベッドのある宿屋に宿泊し、そこに付属した食堂で思う存分に飲み食いしても問題ないだけの財産ができあがっていた。
 しかもこれは、村人たちから得た報酬の三分の一、三人の旅の仲間で均等に分け合ったものの内の、マオの取り分だけを元手に商いをしてこの結果なのだ。
 出会った時は金貨の詰まった革袋とズボン以外なにも身に着けていなかったマオだったが、今はすっかり衣服を整えてしまっている。
 もしもサムライと元村娘だけであったのなら、今でも辺境地域を抜け出すことなどできなかっただろうし、こんな風に、ビールを口にすることもできなかっただろう。
 宿屋の主人が手作りしているというビールは味が濃く、常温であるために日本のもののようにグビグビ飲み干すのには向いていないというのもあったが、つい二週間前までの旅の様相からの変化の大きさに感動さえ覚えている源九郎にとっては、一滴ずつを大事に飲みたい一杯だった。
 フィーナはどうしているかというと、サムライの隣の席で絶句して固まっていた。
 三人が囲んでいるテーブルの上には大人だけが飲むことのできる酒ばかりではなく、料理も並んでいる。
 ありきたりなメニューだ。
 豆や野菜類を煮込んだスープに、パン。都市部に暮らす者ならば大衆でも日常的に口にすることができるような、お手軽な値段の商品だ。
 そこに、酒のつまみとしてチーズとベーコンをスライスしたものが少々。
 それだけに過ぎない。
 しかし、貧しい村で生まれ育ったフィーナにとっては、どれもこれも村の催事でもなければ口にできない貴重な品々だった。
 特に、━━━パンだ。
 穀物を一切無駄にしない、実の表皮まで含めて粉にした全粒粉で作られたいわゆる[黒パン]で、麦の表皮を除いた部分だけを使う高級品とされる[白パン]とは違って比較的安価な[庶民の食べ物]だ。
しかし、元村娘は震える手で食卓からそのパンを手に取った後、それを宝物のように頭上に推し戴き、呆然自失として見つめ続けている。
 麦がゆをおがくずや野草で水増しし、なんとか飢えをしのぐ毎日。
 そんな暮らしをしてきた彼女にとっては、たとえそれが黒パンであっても、パンというのは滅多に口にできないごちそうであるのだ。
 そんな、拳大にまとめられたパンが、一人でいくつも食べられるくらいテーブルの皿の上に積まれている。
 またパンを食べられたら、嬉しいな。
 そんな自分自身の願望の遥か上をゆく現実を、彼女は受け止めきれていない様子だった。

「そんな、お二人とも、もっと楽しく食べて飲んで下さいよ~! ……あ、店員さん、次はワインを下さいな♪ 」

 酔いが回ってきた、というのもあるだろう。
 マオは得意満面の笑みを浮かべ、終始上機嫌で飲食を心行くまで楽しんでいた。

※作者より一言
 熊吉も太閤立志伝で交易やったりお米転がしたり、荒稼ぎしたものであります。
 またやりたくなってきました・・・。

※作者注
 黒パンというのは一般的にライムギパンのことを指して使われる言葉ですが、黒くなるのは全粒粉を使用しているからだそうです。
 ライムギではなく普通の小麦でも、全粒粉で作ったパンは黒っぽくなることから、黒パンと呼ばれていたようなので、作中の全粒粉小麦で作ったパンを「黒パン」とさせていただきました。
 普段よく我々が口にする、麦の表皮を取り除いた部分だけをひいて作った白い粉を使った生地が白いパンは黒パンと対比して「白パン」と呼ばれていたそうで、中・近世の世界では高級品で、貴族などの一部の人しか食べることができなかったようです。
 以上、作者からの注釈でした。 (*- -)(*_ _)ペコリ
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...