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:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」
・1-53 第69話「野盗の射手」
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・1-53 第69話「野盗の射手」
かつて、映画と言えば白黒フィルムだった時代に、撮影に本物の矢を使った作品があった。
その矢に当たれば大怪我(おおけが)をし、本当に命を失ってしまうかもしれない。
緊迫感にあふれる撮影は出演者から迫真の演技を、いや、本物の恐怖という生の感情を引き出すことに成功し、映画史に残る作品として記憶されることとなった。
それと同じように。
源九郎めがけて、ヒュン、ヒュン、と風を切る音を響かせながら、矢が飛来する。
(こっ、怖ぇぇぇっ! )
源九郎は矢に追われて、恐怖に目を見開きながら、必死に逃げ回っていた。
撮影では、役者に矢が命中しないよう工夫をし、矢は限られた経路を飛翔する細工をされていたということだったが、今、こちらを狙っている矢にはそんな仕組みはなかった。
鋭い視線で見おろしながら、野盗の射手たちは源九郎を矢で貫くべく、次々と矢を放ってくる。
獲物が逃げ回るので射手たちはその逃げる先を予測して矢を放つようになってきており、狙いが一段と厳しく、正確なものになって来た。
やがて1本の矢が顔面のすぐ脇を掠めて行った。
その矢じりは、浅く源九郎の頬の皮膚を割き、鋭い痛みを刻みつけて行く。
必死に、隠れられそうな場所を探す。
しかし、どこにもそんな場所はなかった。
なぜなら、ここは小さくとも城として作られた場所であり、そこに外部から入り込んできた者が隠れられない構造を意図的に作っているからだ。
本丸をぐるりと一周する城壁。
それは、単純に外敵の侵入を阻止するための障壁ではなかった。
城門を突破し、本丸へと入り込んできた敵を包囲し、高所から一方的に攻撃するための陣地なのだ。
本丸の中心部は、障害物の少ない平坦な形に整備されていた。
それはこの城にやって来た味方の兵士たちを臨時に寝泊まりさせるための空間として用意されているものだったが、本丸を取り囲んでいる城壁の上から侵入者を攻撃する際に、敵が隠れる場所を無くすためでもあった。
いわゆる、キルゾーンと言われるものだ。
たとえ城門を突破されたとしても、その殺し間で敵を迎えうち、最大限の損害を与えて撃退し、城を防衛し続けるために計算されて作られているのだ。
そのキルゾーンの中心で、源九郎は射手たちに一方的に攻撃され続けるしかない。
これだけでも十分過ぎるほどの危機だったが、状況はさらに悪化した。
矢に追われている間に状況を把握した野盗たちが戦闘態勢を整え、源九郎を締め出すために固く閉じられていたキープの扉を開いて打って出て来たからだ。
人数は、3名。
その内2名は、全身鎧を身に着けた重装備だった。
重装備をした野盗は、まるで戦場で戦う、正規の兵士だ。
右手に剣、もしくは戦棍を持ち、左手には半身を保護できる大きさの丸盾をかまえている。
残りの1人はこれまでに源九郎が倒して来た野盗と同じく軽装備だったが、その手には槍を持っている。
城内でも取り回しのしやすい短槍だったが、刀の間合いの外から攻撃できるので警戒しなければならない相手だった。
3対1。
しかも、相手の方が装備も優れている。
2名の兵士にしか見えない野盗に対し、刀では有効打を与えるのは困難だった。
全身をほとんど隙間なく保護している板金鎧(プレートメイル)の上から強引に叩き斬ることは、源九郎が今手にしている刀の切れ味からすれば不可能ではないと思える感触があったが、しかし、2人連続では無理な話だった。
板金鎧の鋼板の上から斬ったら、刀は激しく刃こぼれするのは確実で、そうなればもう使い物にならなくなるからだ。
だが源九郎は、キープから飛び出してきたその3人の野盗たちに、自分から向かって行った。
敵と接近戦に持ち込めば、少なくとも矢の攻撃は味方の誤射を恐れてできなくなるはずだと思ったからだ。
向かって来るサムライを、戦棍を装備した野盗が前に進み出て迎えうつ。
肩の上まで振り上げられた戦棍は源九郎を一撃で仕留めるべく頭部を狙って、鋭く、ブオンと重々しく風を切りながら振り下ろされた。
その攻撃を、源九郎は身体をそらして回避した。
刀で受けてしまったら、重厚な戦棍によって刀をへし折られてしまいそうだったからだ。
そこへすかさず、剣を手にした野盗が追撃を加える。
戦棍を振り抜き、その重さゆえに身をかわした源九郎にすぐに追撃できない仲間をカバーするように、その野盗は源九郎の横合いから剣を突き入れてきた。
(こいつら……ッ、戦い方を、知っていやがる! )
見事な連携攻撃だった。
源九郎は軽快にステップを刻み辛うじて剣の切っ先をかわすことができたが、野盗たちの攻めは厳しいもので、そう何度もかわすことはできないだろうということを実感させられた。
おそらく、場数を踏んできたベテランの戦士たちなのだろう。
源九郎に攻撃をかわされはしたものの、剣と戦棍(メイス)の野盗は態勢を整えなおすために距離を取り、近い位置関係にいたのに互いにぶつかり合うこともなくかまえを取り直している。
だが、3人目の、槍を装備した野盗は技量が劣っていた。
その野盗は、気合の声をあげながら、源九郎に追い打ちをかけるように槍を突き入れて来る。
その狙いは胸のあたりを狙っていて、タイミングも悪くなかったが、しかし鋭さが足りず、簡単に見切ることができる。
源九郎は半身になって槍の穂先をかわし、空いている左手でその柄をつかむと、思い切りこちら側へ野盗を引っ張っていた。
かつて、映画と言えば白黒フィルムだった時代に、撮影に本物の矢を使った作品があった。
その矢に当たれば大怪我(おおけが)をし、本当に命を失ってしまうかもしれない。
緊迫感にあふれる撮影は出演者から迫真の演技を、いや、本物の恐怖という生の感情を引き出すことに成功し、映画史に残る作品として記憶されることとなった。
それと同じように。
源九郎めがけて、ヒュン、ヒュン、と風を切る音を響かせながら、矢が飛来する。
(こっ、怖ぇぇぇっ! )
源九郎は矢に追われて、恐怖に目を見開きながら、必死に逃げ回っていた。
撮影では、役者に矢が命中しないよう工夫をし、矢は限られた経路を飛翔する細工をされていたということだったが、今、こちらを狙っている矢にはそんな仕組みはなかった。
鋭い視線で見おろしながら、野盗の射手たちは源九郎を矢で貫くべく、次々と矢を放ってくる。
獲物が逃げ回るので射手たちはその逃げる先を予測して矢を放つようになってきており、狙いが一段と厳しく、正確なものになって来た。
やがて1本の矢が顔面のすぐ脇を掠めて行った。
その矢じりは、浅く源九郎の頬の皮膚を割き、鋭い痛みを刻みつけて行く。
必死に、隠れられそうな場所を探す。
しかし、どこにもそんな場所はなかった。
なぜなら、ここは小さくとも城として作られた場所であり、そこに外部から入り込んできた者が隠れられない構造を意図的に作っているからだ。
本丸をぐるりと一周する城壁。
それは、単純に外敵の侵入を阻止するための障壁ではなかった。
城門を突破し、本丸へと入り込んできた敵を包囲し、高所から一方的に攻撃するための陣地なのだ。
本丸の中心部は、障害物の少ない平坦な形に整備されていた。
それはこの城にやって来た味方の兵士たちを臨時に寝泊まりさせるための空間として用意されているものだったが、本丸を取り囲んでいる城壁の上から侵入者を攻撃する際に、敵が隠れる場所を無くすためでもあった。
いわゆる、キルゾーンと言われるものだ。
たとえ城門を突破されたとしても、その殺し間で敵を迎えうち、最大限の損害を与えて撃退し、城を防衛し続けるために計算されて作られているのだ。
そのキルゾーンの中心で、源九郎は射手たちに一方的に攻撃され続けるしかない。
これだけでも十分過ぎるほどの危機だったが、状況はさらに悪化した。
矢に追われている間に状況を把握した野盗たちが戦闘態勢を整え、源九郎を締め出すために固く閉じられていたキープの扉を開いて打って出て来たからだ。
人数は、3名。
その内2名は、全身鎧を身に着けた重装備だった。
重装備をした野盗は、まるで戦場で戦う、正規の兵士だ。
右手に剣、もしくは戦棍を持ち、左手には半身を保護できる大きさの丸盾をかまえている。
残りの1人はこれまでに源九郎が倒して来た野盗と同じく軽装備だったが、その手には槍を持っている。
城内でも取り回しのしやすい短槍だったが、刀の間合いの外から攻撃できるので警戒しなければならない相手だった。
3対1。
しかも、相手の方が装備も優れている。
2名の兵士にしか見えない野盗に対し、刀では有効打を与えるのは困難だった。
全身をほとんど隙間なく保護している板金鎧(プレートメイル)の上から強引に叩き斬ることは、源九郎が今手にしている刀の切れ味からすれば不可能ではないと思える感触があったが、しかし、2人連続では無理な話だった。
板金鎧の鋼板の上から斬ったら、刀は激しく刃こぼれするのは確実で、そうなればもう使い物にならなくなるからだ。
だが源九郎は、キープから飛び出してきたその3人の野盗たちに、自分から向かって行った。
敵と接近戦に持ち込めば、少なくとも矢の攻撃は味方の誤射を恐れてできなくなるはずだと思ったからだ。
向かって来るサムライを、戦棍を装備した野盗が前に進み出て迎えうつ。
肩の上まで振り上げられた戦棍は源九郎を一撃で仕留めるべく頭部を狙って、鋭く、ブオンと重々しく風を切りながら振り下ろされた。
その攻撃を、源九郎は身体をそらして回避した。
刀で受けてしまったら、重厚な戦棍によって刀をへし折られてしまいそうだったからだ。
そこへすかさず、剣を手にした野盗が追撃を加える。
戦棍を振り抜き、その重さゆえに身をかわした源九郎にすぐに追撃できない仲間をカバーするように、その野盗は源九郎の横合いから剣を突き入れてきた。
(こいつら……ッ、戦い方を、知っていやがる! )
見事な連携攻撃だった。
源九郎は軽快にステップを刻み辛うじて剣の切っ先をかわすことができたが、野盗たちの攻めは厳しいもので、そう何度もかわすことはできないだろうということを実感させられた。
おそらく、場数を踏んできたベテランの戦士たちなのだろう。
源九郎に攻撃をかわされはしたものの、剣と戦棍(メイス)の野盗は態勢を整えなおすために距離を取り、近い位置関係にいたのに互いにぶつかり合うこともなくかまえを取り直している。
だが、3人目の、槍を装備した野盗は技量が劣っていた。
その野盗は、気合の声をあげながら、源九郎に追い打ちをかけるように槍を突き入れて来る。
その狙いは胸のあたりを狙っていて、タイミングも悪くなかったが、しかし鋭さが足りず、簡単に見切ることができる。
源九郎は半身になって槍の穂先をかわし、空いている左手でその柄をつかむと、思い切りこちら側へ野盗を引っ張っていた。
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