殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

文字の大きさ
上 下
66 / 226
:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」

・1-51 第67話 「たった1人の攻城戦:1」

しおりを挟む
・1-51 第67話 「たった1人の攻城戦:1」

※作者注
 ここから数話、流血シーンが続きます

────────────────────────────────────────

 源九郎が引き抜いた刀の刃が、日差しを浴びて鈍く輝く。
 その剣呑な輝きを目の当たりにして、生き残った2人の野盗は怯えたように後ずさった。

 突然の事態に腰が抜けていて、その動きは緩慢だ。
 思い通りに動かない手を必死に動かし、野盗たちは源九郎から少しでも遠ざかろうとしている。

 源九郎は刀をかまえる型を取らず、自然体のまま、恐怖にガチガチと歯を鳴らしている野盗たちに近づいていく。

 その2人の野盗に、源九郎は見覚えがあった。
 最初にフィーナを助けた時、森の中の小屋にいた3人の野盗たちの内の2人だ。

 あの時、野盗たちを叩きのめした源九郎は、すっかりいい気分になっていた。
 これから始まる異世界での冒険に心を躍らせ、自分が身に着けてきた殺陣の技を存分に振るって、この世界で[立花 源九郎]として生きていけるのだと思っていた。

 だが、現実は思っていたのとは違っていた。
 この世界は源九郎が想像していたモノよりもずっと残酷だ。
 なにしろ、この世界を統べる神が、人々がどんなに困窮していようとも手を差し伸べてはくれない世界なのだ。

 そして、野盗たちも、源九郎に叩きのめされた程度では改心しなかった。
 目の前に峰打ちで見逃してやったはずの野盗たちがいることが、その証拠だ。

 彼らの兄貴分だった野盗は、頭領によって粛清しゅくせいされた。
 しかし、それでもその子分たちは野盗から足を洗ったりはしなかった。

 頭領があれほど冷酷なのだから、それを恐れて逃げ出さなかった、という可能性もある。
 だが、目の前で源九郎に怯えている2人の野盗は、酒を口にしていた様子だった。

 今はすっかり表情を青ざめさせてはいるものの、サシャに乗った源九郎が突っ込んできた時、2人の手には酒の入ったコップが握られ、すでにアルコールが入って顔が赤かった。

 彼らはなにも、少しも、改心などしていない。
 このまま野盗として、略奪をくり返し、無力な人々を虐げて生きていこうとしていたのだ。

 源九郎が、あと2メートルほどのところにまで距離を詰めた時だった。

「わっ、わぁぁぁぁぁぁぁッ!! 」

 若い方の野盗がそんなわめき声をあげながら背中を見せ、四つんいになって逃げ出そうとする。
 腰が抜けて動けなかったのが、恐怖が限界点を突破して、本能的な動き、死から逃れるという行動を可能にしたのだろう。

 源九郎は、彼を見逃さなかった。
 素早く跳躍(ちょうやく)して間合いを詰めると、自然体で右手にかまえていた刀を横なぎに振るい、野盗を背中から斬った。

 神は源九郎にとってもはや尊敬するべき相手ではなく、人々の悲劇を見ているだけの冷酷な存在に過ぎなかった。
 だが、神が与えた刀は、よく斬れる。

 源九郎が振るった刀は、いともたやすく、野盗の脊椎せきついを切断していた。
 裂けた服の隙間からパっと鮮血が飛び散るのと同時に、神経の伝達経路を失った野盗の身体は地面の上に崩れ落ちる。
 そしてそのまま彼は2度と起き上がることはなかった。

 源九郎の脇で、哀れな悲鳴があがる。
 背中を見せて逃げようとする相手にさえ容赦しないサムライの姿を目にして、残った野盗の方は気が触れてしまったようだった。

 だが、彼は逃げようとはしなかった。
 逃げても無駄であると、たった今、目の前で見せつけられてしまったからだ。

 野盗は言葉にならないわめき声をあげながら、震える手で腰に手をやり、そこからいつも肌身離さず身に着けていた短剣を震える手で引き抜いた。
 そしてそれを、びゅんびゅん、闇雲に振り回す。

「くっ、来るなッ、来るなぁぁぁぁっ!! 」

 ようやく聞き取れたのは、そんな言葉だ。

 命乞いをする野盗に揺れそうになる心を、源九郎は押し殺す。

 長老が斬られた時、彼は丸腰であったのだ。
 それなのに野盗たちはなんの躊躇ためらいもせずに、無力な老人を斬った。

 実際に手を下したのは、おそらくは野盗たちの頭領だろう。
 長老が受けた傷口は鋭い刃によるものであり、あれほど鮮やかな切り口は、相応の腕を持った者でなければつけることはできない。

 だが、目の前で半狂乱になって短剣を振り回している哀れな野党が直接手を下したのではないとしても、関係なかった。
 野盗たちは村に火を放ち、長老が命をかけて守ろうとしたものを焼き払った。
 彼らは長老の命だけではなく、願いを、すべてを踏みにじったのだ。

 だから源九郎は、立ち止まらなかった。
 野盗に冷静に距離を詰めると、刀で短剣を打って弾き飛ばし、丸腰になった野盗の喉笛を刀で斬り裂いていた。

 喉を斬られた野盗は痛みに短剣を取り落とし、それから喉にあふれた血で気道をふさがれて息が苦しいのか口をぱくぱくとさせながら、少しでも出血を抑えようと両手で切り口を抑える。

 源九郎は、その野盗が息絶える瞬間まで目を離さなかった。
 やがてその野盗は力を失い、糸を切られた操り人形のようにガクンとうなだれ、その場で動かなくなった。

 源九郎は刀を素早く振って血糊ちのりを払いながら、一瞬だけまぶたを閉じ、奥歯を噛みしめた。

 人を斬った感触。
 悪人とはいえ、その命を奪った実感。

 その生々しさに、源九郎は背筋が寒くなる。
 身体の奥底から、取り返しのつかないことをしてしまったのだという恐れがせりあがってくる。

 殺陣を極めてはいるものの、本当に人を斬ったことなど、これまでなかった。
 演技で斬る[フリ]をしたことは何度もあるが、しかし、自ら望んで誰かを傷つけたことはなかった。
 また、そのために殺陣を磨いてきたわけでもなかった。

 たった今、それはすべて過去のこととなった。
 源九郎はこれから一生、この、人を斬った、皮膚を、肉を、骨を断ち切り、命を終わらせた感触を忘れることはないだろう。

(後戻りは、しねェ……。

 後悔も、しねェ! )

 源九郎はすぐにまぶたを開くと、決然とした表情で振り返り、残りの野盗たちが、そしてフィーナがいるはずの本丸を見つめていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

処理中です...