上 下
60 / 226
:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」

・1-45 第61話 「神、どこにいる!? :2」

しおりを挟む
・1-45 第61話 「神、どこにいる!? :2」

 自分の力を際限なく行使し、人々の望みをすべて叶え続けると、どうなるのか。

 人々は自らの力で生きることを忘れ、そして、最後には生に飽き、終焉を望むようになる。
 そうして滅んだ世界を、神はこれまでにいくつも目にしてきた。

 だから、長老を、この村を救うことはできない。
 その理屈は、源九郎にも理解はすることができた。

 望めばそれがすべて叶う世界。
 それは誰もが理想とする世界だったが、しかし、実際にそんな世界が実現したら、つまらないだろうなと思うのだ。

 そんな世界にはきっと、夢も、希望も存在しないだろう。
 なぜならそれは、思い浮かべた瞬間には神の力によって叶えられてしまうからだ。
 そんな世界ではきっと、誰もが生きる意味や目的を持つことができないだろう。

「そんなの、長老さんや、この村の人たちには、関係ねぇじゃねぇかよッ!! 」

 しかし、源九郎はそれで納得はできなかった。

 確かに、神が過度に力を使い過ぎれば、よくないのだろう。
 だからルールを作り、自身が神として存在する世界に干渉することを避けるというのは、ある程度理解できる考え方だ。

 だが、この村は、なに一つとして満たされてはいない。
 人々は重税に苦しみ、飢餓を心配し、野盗に襲われている。
 そんな村になにも助けを差し出さないのは、おかしいと思うのだ。

「この村の人たちは、どん底だ! 
 だけど、あきらめないで、懸命に生きようとしている!
 みんな立派な、いい人たちじゃないか! 

 しかも、この人たちには何もかもが足りちゃいない!
 それをアンタがほんの少し補ったとしても、なんの不都合もないじゃねぇかっ! 」

「例外を作れば、必然的に、我も、我も、と、人々は群がってくるのです」

 しかし神は、源九郎の指摘にも、淡々とした口調でそう言うだけだった。

「1度でも我が力を使えば、人々はその力の存在をアテにするようになってしまいます。
 人々は自身の力によってなにかを成そうとするより、神の奇跡を求めて熱心に祈るようになります。

 ですが、わたくしがそのすべての祈りに応じていたら、結局はその世界は滅ぶこととなるのです」

「なら、力を使う回数を絞ればいいじゃねぇか! 」

「それでは不公平が生じます。
 なぜ彼の願いは叶えられて、自分の願いは叶えてもらえないのか。
 その差は不満を呼び、人々の間に対立の種をもたらします。

 源九郎。
 あなたの世界のとある神話では、世界で初めての殺人は、神がある兄弟の一方の捧げものだけを受け入れて寵愛し、もう一方の捧げものを無視して冷遇したことで起こったとされていますよね? 」

「いや、そんな話は、知らねぇんだが……」

 源九郎は顔をしかめた。
 神が指摘したのは、カインとアベルという2人の兄弟の間に起こったとされる逸話だったが、源九郎は宗派が異なるしそういった神話に強い関心はなかったから知らないのだ。

 ただ、神がなにを言いたいのかだけは、理解することができる。

 おそらく、この世界ではこんなことは当たり前に起こっていることなのだ。
 貧しい村が野盗に襲われ、焼かれて、そこに暮らしている人々が傷つき、死んでいく。

 もしも神がこの村を救ったとしよう。
 すると似たような境遇にある村では、「なぜ自分の村も救って下さらないのか」と不満が出る。

 そしてその不公平感は新たな対立を生み、人々の間に争いを生むのだ。

 まだ納得はできなかったが、理屈は理解できてしまった以上、源九郎はそれ以上、神に強く迫ることはできなかった。

「……なら、俺の命を、長老さんに使ってくれよ! 」

 しばらく考え込んだ後、源九郎は自身の胸に右手の拳を当てながら、神に向かってそう叫んでいた。

「俺は、元々はもう死んじまった人間だ! 
 それなのに、この世界に転生したんだ! 

 自分の世界の人間じゃないから、俺を転生させて連れてくることができたんだろう!?
 だからさ、この世界のことじゃない、特殊な事例ってことで、なんとかならねーかな!? 」

 せっかく転生できたというのに、その命を失う。
 それは残念だし、死というモノに向き合うことはあらためて恐ろしいとは思うが、しかし、目の前で救えたかもしれない長老が死んでしまったのだ。

 彼の命を救い、この村をまた平和にできるのなら、自身の命をかけても決して悔いはない。
 源九郎はそう思っていた。

「ダメです」

 しかし神は、静かにその申し出を拒絶する。

「あなたの命を使って、その老人を生き返らせることは、可能です。
 いえ、そのようなことをせずとも、我が力を持ってすれば、簡単にできることです」

「じゃぁ、なんでダメなんだよ!? 
 俺の命と引き換えにっていう条件があれば、他の人たちだって、おいそれとマネできないじゃねぇか! 」

「以前、同じことをしたことがあったのです。

 ……そしてその世界では、その後、私(わたくし)に生贄(いけにえ)を捧げることが大層流行りました。
 わたくしが救うよりも多くの血が流されることとなったのです。

 ですから、源九郎。
 あなたのその願いは、受け入れられません」

 この世界は、神が例示した世界とは違う。
 同じようなことになるとは限らない。

 源九郎はそう言いたかったが、しかし黙り込んだ。
 神の断固とした口調から、自分が何を言っても受け入れてはくれないと思ったからだ。

 代わりに、源九郎は自身の拳を強く握りしめていた。
 肌が白くなり、関節がきしむほどに、強く。

 そして空中に漂う神を勢いよく見上げ、睨みつけると、源九郎は怒りのこもった声で絶叫する。

「じゃあ、アンタ! 
 いったいなんだったら、できるっていうんだよ!? 」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...