殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

文字の大きさ
上 下
56 / 226
:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」

・1-41 第57話 「焼け落ちる村:1」

しおりを挟む
・1-41 第57話 「焼け落ちる村:1」

 その森は、源九郎がこれまで立ち入ったことのない場所であり、少し分け入るとどちらに向かえばいいのかわからなくなってしまうほどに深いものだった。
 しかし、源九郎は迷わずに駆け続けることができた。

 燃え盛る炎から立ち上る、煙の臭い。
 それが村の方からただよって来る物が焼け焦げる不快で不穏な臭いが、源九郎に進むべき方角を教えてくれる。

 やがて、森が途切れた。
 源九郎は、村人たちが少ない人手をかき集めて必死に耕していた畑に出る。

 この畑に、作物を実らせるために。
 自分たち自身の力で、この地に息づいていくために。
 長老はたった1人で野盗たちと対峙し、そしておそらくは今、燃え盛る炎の中にいる。

 視界が開けたおかげと、距離が近くなったおかげで、村の様子がはっきりと見て取れた。
 すでに多くの家屋で屋根にまで火が回り始め、炎はより一層激しさを増し、土壁でさえその熱によってボロボロにして焼き崩してしまうほど強くなっている。

「長老さん! 
 長老さーんッ! 」

 源九郎は、村に向かって必死に走りながら、声を張りあげる。
 もし長老が無事ならこの声に気づいて応えてくれるはずだった。

 しかし、返事は返ってこない。

(まさか、長老さん、野盗どもに……! )

 源九郎の中で、不吉な予感がふくらんで来る。
 交渉が決裂し、村を野盗が焼き払ったのなら、長老が斬られていてもおかしくはなかった。

 もう、村は間近なところにある。
 燃え盛る炎のゴウゴウという音、家屋がガラガラと焼け崩れる音が村のあちこちから聞こえ、恐怖心を呼び覚ます。

 源九郎は村の中央広場へと続く道を前にして、一瞬、立ち止まった。

 野盗たちはすでに村を後にした様子だったが、長老が村から脱出した気配はなかった。
 だからおそらくは、長老はこの炎の中で息絶えてしまっているか、身動きのできない状態にあるのだろう。

 このまま助けに行くことができるのか。
 源九郎は思わず躊躇ちゅうちょしてしまっていた。
 それだけ炎の勢いは強く、さして広くもない村の通りを、耐火服を着ているわけでもないのに進んで行ってしまっては、前後左右から炎にあぶられて源九郎も焼け死んでしまうかもしれなかった。

 長老は、もう死んでいるのに違いない。
 だから、今さら助けに向かったことでもう遅い。
 そんな思いが、心の中をよぎる。

「行くぞ! 
 行くぞ行くぞ行くぞ、俺は、行くぞッ! 」

 だが源九郎は自分に気合を入れるようにそう叫ぶと、両手で頬をバシンとはたき、燃え盛る村の中に駆けこんだ。

 自分の目で、長老の安否を確認するまでは引き下がれない。
 そう決意した源九郎は、炎の中を駆けていく。

村に入った途端、左右からすさまじい熱気が襲って来る。
 吹き出してくる汗はすぐさま蒸発していき、服は最強にしたドライヤーを間近に浴びているように思えるほど熱くなり、渦巻くような煙と熱で呼吸もうまくできない。
 肌がむき出しの場所はオーブントースターの中ってきっとこんな感じなんだろうなと思えるほどで、髪がチリチリと焦げるような感覚があった。

 その中を、源九郎は駆け抜ける。
 服のそでで口元を覆い、なるべく息をしないようにしながら、村の中央の広場に向かって駆けていく。

 やがて源九郎は、地面に倒れ伏した長老の姿を見つけていた。

「うわっアチチッ! 

 長老さんっ! 」

 ちょうど近くで建物が焼け落ちたことに怯みながらも、源九郎は勇気を振り絞って長老に駆けよった。

 長老は、うつぶせに倒れ伏している。
 まだその顔は見えなかったが、しかし、源九郎は長老がおそらくは瀕死の状態にあるだろうことを瞬時に理解していた。

 なぜなら、倒れている長老の周囲には血だまりがあり、彼から流れ出た血で、かすれた筆で引いたような1本線が地面に描かれていたからだ。

 血で作られた、おそらくは負傷した長老が気力を振り絞っていずったことによってできた跡は、村の中心になっている広場から10メートルほども続いている。
 おそらく長老は広場の辺りで野盗たちに斬られ、ここまで這いずって来たのに違いなかった。

「長老さん、しっかり! 
 しっかりしてください! 」

 源九郎は灼熱の中にいるのに背筋がすっと寒くなったような嫌な感覚を覚えながら、しゃがみこんで長老の身体に手を添えた。

 まだ、暖かい。
 周囲で燃え盛る炎のせいかもしれなかったが、源九郎は希望を持つことにした。

「長老さん、長老さん! 
 どこをやられたんですか!? 立てますかっ!? 
 早く、逃げないといけないんです! 」

 長老はまだ生きている。
 源九郎はその可能性に賭け、耳元で声を張りあげた。

 しかし、長老は反応しない。
 意識を失っているようだ。

 源九郎は口元を服のそでで覆いながら、素早く周囲を確認する。
 炎の勢いは増すばかりで、このままでは源九郎も焼け死ぬことは確実だと思えた。

 逃げ出さなければ、自分も死ぬ。
 すでに1度命を失ったことのある源九郎だったが、焼死という死因は、想像するだけでも恐ろしいものだった。

 熱によって、肌の上からこんがりと、段々と自分の身体に火が通って行くのを感じながら息絶えるか。
 それとも、熱気を吸い込んだことで灰を焼かれ、呼吸困難になって死ぬか。

 いずれにしろ、体験したくない死に方だ。

 源九郎は、今すぐこの場から逃げ出した衝動に駆られた。
 だが、すぐに長老のことを見おろすと、なにかを決意したように唇を引き結ぶ。

 そして源九郎は、長老を担ぎ上げると、村の外に向かって全速力で駆け出していた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...