殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)

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:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」

・1-26 第41話 「要求:1」

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・1-26 第41話 「要求:1」

※作者注
 本話、残酷な流血シーンがあります。

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 夜の冷えた空気を、その温度よりも遥かに冷たい無慈悲をまとった刃が、ヒュン、と風を切る音を響かせながら振り下ろされる。

 その凶刃は、野盗たちのことを固唾飲んで見守っていた源九郎や村人たちの予想とは反し、幸い、長老へ向けられてはいなかった。
 それは、縄をかけられて、ここまで引き連れられてきたスキンヘッドの野盗へと向けられていた。

(……んなっ!? )

 源九郎は思わず悲鳴をらしそうになり、慌てて刀のつかから手を離して両手で口を塞いだ。

 野盗の頭領が振り下ろした剣によって、スキンヘッドの首が切断され、双眸そうぼうを恐怖に見開いたままの首が宙を舞い、そして、鋭利な剣によって切られた切断面から、大量の鮮血がほとばしる光景を目撃したせいだった。

 突然動脈を切断されたために、スキンヘッドの野盗の身体からは一気に血が噴き出した。
 それは噴水のように夜空に舞い上がり、無数のしずくに分散しながら飛び散り、夜の冷たい空気の中に湯気の霧を生み出した。

 源九郎は両手で口を抑えたまま、わなわなと震えた。

 目の前で、人が斬られた。
 人間が、殺された。

 それは、モニターに映し出される映像としての、架空の死ではなかった。
 本当に、源九郎の目の前で1人の人間が命を失ったのだ。

 激しく噴出した鮮血は、すぐに勢いを弱めていった。
 大量の血を失ったことで血圧が失われたためだ。

 地面の上にボトンと、スキンヘッドの頭が落ちて、土をまといながらゴロゴロと転がっていく。
 その直後、首を失った身体の方が膝を折り、力なく崩れ落ちて、バチャン、と自身から流れ出た鮮血でできた赤い水たまりの中に沈んだ。

 突然の、斬首。
 それを目にした村人たちは誰もが、言葉を失い、そして恐怖していた。

「なっ、なぜ、こんなことをなさる……!? 
 こ、コイツは、アンタ様の、部下だったんじゃぁ……!? 」

 目の前で人が斬られ、盛大に噴出した血を浴びた長老は、驚愕きょうがくした表情のまま、震える声で頭領にその意図をたずねていた。
 いきなり処刑してしまうなど、その理由は簡単には想像することができない。

「この者は、我が命に背いた」

 答える頭領の言葉は、突き放すように冷たい。
 スキンヘッドの野盗を斬り捨てたことを歯牙にもかけていないような口調だった。

「村は、我らに必要な食料を提供する。
 その代わりに、我らは必要以上の略奪をしない。

 それが、約束であったはずだ。
 その約束を守れと、私は確かに命令を下していた。

 しかしながら、この者はその約束に背き、私利私欲から村を襲い、略奪し、娘をさらった。
 よって、我が手で誅殺ちゅうさつした。

 ただ、それだけのことだ」

 間近で全身に返り血を浴びた頭領の姿は、狂気じみて見える。
 いくら自らの命令に背いたとはいえ、それでも今、斬り捨てたのは、彼の部下であったはずなのだ。

 まったく良心が痛んでいるような様子がないし、平然としている。
 源九郎や村人たちの感覚からは大きく外れた感性の持ち主であるとしか思えない。

「我らは、一度交わした約束は守る。

 村長むらおさよ、その点は、信じてもらいたい」

 その言葉は、自分へと向けられたものだ。
 呆然自失としていた長老はそう気づくと、慌てて、コクコクとうなずいてみせる。

「さて、下らぬ余興よきょうは終わった。

 ここらで、本題に入らせてもらおうか」

 ピッ、と剣で鋭く空気を切り裂きながら血糊を払い、剣を鞘へと納めた頭領は、やはり何事もなかったかのような態度で言った。

「……ほ、本題、だべか? 」

「そう、本題だ」

 まだ思考の戻らない様子の長老が確認するように問い直すと、頭領はうなずき、それから、自身の部下を斬り殺した時と一切変わらぬ冷たい表情で告げる。

村長むらおさよ。
 ここにあらためて命じる。

 我らのために、さらに食料を提供せよ」

「しょ、食料、だべか? 」

 その酷薄な頭領の態度に、長老はたじたじとなってしまっている。

 無理もないだろう。
 村人たちにとっては憎い野盗の1人とはいえ、目の前で人間が斬り殺され、その返り血を浴びているのだから。

(俺だったら多分、腰を抜かしてるぜ……)

 源九郎は野盗たちのやり方に戦慄せんりつしながら、自身がこれまで生きてきた世界と、転生して来たこの異世界との違いをより強く実感していた。

「そ、そんなこと言われても、オラたちはもう、出せる食いもんはみーんな、アンタらに差し出しちまっとるだよ」

 少しの間をおいて長老はどうにかそれだけを、絞り出すような口調で答えた。

「アンタ様だって、知っとるはずだ。
 オラたち村のもんが、普段、わらとおがくずで水増ししたかゆを食っとるってことを!

 そんなオラたちに、これ以上なにが差し出せるっていうだか? 」

「フン、それは、お前たちが[食べるために]ため込んでいた食料の話だろう? 」

 すると、頭領は長老のことを嘲笑し、やや高圧的な口調で要求する。

村長むらおさ
 まだ、お前たちには種があるだろう? 
 今年、植えるための種が。

 それを、差し出せと命じているのだ」

「なっ、なんですって!? 

 たっ、種まで、差し出せって言うんだか!? 」

 その頭領からの要求に長老は驚愕きょうがくし、思わず大きな声を出してしまっていた。
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