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:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」
・1-17 第32話 「野盗たち:1」
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・1-17 第32話 「野盗たち:1」
源九郎が案内された長老の家は、他の村人たちの家と変わりのない、粗末なものだった。
構造は単純で、長方形の建物の中に大きな部屋が1つあるだけ。
炊事などを行うかまどや水の入った樽の置かれた土間があり、残りは木の板で作られた床で覆われ、木組みの上に藁がしかれただけのベッドと、テーブルとイス、棚などの家具がいくつか置かれている。
窓はあったが、森の中にあった小屋と同じようにガラスはない吹き抜け構造で、風雨が強くなったら鎧戸を閉じる仕組みになっている。
天井に飾り板はなく、木材の骨格がむき出しで、長年の使用のためか煤で薄汚れ、蜘蛛の巣が張っているのが見て取れた。
「ささ、おさむれーさま、座ってくんろ。
おらが今から、おゆはん、作っから! 」
村に戻ってくることができて、フィーナはすっかり元気を取り戻した様子だった。
サシャを村が共同で管理している馬小屋へと連れて行き、他の村人に世話を任せて戻って来た彼女は、源九郎と長老をイスに案内して座らせると、パタパタとせわしなくかまどの方へと駆けて行く。
「旅のお人。
フィーナを助けてもろうて、本当に、感謝の言葉もねぇですだ」
慣れた手つきで火口を用意し、カチカチと火打石を叩いてかまどに火を起こし始めるフィーナの姿を楽しそうに源九郎が眺めていると、対面に腰かけた長老が、あらためてそう言って頭を下げてきた。
「あの子は、フィーナは、何年も前に両親を失っちまってな……。
以来、オラの家で預かって来たコなんでさ。
引き取ってくれたお礼にって、いつも、ああしていろいろ家のことをやってくれてんだ。
妻を亡くしちまって、子供らも兵隊にするだのなんだって連れて行かれちまったオラにとっちゃ、ほんに、ありがてぇことでさ。
おかげでこんな老人になるまで、長ぁく生きさせてもらっただ。
だからもぅ、野盗どもに連れて行かれてしもうて、オラぁ、心配で、心配で……。
守ってやれなくて、情けなくてなぁ……。
だけんど、オラたち村のもんだけじゃ、野盗にはかなわねぇ。
ロクな武器もねぇし、若ぇもんがみんないなくなっちまって、勝負にもなんねぇだ。
もうどしようもねぇって、あきらめていただよ……。
本当に、旅のお人が来てくださって、助かっただ」
「いやぁ、たまたま通りかかって、良かったですよ」
しみじみと感謝の感情がこもっている言葉に、源九郎は照れたように後頭部をかきながら笑って見せる。
「それで、長老さん。
あの野盗たちは、何者ですか? 」
それから源九郎は、コホン、と小さく咳場合をした後、そう言って話を変えた。
長老や村人たちから感謝され、歓迎されるのは気分のいいことではあったが、これからこの世界を旅していくためにはいろいろと情報を集めなければならないからだ。
この村を困らせている野盗たちは、源九郎にとっても注意するべき存在だった。
ここからどこへ向かうにしても源九郎の旅路に立ち塞がるかもしれなかったから、決して無関係ではいられない。
それになにより、源九郎はできれば村人たちのことを救ってやりたかった。
自分の殺陣が、通用する。
そんな確信を持った源九郎は、もし野盗たちの拠点がさほど遠くはなく、人数も少なければ、自分の手で退治してやろうとさえ思っている。
(なぁに、適当に痛めつけてやれば、どっかに逃げていくだろうさ)
少々お灸をすえてやればこと足りるだろうと、そう考えていた。
「さぁ、オラたちには、アイツらがなにもんかは、わかんねぇだよ。
いったい、どこから流れて来たんか……、大方、どこかで食いつめたんが、徒党を組んだんだんべ。
半年前、そう、冬の前から、いつかれちまってんだ」
源九郎の問いかけに、長老はいまいましそうな口調で野盗たちのことを教えてくれる。
「奴ら、ご領主様のお城を根城にしとってなぁ……。
昨年にご領主様が討ち死になされて、空き城になっちまったのを奪ったんだ。
以来、オラたちの村から食いもん奪ったり、金目のもんを持って行っちまったり……、ご領主様が畑に必要だからって残して下さっていたサシャまでも連れて行っちまって……。
それだけじゃねぇ。
とうとう、フィーナまで……。
ほんに、旅のお人、フィーナとサシャを連れて帰ってきて下さって、ありがとうごぜぇますだよ」
話しながら、長老はいつの間にか涙ぐんでいた。
野盗たちの横暴に逆らえない自分たちの境遇や、直接の血のつながりがないとはいえ家族であるフィーナを守ってやれなかったことの情けなさで、目頭が熱くなったようだった。
「それで、野盗たちはいったい、どれくらいの人数がいるんでしょうか? 」
この村人たちを救ってやりたい。
源九郎がその思いを強くしながらたずねると、服のそでで涙をぬぐった長老はうなずきながら答える。
「詳しいことは、わかんね。
だけんど、野盗どもに食いもんを運ばされた村のもんに聞いた話だと、10人とちょっと、らしいだ」
「10人ちょっと、か……」
野盗の人数を聞いた源九郎は、呟くようにそう言って考え込む。
正確な人数こそわからないが、野盗たちが十数人しかいないのであれば。
うまく立ち回れば、行けそうな気もするのだ。
(野盗どもが、小屋で戦った奴らと全員、同じくらいのレベルなら……。
全員と戦う必要なんか、ねぇさ。
5,6人、叩きのめしてやれば、きっと……)
自分の手で、村を救えるかもしれない。
そう考えた源九郎は、その口元に不敵な笑みを浮かべていた。
源九郎が案内された長老の家は、他の村人たちの家と変わりのない、粗末なものだった。
構造は単純で、長方形の建物の中に大きな部屋が1つあるだけ。
炊事などを行うかまどや水の入った樽の置かれた土間があり、残りは木の板で作られた床で覆われ、木組みの上に藁がしかれただけのベッドと、テーブルとイス、棚などの家具がいくつか置かれている。
窓はあったが、森の中にあった小屋と同じようにガラスはない吹き抜け構造で、風雨が強くなったら鎧戸を閉じる仕組みになっている。
天井に飾り板はなく、木材の骨格がむき出しで、長年の使用のためか煤で薄汚れ、蜘蛛の巣が張っているのが見て取れた。
「ささ、おさむれーさま、座ってくんろ。
おらが今から、おゆはん、作っから! 」
村に戻ってくることができて、フィーナはすっかり元気を取り戻した様子だった。
サシャを村が共同で管理している馬小屋へと連れて行き、他の村人に世話を任せて戻って来た彼女は、源九郎と長老をイスに案内して座らせると、パタパタとせわしなくかまどの方へと駆けて行く。
「旅のお人。
フィーナを助けてもろうて、本当に、感謝の言葉もねぇですだ」
慣れた手つきで火口を用意し、カチカチと火打石を叩いてかまどに火を起こし始めるフィーナの姿を楽しそうに源九郎が眺めていると、対面に腰かけた長老が、あらためてそう言って頭を下げてきた。
「あの子は、フィーナは、何年も前に両親を失っちまってな……。
以来、オラの家で預かって来たコなんでさ。
引き取ってくれたお礼にって、いつも、ああしていろいろ家のことをやってくれてんだ。
妻を亡くしちまって、子供らも兵隊にするだのなんだって連れて行かれちまったオラにとっちゃ、ほんに、ありがてぇことでさ。
おかげでこんな老人になるまで、長ぁく生きさせてもらっただ。
だからもぅ、野盗どもに連れて行かれてしもうて、オラぁ、心配で、心配で……。
守ってやれなくて、情けなくてなぁ……。
だけんど、オラたち村のもんだけじゃ、野盗にはかなわねぇ。
ロクな武器もねぇし、若ぇもんがみんないなくなっちまって、勝負にもなんねぇだ。
もうどしようもねぇって、あきらめていただよ……。
本当に、旅のお人が来てくださって、助かっただ」
「いやぁ、たまたま通りかかって、良かったですよ」
しみじみと感謝の感情がこもっている言葉に、源九郎は照れたように後頭部をかきながら笑って見せる。
「それで、長老さん。
あの野盗たちは、何者ですか? 」
それから源九郎は、コホン、と小さく咳場合をした後、そう言って話を変えた。
長老や村人たちから感謝され、歓迎されるのは気分のいいことではあったが、これからこの世界を旅していくためにはいろいろと情報を集めなければならないからだ。
この村を困らせている野盗たちは、源九郎にとっても注意するべき存在だった。
ここからどこへ向かうにしても源九郎の旅路に立ち塞がるかもしれなかったから、決して無関係ではいられない。
それになにより、源九郎はできれば村人たちのことを救ってやりたかった。
自分の殺陣が、通用する。
そんな確信を持った源九郎は、もし野盗たちの拠点がさほど遠くはなく、人数も少なければ、自分の手で退治してやろうとさえ思っている。
(なぁに、適当に痛めつけてやれば、どっかに逃げていくだろうさ)
少々お灸をすえてやればこと足りるだろうと、そう考えていた。
「さぁ、オラたちには、アイツらがなにもんかは、わかんねぇだよ。
いったい、どこから流れて来たんか……、大方、どこかで食いつめたんが、徒党を組んだんだんべ。
半年前、そう、冬の前から、いつかれちまってんだ」
源九郎の問いかけに、長老はいまいましそうな口調で野盗たちのことを教えてくれる。
「奴ら、ご領主様のお城を根城にしとってなぁ……。
昨年にご領主様が討ち死になされて、空き城になっちまったのを奪ったんだ。
以来、オラたちの村から食いもん奪ったり、金目のもんを持って行っちまったり……、ご領主様が畑に必要だからって残して下さっていたサシャまでも連れて行っちまって……。
それだけじゃねぇ。
とうとう、フィーナまで……。
ほんに、旅のお人、フィーナとサシャを連れて帰ってきて下さって、ありがとうごぜぇますだよ」
話しながら、長老はいつの間にか涙ぐんでいた。
野盗たちの横暴に逆らえない自分たちの境遇や、直接の血のつながりがないとはいえ家族であるフィーナを守ってやれなかったことの情けなさで、目頭が熱くなったようだった。
「それで、野盗たちはいったい、どれくらいの人数がいるんでしょうか? 」
この村人たちを救ってやりたい。
源九郎がその思いを強くしながらたずねると、服のそでで涙をぬぐった長老はうなずきながら答える。
「詳しいことは、わかんね。
だけんど、野盗どもに食いもんを運ばされた村のもんに聞いた話だと、10人とちょっと、らしいだ」
「10人ちょっと、か……」
野盗の人数を聞いた源九郎は、呟くようにそう言って考え込む。
正確な人数こそわからないが、野盗たちが十数人しかいないのであれば。
うまく立ち回れば、行けそうな気もするのだ。
(野盗どもが、小屋で戦った奴らと全員、同じくらいのレベルなら……。
全員と戦う必要なんか、ねぇさ。
5,6人、叩きのめしてやれば、きっと……)
自分の手で、村を救えるかもしれない。
そう考えた源九郎は、その口元に不敵な笑みを浮かべていた。
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