3 / 41
:第3話 「G・J」
しおりを挟む
:第3話 「G・J」
分隊の面々が事態を把握できず、呆気に取られている中、アランは即座に立ち上がって駆け出していた。
その先には、一頭の馬がいる。
いわゆる、ばんえい馬。
農耕のために鋤(すき)を引いたり、馬車などを牽引(けんいん)したりするための、ガッチリした大柄な体格の馬だ。
それが興奮した様子で、後ろ足で立ち上がっている。
近くの木につながれているが、縄がピンと張って、その巨体から発揮される怪力で今にも引き千切(ちぎ)られてしまいそうだった。
ばんえい馬は、体重が一トンを超えるものが珍しくない。
三百五十キログラムを超える重量を持つ三十七ミリ対戦車砲や、その弾薬運搬車を牽引(けんいん)するためには、それだけ大柄でパワフルな馬が必要であったのだ。
そんな大型動物が自由に暴れたら、どうなることか。
うかつに近寄ればその蹄(ひづめ)に蹴りつけられて大怪我をしてしまうし、引き留めるだけでも何人もが力を合わせて綱を引かなければ間に合わない。
そうなる前に、何とか馬を落ち着かせたかった。
———それが、アランの、分隊の中での役割でもある。
牧場出身で家畜の扱いに長けているということから、隊で使用しているばんえい馬の世話や操縦を任されているのだ。
暴れる馬をなだめたい。
しかし、すぐに手綱を引っ張ったり、大声をかけたりしてはならなかった。
馬は草食動物で、臆病なところのある生き物だ。
動揺している所に急に手綱を強く引っ張ったり大声をかけたりしたら余計に驚いて、さらに暴れることがある。
まずは、自分自身が落ち着くことが大切だ。
そうして態度で安心できるのだと示してやらなければならない。
人間も馬を見ているが、馬もまた、人間のことを見ているのだ。
アランは近くまで素早く駆けよったが、それからは努めて冷静に、優しい声と手ぶりで絶対に馬の死角に入らないように注意しながら「どうどう、どーうどう」となだめていく。
すると、ほどなくして馬は落ち着きを取り戻していった。
「よ~し、よし。お前は賢いな~、偉いぞ~」
ほっとして作り物ではない心からの笑顔を見せつつ、ポンポン、と軽く馬首を叩いてやった後、アランはこの事態を引き起こした相手の方を振り返っていた。
———そこには、彼と同じ十九歳の女性が、草原の上に尻もちをついて、すっかり怯えて表情を青ざめさせたまま、呆然としていた。
灰色がかった黒髪に優しそうな双眸(そうぼう)を持つ、どこにでもいそうな、目立たない印象の容姿の持ち主だ。
「G・J。いったい、なにをやったの? 」
「え、えっと……! わ、私、別にお馬さんをいじめたりとかは、してないです! 」
「そりゃ、そんなことをしないのは分かってるさ。けど、なにかちょっかいを出したんじゃないのかい? 」
アランに軽く睨みつけられると、G・Jこと、ジンジャー・ジョーンズ一等兵はしゅんとなって肩を落としながら白状した。
「そ、その……。尻尾を、触ってみたくって」
「それで、後ろに回り込んだと? そりゃ、ダメだ」
悪気がないのは分かっているが、あまりにもうかつな行為にアランは呆れるしかなかった。
「馬ってのはさ、視野の広い動物なんだけど、真後ろにちょっとだけ死角があるんだ。それで、そこに不用意に入り込んで近寄ったりすると、怖がって凄く怒ることがあるんだよ」
「う、う~! し、知らなかった~」
ずいぶん怖い思いをしたのだろう。
G・Jはそう反省の言葉を述べつつ、まなじりに涙を浮かべている。
「まったく、気をつけなよ? 第一、なんで馬に後ろから近づいたりしたのさ? 」
「そ、それは、尻尾がフサフサで、触り心地が良さそうだったから……」
「そんな理由で? ……とにかく、後ろ足で蹴り飛ばされなくてよかった。最悪、怪我じゃ済まなかったところだよ」
注意するべきところはしっかりと注意しながらも、アランは落っこちていた眼鏡を拾い上げ、G・Jに渡して、手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……。それと、ごめんなさい」
眼鏡をかけ直したG・Jはそばかすの痕が残る顔にはにかんだ笑みを浮かべると、差し出された手を取って立ち上がっていた。
二人はいわゆる同期だった。
出身地は別だが、同じ年に徴兵され、同じ訓練所に配属されて、同じ班になって、共に怖い軍曹からの教練を受けた。
方や農村の牧場育ち、方や地方都市のサラリーマン家庭に育ったというまったく異なる出自を持つからさほど話が合うことはなかったのだが、訓練期間中にG・Jが数人にからまれているところをアランが助けて以来、友人と名乗れるくらいには親しくしている。
彼女がこうして馬にちょっかいを出そうとしたのは、これが初めてのことではなかった。
どうやら幼い頃から動物と触れ合う仕事に憧れがあったらしく、身近に馬がいるという状況に少々浮ついているらしい。
モンブランという名前のウサギを飼っているんだよといつも楽しそうに話してくれるのだが、どうにも、大型のばんえい馬をウサギのような小動物の延長として軽く見ているフシがある。
愛嬌があって大人しいというのは一致している部分があるのだが、パワーと、その質量から来る破壊力が段違いなのだ。
ウサギに蹴られてもちょっとした怪我で済むかもしれないが、馬に蹴られたら命が危ない。
「ったく。本当に気をつけてくれよな? おれなんか昔、頭を蹴られて、死にかけたんだから。……羊だったけど」
手で身体についた汚れを払っているG・Jに呆れた様子の声をかけたのは、アランに続いて駆けつけてきたブルーノ・セルヴァン上等兵だった。
薄い茶色の短髪と茶色の瞳を持つ青年だったが、家畜に頭を蹴られた、という言葉通り、その額には今でも消えない傷跡が残っている。
それを目にしたG・Jは、ビクリ、と肩を震わせると、すごすごとアランの影に身を隠した。
「あ、その対応。傷つくな~」
「す、すみません、先輩! で、でも、やっぱりちょっと、おっかなくって……」
しかめっ面をするセルヴァン上等兵に、G・Jは申し訳なさそうな上目遣いで謝罪する。
生々しい傷跡が苦手であるらしい。
「まったく。まぁ、もうそういう反応は慣れっこだから、別にいいけどよ。……オイ、アラン。お前、ちゃんと見とけよ? こんなことで怪我でもされちゃ、つまらないぜ」
「りょ、了解です」
ぎこちなくうなずいてみせると、新入り二人の実質的な世話係になっている上等兵はヤレヤレ、と肩をすくめて塹壕の中に戻って行った。
———自分も、元の場所に戻ろうか。
そう思ったものの、結局なにもやることなどなく退屈を持て余すだけだと考えたアランは、もっと時間を有意義に使えないかと考えながらまだ自分の背後に隠れている同僚の方を振り返っていた。
「G・J」
「はい? 」
「馬のブラッシング、やってみたい? 」
「……。みたいです」
ついさっき怖い思いをしたばかりだというのに、やっぱり、動物の世話には興味があるらしい。
返って来た力強いうなずきには、苦笑する他はなかった。
分隊の面々が事態を把握できず、呆気に取られている中、アランは即座に立ち上がって駆け出していた。
その先には、一頭の馬がいる。
いわゆる、ばんえい馬。
農耕のために鋤(すき)を引いたり、馬車などを牽引(けんいん)したりするための、ガッチリした大柄な体格の馬だ。
それが興奮した様子で、後ろ足で立ち上がっている。
近くの木につながれているが、縄がピンと張って、その巨体から発揮される怪力で今にも引き千切(ちぎ)られてしまいそうだった。
ばんえい馬は、体重が一トンを超えるものが珍しくない。
三百五十キログラムを超える重量を持つ三十七ミリ対戦車砲や、その弾薬運搬車を牽引(けんいん)するためには、それだけ大柄でパワフルな馬が必要であったのだ。
そんな大型動物が自由に暴れたら、どうなることか。
うかつに近寄ればその蹄(ひづめ)に蹴りつけられて大怪我をしてしまうし、引き留めるだけでも何人もが力を合わせて綱を引かなければ間に合わない。
そうなる前に、何とか馬を落ち着かせたかった。
———それが、アランの、分隊の中での役割でもある。
牧場出身で家畜の扱いに長けているということから、隊で使用しているばんえい馬の世話や操縦を任されているのだ。
暴れる馬をなだめたい。
しかし、すぐに手綱を引っ張ったり、大声をかけたりしてはならなかった。
馬は草食動物で、臆病なところのある生き物だ。
動揺している所に急に手綱を強く引っ張ったり大声をかけたりしたら余計に驚いて、さらに暴れることがある。
まずは、自分自身が落ち着くことが大切だ。
そうして態度で安心できるのだと示してやらなければならない。
人間も馬を見ているが、馬もまた、人間のことを見ているのだ。
アランは近くまで素早く駆けよったが、それからは努めて冷静に、優しい声と手ぶりで絶対に馬の死角に入らないように注意しながら「どうどう、どーうどう」となだめていく。
すると、ほどなくして馬は落ち着きを取り戻していった。
「よ~し、よし。お前は賢いな~、偉いぞ~」
ほっとして作り物ではない心からの笑顔を見せつつ、ポンポン、と軽く馬首を叩いてやった後、アランはこの事態を引き起こした相手の方を振り返っていた。
———そこには、彼と同じ十九歳の女性が、草原の上に尻もちをついて、すっかり怯えて表情を青ざめさせたまま、呆然としていた。
灰色がかった黒髪に優しそうな双眸(そうぼう)を持つ、どこにでもいそうな、目立たない印象の容姿の持ち主だ。
「G・J。いったい、なにをやったの? 」
「え、えっと……! わ、私、別にお馬さんをいじめたりとかは、してないです! 」
「そりゃ、そんなことをしないのは分かってるさ。けど、なにかちょっかいを出したんじゃないのかい? 」
アランに軽く睨みつけられると、G・Jこと、ジンジャー・ジョーンズ一等兵はしゅんとなって肩を落としながら白状した。
「そ、その……。尻尾を、触ってみたくって」
「それで、後ろに回り込んだと? そりゃ、ダメだ」
悪気がないのは分かっているが、あまりにもうかつな行為にアランは呆れるしかなかった。
「馬ってのはさ、視野の広い動物なんだけど、真後ろにちょっとだけ死角があるんだ。それで、そこに不用意に入り込んで近寄ったりすると、怖がって凄く怒ることがあるんだよ」
「う、う~! し、知らなかった~」
ずいぶん怖い思いをしたのだろう。
G・Jはそう反省の言葉を述べつつ、まなじりに涙を浮かべている。
「まったく、気をつけなよ? 第一、なんで馬に後ろから近づいたりしたのさ? 」
「そ、それは、尻尾がフサフサで、触り心地が良さそうだったから……」
「そんな理由で? ……とにかく、後ろ足で蹴り飛ばされなくてよかった。最悪、怪我じゃ済まなかったところだよ」
注意するべきところはしっかりと注意しながらも、アランは落っこちていた眼鏡を拾い上げ、G・Jに渡して、手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……。それと、ごめんなさい」
眼鏡をかけ直したG・Jはそばかすの痕が残る顔にはにかんだ笑みを浮かべると、差し出された手を取って立ち上がっていた。
二人はいわゆる同期だった。
出身地は別だが、同じ年に徴兵され、同じ訓練所に配属されて、同じ班になって、共に怖い軍曹からの教練を受けた。
方や農村の牧場育ち、方や地方都市のサラリーマン家庭に育ったというまったく異なる出自を持つからさほど話が合うことはなかったのだが、訓練期間中にG・Jが数人にからまれているところをアランが助けて以来、友人と名乗れるくらいには親しくしている。
彼女がこうして馬にちょっかいを出そうとしたのは、これが初めてのことではなかった。
どうやら幼い頃から動物と触れ合う仕事に憧れがあったらしく、身近に馬がいるという状況に少々浮ついているらしい。
モンブランという名前のウサギを飼っているんだよといつも楽しそうに話してくれるのだが、どうにも、大型のばんえい馬をウサギのような小動物の延長として軽く見ているフシがある。
愛嬌があって大人しいというのは一致している部分があるのだが、パワーと、その質量から来る破壊力が段違いなのだ。
ウサギに蹴られてもちょっとした怪我で済むかもしれないが、馬に蹴られたら命が危ない。
「ったく。本当に気をつけてくれよな? おれなんか昔、頭を蹴られて、死にかけたんだから。……羊だったけど」
手で身体についた汚れを払っているG・Jに呆れた様子の声をかけたのは、アランに続いて駆けつけてきたブルーノ・セルヴァン上等兵だった。
薄い茶色の短髪と茶色の瞳を持つ青年だったが、家畜に頭を蹴られた、という言葉通り、その額には今でも消えない傷跡が残っている。
それを目にしたG・Jは、ビクリ、と肩を震わせると、すごすごとアランの影に身を隠した。
「あ、その対応。傷つくな~」
「す、すみません、先輩! で、でも、やっぱりちょっと、おっかなくって……」
しかめっ面をするセルヴァン上等兵に、G・Jは申し訳なさそうな上目遣いで謝罪する。
生々しい傷跡が苦手であるらしい。
「まったく。まぁ、もうそういう反応は慣れっこだから、別にいいけどよ。……オイ、アラン。お前、ちゃんと見とけよ? こんなことで怪我でもされちゃ、つまらないぜ」
「りょ、了解です」
ぎこちなくうなずいてみせると、新入り二人の実質的な世話係になっている上等兵はヤレヤレ、と肩をすくめて塹壕の中に戻って行った。
———自分も、元の場所に戻ろうか。
そう思ったものの、結局なにもやることなどなく退屈を持て余すだけだと考えたアランは、もっと時間を有意義に使えないかと考えながらまだ自分の背後に隠れている同僚の方を振り返っていた。
「G・J」
「はい? 」
「馬のブラッシング、やってみたい? 」
「……。みたいです」
ついさっき怖い思いをしたばかりだというのに、やっぱり、動物の世話には興味があるらしい。
返って来た力強いうなずきには、苦笑する他はなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
少年少女たちの日々
原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。
世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。
しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。
世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。
戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。
大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。
その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
幕府海軍戦艦大和
みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。
ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。
「大和に迎撃させよ!」と命令した。
戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。
蒼雷の艦隊
和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。
よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。
一九四二年、三月二日。
スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。
雷艦長、その名は「工藤俊作」。
身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。
これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。
これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
江戸時代改装計画
華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる