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第十二章:「反撃の第一歩」
:12-8 第200話:「教唆」
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:12-8 第200話:「教唆」
エドゥアルドの部屋を出てきたルーシェは、深々と溜息を吐いていた。
「はぁ……。
なんだか、心配です」
普段なら周囲の意見をよく聞いて自重してくれるはずなのに、今回の主は頑なだ。
屁理屈としか言いようがない論理で、強引にことを推し進めようとしている。
これまでの彼とは、少し違う。
そのことがメイドを余計に不安な気持ちにさせていた。
「おやおや?
私たちは追い出しておいて、代皇帝陛下と二人きりになっていたというのに。
ずいぶんと不服そうじゃないか? 」
「いけませんわねぇ、私(わたくし)たちの模範たるべき先輩がそのようでは。
メイドはいつでも笑顔で、というのは、ウソだったのでしょうか? 」
ただでさえ心労を抱えているというのに、そう茶化すような声をかけられ、ルーシェはムッとした顔でそこにいた二人の女性をねめつける。
一人は、オルリック王国の王女・アリツィア。
もう一人は、イーンスラ王国の王女・ユーフェミアだ。
バリントン伯爵を迎えて外交を行っていた際に彼女たちはエドゥアルドのメイド見習いというお遊戯(ゆうぎ)を始めたのだが、どういうわけか、未だに帰国もせずについて来ていた。
「アリツィアさまも、ユーフェミアさまも。
なんで、まだこちらにいらっしゃるのですか? 」
「ふふふ。そんなツレないことを言わないで欲しいものだな。
友達じゃないか、私たちは」
「そうですわよ~。
みんなで仲良くいたしましょう?
ほら、エドゥアルド陛下の身の回りのお世話も三人で一緒にすれば、お仕事がはかどりますわよ? 」
「エドゥアルドさまは、明日、ご出発です! 」
そんなことは二人とも知っているはずなのに。
なんとか代皇帝の身近な場所に接近しようという本音が見え隠れする王女たちを、ルーシェは険しい表情でキッと睨みつける。
「第一、お二人は、お国に帰らなくてもよろしいのですか?
王女様なのですから、いろいろとお仕事があるのではないのですか? 」
「大丈夫ですわよ?
我が国では、政治は議会で動かしますから。
私(わたくし)が数か月程度離れていても大きな問題は起こり得ません。
故郷(くに)にはお父様もいらっしゃいますしね。
もちろん、お父様も首相も、ご承知のことですわ」
「はっはっは。
心配するな、私も許可は取っているさ」
王族としての公務を放り出してまでこんなことをしていていいのか。
そう非難する視線を向けられても、二人ともまったく反省する気配は見られない。
お世辞にも和やかとは言い難い雰囲気。
だが、ユーフェミアは意味深な笑みを浮かべると、こちらを威嚇(いかく)するように全身を強張らせているルーシェにささやく。
「それよりも、ルーシェ先輩?
残念でしたわね。陛下にお連れいただけなくて」
「そ、それは……っ!
で、ですが、仕方がないのです。
海は、危ないところでございますし、私の出る幕は……」
「けれど、心配なのですよね?
今回に限っては、エドゥアルド陛下もずいぶんと強情を張っておいでのご様子。
いつもと態度が違う。
だから、今までとは違うなにかが、不幸なことが起こってしまうのではないか?
……ですから、そんなに不機嫌になっておいでなのですよね? 」
「うぐっ!? 」
図星を突かれ、メイドは思わずたじろいでしまう。
ルーシェは、ユーフェミアのことが本心から苦手になっていた。
物腰は穏やかで所作もおしとやか。
まさに絵にかいたような[お姫様]なのに、———なんだかいつも、こちらの内心を見透かしているような気がする。
それに、口車に乗せるのが上手だった。
今となっては、エドゥアルドの人柄についてぺらぺらとしゃべらされてしまったと分かっているし、今回もなにか教唆(きょうさ)しょうとしているのに違いない。
しかし、抗えない。
巧みにこちらの心理を突いてくるせいだ。
「うふふ……。
私(わたくし)とは、仲良くしておいた方がよろしくてよ? 」
警戒心MAXでいるはずなのに、どうしても耳を傾けてしまうルーシェに対し、ユーフェミアは妖艶(ようえん)な笑みを向けている。
「実は、エドゥアルド陛下がお乗りになるグスタフ・デア・グルーサーに、我が国の武官が乗り込むことになっているんですの」
「イーンスラ王国の軍人さんが……?
それはいったい、どういう……? 」
「今回は、我が国と帝国との共同作戦になりますでしょう?
ですが、両国の間で、船と船との間で連絡を取り合うために使っている信号には差異があるのです。
それを解読するために、帝国の艦艇には我が国の武官が、我が国の艦艇には帝国の武官が同乗することになっておりますの。
まぁ、要は[通訳]みたいなものですわ」
「は、はぁ……。そうなのですか? 」
「そうなのです。
……それで、本題ですが。
うまくすれば、エドゥアルド陛下と一緒に船に乗ることができるかもしれませんわよ? 」
「えっ!?
ほ、本当でございますかっ!? 」
「ええ、本当です。
イーンスラ王国から派遣されて来た武官に紛れ込んで、同行させていただくのです」
「な、なるほどっ!
で、ですが、それではすぐにエドゥアルドさまに見つかってしまうのでは……? 」
「ご安心なさいな。
こう、うまく変装すれば……」
「ふむふむ。なるほど~」
あれだけ強かったはずの警戒心はどこへやら。
ルーシェはすっかり乗り気になって、ユーフェミアと顔を突き合わせ、小声で悪だくみをし始める。
(これは……。
なんというか、ユーフェミアが上手なのか。
それとも、ルーシェが乗せられやすいのか)
その様子を見守っていたアリツィアは、内心で感心し、かつ呆れつつも、どうやったら自分もこの企てに参加することができるのかを考えていた。
エドゥアルドの部屋を出てきたルーシェは、深々と溜息を吐いていた。
「はぁ……。
なんだか、心配です」
普段なら周囲の意見をよく聞いて自重してくれるはずなのに、今回の主は頑なだ。
屁理屈としか言いようがない論理で、強引にことを推し進めようとしている。
これまでの彼とは、少し違う。
そのことがメイドを余計に不安な気持ちにさせていた。
「おやおや?
私たちは追い出しておいて、代皇帝陛下と二人きりになっていたというのに。
ずいぶんと不服そうじゃないか? 」
「いけませんわねぇ、私(わたくし)たちの模範たるべき先輩がそのようでは。
メイドはいつでも笑顔で、というのは、ウソだったのでしょうか? 」
ただでさえ心労を抱えているというのに、そう茶化すような声をかけられ、ルーシェはムッとした顔でそこにいた二人の女性をねめつける。
一人は、オルリック王国の王女・アリツィア。
もう一人は、イーンスラ王国の王女・ユーフェミアだ。
バリントン伯爵を迎えて外交を行っていた際に彼女たちはエドゥアルドのメイド見習いというお遊戯(ゆうぎ)を始めたのだが、どういうわけか、未だに帰国もせずについて来ていた。
「アリツィアさまも、ユーフェミアさまも。
なんで、まだこちらにいらっしゃるのですか? 」
「ふふふ。そんなツレないことを言わないで欲しいものだな。
友達じゃないか、私たちは」
「そうですわよ~。
みんなで仲良くいたしましょう?
ほら、エドゥアルド陛下の身の回りのお世話も三人で一緒にすれば、お仕事がはかどりますわよ? 」
「エドゥアルドさまは、明日、ご出発です! 」
そんなことは二人とも知っているはずなのに。
なんとか代皇帝の身近な場所に接近しようという本音が見え隠れする王女たちを、ルーシェは険しい表情でキッと睨みつける。
「第一、お二人は、お国に帰らなくてもよろしいのですか?
王女様なのですから、いろいろとお仕事があるのではないのですか? 」
「大丈夫ですわよ?
我が国では、政治は議会で動かしますから。
私(わたくし)が数か月程度離れていても大きな問題は起こり得ません。
故郷(くに)にはお父様もいらっしゃいますしね。
もちろん、お父様も首相も、ご承知のことですわ」
「はっはっは。
心配するな、私も許可は取っているさ」
王族としての公務を放り出してまでこんなことをしていていいのか。
そう非難する視線を向けられても、二人ともまったく反省する気配は見られない。
お世辞にも和やかとは言い難い雰囲気。
だが、ユーフェミアは意味深な笑みを浮かべると、こちらを威嚇(いかく)するように全身を強張らせているルーシェにささやく。
「それよりも、ルーシェ先輩?
残念でしたわね。陛下にお連れいただけなくて」
「そ、それは……っ!
で、ですが、仕方がないのです。
海は、危ないところでございますし、私の出る幕は……」
「けれど、心配なのですよね?
今回に限っては、エドゥアルド陛下もずいぶんと強情を張っておいでのご様子。
いつもと態度が違う。
だから、今までとは違うなにかが、不幸なことが起こってしまうのではないか?
……ですから、そんなに不機嫌になっておいでなのですよね? 」
「うぐっ!? 」
図星を突かれ、メイドは思わずたじろいでしまう。
ルーシェは、ユーフェミアのことが本心から苦手になっていた。
物腰は穏やかで所作もおしとやか。
まさに絵にかいたような[お姫様]なのに、———なんだかいつも、こちらの内心を見透かしているような気がする。
それに、口車に乗せるのが上手だった。
今となっては、エドゥアルドの人柄についてぺらぺらとしゃべらされてしまったと分かっているし、今回もなにか教唆(きょうさ)しょうとしているのに違いない。
しかし、抗えない。
巧みにこちらの心理を突いてくるせいだ。
「うふふ……。
私(わたくし)とは、仲良くしておいた方がよろしくてよ? 」
警戒心MAXでいるはずなのに、どうしても耳を傾けてしまうルーシェに対し、ユーフェミアは妖艶(ようえん)な笑みを向けている。
「実は、エドゥアルド陛下がお乗りになるグスタフ・デア・グルーサーに、我が国の武官が乗り込むことになっているんですの」
「イーンスラ王国の軍人さんが……?
それはいったい、どういう……? 」
「今回は、我が国と帝国との共同作戦になりますでしょう?
ですが、両国の間で、船と船との間で連絡を取り合うために使っている信号には差異があるのです。
それを解読するために、帝国の艦艇には我が国の武官が、我が国の艦艇には帝国の武官が同乗することになっておりますの。
まぁ、要は[通訳]みたいなものですわ」
「は、はぁ……。そうなのですか? 」
「そうなのです。
……それで、本題ですが。
うまくすれば、エドゥアルド陛下と一緒に船に乗ることができるかもしれませんわよ? 」
「えっ!?
ほ、本当でございますかっ!? 」
「ええ、本当です。
イーンスラ王国から派遣されて来た武官に紛れ込んで、同行させていただくのです」
「な、なるほどっ!
で、ですが、それではすぐにエドゥアルドさまに見つかってしまうのでは……? 」
「ご安心なさいな。
こう、うまく変装すれば……」
「ふむふむ。なるほど~」
あれだけ強かったはずの警戒心はどこへやら。
ルーシェはすっかり乗り気になって、ユーフェミアと顔を突き合わせ、小声で悪だくみをし始める。
(これは……。
なんというか、ユーフェミアが上手なのか。
それとも、ルーシェが乗せられやすいのか)
その様子を見守っていたアリツィアは、内心で感心し、かつ呆れつつも、どうやったら自分もこの企てに参加することができるのかを考えていた。
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