メイド・ルーシェの新帝国勃興記 ~Neu Reich erheben aufzeichnen~

熊吉(モノカキグマ)

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第三章:「課題山積」

・3-26 第45話:「外交政策:4」

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・3-26 第45話:「外交政策:4」

 アルベルト王子の言う、ゲリラ戦。
 それをされる側に自分がなったら、と考えると、手を焼くだろうな、と思う。
 こちらが数十万の軍隊を保有していたとしても、広い国土の隅々を完全に掌握することは不可能だ。
 重要拠点などの守りを固めるだけで多くの兵力を費やしてしまうし、常にあらゆる場所で監視の目を光らせておくことはできない。
 少数、ほんの数人とか、数十人程度しかない、それも数百ものグループに分かれたゲリラたちの活動を完璧に阻止することはできないのだ。
 彼らを捕捉し殲滅しようと部隊を動かしても、敵は散り散りになっていずこかへ逃げ去ってしまってとらえどころがないし、兵力を抽出(ちゅうしゅつ)したことで手薄な場所ができようものなら、逆にそこを攻撃されてしまう。
 かといって重要拠点だけに集中して防備を固めていては、いつまで経ってもゲリラの活動は終息しないし、補給線や連絡線を脅かされ続けて、こちらの兵力がどんどん、衰弱して行くのだ。
 ゲリラ戦を仕掛けて来た相手を倒すには、どうするのか。
 ぱっと思いつくのは、圧倒的な大兵力を投入し、数百ものグループに分かれた相手を一斉に撃滅するという力技だが、あまり現実的とは言えない。
 文字通り草の根を分けて徹底的にしらみつぶしにしていくだけの兵力を集めようとすれば、いったいどれほどの数が必要になるのか、計算するだけでも頭が痛くなってくる。
 数十万では足りないだろう。
 百万とか、数百万。
 そんな大兵力を張りつけておくことはあまりにも不合理だし、そんなことを実現する方法はまったく思いつかない。
 もうひとつの方法は、民衆を完全にこちらの味方に引き入れる、ということだった。
 いくら少数で動きやすい部隊とは言っても、兵士たちは日々食事をしなければならなかったし、安心して休むことのできる場所だって必要だ。
 そしてそれを提供するのは当然、その土地に暮らす住民たちだ。
 つまり、ゲリラを支えようとする民衆を皆無とすることができれば、いかに正規軍では殲滅(せんめつ)が難しいとは言っても、時間をかけて衰弱死させていくことができる。

「陛下、どうぞご心配なく。平民たちも、私(わたくし)の味方となってくれるでしょう」

 ゲリラ戦に自信たっぷりな様子のアルベルトにエドゥアルドが民衆の支援を得られるのかと指摘をすると、即座に返答がある。
 どうやらこうした問題はすでに把握している様子だった。

「現地に残っております旧臣たちの知らせによれば、平民たちも、外国の軍隊を引き入れて王位を無理矢理継承した我が[弟]に対して不審を募らせているとのことです。どうにも、共和国軍は勝ちに驕(おご)っているところがあり評判が悪く、その力を頼ったことで[弟]の信望は失われているようなのです」

 アルエット共和国は平民が打ち立てた国家だ。
 それなのに、フルゴル王国の民衆からはずいぶん不満を持たれているのだという。

(当然、だろうな)

 当たり前のことだ。
 言語も文化も異なる外国の軍隊がやってきて、高圧的に、銃剣と銃口をちらつかせながら威張り散らしている。
 それを喜んで受け入れる者などいなかっただろうし、たとえ自国の国王であろうとも、そんな存在を引き入れては恨まれもするだろう。
 しかも、共和国の傀儡(かいらい)とされたフルゴル王国では、平民たちの暮らしはなにも変わっていないのだという。
 議会は開かれていないし、民衆に、政治的な代表を選ぶ選挙権も与えられていない。
 従来の封建制という枠組みのまま、その上に外国が強力な軍事力による恫喝(どうかつ)を背景として、我が物顔で居座っている。
 なにが、平民の救世主か。
 フルゴル王国の民衆は内心で駐屯している共和国軍とその支配下に置かれている現在の王家に対し、強い不満を抱いている。
 そこにつけ込めば逆転さえ狙えるだろうというのが、アルベルト王子の見立てであるらしかった。

「よくわかりました。アルベルト殿にすべてお任せいたしましょう。我が国として、できるだけの支援を行うと約束いたします」
「かたじけない」

 すべてに納得してエドゥアルドが手を差し出すと、アルベルト王子はそれを固く握り返し、深々と頭(こうべ)を垂れた。
 ———イーンスラ王国を味方につけるという構想は、交渉を続けていてもまったく進展がなかったが、アルエット共和国の盤石(ばんじゃく)な態勢を揺るがすという目標はなんとか達成ができそうだった。
 バ・メール王国に対しては、サイモン伯爵を首班とした亡命政権の樹立と、国家再建を目指す軍の設立によって内外から圧力を加える。
 フルゴル王国ではアルベルト王子が旧臣らの協力を得つつ民衆の不満に乗ってゲリラ戦を展開し、共和国の傀儡(かいらい)政権となり果てたリカルド四世の足元を突き崩す。
 成功すれば、かなりの兵力を削れるはずだった。
 占領地を維持するために大きな軍を派遣しなければならなくなり、その分、帝国に対する脅威は減少する。
 あるいは、ムナール将軍の行動を、完全に抑止することができるかもしれない。
 大兵力を集中できない状況に陥れば帝国に勝利することなどもはや不可能になったのだと悟り、攻撃そのものを断念させられるかもしれないのだ。
 もしそうなれば、エドゥアルドはじっくりと自国の改革に専念することができる。
 そしてその時間が多ければ多いほど、帝国は刷新され、強くなっていく。
 勝利し、生存するために、できるだけのことをする。
 その思いで進めて来た外交政策は、必ず、実になってくれるはずだった。
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