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第一章:「困難な幕開け」
・前作までのあらすじ
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・前作までのあらすじ
ヘルデンと呼ばれる大陸。
その中央部に、千年以上の歴史を刻んで来た大国があった。
タウゼント帝国。
建国から数えて千百三十五年目、この国は三つの勢力に分裂し、激しい内乱を戦うこととなった。
きっかけは、時の皇帝、カール十一世が不慮の事故によって意識不明に陥ったことだった。
折しも大陸は戦乱の時代を迎えつつあり、この難局を乗り越えるためには早期に新しい皇帝を定めるべきだとされ、皇帝選挙が執り行われた。
帝国、といっても、タウゼント帝国は特殊な制度を採用している。皇帝位は初代に連なる血統を持つ五つの公爵家から候補が出され、その中から帝国諸侯の投票によって選ばれるのだ。
現役の皇帝を襲った事故により急遽(きゅうきょ)行われたこの選挙は、———不成立に終わった。
以前から次の皇帝位を虎視眈々と狙っていた二人の公爵、ヴェストヘルゼン公爵・ベネディクトとズィンゲンガルテン公爵・フランツの得票数は近接し、カール十一世の[事故]が陰謀、つまり暗殺未遂であったという疑惑がまことしやかにささやかれていたため、どちらを皇帝とするかを決めることができなかったのだ。
こうして、帝国が連綿と受け継いできた選挙による皇帝の選出は失敗し、両公爵は雌雄を決するため、実力行使に踏み切った。
皇帝選挙における勝利を主張するベネディクト公爵は、[皇帝軍]を名乗り、その勝利が偽りであると主張するフランツは[正当軍]を名乗り、諸侯に号令をかけ、それぞれが十万以上の軍勢を動員した。
決着は、容易にはつかなかった。
双方の勢力がほぼ拮抗したため、小競り合いこそあったものの決戦は生起せず、睨み合いの膠着状態に陥ったのだ。
この事態によって、タウゼント帝国は存亡の危機に立たされた。
西の隣国、アルエット共和国。
王政を打倒し、貴族が滅ぼされ、民衆が権力を掌握し新政権を樹立した革命国家が隆盛し、平民による支配を確立せんとその勢力を拡大させつつあったからだ。
貴族による平民の統治という伝統的な社会制度を採用している帝国にとって、共和国という存在は脅威そのものだった。
なによりも恐ろしいのは、その、動員力。
従来の傭兵主体の軍隊を刷新し、徴兵主体の軍隊を作り上げた共和国軍は、総数で五十万もの兵力を誇っていたのだ。
———このまま内乱が長引けば、この、強力な力に対抗するなど望めない。
この危機的な状況で立ち上がったのは、若干十七歳の少年、ノルトハーフェン公爵・エドゥアルドだった。
意識不明に陥った皇帝、カール十一世から、「皇帝を目指し、この帝国に次の一千年をもたらす礎を作って欲しい」との願いが書かれた手紙を受け取った少年公爵は、自己の権力闘争のために内乱を引き起こした両公爵を打倒するべく挙兵。
盟友であるオストヴィーゼ公爵・ユリウスと共に立ち上がり、二十万もの軍勢を集め[公正軍]を結成し、戦いに臨んだ。
これに対し、両公爵は兵力の劣勢から各個撃破を避けるために、それまでの対立関係を棚に上げて手を取り、連合して対抗した。
ともに二十万を数える勢力を整えた両軍はグラオベーアヒューゲルの地で決戦に及び、この戦いでエドゥアルドは決定的な勝利を手にする。
内乱を起こした張本人であるにも関わらず、その場の都合で野合したベネディクトとフランツからは人心が離れており、自国の統治において数々の功績を上げるのと共に、旧態依然とした体制の帝国の中にあって改革を成し遂げ、次代を担う旗手としての評価を得つつあったエドゥアルドの前に屈することとなったのだ。
———少年公爵と彼を信じて戦った将兵は、束の間、勝利の高揚感の中にあった。
ヘルデンと呼ばれる大陸。
その中央部に、千年以上の歴史を刻んで来た大国があった。
タウゼント帝国。
建国から数えて千百三十五年目、この国は三つの勢力に分裂し、激しい内乱を戦うこととなった。
きっかけは、時の皇帝、カール十一世が不慮の事故によって意識不明に陥ったことだった。
折しも大陸は戦乱の時代を迎えつつあり、この難局を乗り越えるためには早期に新しい皇帝を定めるべきだとされ、皇帝選挙が執り行われた。
帝国、といっても、タウゼント帝国は特殊な制度を採用している。皇帝位は初代に連なる血統を持つ五つの公爵家から候補が出され、その中から帝国諸侯の投票によって選ばれるのだ。
現役の皇帝を襲った事故により急遽(きゅうきょ)行われたこの選挙は、———不成立に終わった。
以前から次の皇帝位を虎視眈々と狙っていた二人の公爵、ヴェストヘルゼン公爵・ベネディクトとズィンゲンガルテン公爵・フランツの得票数は近接し、カール十一世の[事故]が陰謀、つまり暗殺未遂であったという疑惑がまことしやかにささやかれていたため、どちらを皇帝とするかを決めることができなかったのだ。
こうして、帝国が連綿と受け継いできた選挙による皇帝の選出は失敗し、両公爵は雌雄を決するため、実力行使に踏み切った。
皇帝選挙における勝利を主張するベネディクト公爵は、[皇帝軍]を名乗り、その勝利が偽りであると主張するフランツは[正当軍]を名乗り、諸侯に号令をかけ、それぞれが十万以上の軍勢を動員した。
決着は、容易にはつかなかった。
双方の勢力がほぼ拮抗したため、小競り合いこそあったものの決戦は生起せず、睨み合いの膠着状態に陥ったのだ。
この事態によって、タウゼント帝国は存亡の危機に立たされた。
西の隣国、アルエット共和国。
王政を打倒し、貴族が滅ぼされ、民衆が権力を掌握し新政権を樹立した革命国家が隆盛し、平民による支配を確立せんとその勢力を拡大させつつあったからだ。
貴族による平民の統治という伝統的な社会制度を採用している帝国にとって、共和国という存在は脅威そのものだった。
なによりも恐ろしいのは、その、動員力。
従来の傭兵主体の軍隊を刷新し、徴兵主体の軍隊を作り上げた共和国軍は、総数で五十万もの兵力を誇っていたのだ。
———このまま内乱が長引けば、この、強力な力に対抗するなど望めない。
この危機的な状況で立ち上がったのは、若干十七歳の少年、ノルトハーフェン公爵・エドゥアルドだった。
意識不明に陥った皇帝、カール十一世から、「皇帝を目指し、この帝国に次の一千年をもたらす礎を作って欲しい」との願いが書かれた手紙を受け取った少年公爵は、自己の権力闘争のために内乱を引き起こした両公爵を打倒するべく挙兵。
盟友であるオストヴィーゼ公爵・ユリウスと共に立ち上がり、二十万もの軍勢を集め[公正軍]を結成し、戦いに臨んだ。
これに対し、両公爵は兵力の劣勢から各個撃破を避けるために、それまでの対立関係を棚に上げて手を取り、連合して対抗した。
ともに二十万を数える勢力を整えた両軍はグラオベーアヒューゲルの地で決戦に及び、この戦いでエドゥアルドは決定的な勝利を手にする。
内乱を起こした張本人であるにも関わらず、その場の都合で野合したベネディクトとフランツからは人心が離れており、自国の統治において数々の功績を上げるのと共に、旧態依然とした体制の帝国の中にあって改革を成し遂げ、次代を担う旗手としての評価を得つつあったエドゥアルドの前に屈することとなったのだ。
———少年公爵と彼を信じて戦った将兵は、束の間、勝利の高揚感の中にあった。
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