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薔薇の下の訪問
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お茶会後の僕の行動は、極めて迅速だった。
まずはじめに、この国の王である父に形ばかりの打診をする。
打診の形をとった決定事項の通達とでも言った方が近いだろうか?
ハイドランジア公爵令嬢のエーリカと婚約を望むと。
両親は激しく動揺した。
無理もない。
エーリカはまだ3歳だ。
だが、それを言うならあの場に連れ出した大人の方にも落ち度が見られる。
年齢を楯に取られるようであれば、そこから切り崩せば良い。
「何がいけないんです?エーリカの気持ちは確認しましたよ?相思相愛。素敵でしょ?」
大人に向けて作った可愛い顔で首をかしげて見せる。
これが後、2年、いや、3年後だったらまだ良かったかもしれない。
「……いや、しかし……。」
しぶる父王に、母上そっくりの笑顔でおねだりをする。
結果は言うまでもないだろう。
一国の王がこれで良いのかと思うほど、ここまではちょろかった。
次の攻略対象は、エーリカの父、ハイドランジア公爵だ。
ミッドガルドのサファイアと呼ばれ、社交界の宝石だったステラリア様と婚約、成婚してからは
すっかり落ち着かれたと聞くが、昔は大層遊んでいらしたらしい。
予想通り、父上以上に粘られたが、最終奥義『娘にばらすぞ』の効果は絶大だった。
もちろん実際には、真綿にくるむように柔らかく棘を隠して、言いたい事を伝えたのだが、
きちんと正しく伝わったようでなによりだ。
誰だって無駄な血は流したくないよね。
僕は大人を見て学ぶ。
大きくなっても誰に恥じる事ない清廉な存在であろうと思った。
そして、正式に婚約を交わした、まだ3歳の彼女は、とにかく素直で面白い。
それにしても、僕に対する、絶対的な信頼感は、一体どこから来るのだろう?
僕が裏切ると言ったのは、君なのに……。
お茶会の後、なぜか寝込んでしまった彼女のお見舞いも今日で、三日目。
昨日から普通食に戻ったと聞き、自分の果樹園のりんごを、手ずから、かご一杯に、もいできた。
婚約者特権と子供特権を駆使して枕元で朝露の精の様な寝顔を眺めていると、
目覚めの先触れに、長い睫毛が震える。
「エル、起きたの?りんご食べる?」
誰が僕の伴侶になるのかを、強く自覚して貰うため、愛称呼びは婚約確定時から、即時徹底である。
それはさておき、うっすらと汗もかいているようだし、水分補給が必要だろう。
「おはようございます、ルディ。」
若干寝ぼけている顔がまた可愛い。
剣の練習以外では、刃物はまだ持たせて貰えないので、リンゴを空中に浮かし、
風魔法でくるくると剥いて一口サイズにカットし、ふわっと皿に乗せる。
「……魔法みたい!」
紅と紫の混ざりきらないバイカラーの不思議な瞳を大きく見開いておかしな事を言う。
むしろ、魔法で無ければ何なの?
大人向けの専門書の並ぶ本棚と、人形のように愛らしい美少女を一瞬だけ見比べ、視線を幼い婚約者に固定した。
「今日も夢を見たの?」
彼女はお茶会で僕と出会ってから、寝ても覚めても夢の欠片を見てしまうらしい。
おかしな子と思われたら困るからと、口止めしたので、
大人たちにはその事を話してはいないようだけど、体調にあまり影響を及ぼすようであれば
早めに手を打つべきだろう。
そして、問題なのが夢の内容だ。
僕が君を裏切る夢。
……本当に、面白くない。
「りんご美味しい!」
小さく切ったりんごの欠片を口元に差し出すと嬉しそうに頬張り、咀嚼する姿は小鳥のように可愛い。
落ち着いた頃合を見計らって、再度声をかけた。
「君の夢の中の僕が真実の愛を見つけたのは、何歳の時?」
まあ、気になるよね。
エルは少し考えて、指で数える。
「13才の二年後?」
不思議な言い回しに重ねて質問をすると、謎の単語をまじえながら、
僕が13才の時に王立アストロメリア学園に入学してくる運命の人、フロリア・ウイエ嬢と出会い、
二年間の学園生活の中で真実の愛に目覚めるのだそうだ。
……気持ち悪い。
自分で聞いといてなんだけど、僕が結婚する相手からこんな話聞かされるなんて……。
「ところで、さっきから言ってる、取り調べとかつ丼って何?」
……。
ぷんぷんするエルによると、沢山質問したいならかつ丼が必須らしい。
だからかつ丼って何?
そんな話をしながら、エルの口にりんごを運んでいたが、お腹いっぱいになったらしい。
「学校って、絶対に行かないとだめ?」
もう食べられないと言うので、残った林檎を自分の口に入れると僕の可愛い姫が、そんな事を聞いてきた。
なるほど、学校に行かないと言う選択肢。
……いや、それは安易過ぎだな。
そうだ、いい事を思いついた。
唇に付いた林檎の汁の甘さを行儀悪く舌で舐めとりながら、にやりと笑う。
怯えた顔のお姫様に、勘のいい子は大好きだよ。
と、心の中で愛を囁いた。
**************
石好きももちょっとで更新できるはず
短冊に今月10回更新したいって書いたからきっと大丈夫。
まずはじめに、この国の王である父に形ばかりの打診をする。
打診の形をとった決定事項の通達とでも言った方が近いだろうか?
ハイドランジア公爵令嬢のエーリカと婚約を望むと。
両親は激しく動揺した。
無理もない。
エーリカはまだ3歳だ。
だが、それを言うならあの場に連れ出した大人の方にも落ち度が見られる。
年齢を楯に取られるようであれば、そこから切り崩せば良い。
「何がいけないんです?エーリカの気持ちは確認しましたよ?相思相愛。素敵でしょ?」
大人に向けて作った可愛い顔で首をかしげて見せる。
これが後、2年、いや、3年後だったらまだ良かったかもしれない。
「……いや、しかし……。」
しぶる父王に、母上そっくりの笑顔でおねだりをする。
結果は言うまでもないだろう。
一国の王がこれで良いのかと思うほど、ここまではちょろかった。
次の攻略対象は、エーリカの父、ハイドランジア公爵だ。
ミッドガルドのサファイアと呼ばれ、社交界の宝石だったステラリア様と婚約、成婚してからは
すっかり落ち着かれたと聞くが、昔は大層遊んでいらしたらしい。
予想通り、父上以上に粘られたが、最終奥義『娘にばらすぞ』の効果は絶大だった。
もちろん実際には、真綿にくるむように柔らかく棘を隠して、言いたい事を伝えたのだが、
きちんと正しく伝わったようでなによりだ。
誰だって無駄な血は流したくないよね。
僕は大人を見て学ぶ。
大きくなっても誰に恥じる事ない清廉な存在であろうと思った。
そして、正式に婚約を交わした、まだ3歳の彼女は、とにかく素直で面白い。
それにしても、僕に対する、絶対的な信頼感は、一体どこから来るのだろう?
僕が裏切ると言ったのは、君なのに……。
お茶会の後、なぜか寝込んでしまった彼女のお見舞いも今日で、三日目。
昨日から普通食に戻ったと聞き、自分の果樹園のりんごを、手ずから、かご一杯に、もいできた。
婚約者特権と子供特権を駆使して枕元で朝露の精の様な寝顔を眺めていると、
目覚めの先触れに、長い睫毛が震える。
「エル、起きたの?りんご食べる?」
誰が僕の伴侶になるのかを、強く自覚して貰うため、愛称呼びは婚約確定時から、即時徹底である。
それはさておき、うっすらと汗もかいているようだし、水分補給が必要だろう。
「おはようございます、ルディ。」
若干寝ぼけている顔がまた可愛い。
剣の練習以外では、刃物はまだ持たせて貰えないので、リンゴを空中に浮かし、
風魔法でくるくると剥いて一口サイズにカットし、ふわっと皿に乗せる。
「……魔法みたい!」
紅と紫の混ざりきらないバイカラーの不思議な瞳を大きく見開いておかしな事を言う。
むしろ、魔法で無ければ何なの?
大人向けの専門書の並ぶ本棚と、人形のように愛らしい美少女を一瞬だけ見比べ、視線を幼い婚約者に固定した。
「今日も夢を見たの?」
彼女はお茶会で僕と出会ってから、寝ても覚めても夢の欠片を見てしまうらしい。
おかしな子と思われたら困るからと、口止めしたので、
大人たちにはその事を話してはいないようだけど、体調にあまり影響を及ぼすようであれば
早めに手を打つべきだろう。
そして、問題なのが夢の内容だ。
僕が君を裏切る夢。
……本当に、面白くない。
「りんご美味しい!」
小さく切ったりんごの欠片を口元に差し出すと嬉しそうに頬張り、咀嚼する姿は小鳥のように可愛い。
落ち着いた頃合を見計らって、再度声をかけた。
「君の夢の中の僕が真実の愛を見つけたのは、何歳の時?」
まあ、気になるよね。
エルは少し考えて、指で数える。
「13才の二年後?」
不思議な言い回しに重ねて質問をすると、謎の単語をまじえながら、
僕が13才の時に王立アストロメリア学園に入学してくる運命の人、フロリア・ウイエ嬢と出会い、
二年間の学園生活の中で真実の愛に目覚めるのだそうだ。
……気持ち悪い。
自分で聞いといてなんだけど、僕が結婚する相手からこんな話聞かされるなんて……。
「ところで、さっきから言ってる、取り調べとかつ丼って何?」
……。
ぷんぷんするエルによると、沢山質問したいならかつ丼が必須らしい。
だからかつ丼って何?
そんな話をしながら、エルの口にりんごを運んでいたが、お腹いっぱいになったらしい。
「学校って、絶対に行かないとだめ?」
もう食べられないと言うので、残った林檎を自分の口に入れると僕の可愛い姫が、そんな事を聞いてきた。
なるほど、学校に行かないと言う選択肢。
……いや、それは安易過ぎだな。
そうだ、いい事を思いついた。
唇に付いた林檎の汁の甘さを行儀悪く舌で舐めとりながら、にやりと笑う。
怯えた顔のお姫様に、勘のいい子は大好きだよ。
と、心の中で愛を囁いた。
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石好きももちょっとで更新できるはず
短冊に今月10回更新したいって書いたからきっと大丈夫。
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