絶望の鼎

ぬるちぃるちる

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赤い花の散った後に

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スキルラ神国に、お忍びで入国した私は、面倒を極力廃すべく、
この国で唯一の知り合いであるジェイドに手っ取り早く出会おうと、
結界干渉術を展開しまくった。

そしてみつけたジェイドは、王宮の奥深くに、紅い花の舞う黄金の神木の傍にいた。
銀色の髪をおろした、額に紅い花の徴の有る巫女姫らしき紅い瞳の娘と一緒に。

結界の質と量からしても、そこが重要な場所である事は間違いない。

今考えたら、巫女姫の加護とやらも衰えが始まっていたのかも知れない。
私は、労せず、スキルラ神国の王宮の奥まで覗き見ることが出来ていた。

『おねがい、ずっとコノトキを、まっていたの。イマなの、あのコと、ワタシをつないで!』

興奮しきった巫女姫の叫ぶ言葉にジェイドは、説得、いや、懇願するように
神木から距離をとらせようとしていたが、明らかに最初から推され気味だった。
巫女姫の声を聞いた訳ではないが、音を拾えない結界干渉能力を使い続けるうちに、
私は口の動きで言葉がわかるようになっていた。

『もう、おわりにしたいの。』
 背中しか見えないジェイドの様子は解り辛かったが、
巫女姫がジェイドの剣を奪った後は呆気なかった。

可視化された紅い魔方陣が、黄金の幹に展開され、中央に黒いうろが生まれた時、
巫女姫は、その剣をその身に突き立てようとした。
だが、騎士の剣は、細い姫の腕で扱えるような大きさでないから、
上手くいかず、中途半端に血を流すハメになったようだった。
何かに阻害されるように近付けずに居たジェイドが、再び剣に触れた時、
当然姫を助けると思った。
しかし、実際には、姫の手から剣を奪って抱きしめた後、その身ごと、自身を刺し貫いた。

その直後に紅い花は狂ったように花弁を散らし、嵐のように逆巻いて、二人の姿を覆い隠した。
それは実際には短い時間だったのかも知れないし、
身体で感じたままの長い時間だったのかも知れない。

花が消えた時、金色だった樹木は、形はそのままに焦げた様な黒色に変わっていた。
そして、二人の姿も、もうどこにもなかった。

予期しない現場を覗き見た後ろめたさから、二人が消えた得体の知れない気持ち悪さから、
逃れるように、国に逃げ帰った。

あの場にいて出来る事はなかったと思う。
だけど、巫女姫の『シルシ』を持った娘が生まれて、
巫女姫の銀糸の髪とジェイドの紫の瞳の娘が生まれて、
まだ、あの惨劇は終わって無かったのではないかと思うのだ。

「そこまでで良いです。」
父王の話をアルフェラートは切った。
このまま話を聞いて居ても、これ以上は憶測に基づいたものになるだろう。
じゃあもう、自分で考えるからいいやと思った。

取りあえず、ジェイドの黒髪と巫女姫の赤眼を持っているカレルに会いに行こう。
場合によっては、保護も考えないといけない。
面倒だなと、アルフェラートは思った。
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