43 / 52
43.蝶々
しおりを挟む 婚約したばかりの子供の頃から、殿下は私を気に入ってはいないようでした。
それでも私は、将来夫となり共に領地を支えていく方だからこそ、少しでも歩み寄りたい。
両親の様に誰が見ても仲良しな夫婦にはなれなくても、殿下が家族としての情が持ってくださるなら良いと考えて、少しでも殿下の好みになれるよう、親しみを持って貰えるよう努力してきました。
殿下に嫌われていても、私は恋していたからです。
殿下と初めての会ったのは、お茶会の席でした。
今思えばあれは私たちと殿下の顔合わせの為に設けられた場だったのでしょう。
私はその日、恋に落ちました。
一緒に茶会の席にいらっしゃった王妃様そっくりの美しいお顔、にこやかに話しかけて下さり手を繋いで王家のお庭を案内して下さった。
それだけで幼い私は、殿下に恋してしまいました。
ですからお父様に婚約の話を聞いた時は本当に嬉しくて、あんなに素敵な人と婚約出来る喜びに天にも昇る気持ちでした。
婚約は王家から持ちかけられたものと聞かされて、殿下も私を好きになって下さったのだと思っていました。
ですがそれは私の勘違いだと、婚約締結の日に気付かされました。
両陛下の間に座り、私を出迎えた殿下の目はとても冷たく。
初めて会った日に私に向けていた笑顔は、どこにもありませんでした。
殿下は婚約に納得されていなかったのです。
それはとても悲しい現実でした。
手を繋いで優しく私に声を掛けながらお庭を案内してくださった殿下は、そこにはいなかったのです。
ご機嫌が悪かったのよ。
殿下はあなたを気に入っていらっしゃると、王妃様が仰っていたもの。
大丈夫だ、少し照れていらっしゃるだけだよ。あの年頃の男の子にはよくあることだ。
両親に励まされ私は気を取り直し、殿下に接することにしました。
ですが私がいくら努力しても、殿下の態度が変わることはありませんでした。
学園に通いだしてからは、その態度は悪くなる一方で、自分の立場を理解していないその様子に馬鹿な人だと呆れました。
この婚約は王家から私の家ゾルティーア侯爵家からの希望ではなく、第三王子の行く末を心配した王妃様の要求によるものでした。
この国では公爵家を新たに興せるのは第二王子まで、それ以降は王妃様の実家の爵位以上の爵位では新しく家を興すことは出来ません。
年の離れた末っ子の第三王子を溺愛していた王妃様は、ご自分の実家の爵位が伯爵位であり、第三王子も伯爵位しか持てない事を嘆き、我が侯爵家に目をつけたのです。
ゾルティーア侯爵家は昔から大きな領地を治めておりとても裕福でしたが、三代前の陛下の弟である第五王子が当家に婿入りの際婚姻の祝いとして陛下から下賜された地の中に、大きな鉱山と大きな農村地帯があった為更に裕福になりました。
お父様の代になってもその裕福さは変わらぬどころか増すばかり。
領地収入が莫大だというのに代々質素倹約を尊ぶ家柄、領民達との関係も良好で、子供は私だけという好条件でしたから、王妃様が溺愛する息子の婿入り先に望むのも当然でした。
王家から籍を抜いても裕福な暮らしが約束され、当主となるのは妻である私。
この国では、婿入りしてもその家の当主にはなれませんし、領主として仕事をする権限もありません。
顔は良いものの、勉強嫌いで怠け者な片鱗が婚約当時にはすでにあった王子には、もってこいの良縁だと王妃様は考えていたのです。
「怠け者でも、せめて私をほんの少しでも好きになってくだされば良かったのに」
好きという気持ちはとっくに薄れても、少しでも関係を改善出来ればと努力し続けました。
そんな私を嘲笑うかの様に、殿下は頑なな態度を取り続けました。
殿下が毎日仕事を大量に私に押し付けて自分達は遊んでいるのを見ながら、私の気持ちはどんどん冷えていきました。
好きという気持ちは薄れ、殿下との仲が改善するという期待も砕け散り、婚約解消は望めないのだからという諦めだけの日々。
殿下とある令嬢の噂を聞いたのはそんな時でした、この期に及んで浮気かと頭痛がしましたが、すでに気持ちは冷めきっていましたし、結婚前の一時的な遊びならと見て見ぬふりしようと思いました。
「それがこんな結果になるとは、私の考えが甘かったのね」
期待なんかしていなかったし、諦めていたのに、なのにどうしてこんなに悲しいのでしょう。
私は体中の水分がすべて涙で流れ出てしまった様な気持ちで、涙を流し続けました。
それでも私は、将来夫となり共に領地を支えていく方だからこそ、少しでも歩み寄りたい。
両親の様に誰が見ても仲良しな夫婦にはなれなくても、殿下が家族としての情が持ってくださるなら良いと考えて、少しでも殿下の好みになれるよう、親しみを持って貰えるよう努力してきました。
殿下に嫌われていても、私は恋していたからです。
殿下と初めての会ったのは、お茶会の席でした。
今思えばあれは私たちと殿下の顔合わせの為に設けられた場だったのでしょう。
私はその日、恋に落ちました。
一緒に茶会の席にいらっしゃった王妃様そっくりの美しいお顔、にこやかに話しかけて下さり手を繋いで王家のお庭を案内して下さった。
それだけで幼い私は、殿下に恋してしまいました。
ですからお父様に婚約の話を聞いた時は本当に嬉しくて、あんなに素敵な人と婚約出来る喜びに天にも昇る気持ちでした。
婚約は王家から持ちかけられたものと聞かされて、殿下も私を好きになって下さったのだと思っていました。
ですがそれは私の勘違いだと、婚約締結の日に気付かされました。
両陛下の間に座り、私を出迎えた殿下の目はとても冷たく。
初めて会った日に私に向けていた笑顔は、どこにもありませんでした。
殿下は婚約に納得されていなかったのです。
それはとても悲しい現実でした。
手を繋いで優しく私に声を掛けながらお庭を案内してくださった殿下は、そこにはいなかったのです。
ご機嫌が悪かったのよ。
殿下はあなたを気に入っていらっしゃると、王妃様が仰っていたもの。
大丈夫だ、少し照れていらっしゃるだけだよ。あの年頃の男の子にはよくあることだ。
両親に励まされ私は気を取り直し、殿下に接することにしました。
ですが私がいくら努力しても、殿下の態度が変わることはありませんでした。
学園に通いだしてからは、その態度は悪くなる一方で、自分の立場を理解していないその様子に馬鹿な人だと呆れました。
この婚約は王家から私の家ゾルティーア侯爵家からの希望ではなく、第三王子の行く末を心配した王妃様の要求によるものでした。
この国では公爵家を新たに興せるのは第二王子まで、それ以降は王妃様の実家の爵位以上の爵位では新しく家を興すことは出来ません。
年の離れた末っ子の第三王子を溺愛していた王妃様は、ご自分の実家の爵位が伯爵位であり、第三王子も伯爵位しか持てない事を嘆き、我が侯爵家に目をつけたのです。
ゾルティーア侯爵家は昔から大きな領地を治めておりとても裕福でしたが、三代前の陛下の弟である第五王子が当家に婿入りの際婚姻の祝いとして陛下から下賜された地の中に、大きな鉱山と大きな農村地帯があった為更に裕福になりました。
お父様の代になってもその裕福さは変わらぬどころか増すばかり。
領地収入が莫大だというのに代々質素倹約を尊ぶ家柄、領民達との関係も良好で、子供は私だけという好条件でしたから、王妃様が溺愛する息子の婿入り先に望むのも当然でした。
王家から籍を抜いても裕福な暮らしが約束され、当主となるのは妻である私。
この国では、婿入りしてもその家の当主にはなれませんし、領主として仕事をする権限もありません。
顔は良いものの、勉強嫌いで怠け者な片鱗が婚約当時にはすでにあった王子には、もってこいの良縁だと王妃様は考えていたのです。
「怠け者でも、せめて私をほんの少しでも好きになってくだされば良かったのに」
好きという気持ちはとっくに薄れても、少しでも関係を改善出来ればと努力し続けました。
そんな私を嘲笑うかの様に、殿下は頑なな態度を取り続けました。
殿下が毎日仕事を大量に私に押し付けて自分達は遊んでいるのを見ながら、私の気持ちはどんどん冷えていきました。
好きという気持ちは薄れ、殿下との仲が改善するという期待も砕け散り、婚約解消は望めないのだからという諦めだけの日々。
殿下とある令嬢の噂を聞いたのはそんな時でした、この期に及んで浮気かと頭痛がしましたが、すでに気持ちは冷めきっていましたし、結婚前の一時的な遊びならと見て見ぬふりしようと思いました。
「それがこんな結果になるとは、私の考えが甘かったのね」
期待なんかしていなかったし、諦めていたのに、なのにどうしてこんなに悲しいのでしょう。
私は体中の水分がすべて涙で流れ出てしまった様な気持ちで、涙を流し続けました。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる