愛するあの子は、わたしが殺した

ことは

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 ふと、頭が軽くなる。

 瑞穂は顔を上げ、激しく息を吸った。

 浴槽のお湯は給水を停止していた。湯の水面が、波打っている。

 気づくと、リナが目に涙をためて瑞穂を見下ろしていた。リナの顔から、火傷の跡は綺麗に消えている。
 
「ママ?」

 リナの目から涙がこぼれ落ちる。

「リナちゃん?」

 リナは瑞穂のことを、自分の母親と勘違いしているのだろうか。

 だがそうではないことに気づき、はっと息を飲んだ。

 リナは母親のことをお母さんと呼んでいたはずだ。

「もしかして……マミちゃん?」

 瑞穂は半信半疑で聞いた。

「うん。マミだよ」

「どうして……」

 姿形はリナのままだった。

「リナちゃんの魂を借りているの。だからお話もできる」

「本当にマミちゃんなの?」

 リナの姿をしたマミがうなずく。

「リナちゃん、すごく怒ってる。このままじゃママが危ないと思って、えいってリナちゃんの魂にのりうつったの」

 瑞穂はマミと話せる喜びよりも、戸惑いの方が大きかった。マミを前にして、なにを言えばいいかわからなかった。なにも言う資格などなかった。

「マミちゃん、ごめんね。ママ……」

 謝って許されることではない。謝ることが卑怯な気さえした。だが瑞穂は、ただマミに謝りたかった。許してもらわなくてもよかった。

「謝らないで。マミは、ママに幸せになってほしいの」

 マミが寂しげに笑う。

「マミちゃんにあんなことしたのに、ママだけ幸せになんかなれないよ」

 瑞穂の言葉に、マミが首を横に振る。

「ママが幸せになってまた赤ちゃんができたら、マミはもう一度ママのお腹に戻れるかもしれないから」

 マミがにっこり笑う。

「本当?」

「多分だけど。マミにもわからないけど。そうだったらいいなって」

 顔をくしゃくしゃに歪めて、マミが泣き笑いしている。

 マミが両手を瑞穂の方へ伸ばした。

「マミちゃん……」

 洗い場に座ったまま、瑞穂もマミの方へ手を伸ばそうとした。
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