愛するあの子は、わたしが殺した

ことは

文字の大きさ
上 下
22 / 28

21

しおりを挟む
 リナが今夜も訪ねてくるかと瑞穂は待っていたが、徐々に眠気が襲ってきた。

 ベッドサイドに置かれたデジタル時計の表示が、ちょうど23:00に切り替わった。

「今日はもう来ないかな……。そろそろ寝ようか」

 瑞穂は欠伸を堪えて呟いた。

 ピンポン。

 チャイムの音が部屋に響く。

 ベッドに入りかけた足を床に降ろし、瑞穂は玄関の方を振り返った。

 ピンポン。ピンポン。ピンポン。

 連続してチャイムが鳴る。

 いつものリナとは違う。まるで怒っているみたいな鳴らし方だ。

 ピンポンピンポンピンポンピンポン。

「やだ、怖い」

 瑞穂は初めてリナに脅威を感じた。

 いや、チャイムを鳴らしているのがリナと決まったわけではない。また菜月が訊ねてきたのかもしれない。菜月が……あんなチャイムの鳴らし方をするはずがない。

 玄関前にいるのは、菜月以外の誰かだ。

 ピンポンピンポンピンポン……。

 鳴りやまないチャイムに、瑞穂は意を決し玄関へ向かった。

 念のために、瑞穂は覗き窓から外を覗いた。だが窓の外は闇が広がるばかりだ。

 その間もチャイムはけたたましく鳴り続ける。

 瑞穂は扉を開けようとして、自分の恰好を見た。もしも、扉の向こうにいるのがリナではなかったら、パジャマ姿で出るのは気が引ける。

「リナちゃんなの?」

 瑞穂はドア越しに呼びかけた。

 チャイムが止まった。きっとそれが、リナからの返事だ。

 瑞穂はゆっくりと扉を開いた。

 目の前にリナが立っている。瑞穂を下から睨み上げるように見ていた。

「リナちゃん、どうしたの? そんな怖い顔して」

 瑞穂の声が震える。

 リナはズンッと突進するように、玄関の土間まで侵入してきた。それに押されるように、瑞穂は後ずさりした。

「お姉さん、嘘ついたでしょ」

 リナの三白眼が、瑞穂を射抜くように見る。

「嘘ってなに?」

 瑞穂には心当たりがなかった。

「絶対に絶対に絶対にしないって約束したじゃん」

「リナちゃん、なんのこと言っているの?」

「約束破ったら許さないって、リナちゃん言ったよね?」

 リナはすごく興奮しているようだ。

「だから、なんのこと言っているのか、詳しく教えてくれない?」

 瑞穂はリナを落ち着かせようと、できるだけゆっくりと言った。

「電話」

 リナがぶっきらぼうに言う。

「電話がなに?」

 瑞穂はまだなんのことかわからなかった。

「悪い人のところに電話しないって言ったのに、したでしょ?」

 瑞穂はやっとわかった。リナは、児童相談所への通報のことを言っているのか。

 確かに瑞穂は、リナに電話をしないと約束したにもかかわらず、翌日児童相談所を訪問した。それは、約束を破ったことになるのかもしれない。

 だが、なぜそれをリナが知っているのだろう。知るわけがないのだ。だとしたら、リナは何か勘違いをしているのかもしれない。

 それに、リナが心配するように、児童相談所の人が102号室を訪ねてくることは絶対にない。リナが施設に連れ出されることは永久的にないのだ。

「電話、してないよ」

 瑞穂はリナを安心させるように言った。

「嘘」

「嘘じゃないよ」

「昨日来た女の人、やっぱり悪い人だった」

「あっ」

 瑞穂は思わず声が出た。

 確かに菜月は児童相談所の職員だ。だが、仕事でここに来たわけではない。

「違う。あの人はわたしの友だちで……」

「嘘。リナちゃん知ってるもん。その人今日も来た。前に来た悪いおばさんと、同じ名札つけてたもん。ここのところに」

 リナは自分の胸のあたりを指さした。

「あぁ、そういうこと」

 瑞穂は、リナの怒っている原因に納得してうなずいた。

「確かに菜月は首から名札下げていたね」

 リナがうなずく。

「でもね、あの人はリナちゃんに会いに来たわけではないの。もちろん、リナちゃんをどこかに連れて行くこともない。わたしの友だちとして、わたしのことを心配して来てくれただけだよ。悪い人じゃない」

「本当?」

 リナの目はまだ怒っている。

「本当だよ」

 リナは顔をこわばらせたまま、瑞穂の顔をじっと見ている。

「ねぇ、リナちゃん。落ち着いて聞いてくれる? わたし、リナちゃんに言わなければならないことがあるの」

 瑞穂の鼓動が速くなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会 通称、語るな会 「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。 美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話―― 語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか? 語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか? そして語るな会が開催された目的とは……? 表紙イラスト……シルエットメーカーさま

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

処理中です...