愛するあの子は、わたしが殺した

ことは

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 リナが今夜も訪ねてくるかと瑞穂は待っていたが、徐々に眠気が襲ってきた。

 ベッドサイドに置かれたデジタル時計の表示が、ちょうど23:00に切り替わった。

「今日はもう来ないかな……。そろそろ寝ようか」

 瑞穂は欠伸を堪えて呟いた。

 ピンポン。

 チャイムの音が部屋に響く。

 ベッドに入りかけた足を床に降ろし、瑞穂は玄関の方を振り返った。

 ピンポン。ピンポン。ピンポン。

 連続してチャイムが鳴る。

 いつものリナとは違う。まるで怒っているみたいな鳴らし方だ。

 ピンポンピンポンピンポンピンポン。

「やだ、怖い」

 瑞穂は初めてリナに脅威を感じた。

 いや、チャイムを鳴らしているのがリナと決まったわけではない。また菜月が訊ねてきたのかもしれない。菜月が……あんなチャイムの鳴らし方をするはずがない。

 玄関前にいるのは、菜月以外の誰かだ。

 ピンポンピンポンピンポン……。

 鳴りやまないチャイムに、瑞穂は意を決し玄関へ向かった。

 念のために、瑞穂は覗き窓から外を覗いた。だが窓の外は闇が広がるばかりだ。

 その間もチャイムはけたたましく鳴り続ける。

 瑞穂は扉を開けようとして、自分の恰好を見た。もしも、扉の向こうにいるのがリナではなかったら、パジャマ姿で出るのは気が引ける。

「リナちゃんなの?」

 瑞穂はドア越しに呼びかけた。

 チャイムが止まった。きっとそれが、リナからの返事だ。

 瑞穂はゆっくりと扉を開いた。

 目の前にリナが立っている。瑞穂を下から睨み上げるように見ていた。

「リナちゃん、どうしたの? そんな怖い顔して」

 瑞穂の声が震える。

 リナはズンッと突進するように、玄関の土間まで侵入してきた。それに押されるように、瑞穂は後ずさりした。

「お姉さん、嘘ついたでしょ」

 リナの三白眼が、瑞穂を射抜くように見る。

「嘘ってなに?」

 瑞穂には心当たりがなかった。

「絶対に絶対に絶対にしないって約束したじゃん」

「リナちゃん、なんのこと言っているの?」

「約束破ったら許さないって、リナちゃん言ったよね?」

 リナはすごく興奮しているようだ。

「だから、なんのこと言っているのか、詳しく教えてくれない?」

 瑞穂はリナを落ち着かせようと、できるだけゆっくりと言った。

「電話」

 リナがぶっきらぼうに言う。

「電話がなに?」

 瑞穂はまだなんのことかわからなかった。

「悪い人のところに電話しないって言ったのに、したでしょ?」

 瑞穂はやっとわかった。リナは、児童相談所への通報のことを言っているのか。

 確かに瑞穂は、リナに電話をしないと約束したにもかかわらず、翌日児童相談所を訪問した。それは、約束を破ったことになるのかもしれない。

 だが、なぜそれをリナが知っているのだろう。知るわけがないのだ。だとしたら、リナは何か勘違いをしているのかもしれない。

 それに、リナが心配するように、児童相談所の人が102号室を訪ねてくることは絶対にない。リナが施設に連れ出されることは永久的にないのだ。

「電話、してないよ」

 瑞穂はリナを安心させるように言った。

「嘘」

「嘘じゃないよ」

「昨日来た女の人、やっぱり悪い人だった」

「あっ」

 瑞穂は思わず声が出た。

 確かに菜月は児童相談所の職員だ。だが、仕事でここに来たわけではない。

「違う。あの人はわたしの友だちで……」

「嘘。リナちゃん知ってるもん。その人今日も来た。前に来た悪いおばさんと、同じ名札つけてたもん。ここのところに」

 リナは自分の胸のあたりを指さした。

「あぁ、そういうこと」

 瑞穂は、リナの怒っている原因に納得してうなずいた。

「確かに菜月は首から名札下げていたね」

 リナがうなずく。

「でもね、あの人はリナちゃんに会いに来たわけではないの。もちろん、リナちゃんをどこかに連れて行くこともない。わたしの友だちとして、わたしのことを心配して来てくれただけだよ。悪い人じゃない」

「本当?」

 リナの目はまだ怒っている。

「本当だよ」

 リナは顔をこわばらせたまま、瑞穂の顔をじっと見ている。

「ねぇ、リナちゃん。落ち着いて聞いてくれる? わたし、リナちゃんに言わなければならないことがあるの」

 瑞穂の鼓動が速くなる。
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