15 / 28
14
しおりを挟む
「やっぱり生きていると思う?」
瑞穂の問いに、菜月は「ううん」と首を横に振った。
「落ち着いて聞いて」
瑞穂はワンクッション挟んで、ゆっくりと話し始めた。
「実は瑞穂が通報してきた日って、リナちゃんの命日だったんだよね。悲鳴を聞いた時間も、死亡時刻とほぼ一致しているの」
数秒の沈黙があった。
菜月が意味ありげに、じっと瑞穂を見つめる。
菜月の言おうとしていることに気づき、瑞穂の心臓はドクンと波打った。
「まさか、リナちゃんの幽霊とか言い出すわけじゃないよね?」
瑞穂はふざけた調子で聞いたが、菜月の表情は真面目だ。
「こういう仕事していると、結構不思議な話って聞くんだよね」
「まさか。本当に普通の女の子だったけどなぁ」
そう言いながら、瑞穂はリナの腕を掴んだ時のことを思い出していた。
瑞穂は自分の右手を開いて、じっと見つめる。あの時の不思議な感触を思い出す。掴んだ感触がほとんどなかったという感触を。
「脅かすようで悪いけど、お祓いとか行った方がいいんじゃないかな」
菜月が遠慮がちに言う。
「そんな大げさな。わたしは大丈夫だと思うけど」
正直瑞穂はまだ、リナのことを霊的なものだとは思えなかった。菜月が事実関係をなにかしら勘違いしているだけにすぎない気がした。
「里奈ちゃん、児童相談所の職員が訪問するのをすごく嫌がったらしいんだよね。いつも恨みがましい目で見られたって、当時の担当者が言ってた」
菜月の知る里奈と瑞穂の知るリナが、同一人物なのかはわからない。だが、確かに色々な点で一致している。
「わたしが話したリナちゃんも、児童相談所に通報されるのをすごく嫌がっていた。知らないおばさんが来て、遠くに連れて行かれたって言ってた。お母さんと離れ離れになっちゃったのが嫌だったみたい」
「おばさんが来たって言っていたの?」
「そうだけど……」
「里奈ちゃんの担当だった職員は、ベテランの女性だったの。里奈ちゃんが亡くなった後、すごく気に病んでいた」
瑞穂は大きくため息をついた。
「でも、事件の1か月後に亡くなったんだよね」
瑞穂が涙声で言う。
「まさか、自殺とか?」
「違うと思う。仕事から帰って疲れてお風呂で寝ちゃったみたいで、窒息死だったって聞いてる」
菜月は悲しげな表情を浮かべた後、声を震わせながら言った。
「亡くなったのが里奈ちゃんと同じお風呂だったっていうのがね……なんとなく気味が悪くて」
菜月は暗い表情を浮かべ、両手で腕をさすった。
「瑞穂も気をつけた方がいいと思う。できればあのアパートも引っ越した方が」
瑞穂の問いに、菜月は「ううん」と首を横に振った。
「落ち着いて聞いて」
瑞穂はワンクッション挟んで、ゆっくりと話し始めた。
「実は瑞穂が通報してきた日って、リナちゃんの命日だったんだよね。悲鳴を聞いた時間も、死亡時刻とほぼ一致しているの」
数秒の沈黙があった。
菜月が意味ありげに、じっと瑞穂を見つめる。
菜月の言おうとしていることに気づき、瑞穂の心臓はドクンと波打った。
「まさか、リナちゃんの幽霊とか言い出すわけじゃないよね?」
瑞穂はふざけた調子で聞いたが、菜月の表情は真面目だ。
「こういう仕事していると、結構不思議な話って聞くんだよね」
「まさか。本当に普通の女の子だったけどなぁ」
そう言いながら、瑞穂はリナの腕を掴んだ時のことを思い出していた。
瑞穂は自分の右手を開いて、じっと見つめる。あの時の不思議な感触を思い出す。掴んだ感触がほとんどなかったという感触を。
「脅かすようで悪いけど、お祓いとか行った方がいいんじゃないかな」
菜月が遠慮がちに言う。
「そんな大げさな。わたしは大丈夫だと思うけど」
正直瑞穂はまだ、リナのことを霊的なものだとは思えなかった。菜月が事実関係をなにかしら勘違いしているだけにすぎない気がした。
「里奈ちゃん、児童相談所の職員が訪問するのをすごく嫌がったらしいんだよね。いつも恨みがましい目で見られたって、当時の担当者が言ってた」
菜月の知る里奈と瑞穂の知るリナが、同一人物なのかはわからない。だが、確かに色々な点で一致している。
「わたしが話したリナちゃんも、児童相談所に通報されるのをすごく嫌がっていた。知らないおばさんが来て、遠くに連れて行かれたって言ってた。お母さんと離れ離れになっちゃったのが嫌だったみたい」
「おばさんが来たって言っていたの?」
「そうだけど……」
「里奈ちゃんの担当だった職員は、ベテランの女性だったの。里奈ちゃんが亡くなった後、すごく気に病んでいた」
瑞穂は大きくため息をついた。
「でも、事件の1か月後に亡くなったんだよね」
瑞穂が涙声で言う。
「まさか、自殺とか?」
「違うと思う。仕事から帰って疲れてお風呂で寝ちゃったみたいで、窒息死だったって聞いてる」
菜月は悲しげな表情を浮かべた後、声を震わせながら言った。
「亡くなったのが里奈ちゃんと同じお風呂だったっていうのがね……なんとなく気味が悪くて」
菜月は暗い表情を浮かべ、両手で腕をさすった。
「瑞穂も気をつけた方がいいと思う。できればあのアパートも引っ越した方が」
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Catastrophe
アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。
「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」
アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。
陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は
親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。
ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。
家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。
4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。
虫喰いの愛
ちづ
ホラー
邪気を食べる祟り神と、式神の器にされた娘の話。
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。
三万字程度の短編伝奇ホラーなのでよろしければお付き合いください。
蛆虫などの虫の表現、若干の残酷描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
『まぼろしの恋』終章で登場する蝕神さまの話です。『まぼろしの恋』を読まなくても全然問題ないです。
また、pixivスキイチ企画『神々の伴侶』https://dic.pixiv.net/a/%E7%A5%9E%E3%80%85%E3%81%AE%E4%BC%B4%E4%BE%B6(募集終了済み)の十月の神様の設定を使わせて頂いております。
表紙はかんたん表紙メーカーさんより使わせて頂いております。
ぬい【完結】
染西 乱
ホラー
家の近くの霊園は近隣住民の中ではただのショートカットルートになっている。
当然私もその道には慣れたものだった。
ある日バイトの帰りに、ぬいぐるみの素体(ぬいを作るためののっぺらぼう状態)の落とし物を見つける
次にそれが現れた場所はバイト先のゲームセンターだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる