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「やっぱり生きていると思う?」

 瑞穂の問いに、菜月は「ううん」と首を横に振った。

「落ち着いて聞いて」

 瑞穂はワンクッション挟んで、ゆっくりと話し始めた。

「実は瑞穂が通報してきた日って、リナちゃんの命日だったんだよね。悲鳴を聞いた時間も、死亡時刻とほぼ一致しているの」

 数秒の沈黙があった。

 菜月が意味ありげに、じっと瑞穂を見つめる。

 菜月の言おうとしていることに気づき、瑞穂の心臓はドクンと波打った。

「まさか、リナちゃんの幽霊とか言い出すわけじゃないよね?」

 瑞穂はふざけた調子で聞いたが、菜月の表情は真面目だ。

「こういう仕事していると、結構不思議な話って聞くんだよね」

「まさか。本当に普通の女の子だったけどなぁ」

 そう言いながら、瑞穂はリナの腕を掴んだ時のことを思い出していた。
 
 瑞穂は自分の右手を開いて、じっと見つめる。あの時の不思議な感触を思い出す。掴んだ感触がほとんどなかったという感触を。

「脅かすようで悪いけど、お祓いとか行った方がいいんじゃないかな」

 菜月が遠慮がちに言う。

「そんな大げさな。わたしは大丈夫だと思うけど」

 正直瑞穂はまだ、リナのことを霊的なものだとは思えなかった。菜月が事実関係をなにかしら勘違いしているだけにすぎない気がした。

「里奈ちゃん、児童相談所の職員が訪問するのをすごく嫌がったらしいんだよね。いつも恨みがましい目で見られたって、当時の担当者が言ってた」

 菜月の知る里奈と瑞穂の知るリナが、同一人物なのかはわからない。だが、確かに色々な点で一致している。

「わたしが話したリナちゃんも、児童相談所に通報されるのをすごく嫌がっていた。知らないおばさんが来て、遠くに連れて行かれたって言ってた。お母さんと離れ離れになっちゃったのが嫌だったみたい」

「おばさんが来たって言っていたの?」

「そうだけど……」

「里奈ちゃんの担当だった職員は、ベテランの女性だったの。里奈ちゃんが亡くなった後、すごく気に病んでいた」

 瑞穂は大きくため息をついた。

「でも、事件の1か月後に亡くなったんだよね」

 瑞穂が涙声で言う。

「まさか、自殺とか?」

「違うと思う。仕事から帰って疲れてお風呂で寝ちゃったみたいで、窒息死だったって聞いてる」

 菜月は悲しげな表情を浮かべた後、声を震わせながら言った。

「亡くなったのが里奈ちゃんと同じお風呂だったっていうのがね……なんとなく気味が悪くて」

 菜月は暗い表情を浮かべ、両手で腕をさすった。

「瑞穂も気をつけた方がいいと思う。できればあのアパートも引っ越した方が」
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