愛するあの子は、わたしが殺した

ことは

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 夕飯を食べて一息ついた頃だった。
 
 瑞穂の部屋のチャイムが鳴った。

 瑞穂は部屋の時計を見た。午後8時過ぎだ。

 瑞穂はよくネットショッピングを利用しているが、荷物が届く予定はないし、訪問販売が来るような時間帯でもない。

「誰だろう」

 このアパートにはインターホンがない。玄関扉の覗き窓から、訪問者が誰かを確かめるしかなかった。

 女性の一人暮らしだから、いくら家賃が高くても、もっとセキュリティ管理の行き届いたマンションに住めばよかったと瑞穂は後悔し始めた。

 場合によっては居留守を使うため、忍び足で玄関扉に近づいた。

 ひんやりとした扉に両手をつき、片目で覗き窓を覗く。

 小さな窓のあちら側はほとんど暗闇で、なんとなく向こうの道路と隣家が見えるだけだった。人影らしきものはない。

 瑞穂はそっと、扉から離れて部屋に戻ろうとした。

 だが、再びピンポンとチャイムが鳴り、瑞穂は背中をビクッと震わせた。

 瑞穂はゴクンと唾を飲んだ。呼吸を落ち着かせ、もう一度覗き窓から外を覗く。

 やはり誰もいない。

 しかし、本当に誰もいないのだろうか。チャイムを鳴らした人物は、覗き窓からちょうど見えない位置に立っているのかもしれない。

 とはいえ相手が誰なのかわからないまま、ドアを開けるのは危険だ。このまま居留守を使った方がよさそうだ。

 瑞穂は足音を立てないように静かに部屋に戻ろうとしたが、もう一度ゆっくりと扉を振り返った。

 もし、訪問してきたのが、児童相談所の職員だったら?

 夕方、瑞穂が隣の部屋を訪問した時は、誰も出てこなかった。職員も、瑞穂の気づかぬうちに、隣の部屋を訪問したのかもしれない。隣が留守だったから、昨夜通報した瑞穂のところに、情報収集しにきたのかもしれない。

 ここで居留守を使ったら、隣の女の子を助けるチャンスをみすみす逃すかもしれない。

 今日のこんな時間に、誰かが訪ねてくるとしたら、児童相談所の職員しかいないような気すらしてきた。

 瑞穂は玄関の鍵を回そうとしたが、途中で手を止めた。

 いきなり扉を開けるのは無防備すぎる。まず、相手が誰か確かめよう。

「あの……、どちら様でしょうか?」

 声がうわずる。

 返事はない。

 瑞穂の声が小さすぎて、相手に聞こえなかったのかもしれない。

「どちら様ですか?」

 瑞穂は玄関扉の向こう側に届くように、少し声を張った。

 それでも返事はなかった。

 すぐに扉を開けなかったから留守だと思われて、訪問者は帰ってしまったのだろうか。

 瑞穂は覗き窓からもう一度外を見た。

 やはり誰もいなさそうだ。瑞穂は思い切って、扉を開けて外の様子を確かめてみることにした。

 瑞穂は鍵を回し、玄関扉をゆっくりと外側に開けた。
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