愛するあの子は、わたしが殺した

ことは

文字の大きさ
上 下
4 / 28

しおりを挟む
 夕飯を食べて一息ついた頃だった。
 
 瑞穂の部屋のチャイムが鳴った。

 瑞穂は部屋の時計を見た。午後8時過ぎだ。

 瑞穂はよくネットショッピングを利用しているが、荷物が届く予定はないし、訪問販売が来るような時間帯でもない。

「誰だろう」

 このアパートにはインターホンがない。玄関扉の覗き窓から、訪問者が誰かを確かめるしかなかった。

 女性の一人暮らしだから、いくら家賃が高くても、もっとセキュリティ管理の行き届いたマンションに住めばよかったと瑞穂は後悔し始めた。

 場合によっては居留守を使うため、忍び足で玄関扉に近づいた。

 ひんやりとした扉に両手をつき、片目で覗き窓を覗く。

 小さな窓のあちら側はほとんど暗闇で、なんとなく向こうの道路と隣家が見えるだけだった。人影らしきものはない。

 瑞穂はそっと、扉から離れて部屋に戻ろうとした。

 だが、再びピンポンとチャイムが鳴り、瑞穂は背中をビクッと震わせた。

 瑞穂はゴクンと唾を飲んだ。呼吸を落ち着かせ、もう一度覗き窓から外を覗く。

 やはり誰もいない。

 しかし、本当に誰もいないのだろうか。チャイムを鳴らした人物は、覗き窓からちょうど見えない位置に立っているのかもしれない。

 とはいえ相手が誰なのかわからないまま、ドアを開けるのは危険だ。このまま居留守を使った方がよさそうだ。

 瑞穂は足音を立てないように静かに部屋に戻ろうとしたが、もう一度ゆっくりと扉を振り返った。

 もし、訪問してきたのが、児童相談所の職員だったら?

 夕方、瑞穂が隣の部屋を訪問した時は、誰も出てこなかった。職員も、瑞穂の気づかぬうちに、隣の部屋を訪問したのかもしれない。隣が留守だったから、昨夜通報した瑞穂のところに、情報収集しにきたのかもしれない。

 ここで居留守を使ったら、隣の女の子を助けるチャンスをみすみす逃すかもしれない。

 今日のこんな時間に、誰かが訪ねてくるとしたら、児童相談所の職員しかいないような気すらしてきた。

 瑞穂は玄関の鍵を回そうとしたが、途中で手を止めた。

 いきなり扉を開けるのは無防備すぎる。まず、相手が誰か確かめよう。

「あの……、どちら様でしょうか?」

 声がうわずる。

 返事はない。

 瑞穂の声が小さすぎて、相手に聞こえなかったのかもしれない。

「どちら様ですか?」

 瑞穂は玄関扉の向こう側に届くように、少し声を張った。

 それでも返事はなかった。

 すぐに扉を開けなかったから留守だと思われて、訪問者は帰ってしまったのだろうか。

 瑞穂は覗き窓からもう一度外を見た。

 やはり誰もいなさそうだ。瑞穂は思い切って、扉を開けて外の様子を確かめてみることにした。

 瑞穂は鍵を回し、玄関扉をゆっくりと外側に開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜

野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。 内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

処理中です...