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5 いつわりの味
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「やっぱりなかったよー」
次の日の朝、学校へ行くとマキが話しかけてきた。
「えっ、なにが?」
里奈はランドセルを降ろし、教科書を自分の机にしまいながら聞いた。
マキが普通に話しかけてきてくれたことが嬉しかった。
「おばけ育成ゲームとかってやつ」
マキが、里奈の机にバンッと手をつく。
「昨日さぁ、お母さんと新しいゲームソフト買いに行ったんだ。ついでに探してみたけど、そんな名前のゲーム置いてなかったよ」
里奈は目を丸くした。
「マキちゃん、里奈ちゃん、おはよー」
隣の席に、アリサが座った。眠そうな顔をしている。
「おはよう」
里奈は笑顔でアリサにあいさつすると、すぐにマキに向き直った。
「もしかしてマキちゃん、わたしのこと、信じてくれたの?」
「いや、ついでに見てみただけだし」
マキが突き放すように言う。
「二人でなんの話してるの?」
アリサがあくびをしながら聞く。
「昨日ゲームソフト買いに行ったんだけど、おばけ育成ゲームなんてなかったって話」
「おばけ育成ゲームは、ゲームソフト売り場じゃなくて、福袋に入っていたの。おもちゃとかゲームとかが、千円で1万円分以上入っているんだ。かわいいクマのぬいぐるみも入っていたの」
「なにそれ、すごい!」
アリサが身を乗り出してきた。
「そっか。アリサちゃん、クマ好きだったね」
「うんうん。クマのぬいぐるみとかわたし、めっちゃ好き」
アリサは眠気も吹き飛んだようだ。目をキラキラさせている。
「その福袋買えば、おばけもついてくるってこと?」
マキが里奈の顔をのぞきこむ。
「福袋だからなにが入っているかわからないけど、もしかしたら入ってるかも」
里奈は自信がなくて、声が小さくなった。
「おばけは嘘でしょ?」
アリサがすかさず言う。
「嘘じゃないよ」
「じゃぁ、証拠を見せられる?」
「証拠って?」
「だから、おばけだよ、おばけ。動いたりしゃべったりするやつ」
アリサが手の平を差し出した。
里奈は首を横に振った。
「おばけ育成ゲームのプレイヤーにしか、おばけは見えないの。アリサちゃんとマキちゃんが、おばけ育成ゲームを買ってゲームを始めれば、二人にも見えるようになるんだよ」
「でも、なにが入っているかわからない福袋に千円使うのって勇気いるなぁ。わたし、ゲーム買っちゃったばっかだしお金ないや」
マキが残念そうに言った。
「やっぱりマキちゃん、信じてくれたの?」
里奈は期待をこめて聞いた。
マキが、チラッとアリサの顔を見る。
「そうじゃないし。やっぱり嘘はよくないと思うよ」
「そうそう。嘘つきはなんとかの始まりっていうしね」
嘘つきという言葉が、里奈の胸に突き刺さる。
「嘘がくせにならないように、ちゃんと注意してあげなくちゃね」
アリサが押しつけるように言う。
(わたし、嘘つきなんかじゃ……)
里奈は言い返したい気持ちを飲みこんだ。
注意しただけのつもりの二人にこんなことを言えば、きっと不快な気持ちにさせてしまうに違いない。
「わたし、トイレ行ってくるー」
アリサが席を立った。
「わたしも」
マキも小走りでアリサの後を追った。
「うれしいな。もしかしたらマキちゃん、ちょっとは信じてくれたのかも」
二人が行ってしまうと、里奈はつぶやいた。
「このうれしいは、味がうすいな~」
ポケットの中から、モモちゃんの声が聞こえた。
ペッ、ペッと唾を吐く音が続く。
「うへー。なんだか、いつわりの味がする」
「いつわりってなに?」
「嘘のこと。里奈ちゃん、嘘の気持ちを吐いてない?」
「わたし、嘘なんかついてないもん。モモちゃんまでそんなこというなんてひどい!」
思わず口調がきつくなってしまった。
モモちゃんが、ポケットから飛び出してきた。
机の上にちょこんと座る。
(ひどいなんて言って、怒らせちゃったかな)
里奈が謝ろうとした時、モモちゃんがにこっと笑った。
「ひどい、いっただきま~す!」
モモちゃんが大きな口を開けて、もぐもぐさせる。
「いいよ、いい! スパイスが効いてる! この味は本物だ」
そういうと、モモちゃんはフワリと飛んでポケットに戻った。
あと数分で朝読書の時間が始まる。
里奈は机の中から読みかけの本を出した。
「ねぇねぇ、あの二人にも、ゲームのプレイヤーになってもらったら? モモちゃんのことが見えるようになれば、もう嘘つきとか言われないよ」
モモちゃんが、ポケットからちょこんと顔を出していた。
「でも、無理に福袋買わせるわけにもいかないし」
「そっか~」
モモちゃんはしょんぼりして、ポケットの中にもぐりこんだ。
次の日の朝、学校へ行くとマキが話しかけてきた。
「えっ、なにが?」
里奈はランドセルを降ろし、教科書を自分の机にしまいながら聞いた。
マキが普通に話しかけてきてくれたことが嬉しかった。
「おばけ育成ゲームとかってやつ」
マキが、里奈の机にバンッと手をつく。
「昨日さぁ、お母さんと新しいゲームソフト買いに行ったんだ。ついでに探してみたけど、そんな名前のゲーム置いてなかったよ」
里奈は目を丸くした。
「マキちゃん、里奈ちゃん、おはよー」
隣の席に、アリサが座った。眠そうな顔をしている。
「おはよう」
里奈は笑顔でアリサにあいさつすると、すぐにマキに向き直った。
「もしかしてマキちゃん、わたしのこと、信じてくれたの?」
「いや、ついでに見てみただけだし」
マキが突き放すように言う。
「二人でなんの話してるの?」
アリサがあくびをしながら聞く。
「昨日ゲームソフト買いに行ったんだけど、おばけ育成ゲームなんてなかったって話」
「おばけ育成ゲームは、ゲームソフト売り場じゃなくて、福袋に入っていたの。おもちゃとかゲームとかが、千円で1万円分以上入っているんだ。かわいいクマのぬいぐるみも入っていたの」
「なにそれ、すごい!」
アリサが身を乗り出してきた。
「そっか。アリサちゃん、クマ好きだったね」
「うんうん。クマのぬいぐるみとかわたし、めっちゃ好き」
アリサは眠気も吹き飛んだようだ。目をキラキラさせている。
「その福袋買えば、おばけもついてくるってこと?」
マキが里奈の顔をのぞきこむ。
「福袋だからなにが入っているかわからないけど、もしかしたら入ってるかも」
里奈は自信がなくて、声が小さくなった。
「おばけは嘘でしょ?」
アリサがすかさず言う。
「嘘じゃないよ」
「じゃぁ、証拠を見せられる?」
「証拠って?」
「だから、おばけだよ、おばけ。動いたりしゃべったりするやつ」
アリサが手の平を差し出した。
里奈は首を横に振った。
「おばけ育成ゲームのプレイヤーにしか、おばけは見えないの。アリサちゃんとマキちゃんが、おばけ育成ゲームを買ってゲームを始めれば、二人にも見えるようになるんだよ」
「でも、なにが入っているかわからない福袋に千円使うのって勇気いるなぁ。わたし、ゲーム買っちゃったばっかだしお金ないや」
マキが残念そうに言った。
「やっぱりマキちゃん、信じてくれたの?」
里奈は期待をこめて聞いた。
マキが、チラッとアリサの顔を見る。
「そうじゃないし。やっぱり嘘はよくないと思うよ」
「そうそう。嘘つきはなんとかの始まりっていうしね」
嘘つきという言葉が、里奈の胸に突き刺さる。
「嘘がくせにならないように、ちゃんと注意してあげなくちゃね」
アリサが押しつけるように言う。
(わたし、嘘つきなんかじゃ……)
里奈は言い返したい気持ちを飲みこんだ。
注意しただけのつもりの二人にこんなことを言えば、きっと不快な気持ちにさせてしまうに違いない。
「わたし、トイレ行ってくるー」
アリサが席を立った。
「わたしも」
マキも小走りでアリサの後を追った。
「うれしいな。もしかしたらマキちゃん、ちょっとは信じてくれたのかも」
二人が行ってしまうと、里奈はつぶやいた。
「このうれしいは、味がうすいな~」
ポケットの中から、モモちゃんの声が聞こえた。
ペッ、ペッと唾を吐く音が続く。
「うへー。なんだか、いつわりの味がする」
「いつわりってなに?」
「嘘のこと。里奈ちゃん、嘘の気持ちを吐いてない?」
「わたし、嘘なんかついてないもん。モモちゃんまでそんなこというなんてひどい!」
思わず口調がきつくなってしまった。
モモちゃんが、ポケットから飛び出してきた。
机の上にちょこんと座る。
(ひどいなんて言って、怒らせちゃったかな)
里奈が謝ろうとした時、モモちゃんがにこっと笑った。
「ひどい、いっただきま~す!」
モモちゃんが大きな口を開けて、もぐもぐさせる。
「いいよ、いい! スパイスが効いてる! この味は本物だ」
そういうと、モモちゃんはフワリと飛んでポケットに戻った。
あと数分で朝読書の時間が始まる。
里奈は机の中から読みかけの本を出した。
「ねぇねぇ、あの二人にも、ゲームのプレイヤーになってもらったら? モモちゃんのことが見えるようになれば、もう嘘つきとか言われないよ」
モモちゃんが、ポケットからちょこんと顔を出していた。
「でも、無理に福袋買わせるわけにもいかないし」
「そっか~」
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