12 / 18
12 夢を叶えるための第一歩
しおりを挟む「おはよう、美咲ちゃん」
ランドセルを机におろすと、すぐに亜紀がやってきた。
「亜紀ちゃん、おはよう。あさみちゃんはまだ来てないのかな?」
美咲が教室を見渡す。
「机にランドセルがあるから、もう来てるみたい。でも、教室にいないね」
亜紀があさみの机の方を指さした。
「亜紀ちゃん、美咲ちゃん!」
廊下から大きな声がした。あさみが教室に飛びこんでくる。
あさみは、息を切らしていた。
「そんなに急いで、どうしたの?」
美咲が、あさみの肩をポンポンと叩いた。
「フラワーアレンジメントの発表のこと、先生に聞いてみたよ!」
「もう聞いたの? はやっ」
亜紀が目を丸くしている。
「エヘヘ。いてもたってもいられなくて、朝イチで職員室に行ってきたの」
「誰に聞いたの?」
亜紀が聞くと、
「松山先生」
とあさみが答えた。
松山先生は美咲たちクラスの担任で、若い女の先生だ。
「どうだった?」
美咲が先をうながす。
「松山先生、すぐに校長先生に相談してくれたの」
「いいとこあるじゃん、松山先生」
亜紀が笑いながら言った。
「10月の発表会、出ていいって言ってくれた?」
美咲が期待をこめて聞いた。
あさみが、首を横に振る。
「このままだと、それは無理だって。10月の発表会はクラブ活動の発表会だから」
「えー! やっぱり役に立たない、松山先生」
亜紀が大げさに肩を落とす。
「でもね、もし10月までに、クラブとして認められたら、発表会に出られるんだって」
あさみは、にこにこしている。
「けど、パフォーマンス見せられないんじゃ、どうやって人集めるの?」
亜紀が、ため息まじりに言った。
「フラワーアレンジメントパフォーマンス、三人でやっていいんだって」
「どういうこと? さっきは10月の発表会は無理だって……」
美咲は、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった。
「あさみちゃん、さっきと言ってることが反対じゃん。ちゃんと説明して」
亜紀が、口をとがらせた。
あさみが、はっと目を見開く。
「ごめん、ごめん。興奮しちゃって、うまく説明できてないね」
「結局、パフォーマンスできるのかできなのか、どっちなの?」
亜紀が腕を組みながら聞いた。
「あのね、全校児童が集まる1学期の終業式で、特別にパフォーマンスを見せる時間を作ってくれるんだって」
「えーーーー!」
亜紀が、組んだ腕をほどいて、大げさに叫んだ。
「本当? すごい!」
美咲も、亜紀に負けないくらい大きな声が出た。
「でもそれって、来月じゃん。すぐに練習しないと!」
亜紀が興奮した様子で早口に言った。
「すぐに使う曲を決めなくちゃ。それから、バトンの振り付けも急いで考えないと」
美咲も思わず早口になった。
「いつ練習する?」
あさみが聞いた。
「バトンクラブの練習は休めないし……。となると水曜日?」
亜紀が、上目づかいで美咲を見る。
「勉強は?」
「指切りしちゃったね」
亜紀が、舌をペロッと出した。
「勉強って?」
あさみが、亜紀と美咲を交互に見る。
「水曜の放課後は、美咲ちゃんと図書室で勉強する約束しちゃったんだ」
「しちゃったって、亜紀ちゃん、これは亜紀ちゃんのためでしょ?」
美咲が、亜紀をにらみつける。
「はい、そうでした」
亜紀が、ペコリと頭を下げる。
「亜紀ちゃん、将来、お医者さんになりたいんだって」
「亜紀ちゃん、すごーい!」
あさみが、目を輝かせた。
「けど、亜紀ちゃん、算数のテスト……」
言いかけた美咲の口を、亜紀が押さえた。
「美咲ちゃん、テストの点は言わなくていいから! わたし、大学行けるように、勉強頑張るから!」
「ちょっと苦しいよ亜紀ちゃん」
美咲は、必死で亜紀の手をはがした。
あさみが、声を立てて笑った。
「じゃあさ、こうしようよ。フラワーアレンジメントの練習は水曜日の放課後。ただし、亜紀ちゃんの勉強が終わってから。わたしも、一緒に勉強してもいい?」
「うん、いいよ。4時まで勉強して、その後練習しよう」
美咲が言うと、
「三人でやったら、勉強も楽しそうだね」
と亜紀がクルッと回転した。
「勉強にバトンにフラワーアレンジメント! 全員の夢を叶えるための第一歩だね」
あさみが、亜紀と美咲の顔を交互に見ながらうなずいている。
「なんかすごい。三人とも全然違う夢なのに、一緒に頑張れちゃうなんて」
美咲が興奮して言った。
「本当だね。水曜だけじゃ足りなかったら、土日も集まろうよ」
亜紀が身を乗り出した。
「そうだね。土日も勉強、バトンにフラワーアレンジメントの三点セットでがんばろっ」
あさみが、こぶしを頭の上にかざす。
「べ、勉強もね……アハハ」
亜紀が、わざとらしく笑った。
「そ、勉強もだよ」
美咲が念を押す。
「ねぇねぇ、わたし、来週の水曜日まで待ちきれない。今週末の土曜日に集まろうよ」
あさみが、ピョンピョン飛び跳ねながら言った。
「そうだね。どこに集まる?」
美咲が言うと、
「うちはダメだよ。アパートだしせまいから。それに兄ちゃんがうるさいし」
と、亜紀が人差し指でバツを作った。
「うちも、妹の友里がいるからなぁ。みんなで勉強なんかしてたら、絶対じゃまされるもん」
「みんな、兄弟がいていいなぁ。わたしはひとりっこだからつまんない」
頬をふくらませて言うあさみに、
「「えー! ひとりっこうらやましい!」」
と、亜紀と美咲の声がぴったりと重なった。
一拍おいて次の瞬間、今度は三人の声がそろった。
「「「いま、そろったー!」」」
思わず三人は、顔を見合わせてゲラゲラ笑った。
「すごい! 奇跡」
亜紀が、手を叩いて笑う。
「わたしたち、息、ぴったりだね」
「笑いすぎて、涙出てきたー」
ひとしきり笑ったところで、あさみが言った。
「じゃぁ、うちに来てよ。花をすぐに用意できるし、屋上が結構広いから、バトンの練習もできるよ」
「「オッケー」」
亜紀と美咲が同時に言う。三人は顔を見合わせた。
「「「またそろったー」」」
どっと笑いが起こった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっとだけマーメイド~暴走する魔法の力~
ことは
児童書・童話
星野桜、小学6年生。わたしには、ちょっとだけマーメイドの血が流れている。
むかしむかし、人魚の娘が人間の男の人と結婚して、わたしはずっとずっと後に生まれた子孫の一人だ。
わたしの足は水に濡れるとうろこが生え、魚の尾に変化してしまう。
――わたし、絶対にみんなの前でプールに入ることなんてできない。もしそんなことをしたら、きっと友達はみんな、わたしから離れていく。
だけど、おぼれた麻衣ちゃんを助けるため、わたしはあの日プールに飛び込んだ。
全14話 完結
踊るねこ
ことは
児童書・童話
ヒップホップダンスを習っている藤崎はるかは、ダンサーを夢見る小学6年生。ダンスコンテストに出る選抜メンバーを決めるオーディション前日、インフルエンザにかかり外出禁止となってしまう。
そんな時、はるかの前に現れたのは、お喋りができる桃色のこねこのモモ。キラキラ星(せい)から来たというモモは、クローン技術により生まれたクローンモンスターだ。どんな姿にも変身できるモモは、はるかの代わりにオーディションを受けることになった。
だが、モモはオーディションに落ちてしまう。親友の結衣と美加だけが選抜メンバーに選ばれ、落ちこむはるか。
一度はコンテスト出場を諦めたが、中学1年生のブレイクダンサー、隼人のプロデュースで、はるかの姿に変身したモモと二人でダンスコンテストに出場することに!?
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
おなら、おもっきり出したいよね
魚口ホワホワ
児童書・童話
ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。
でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。
そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。
やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。
ハンナと先生 南の国へ行く
マツノポンティ さくら
児童書・童話
10歳のハンナは、同じ街に住むジョン先生に動物の言葉を教わりました。ハンナは先生と一緒に南の国へ行き、そこで先生のお手伝いをしたり、小鳥の友達を助けたりします。しかしハンナたちが訪れた鳥の王国には何か秘密がありそうです。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

【完結】おしゃべりトランクの日曜日
朝日みらい
児童書・童話
国語の時間で作文の宿題が出ました。お題はお父さんのこと。お父さん、無口な人だから、ちょっと面倒くさい。お父さんは、ふだんからあんまり話さないし、朝六時から会社に出かけて、帰ってくるのは夜の八時を過ぎてから。土曜と日曜日の休みは、ほとんど書斎から出てきません ふだん、お父さんは夕ご飯を食べたら、すやすやとベッドに直行……。そんなお父さんのことを作文にするなんて、果たしてできるの?
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる