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12 夢を叶えるための第一歩
しおりを挟む「おはよう、美咲ちゃん」
ランドセルを机におろすと、すぐに亜紀がやってきた。
「亜紀ちゃん、おはよう。あさみちゃんはまだ来てないのかな?」
美咲が教室を見渡す。
「机にランドセルがあるから、もう来てるみたい。でも、教室にいないね」
亜紀があさみの机の方を指さした。
「亜紀ちゃん、美咲ちゃん!」
廊下から大きな声がした。あさみが教室に飛びこんでくる。
あさみは、息を切らしていた。
「そんなに急いで、どうしたの?」
美咲が、あさみの肩をポンポンと叩いた。
「フラワーアレンジメントの発表のこと、先生に聞いてみたよ!」
「もう聞いたの? はやっ」
亜紀が目を丸くしている。
「エヘヘ。いてもたってもいられなくて、朝イチで職員室に行ってきたの」
「誰に聞いたの?」
亜紀が聞くと、
「松山先生」
とあさみが答えた。
松山先生は美咲たちクラスの担任で、若い女の先生だ。
「どうだった?」
美咲が先をうながす。
「松山先生、すぐに校長先生に相談してくれたの」
「いいとこあるじゃん、松山先生」
亜紀が笑いながら言った。
「10月の発表会、出ていいって言ってくれた?」
美咲が期待をこめて聞いた。
あさみが、首を横に振る。
「このままだと、それは無理だって。10月の発表会はクラブ活動の発表会だから」
「えー! やっぱり役に立たない、松山先生」
亜紀が大げさに肩を落とす。
「でもね、もし10月までに、クラブとして認められたら、発表会に出られるんだって」
あさみは、にこにこしている。
「けど、パフォーマンス見せられないんじゃ、どうやって人集めるの?」
亜紀が、ため息まじりに言った。
「フラワーアレンジメントパフォーマンス、三人でやっていいんだって」
「どういうこと? さっきは10月の発表会は無理だって……」
美咲は、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった。
「あさみちゃん、さっきと言ってることが反対じゃん。ちゃんと説明して」
亜紀が、口をとがらせた。
あさみが、はっと目を見開く。
「ごめん、ごめん。興奮しちゃって、うまく説明できてないね」
「結局、パフォーマンスできるのかできなのか、どっちなの?」
亜紀が腕を組みながら聞いた。
「あのね、全校児童が集まる1学期の終業式で、特別にパフォーマンスを見せる時間を作ってくれるんだって」
「えーーーー!」
亜紀が、組んだ腕をほどいて、大げさに叫んだ。
「本当? すごい!」
美咲も、亜紀に負けないくらい大きな声が出た。
「でもそれって、来月じゃん。すぐに練習しないと!」
亜紀が興奮した様子で早口に言った。
「すぐに使う曲を決めなくちゃ。それから、バトンの振り付けも急いで考えないと」
美咲も思わず早口になった。
「いつ練習する?」
あさみが聞いた。
「バトンクラブの練習は休めないし……。となると水曜日?」
亜紀が、上目づかいで美咲を見る。
「勉強は?」
「指切りしちゃったね」
亜紀が、舌をペロッと出した。
「勉強って?」
あさみが、亜紀と美咲を交互に見る。
「水曜の放課後は、美咲ちゃんと図書室で勉強する約束しちゃったんだ」
「しちゃったって、亜紀ちゃん、これは亜紀ちゃんのためでしょ?」
美咲が、亜紀をにらみつける。
「はい、そうでした」
亜紀が、ペコリと頭を下げる。
「亜紀ちゃん、将来、お医者さんになりたいんだって」
「亜紀ちゃん、すごーい!」
あさみが、目を輝かせた。
「けど、亜紀ちゃん、算数のテスト……」
言いかけた美咲の口を、亜紀が押さえた。
「美咲ちゃん、テストの点は言わなくていいから! わたし、大学行けるように、勉強頑張るから!」
「ちょっと苦しいよ亜紀ちゃん」
美咲は、必死で亜紀の手をはがした。
あさみが、声を立てて笑った。
「じゃあさ、こうしようよ。フラワーアレンジメントの練習は水曜日の放課後。ただし、亜紀ちゃんの勉強が終わってから。わたしも、一緒に勉強してもいい?」
「うん、いいよ。4時まで勉強して、その後練習しよう」
美咲が言うと、
「三人でやったら、勉強も楽しそうだね」
と亜紀がクルッと回転した。
「勉強にバトンにフラワーアレンジメント! 全員の夢を叶えるための第一歩だね」
あさみが、亜紀と美咲の顔を交互に見ながらうなずいている。
「なんかすごい。三人とも全然違う夢なのに、一緒に頑張れちゃうなんて」
美咲が興奮して言った。
「本当だね。水曜だけじゃ足りなかったら、土日も集まろうよ」
亜紀が身を乗り出した。
「そうだね。土日も勉強、バトンにフラワーアレンジメントの三点セットでがんばろっ」
あさみが、こぶしを頭の上にかざす。
「べ、勉強もね……アハハ」
亜紀が、わざとらしく笑った。
「そ、勉強もだよ」
美咲が念を押す。
「ねぇねぇ、わたし、来週の水曜日まで待ちきれない。今週末の土曜日に集まろうよ」
あさみが、ピョンピョン飛び跳ねながら言った。
「そうだね。どこに集まる?」
美咲が言うと、
「うちはダメだよ。アパートだしせまいから。それに兄ちゃんがうるさいし」
と、亜紀が人差し指でバツを作った。
「うちも、妹の友里がいるからなぁ。みんなで勉強なんかしてたら、絶対じゃまされるもん」
「みんな、兄弟がいていいなぁ。わたしはひとりっこだからつまんない」
頬をふくらませて言うあさみに、
「「えー! ひとりっこうらやましい!」」
と、亜紀と美咲の声がぴったりと重なった。
一拍おいて次の瞬間、今度は三人の声がそろった。
「「「いま、そろったー!」」」
思わず三人は、顔を見合わせてゲラゲラ笑った。
「すごい! 奇跡」
亜紀が、手を叩いて笑う。
「わたしたち、息、ぴったりだね」
「笑いすぎて、涙出てきたー」
ひとしきり笑ったところで、あさみが言った。
「じゃぁ、うちに来てよ。花をすぐに用意できるし、屋上が結構広いから、バトンの練習もできるよ」
「「オッケー」」
亜紀と美咲が同時に言う。三人は顔を見合わせた。
「「「またそろったー」」」
どっと笑いが起こった。
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