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7 友情のあかし
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「ワンスピンが1週間でできちゃったから、もう一つ、見せ場を作りたいと思うの」
美咲が言うと、今回は、三人ともすぐに賛成してくれた。
「やってみたい! 練習して、新しい技ができるようになると、すっごく気分がいいんだもん」
ちえみが言うと、さおりも、
「運動会に間に合うかわからないけど、とにかく挑戦してみようよ」
と、目を輝かせた。
「ちょっと、ここじゃせまいなぁ」
美咲は、ため息をつきながら、腕組みした。
「サッカーの子たち、ちょうど今、休憩中みたいだよ」
亜紀が運動場を指さした。
「隅の方なら空いているから、使わせてもらおう」
さおりが飛び出すと、他の三人もそれに続いた。
「ワンスピンした後、踊りながら、トランプのダイヤの形に移動して」
美咲はスニーカーで軽く土を削って、さおりとちえみの立つ位置に、印をつけた。
「亜紀ちゃんがここで、わたしがこっちね」
亜紀と美咲も、立ち位置を決めた。
「この位置で、バトン交換をするの」
「バトンを、相手に投げるってこと?」
さおりが、美咲の方を見る。
美咲がうなずくと、
「わたしと美咲ちゃん、遠くなーい?」
と、亜紀が叫んだ。
「亜紀ちゃんなら大丈夫! さおりちゃんとちえみちゃんは、6年生最後の運動会の思い出に。わたしと亜紀ちゃんは……」
口ごもる美咲を、亜紀が首をかしげて不思議そうに見ている。
亜紀とは出会ったばかりだが、いつの間にか美咲にとってすごく大切な存在になっていた。これからもっともっと、仲良くなりたい、素直にそう思った。
美咲は、少し気はずかしかったけど、力強く叫んだ。
「わたしと亜紀ちゃんは、友情のあかしに!」
もしかしたら理央のように、友だちだと思っているのは自分だけだったらどうしようかと美咲は不安になった。
だが亜紀が、にっこり笑いながら強くうなずくのを見て、美咲はほっとした。
転入初日、美咲は亜紀と友だちだと思われるのが嫌だと思った。
亜紀のことを何も知らないくせに、見た目だけで友だちを選ぼうとした。
美咲は心の中で、ごめんねとつぶやく。
美咲は息を大きく吸って、みんなに向かって叫んだ。
「バトン交換は、自分を信じて、相手のことも信頼していないと、成功しないんだからね!」
「とにかく、やってみようよ!」
さおりが、バトンを胸の前で回しながら、待ちきれない様子で言った。
「じゃ、いくよ。せーの!」
美咲の合図で、4本のバトンは一斉に宙を舞った。
強い風が吹いて、下からブワッと砂埃が舞い上がる。
バトンは、自由な鳩のように、思い思いの方へ飛んでいく。
2本が宙でぶつかって落下し、残りの2本も誰の手に収まることなく、土の上に転がった。
四人は、一斉にバトンを拾いに走った。
「もう1回いくよー」
美咲が声を張りあげる。
「オッケー」
他の三人の声が、ぴったりと重なった。
◇
運動会の1週間前に、何回か鼓笛隊との合同練習があった。生演奏は、やっぱり迫力があった。
合同練習の時、鼓笛隊に入っている、同じクラスの男の子が声をかけてきた。転入初日に、廊下は走っちゃいけないんだよ、と注意してきた佐藤浩介だ。
浩介はクラスの学級委員をやっていた。廊下を走っている人を注意するのは、学級委員の仕事の一つだと、後から美咲は知った。
毎日のようにクラスメイトに注意をしている浩介は、あの日のことはもう覚えていないかもしれない。
だが、美咲はずっと気にしていた。
あれ以来、美咲は浩介と目を合わせないようにしていた。だから、こんなに近くで顔を見るのは初めてだった。
ひょろっと背の高い浩介が、美咲を見下ろしている。
浩介は、眉毛が太くてきりっとしている。正義感の強そうな顔立ちをしていた。
思わず美咲は、顔が熱くなる。
また何か注意されるのだろうかと、ビクビクしながら浩介の言葉を待つ。
「美咲ちゃんが入ったら、バトンクラブすごくよくなったね! 鼓笛隊はバトンを引き立てるように、バトンは鼓笛隊を引き立てるように、お互い頑張ろう」
浩介が右手を差し出してきて、美咲は驚いた。
美咲が恐る恐る浩介の手を握ると、浩介はブンブンと勢いよく握手した。
そうか。浩介はバトンクラブではないけど、鼓笛隊として一緒に演技を作る仲間なのだ。
(ここにもわたしの仲間はいっぱいいる!)
真剣に太鼓を叩く、浩介のまなざしが、まぶしかった。
バトン教室の時は、いつもCDの曲に合わせて踊っていた。もちろん、鼓笛隊と一緒に演技をしたことなんてなかった。
音楽はバトンを引き立てるものと思っていたが、そうではない。
運動会では、鼓笛隊と一緒になって、一つの演技を作るのだ。
バトンクラブは人数が少ないからと言って、鼓笛隊の迫力に負けてはいけない。
生演奏に合わせて踊ると、やる気がぐんと増した。
「浩介君、なにかうるさいこと言ってこなかった?」
合同練習が終わると、亜紀が心配そうに話しかけてきた。
「そんなことないよ。バトンクラブすごくよくなったって言ってたよ。一緒に頑張ろうって」
「浩介君がほめるなんてめずらしい」
亜紀が、目を丸くした。
「それだけ、みんなのバトンが上手になったってことだよ」
美咲が笑うと、亜紀がうなずいた。
「あさみちゃんも、バトンクラブの演技楽しみにしてるって言ってたよ」
亜紀が、にっこり笑って言った。
クラブに入っていないあさみは、学校が終わるといつも急いで帰ってしまう。
「あさみちゃんも、バトンクラブ入ってくれればいいのにね」
「うーん。あさみちゃんは多分、無理かな」
亜紀が首をかしげながら言った。
どうして無理なのだろう。美咲の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「亜紀ちゃん、美咲ちゃん、もう1回練習しようよ!」
ちえみとさおりがかけよってきて、あさみの話はそこで終わってしまった。
美咲が言うと、今回は、三人ともすぐに賛成してくれた。
「やってみたい! 練習して、新しい技ができるようになると、すっごく気分がいいんだもん」
ちえみが言うと、さおりも、
「運動会に間に合うかわからないけど、とにかく挑戦してみようよ」
と、目を輝かせた。
「ちょっと、ここじゃせまいなぁ」
美咲は、ため息をつきながら、腕組みした。
「サッカーの子たち、ちょうど今、休憩中みたいだよ」
亜紀が運動場を指さした。
「隅の方なら空いているから、使わせてもらおう」
さおりが飛び出すと、他の三人もそれに続いた。
「ワンスピンした後、踊りながら、トランプのダイヤの形に移動して」
美咲はスニーカーで軽く土を削って、さおりとちえみの立つ位置に、印をつけた。
「亜紀ちゃんがここで、わたしがこっちね」
亜紀と美咲も、立ち位置を決めた。
「この位置で、バトン交換をするの」
「バトンを、相手に投げるってこと?」
さおりが、美咲の方を見る。
美咲がうなずくと、
「わたしと美咲ちゃん、遠くなーい?」
と、亜紀が叫んだ。
「亜紀ちゃんなら大丈夫! さおりちゃんとちえみちゃんは、6年生最後の運動会の思い出に。わたしと亜紀ちゃんは……」
口ごもる美咲を、亜紀が首をかしげて不思議そうに見ている。
亜紀とは出会ったばかりだが、いつの間にか美咲にとってすごく大切な存在になっていた。これからもっともっと、仲良くなりたい、素直にそう思った。
美咲は、少し気はずかしかったけど、力強く叫んだ。
「わたしと亜紀ちゃんは、友情のあかしに!」
もしかしたら理央のように、友だちだと思っているのは自分だけだったらどうしようかと美咲は不安になった。
だが亜紀が、にっこり笑いながら強くうなずくのを見て、美咲はほっとした。
転入初日、美咲は亜紀と友だちだと思われるのが嫌だと思った。
亜紀のことを何も知らないくせに、見た目だけで友だちを選ぼうとした。
美咲は心の中で、ごめんねとつぶやく。
美咲は息を大きく吸って、みんなに向かって叫んだ。
「バトン交換は、自分を信じて、相手のことも信頼していないと、成功しないんだからね!」
「とにかく、やってみようよ!」
さおりが、バトンを胸の前で回しながら、待ちきれない様子で言った。
「じゃ、いくよ。せーの!」
美咲の合図で、4本のバトンは一斉に宙を舞った。
強い風が吹いて、下からブワッと砂埃が舞い上がる。
バトンは、自由な鳩のように、思い思いの方へ飛んでいく。
2本が宙でぶつかって落下し、残りの2本も誰の手に収まることなく、土の上に転がった。
四人は、一斉にバトンを拾いに走った。
「もう1回いくよー」
美咲が声を張りあげる。
「オッケー」
他の三人の声が、ぴったりと重なった。
◇
運動会の1週間前に、何回か鼓笛隊との合同練習があった。生演奏は、やっぱり迫力があった。
合同練習の時、鼓笛隊に入っている、同じクラスの男の子が声をかけてきた。転入初日に、廊下は走っちゃいけないんだよ、と注意してきた佐藤浩介だ。
浩介はクラスの学級委員をやっていた。廊下を走っている人を注意するのは、学級委員の仕事の一つだと、後から美咲は知った。
毎日のようにクラスメイトに注意をしている浩介は、あの日のことはもう覚えていないかもしれない。
だが、美咲はずっと気にしていた。
あれ以来、美咲は浩介と目を合わせないようにしていた。だから、こんなに近くで顔を見るのは初めてだった。
ひょろっと背の高い浩介が、美咲を見下ろしている。
浩介は、眉毛が太くてきりっとしている。正義感の強そうな顔立ちをしていた。
思わず美咲は、顔が熱くなる。
また何か注意されるのだろうかと、ビクビクしながら浩介の言葉を待つ。
「美咲ちゃんが入ったら、バトンクラブすごくよくなったね! 鼓笛隊はバトンを引き立てるように、バトンは鼓笛隊を引き立てるように、お互い頑張ろう」
浩介が右手を差し出してきて、美咲は驚いた。
美咲が恐る恐る浩介の手を握ると、浩介はブンブンと勢いよく握手した。
そうか。浩介はバトンクラブではないけど、鼓笛隊として一緒に演技を作る仲間なのだ。
(ここにもわたしの仲間はいっぱいいる!)
真剣に太鼓を叩く、浩介のまなざしが、まぶしかった。
バトン教室の時は、いつもCDの曲に合わせて踊っていた。もちろん、鼓笛隊と一緒に演技をしたことなんてなかった。
音楽はバトンを引き立てるものと思っていたが、そうではない。
運動会では、鼓笛隊と一緒になって、一つの演技を作るのだ。
バトンクラブは人数が少ないからと言って、鼓笛隊の迫力に負けてはいけない。
生演奏に合わせて踊ると、やる気がぐんと増した。
「浩介君、なにかうるさいこと言ってこなかった?」
合同練習が終わると、亜紀が心配そうに話しかけてきた。
「そんなことないよ。バトンクラブすごくよくなったって言ってたよ。一緒に頑張ろうって」
「浩介君がほめるなんてめずらしい」
亜紀が、目を丸くした。
「それだけ、みんなのバトンが上手になったってことだよ」
美咲が笑うと、亜紀がうなずいた。
「あさみちゃんも、バトンクラブの演技楽しみにしてるって言ってたよ」
亜紀が、にっこり笑って言った。
クラブに入っていないあさみは、学校が終わるといつも急いで帰ってしまう。
「あさみちゃんも、バトンクラブ入ってくれればいいのにね」
「うーん。あさみちゃんは多分、無理かな」
亜紀が首をかしげながら言った。
どうして無理なのだろう。美咲の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「亜紀ちゃん、美咲ちゃん、もう1回練習しようよ!」
ちえみとさおりがかけよってきて、あさみの話はそこで終わってしまった。
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