踊るねこ

ことは

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13 ダンスが好き

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 隼人のレッスンは、マイ先生以上にスパルタだった。

「モモ、入るとこ違う! ワン、じゃなくて、ワンエンツーの、エンで入れ」

「エンって、何よエンて?」

 モモが、はるかに耳打ちしてくる。

「ワン、&(エンド)、ツーのエンド。1と2のカウントの間で入るんだよ」

 はるかがカウントを取りながら上半身をウェーブさせて、モモにお手本を見せた。

 モモが確認し終わらないうちに、曲がかけられる。
 
 呼吸も整っていないが、はるかとモモは音楽に合わせて休みなくステップを踏む。

 隼人の目が鋭く光る。

「はるか! そこはリズム、裏取りでって言っただろ」

 曲が止められる。

「裏取り?」

 モモが首をかしげる。

「全部エンドのカウントで、リズム取っていくことだよ。わたし、苦手なんだ」

「見本」

 隼人が、曲に合わせて踊る。ステップを踏む隼人は、黒豹のようだった。キレが違う。

 表現力も、はるかとは比べものにならない。怪我した左手が使えないことが、全然気にならないほど迫力があった。

 はるかもモモも肩で息をしながら、隼人のダンスを見つめた。

「一緒に踊れ」

 隼人のダンスを見ながら、はるかとモモも踊る。隼人のパワーにひっぱられるように、全身を激しく動かしていく。重いビートが、体の中にズシンと心地良くひびく。

 最高に楽しかった。

 このままずっと、踊っていたい。

 曲が終わった時、息を切らしながらモモが、
「めっちゃ楽しかったー」
と、叫んだ。

「わたしもっ」
と、はるかも叫ぶ。

「隼人先輩、わたし、ダンサーになりたいんです。ダンサーになりたくて、ダンスやってました。でも、それってちょっと違ってた」

「どういうこと?」

 隼人が聞いた。

「わたし、ダンスが好きです。本当に好きです。ダンスが好きだから、ダンサーになりたい! そういうことです!」

「なるほどね」

 隼人が、腕組みしてうなずく。

「え? え? どういうこと? はるか? わたし、イミわかんない」

 モモの反応に、はるかと隼人は、顔を見合わせて笑った。

 そのまま三人は、ベンチで少し休憩することにした。

「そうだ。クッキーがあるんだ」

 はるかはバッグから、キッチンペーパーに包まれたクッキーを取り出した。

「すげー。うまそー。これ、はるかが作ったの?」

「あ、いえ。わたしと言いたいところだけど、友達のお母さんが」

「なーんだ」
と、隼人は一枚口に入れた。

「すげーうまいぞ、これ」

 おいしそうな顔をする隼人に、はるかはうれしくなった。

(今度は、わたしが作ってこよう)

 モモが、ベンチから立ち上がった。

「ジュース、買って来るね」

「モモ、オレのもお願い」

 隼人がポケットから財布を出して、丸ごとモモに投げる。

 オッケー、とモモが、公園の外の自動販売機に向かって走って行く。

「隼人先輩。わたしとモモ、そっくりなのに、どうして区別がつくんですか?」

 隼人が、2枚目のクッキーをほおばりながら言った。

「前にも言ったけど、雰囲気で。形で言うと、モモが丸ならはるかは三角」

「わたし、とがってるってことですか?」

 はるかは、すねたように言った。

「あはは。でも、そのほうが人間ぽくていいじゃん。オレは、好きだけど」

(え? 今、好きって言った? どういう意味?)

 ドキドキした。

「オレは、ちょっととがってる位の人間の方が好きだなー」

(なんか、その言い方だと、がっかりなんですけど!)

 隼人は、自動販売機の前にいるモモに目をやった。

「モモちゃんって、なんか宇宙人ぽいよね」

(隼人センパイ、するどすぎ!)

 モモが、ジュースを3本抱えて戻ってきた。

「どれがいい?」

「サンキュー。オレ、これ」
と、隼人はプルタブを開け、ゴクゴクと喉をならした。

 隼人の手に握られた缶を見つめるはるかに、隼人が言った。

「あれ、おまえもサイダーの方が良かった?」

 ううん、とはるかは首を振って、クッキーを一口かじった。

 甘くて、優しい味がした。
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