リンネは魔法を使わない

ことは

文字の大きさ
上 下
11 / 14

11 いいところも悪いところも全部

しおりを挟む
 学校でナナとちゃんと話せないまま、土曜日になってしまった。

(電話してみようかな)

 リンネはリビングに行って、電話の受話器を取った。

 だが、リンネはため息をひとつつくと、受話器をそのまま元に戻した。

 ナナはきっと、まだ怒っているに決まっている。電話をしても、もっと話がこじれるだけのような気がした。

「やっぱりこういうことは、会って話さないと」

 だが、落ち着かない気分のまま、土日を過ごすと思うと嫌だった。学校でナナに会える月曜日が、まるで1年も先のように遠く感じた。

「ねぇ、お母さん。なにか買ってくるものない?」

 なにかしていないと、気がまぎれない。

「あら、おつかいに行ってくれるの?」

 お母さんはキッチンで、昼ご飯の準備をしている。

「ちょうどよかった。牛乳がないから、買ってきてくれる? もうすぐお昼ご飯だから、ダッシュでお願い」

 お母さんは財布から千円札を出し、リンネに渡した。

「わかった。行ってくる」

 スーパーまでは、歩いて5分だったが、リンネは少し遠回りした。

 ナナの家の前を通ってみようと思ったのだ。もしかしたら、偶然会えるかもしれない。

 カーブミラーのある次の角を曲がれば、ナナの家が見える。

 リンネはドキドキしながら、早足で歩いた。角を曲がって走ろうとした瞬間、リンネは足を止めた。ナナが家の前にいたのだ。

 ゆっくりとナナに近づいていくと、リンネの心臓がドクンと跳びはねた。

 こっちを見るナナの目が、暗い輝きを帯びている。

「ジュエルにまた、なにか願ったの?」

 リンネは震える声で聞いた。

「願っちゃ悪い? こんなわたしとは友だちやめたい?」

 ナナが、唇の端をゆがめている。

「友だちやめたいなんて、思うわけないじゃん」

 リンネがジュエルにかけた願いは、まだ効果が消えていないかもしれない。だとしたら、リンネは魔法でナナの気持ちを変えることができる。

 だが、リンネは魔法を使わない。使えたとしても、使わない。

(わたしには、言葉がある)

 言葉は、人間が持つ魔法の力だ。

「ナナがジュエルに願いをかけてもかけなくても関係ない。ナナのいいところも悪いところも全部、大好きなんだよ、わたし。ナナが大好きなの」

 リンネは心をこめて伝えた。

 ダンサーになるために、人一倍努力しているナナ。もし、ナナがジュエルになにか悪いことを願うようなことがあっても、ナナはナナ。心の強さも弱さも全部ひっくるめてナナなのだ。

「ジュエルがなくたって、ナナは夢を叶えられるよ。絶対に大丈夫」

 リンネはナナに一歩近づいた。

 ナナが後ずさりする。

「ダメ。ジュエルがなくちゃダメなの」

 ナナの瞳が不安そうに揺れている。

「ジュエルをかして。それは、ナナには必要のないものなの」

 リンネはそっと、手の平をナナに差し出した。

 ナナが激しく首を横に振って、家に戻ろうとした。

「お願い待って。話を聞いて。あのジュエルは……」

「リンネなんか、知らない!」

 ナナは叫ぶと、玄関ドアの向こうに消えてしまった。ナナに拒絶されたようで、リンネは心がかき乱される。

「ナナ……。わたしにこれ以上、なにができる?」

 リンネはぼんやりと歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

踊るねこ

ことは
児童書・童話
ヒップホップダンスを習っている藤崎はるかは、ダンサーを夢見る小学6年生。ダンスコンテストに出る選抜メンバーを決めるオーディション前日、インフルエンザにかかり外出禁止となってしまう。 そんな時、はるかの前に現れたのは、お喋りができる桃色のこねこのモモ。キラキラ星(せい)から来たというモモは、クローン技術により生まれたクローンモンスターだ。どんな姿にも変身できるモモは、はるかの代わりにオーディションを受けることになった。 だが、モモはオーディションに落ちてしまう。親友の結衣と美加だけが選抜メンバーに選ばれ、落ちこむはるか。 一度はコンテスト出場を諦めたが、中学1年生のブレイクダンサー、隼人のプロデュースで、はるかの姿に変身したモモと二人でダンスコンテストに出場することに!? 【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。 https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl

ちいさな哲学者

雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

ふさすぐりと巨人のお話

ふしきの
児童書・童話
大人のおとぎ話

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

処理中です...