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学校でナナとちゃんと話せないまま、土曜日になってしまった。
(電話してみようかな)
リンネはリビングに行って、電話の受話器を取った。
だが、リンネはため息をひとつつくと、受話器をそのまま元に戻した。
ナナはきっと、まだ怒っているに決まっている。電話をしても、もっと話がこじれるだけのような気がした。
「やっぱりこういうことは、会って話さないと」
だが、落ち着かない気分のまま、土日を過ごすと思うと嫌だった。学校でナナに会える月曜日が、まるで1年も先のように遠く感じた。
「ねぇ、お母さん。なにか買ってくるものない?」
なにかしていないと、気がまぎれない。
「あら、おつかいに行ってくれるの?」
お母さんはキッチンで、昼ご飯の準備をしている。
「ちょうどよかった。牛乳がないから、買ってきてくれる? もうすぐお昼ご飯だから、ダッシュでお願い」
お母さんは財布から千円札を出し、リンネに渡した。
「わかった。行ってくる」
スーパーまでは、歩いて5分だったが、リンネは少し遠回りした。
ナナの家の前を通ってみようと思ったのだ。もしかしたら、偶然会えるかもしれない。
カーブミラーのある次の角を曲がれば、ナナの家が見える。
リンネはドキドキしながら、早足で歩いた。角を曲がって走ろうとした瞬間、リンネは足を止めた。ナナが家の前にいたのだ。
ゆっくりとナナに近づいていくと、リンネの心臓がドクンと跳びはねた。
こっちを見るナナの目が、暗い輝きを帯びている。
「ジュエルにまた、なにか願ったの?」
リンネは震える声で聞いた。
「願っちゃ悪い? こんなわたしとは友だちやめたい?」
ナナが、唇の端をゆがめている。
「友だちやめたいなんて、思うわけないじゃん」
リンネがジュエルにかけた願いは、まだ効果が消えていないかもしれない。だとしたら、リンネは魔法でナナの気持ちを変えることができる。
だが、リンネは魔法を使わない。使えたとしても、使わない。
(わたしには、言葉がある)
言葉は、人間が持つ魔法の力だ。
「ナナがジュエルに願いをかけてもかけなくても関係ない。ナナのいいところも悪いところも全部、大好きなんだよ、わたし。ナナが大好きなの」
リンネは心をこめて伝えた。
ダンサーになるために、人一倍努力しているナナ。もし、ナナがジュエルになにか悪いことを願うようなことがあっても、ナナはナナ。心の強さも弱さも全部ひっくるめてナナなのだ。
「ジュエルがなくたって、ナナは夢を叶えられるよ。絶対に大丈夫」
リンネはナナに一歩近づいた。
ナナが後ずさりする。
「ダメ。ジュエルがなくちゃダメなの」
ナナの瞳が不安そうに揺れている。
「ジュエルをかして。それは、ナナには必要のないものなの」
リンネはそっと、手の平をナナに差し出した。
ナナが激しく首を横に振って、家に戻ろうとした。
「お願い待って。話を聞いて。あのジュエルは……」
「リンネなんか、知らない!」
ナナは叫ぶと、玄関ドアの向こうに消えてしまった。ナナに拒絶されたようで、リンネは心がかき乱される。
「ナナ……。わたしにこれ以上、なにができる?」
リンネはぼんやりと歩き出した。
(電話してみようかな)
リンネはリビングに行って、電話の受話器を取った。
だが、リンネはため息をひとつつくと、受話器をそのまま元に戻した。
ナナはきっと、まだ怒っているに決まっている。電話をしても、もっと話がこじれるだけのような気がした。
「やっぱりこういうことは、会って話さないと」
だが、落ち着かない気分のまま、土日を過ごすと思うと嫌だった。学校でナナに会える月曜日が、まるで1年も先のように遠く感じた。
「ねぇ、お母さん。なにか買ってくるものない?」
なにかしていないと、気がまぎれない。
「あら、おつかいに行ってくれるの?」
お母さんはキッチンで、昼ご飯の準備をしている。
「ちょうどよかった。牛乳がないから、買ってきてくれる? もうすぐお昼ご飯だから、ダッシュでお願い」
お母さんは財布から千円札を出し、リンネに渡した。
「わかった。行ってくる」
スーパーまでは、歩いて5分だったが、リンネは少し遠回りした。
ナナの家の前を通ってみようと思ったのだ。もしかしたら、偶然会えるかもしれない。
カーブミラーのある次の角を曲がれば、ナナの家が見える。
リンネはドキドキしながら、早足で歩いた。角を曲がって走ろうとした瞬間、リンネは足を止めた。ナナが家の前にいたのだ。
ゆっくりとナナに近づいていくと、リンネの心臓がドクンと跳びはねた。
こっちを見るナナの目が、暗い輝きを帯びている。
「ジュエルにまた、なにか願ったの?」
リンネは震える声で聞いた。
「願っちゃ悪い? こんなわたしとは友だちやめたい?」
ナナが、唇の端をゆがめている。
「友だちやめたいなんて、思うわけないじゃん」
リンネがジュエルにかけた願いは、まだ効果が消えていないかもしれない。だとしたら、リンネは魔法でナナの気持ちを変えることができる。
だが、リンネは魔法を使わない。使えたとしても、使わない。
(わたしには、言葉がある)
言葉は、人間が持つ魔法の力だ。
「ナナがジュエルに願いをかけてもかけなくても関係ない。ナナのいいところも悪いところも全部、大好きなんだよ、わたし。ナナが大好きなの」
リンネは心をこめて伝えた。
ダンサーになるために、人一倍努力しているナナ。もし、ナナがジュエルになにか悪いことを願うようなことがあっても、ナナはナナ。心の強さも弱さも全部ひっくるめてナナなのだ。
「ジュエルがなくたって、ナナは夢を叶えられるよ。絶対に大丈夫」
リンネはナナに一歩近づいた。
ナナが後ずさりする。
「ダメ。ジュエルがなくちゃダメなの」
ナナの瞳が不安そうに揺れている。
「ジュエルをかして。それは、ナナには必要のないものなの」
リンネはそっと、手の平をナナに差し出した。
ナナが激しく首を横に振って、家に戻ろうとした。
「お願い待って。話を聞いて。あのジュエルは……」
「リンネなんか、知らない!」
ナナは叫ぶと、玄関ドアの向こうに消えてしまった。ナナに拒絶されたようで、リンネは心がかき乱される。
「ナナ……。わたしにこれ以上、なにができる?」
リンネはぼんやりと歩き出した。
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