演じる家族

ことは

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5-4

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「最近、やけに早く教室出ると思ってたら、いつもこいつの所に来てたのかよ」

 翔太が、俊介の頭をはたく。いってーな、と言いながら俊介は乱れた髪を手櫛で直した。

「未来の記憶喪失事件から、二日に一度は、口説きに来てるよねー」

 美波が教室から出てきて、未来と俊介に翔太が加わったばかりの輪の中に入ってきた。それを追いかけるようにして、恵理が廊下に出てくる。

「おいおい、みんなして、俺と未来ちゃんの仲を裂きにきたわけ?」

 俊介がおどけるように、未来の肩に手を回した。未来がさりげなく体を避けようとした時だった。

「さわんなよ」

 翔太の低い声に、未来は心臓をキュッとつかまれた。

「何それ、いきなり彼氏ヅラかよ」

 俊介の言い方は喧嘩ごしではなく、ヘラヘラしていた。

 だが、行動はそれに反し、やめるどころか乱暴に未来をぐっと自分の方に引き寄せた。未来は体を縮こまらせる。

「やだ、三角関係?」

 美波がわざとふざけた調子で笑う。恵理は何も言わずに困った顔をしていた。

「未来ちゃんとは、ただの幼なじみなんだろ?」

 俊介が確認するように、ゆっくりと言った。翔太は俊介から目をそらしただけで、何も言わない。

「翔太は俺を探しにきたわけ? それとも未来ちゃんに会いに来たわけ?」

 俊介はそう言いながら、やっと未来の肩から手を離した。カチコチに固まっていた未来の体が、解放される。

「俺はよくわかんないけど、なんだか急にハルちゃんのことが気になったから……」

 翔太はそっぽを向いたままそう言うと、思い出したように未来の方に向き直った。

「ハルちゃん、具合はどう?」

「実は、昨日からあまり調子が良くないみたいで、口数も少ないし食事も進まないの」

「それは、心配だなぁ……」

 翔太の表情が陰るのを見て、未来は慌てて付け加えた。

「あっ、でも体調が良くなったり悪くなったりするのは、いつものことだから」

「けどあれから、体調悪いままなんだ」

 美波が、険しい顔をして言った。

「わたしも心配……」

 恵理の呟きが、重く沈んでいく。

 未来はみんなに心配されればされるほど、何か悪いことが起きそうな気がして、一刻も早く家に帰りたくなった。1秒でも早く、春子の顔が見たくなった。

「ハルちゃんって誰?」

 重い空気の間を縫うようにして、俊介が聞いた。

 未来は一瞬ためらって、
「双子のお姉ちゃん。病気でほとんど寝たきりなの」
と、一息に答えた。

「未来ちゃん、双子だったのかぁ。もしかして、翔太が好きなのは、その姉ちゃんの方とか?」

 翔太の顔に、困惑の色が浮かぶ。

「いや、やっぱり未来ちゃんだったりする?」

 翔太は押し黙ったままだ。

 俊介が、教室の時計を見た。

「あっ、いけね。こんな時間か。あー、もうめんどくせー。翔太が誰を好きでも俺には関係ねーや。俺、今日塾があるから、もう帰るわ」

 俊介はあっという間に、走り去っていった。

「俊介には、本当のこと、話さないんだ」

 翔太がぽつりと言った。

「だって俊介君って、なんか軽そうだし」

 未来が言うと、美波が、
「あっ、翔太君、今嬉しそうな顔したー」
と、翔太を指差して笑った。

「してねーよ」

「絶対した、した。ね、恵理ちゃんも今見たでしょ?」

 恵理が、え? と返事に困っている。

「もう、美波、からかわないでよ」

 未来は、急激に熱くなった顔を手で扇いだ。

「もうすぐ冬休みに入るけど、休み中でもいいから、何か俺にできることあったら言って。ハルちゃんには俺も世話になったし、必要ならまた会いにいくから」

 未来がうなずくと、じゃあな、と翔太は帰って行った。

「翔太君、本当は今日、未来の家に行きたかったんじゃない? 今日、翔太君、部活休みでしょ? ハルちゃんのことも心配かもだけど、狙いは未来だな」

 美波が腕を組みながら、翔太の背中を見つめて、うん、うんと一人でうなずいている。

「そんなんじゃないよー。翔君は本当にハルちゃんのこと心配してるだけだよ。でも、ハルちゃんの体調がもう少しよくならないと、みんなには来てもらえないな」

「わたしたち、いつでも行くから、また呼んでね」

 美波が言うと、恵理も、
「ハルちゃん、早くよくなるといいね」
と、眉を八の字に曲げて言った。

 未来は、みんながまた、春子の部屋に遊びに来る日を想像しようとした。

 だが、うまく頭に思い浮かべることが出来なかった。それは、自分の想像力の欠如だけが原因であることを切に願った。
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