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4幽霊
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「未来ちゃん、友だち連れて来てくれたの? 嬉しい」
春子は今回もまた、美波と恵理のことを覚えていなかった。
未来は、美波が演劇部だということを春子に知られない方がいいと思った。
二人を簡単に紹介すると、部活の話になる前に、未来はすぐに本題に入った。
「あのね、ハルちゃん、女の子の幽霊に悩まされているでしょ?」
未来が言うと、春子の顔が暗くなった。
「どうしてかな。忘れたくないことはすぐに忘れちゃうのに、忘れたいことは絶対に忘れることができない」
春子が両手で顔を覆う。
「あの子、死神かもしれない。わたし、もうすぐ死んじゃうような気がするの。この頃、怖くてたまらないんだ」
「そのこと二人に話したらね、恵理ちゃんが、除霊したらいいんじゃないかって言うんだ」
「除霊? どうやって?」
春子が興味を示した。顔を上げ、背筋をピンと伸ばしている。
「恵理ちゃんのこの格好、何か気がつかない?」
「巫女さんがいるなぁ、とは思っていたけど、それが何か?」
全員が恵理に注目すると、恵理は目をキョロキョロさせてうつむいた。
「恵理ちゃん、除霊ができるんだよ」
美波が、恵理の両肩に手を置いて春子の前に押し出すようにする。
「お父さんの職業なんだっけ?」
美波が恵理の顔を覗きこむ。
「え? えっとぉ……」
恵理が手をモジモジさせている。緊張しているのか、聞き取れないほど声が小さい。
「神主さんなんだよね?」
未来が聞いても、恵理は声を出さずに頷いただけだった。
美波が恵理の肩をポンポンと叩きながら続けて話す。
「恵理ちゃん、もう除霊モードに入っているみたい。除霊の前は、あまり口をきかなくなるんだ。そうだよね?」
恵理は、う、と小さく声を漏らしただけで、すぐにうつむいた。
「お父さん、全国的にもすごーく有名な神主さんなんだよ。恵理ちゃんにはね、生まれつき不思議な力があるの。見えない物を透視したり、予知夢を見たり、空を飛んだり?」
美波が自分の言っていることに、自分で首をかしげた。
空は飛ばないでしょ、空は。と未来が美波の耳元でささやく。
「そ、空も飛べます!」
恵理が突然大きな声を出した。
「えっ!」
美波と未来が、恵理を同時に見る。
未来が、春子の表情を盗み見ると、眉間に皺を寄せている。
嘘がばれただろうか。この計画は失敗に終わるのだろうか。
「空を飛べるって……。つまり、幽体離脱ができるってこと?」
春子が疑わしい目で恵理を見る。
「あ、まぁそんな所です……」
恵理の声が小さくなっていく。
そう、そう、と美波が声を重ねる。
「恵理ちゃんは、体から魂だけ抜け出すことができるのよ。魂だけになれば、空だって飛べる」
美波が自信満々に説明すると、恵理ももっともらしく、首を縦に振っている。
美波が声のトーンを落として、真面目な顔をして話す。
「それからね、魂だけの存在を呼び出して、誰かの体にのりうつらせることもできるの。今からやろうとしていることはそれ」
「魂だけの存在って幽霊のこと?」
春子が身を乗り出すと、ゆっくりと美波がうなずいた。
「女の子の幽霊を、わたしの体に降霊させようとしているの。そしてどうしてハルちゃんの前に現れるのか話を聞きだして、最終的には除霊する」
部屋が静まり返る。待機状態になっていたエアコンが、ゴーっと暖かい空気を吐き出す。
「ハルちゃん、恵理ちゃんに、お願い、してみない?」
未来が、春子の気持ちを探るようにゆっくりと言った。
春子が、未来を見つめる。顔を未来の方に向けたまま、恵理に視線を移す。
「信じてもいいの?」
恵理の視線が一瞬泳ぐ。嘘をつくことにためらいを感じているのか、一度開いた口を閉じた。
だが、次の瞬間、恵理は春子の目をまっすぐに見た。
「わたしの力を信じてください」
春子が、ゆっくりと頷いた。
春子は今回もまた、美波と恵理のことを覚えていなかった。
未来は、美波が演劇部だということを春子に知られない方がいいと思った。
二人を簡単に紹介すると、部活の話になる前に、未来はすぐに本題に入った。
「あのね、ハルちゃん、女の子の幽霊に悩まされているでしょ?」
未来が言うと、春子の顔が暗くなった。
「どうしてかな。忘れたくないことはすぐに忘れちゃうのに、忘れたいことは絶対に忘れることができない」
春子が両手で顔を覆う。
「あの子、死神かもしれない。わたし、もうすぐ死んじゃうような気がするの。この頃、怖くてたまらないんだ」
「そのこと二人に話したらね、恵理ちゃんが、除霊したらいいんじゃないかって言うんだ」
「除霊? どうやって?」
春子が興味を示した。顔を上げ、背筋をピンと伸ばしている。
「恵理ちゃんのこの格好、何か気がつかない?」
「巫女さんがいるなぁ、とは思っていたけど、それが何か?」
全員が恵理に注目すると、恵理は目をキョロキョロさせてうつむいた。
「恵理ちゃん、除霊ができるんだよ」
美波が、恵理の両肩に手を置いて春子の前に押し出すようにする。
「お父さんの職業なんだっけ?」
美波が恵理の顔を覗きこむ。
「え? えっとぉ……」
恵理が手をモジモジさせている。緊張しているのか、聞き取れないほど声が小さい。
「神主さんなんだよね?」
未来が聞いても、恵理は声を出さずに頷いただけだった。
美波が恵理の肩をポンポンと叩きながら続けて話す。
「恵理ちゃん、もう除霊モードに入っているみたい。除霊の前は、あまり口をきかなくなるんだ。そうだよね?」
恵理は、う、と小さく声を漏らしただけで、すぐにうつむいた。
「お父さん、全国的にもすごーく有名な神主さんなんだよ。恵理ちゃんにはね、生まれつき不思議な力があるの。見えない物を透視したり、予知夢を見たり、空を飛んだり?」
美波が自分の言っていることに、自分で首をかしげた。
空は飛ばないでしょ、空は。と未来が美波の耳元でささやく。
「そ、空も飛べます!」
恵理が突然大きな声を出した。
「えっ!」
美波と未来が、恵理を同時に見る。
未来が、春子の表情を盗み見ると、眉間に皺を寄せている。
嘘がばれただろうか。この計画は失敗に終わるのだろうか。
「空を飛べるって……。つまり、幽体離脱ができるってこと?」
春子が疑わしい目で恵理を見る。
「あ、まぁそんな所です……」
恵理の声が小さくなっていく。
そう、そう、と美波が声を重ねる。
「恵理ちゃんは、体から魂だけ抜け出すことができるのよ。魂だけになれば、空だって飛べる」
美波が自信満々に説明すると、恵理ももっともらしく、首を縦に振っている。
美波が声のトーンを落として、真面目な顔をして話す。
「それからね、魂だけの存在を呼び出して、誰かの体にのりうつらせることもできるの。今からやろうとしていることはそれ」
「魂だけの存在って幽霊のこと?」
春子が身を乗り出すと、ゆっくりと美波がうなずいた。
「女の子の幽霊を、わたしの体に降霊させようとしているの。そしてどうしてハルちゃんの前に現れるのか話を聞きだして、最終的には除霊する」
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「ハルちゃん、恵理ちゃんに、お願い、してみない?」
未来が、春子の気持ちを探るようにゆっくりと言った。
春子が、未来を見つめる。顔を未来の方に向けたまま、恵理に視線を移す。
「信じてもいいの?」
恵理の視線が一瞬泳ぐ。嘘をつくことにためらいを感じているのか、一度開いた口を閉じた。
だが、次の瞬間、恵理は春子の目をまっすぐに見た。
「わたしの力を信じてください」
春子が、ゆっくりと頷いた。
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