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4幽霊
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「あら、未来。おかえり」
玄関を開けると、今日子が2階から降りてくる所だった。
しーっと、未来は唇の前で人差し指を立てる。美波と恵理が、こんにちはぁ、とささやき声で頭を下げる。
「こそこそして、どうしたの?」
大きな声で話す今日子を、未来は慌ててリビングに連れ込む。美波と恵理にあがって、と目配せする。
「そんなことして、うまくいくかしら?」
今日子は、除霊の話を聞いても興味がなさそうだった。
「今日は、お茶とかお菓子とか持ってこなくていいから。雰囲気崩れるから」
今日子は、はい、はいと適当に返事をしながらキッチンに入って行った。
恵理は、2階の未来の部屋で、部室から持ってきた巫女の衣装に着替えた。
「やっぱり似合うー」
未来が言うと、恵理は照れたような表情を浮かべた。
「恵理ちゃん可愛い。そうだ。お化粧もしようよ」
美波が、手をパチンと叩きながら言った。
「メイク道具なんて、わたし、持ってないよ」
休みの日に、美波が時々化粧をしていることは知っていたが、未来は七五三の時くらいしか化粧をしたことがない。
「じゃーん」
美波が通学鞄から、ポーチを取り出す。中には、ファンデーションや口紅、アイシャドウなどが詰まっている。
「何で学校にメイク道具なんて持っていってるの?」
「こういう時の為だよ」
「こういう時なんて、普通はないでしょ」
「まぁいいじゃん、いいじゃん。持っているだけで大人な気分になれるんだもん。恵理ちゃん、眼鏡はずすね」
恵理の返事も待たずに、美波は勝手に黒ぶちの眼鏡をはずした。
「ちょ、ちょっと」
恵理が慌てる。
「やっぱりね」
美波が恵理をマジマジと見る。恵理の小さいけれども丸い小動物のような目が、潤んでキラキラしている。
「よくあるパターンってやつだ」
美波が腕を組んでうなずいている。
「眼鏡をとったら美少女だったってやつ?」
未来が聞くと、それ、それと美波が言う。
「なんなのそれ、ほめ殺し?」
恵理が、真っ赤になる。
美波は慣れた手つきで、嫌がる恵理に化粧をほどこしていった。
自然で血色のいい感じに仕上がった。二つに結んでいた髪もほどき、トップだけを後ろで一つに束ねる。
美波が、二つ折りの手鏡を開いて恵理に見せた。美波お気に入りのデコレーションがしてある鏡だ。
「すごい。自分じゃないみたい」
恵理は、興奮して自分の顔を色んな角度から見ている。
「中身を変えるには、まず外見からよ。巫女さんの気分になったでしょう?」
「うん。すごく神聖な気分。除霊も本当にできそうな感じ」
恵理は、声まで明るく透明感のあるものに変わっていた。
「じゃ、ハルちゃんの部屋、いこっか?」
美波が立ち上がった。
「ちょっと待って。除霊って言ったって、どんな風にやったらいいの?」
恵理が床に座ったまま、美波のスカートのすそを掴んで引き戻そうとする。
「今、恵理ちゃん、できそうって言ったじゃん。そんなの、ノリだよノリ」
「やっぱりわたしには、無理」
恵理が拗ねたように、口をへの字に曲げる。
「台本、作る?」
未来が恵理に聞いたが、美波が横から口をはさむ。
「そんなことしてたら、時間がなくなっちゃうよ。せっかく、服もメイクもばっちり決まったのに」
「でも、大まかな流れだけでも決めておかないと、恵理ちゃんも困っているじゃない」
美波が、立ったまま腕組みして首をかしげる。少し考える様子を見せてから話し出した。
「じゃぁ、恵理ちゃんは、その女の子の霊を呼び出して。そして、わたしに降霊させるの。わたしに女の子の幽霊役は任せて」
自信満々に胸を叩く美波とは反対に、恵理は自信なさげにうなずく。
「未来が適当にわたしに話を合わせて、最後に恵理ちゃんに除霊をお願いすれば、恵理ちゃんの出番は少しで済むでしょ。これって、日頃のエチュードの訓練の見せ所じゃない?」
「でも、わたし、演劇部じゃないし。それに未来ちゃん、お芝居やらないって言ってたけど大丈夫?」
恵理はまだ、不安そうな顔をしている。
「本番の舞台に立たないってだけで、普段の発声練習とかエチュードなんかは、ちゃんとやっているよ。多分大丈夫だと思う」
恵理は、もう一度鏡をのぞきこんで、自分の姿をチェックした。
「わかった。わたし、やってみる」
恵理がすくっと立ち上がる。
「ありがとう」
未来が言うと、恵理は意思のこもった目で頷いた。
美波は恵理から手鏡を受け取ると、鞄にしまった。
「じゃぁ、がんばろうねっ」
美波は鞄を肩にかけながら、恵理の背中を叩いた。
玄関を開けると、今日子が2階から降りてくる所だった。
しーっと、未来は唇の前で人差し指を立てる。美波と恵理が、こんにちはぁ、とささやき声で頭を下げる。
「こそこそして、どうしたの?」
大きな声で話す今日子を、未来は慌ててリビングに連れ込む。美波と恵理にあがって、と目配せする。
「そんなことして、うまくいくかしら?」
今日子は、除霊の話を聞いても興味がなさそうだった。
「今日は、お茶とかお菓子とか持ってこなくていいから。雰囲気崩れるから」
今日子は、はい、はいと適当に返事をしながらキッチンに入って行った。
恵理は、2階の未来の部屋で、部室から持ってきた巫女の衣装に着替えた。
「やっぱり似合うー」
未来が言うと、恵理は照れたような表情を浮かべた。
「恵理ちゃん可愛い。そうだ。お化粧もしようよ」
美波が、手をパチンと叩きながら言った。
「メイク道具なんて、わたし、持ってないよ」
休みの日に、美波が時々化粧をしていることは知っていたが、未来は七五三の時くらいしか化粧をしたことがない。
「じゃーん」
美波が通学鞄から、ポーチを取り出す。中には、ファンデーションや口紅、アイシャドウなどが詰まっている。
「何で学校にメイク道具なんて持っていってるの?」
「こういう時の為だよ」
「こういう時なんて、普通はないでしょ」
「まぁいいじゃん、いいじゃん。持っているだけで大人な気分になれるんだもん。恵理ちゃん、眼鏡はずすね」
恵理の返事も待たずに、美波は勝手に黒ぶちの眼鏡をはずした。
「ちょ、ちょっと」
恵理が慌てる。
「やっぱりね」
美波が恵理をマジマジと見る。恵理の小さいけれども丸い小動物のような目が、潤んでキラキラしている。
「よくあるパターンってやつだ」
美波が腕を組んでうなずいている。
「眼鏡をとったら美少女だったってやつ?」
未来が聞くと、それ、それと美波が言う。
「なんなのそれ、ほめ殺し?」
恵理が、真っ赤になる。
美波は慣れた手つきで、嫌がる恵理に化粧をほどこしていった。
自然で血色のいい感じに仕上がった。二つに結んでいた髪もほどき、トップだけを後ろで一つに束ねる。
美波が、二つ折りの手鏡を開いて恵理に見せた。美波お気に入りのデコレーションがしてある鏡だ。
「すごい。自分じゃないみたい」
恵理は、興奮して自分の顔を色んな角度から見ている。
「中身を変えるには、まず外見からよ。巫女さんの気分になったでしょう?」
「うん。すごく神聖な気分。除霊も本当にできそうな感じ」
恵理は、声まで明るく透明感のあるものに変わっていた。
「じゃ、ハルちゃんの部屋、いこっか?」
美波が立ち上がった。
「ちょっと待って。除霊って言ったって、どんな風にやったらいいの?」
恵理が床に座ったまま、美波のスカートのすそを掴んで引き戻そうとする。
「今、恵理ちゃん、できそうって言ったじゃん。そんなの、ノリだよノリ」
「やっぱりわたしには、無理」
恵理が拗ねたように、口をへの字に曲げる。
「台本、作る?」
未来が恵理に聞いたが、美波が横から口をはさむ。
「そんなことしてたら、時間がなくなっちゃうよ。せっかく、服もメイクもばっちり決まったのに」
「でも、大まかな流れだけでも決めておかないと、恵理ちゃんも困っているじゃない」
美波が、立ったまま腕組みして首をかしげる。少し考える様子を見せてから話し出した。
「じゃぁ、恵理ちゃんは、その女の子の霊を呼び出して。そして、わたしに降霊させるの。わたしに女の子の幽霊役は任せて」
自信満々に胸を叩く美波とは反対に、恵理は自信なさげにうなずく。
「未来が適当にわたしに話を合わせて、最後に恵理ちゃんに除霊をお願いすれば、恵理ちゃんの出番は少しで済むでしょ。これって、日頃のエチュードの訓練の見せ所じゃない?」
「でも、わたし、演劇部じゃないし。それに未来ちゃん、お芝居やらないって言ってたけど大丈夫?」
恵理はまだ、不安そうな顔をしている。
「本番の舞台に立たないってだけで、普段の発声練習とかエチュードなんかは、ちゃんとやっているよ。多分大丈夫だと思う」
恵理は、もう一度鏡をのぞきこんで、自分の姿をチェックした。
「わかった。わたし、やってみる」
恵理がすくっと立ち上がる。
「ありがとう」
未来が言うと、恵理は意思のこもった目で頷いた。
美波は恵理から手鏡を受け取ると、鞄にしまった。
「じゃぁ、がんばろうねっ」
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