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3幼なじみ
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「ねっ、おいしいでしょ?」
美波が聞くと、恵理が、
「ほんっと、おいしー」
と、目を丸くした。
窓際の席。陽射しの差し込む明るい店内。月曜日の放課後。三人は、私服に着替えてそれぞれの好みのアイスクリームを手にしていた。
2か月前にオープンしたばかりのこの店は、アイスクリームとトッピングを自由に選んでオーダーできる。
美波はストロベリージェラートにチョコスプレーとナッツのトッピング。恵理は、メロンシャーベットとバニラのミックスにワッフルをのせた。未来はモカと抹茶アイスのダブルにナッツのトッピング。
「相変わらず、未来って変な組み合わせ選ぶよね」
「いいじゃん。美波なんか、いつも同じで飽きない?」
「わたしは未来と違って一途なの」
「わたしもこの組み合わせ、当分はまりそう」
恵理が、コーンからスプーンでアイスクリームをすくって、ぺロッとなめる。
「恵理ちゃんも、一途なタイプか」
美波がスプーンを口にくわえたまま、目をキラっと光らせる。
「ねぇ、恵理ちゃん、好きな男の子とか、いないの?」
「えっええー! いないよ、いない」
恵理が真っ赤になる。
「そんなにうろたえるなんて、あやしいなぁ。絶対、いるな、これは」
「違うよ。本当にいないよ。そんなこと聞かれたの、初めてだから、びっくりしただけ」
恵理は、眼鏡をずりあげて答える。
「好きな男の子かぁ……」
口に出すつもりはなかったのに、未来は呟いていた。
「なに未来。物思いにふけっちゃって。さては、恋の病か?」
美波が、ぼーっとしている未来の顔の前で手を振る。
「そんなんじゃないよ」
未来は慌てて答える。
「好きな子、できたの?」
美波がいたずらっぽい笑顔で、未来の顔を覗きこむ。
「違うってば! 美波こそ、彼氏でもできたんじゃないの?」
「わたしは、彼氏なんて作らないの! だってみんなの、アイドルだもん」
美波が頬に手をあて、大げさにウインクしてみせる。可愛すぎる。本物のアイドルみたいだ。
「美波ほどの子が、こんな田舎の中学で演劇しているなんて、ばかばかしくならない?」
「なんで? そんなことないよ。わたしは今やっていること、すべてが将来につながると思っているから。演劇部に所属していることだけじゃなくて、こうやって未来や恵理ちゃんとアイス食べていることだって全部」
美波はアイスを食べるのも忘れた様子で、一気に喋った。
「美波は前向きでえらいなぁ。わたしなんて、部活も中途半端だし」
「未来も、お芝居やればいいじゃん。高校行っても一緒にやろうよ」
「わたしは演技はちょっと、もういいや……」
「いつも他人が求める永野未来を演じているから? これ以上は演技したくないって?」
美波は笑いながら言ったが、その言葉は未来の胸の奥の急所を捉えた。未来は押し黙った。
「やっぱり、恋の病ですか?」
美波が、一点を見つめる未来の顔の前で手を振る。
未来は、反応できない。三人が黙ると、BGMに流れる洋楽のR&Bのリズムと、他の客の話し声が大きく聞こえてくる。
「ハルちゃんのこと? また何かあったの?」
恵理が沈黙を破った。
「うん、まぁ……。ちょっと、無理っぽい約束しちゃって」
「わたしたちにできることなら、協力するよ」
恵理が言った。
「うん。わたしも協力するよ」
それでも未来が黙っていると、
「ちゃんと言葉にしないと、伝わらないからね」
と、美波が言った。
美波の言い方はさっぱりしていて、嫌味な感じがない。未来は、この二人に話してみよう、と心を決めた。
「うちの学校の、中井翔太って知ってる?」
「知ってる、知ってる!」
美波が身を乗り出してきた。
「翔太君なら、わたしでも、知ってるよ。だって有名人だもん」
恵理も興味深そうに、目を輝かせた。
「翔太君、かっこいいよねー。未来と同じ小学校なんだよね? 未来が翔太君と友だちだったら、是非紹介してほしいくらい」
美波が胸の前で両手を組みながら、うっとりする。
「幼なじみ、なんだ。彼」
「えっ! うそ。だって、未来が翔太君と話しているの、見たことないよ」
翔太とのこれまでの付き合い、翔太を家に連れて行く約束をしてしまったことを二人に話すと、美波も恵理も予想以上に興奮して乗り気になった。
「絶対、これをきっかけにまた仲良くなるべきだよ。でもって、翔太君が未来の家に行く時は、もちろんわたしたちも行っていいよね?」
美波が念押ししてくる。
「それはもちろんだけど、今さら話しかけづらいんだよね」
未来は、コーンの中でドロドロに溶けてしまったアイスを、スプーンで混ぜた。
「わたしたちも一緒について行くから大丈夫だよ。ねっ、恵理ちゃん?」
「あっ、うん。わたし、緊張しちゃって何も喋れないと思うけど」
「明日、誘おうよ」
美波が、最後に残ったコーンのかけらを口に放りこむ。
「わたし、彼氏作らない主義だったのに、心が揺らぐなぁ」
「ほんと、他人ごとだと思って」
未来が美波を睨みつけると、あはは、と美波はわざとらしく笑った。
「でも、何か、元気でた。ありがとね」
美波が聞くと、恵理が、
「ほんっと、おいしー」
と、目を丸くした。
窓際の席。陽射しの差し込む明るい店内。月曜日の放課後。三人は、私服に着替えてそれぞれの好みのアイスクリームを手にしていた。
2か月前にオープンしたばかりのこの店は、アイスクリームとトッピングを自由に選んでオーダーできる。
美波はストロベリージェラートにチョコスプレーとナッツのトッピング。恵理は、メロンシャーベットとバニラのミックスにワッフルをのせた。未来はモカと抹茶アイスのダブルにナッツのトッピング。
「相変わらず、未来って変な組み合わせ選ぶよね」
「いいじゃん。美波なんか、いつも同じで飽きない?」
「わたしは未来と違って一途なの」
「わたしもこの組み合わせ、当分はまりそう」
恵理が、コーンからスプーンでアイスクリームをすくって、ぺロッとなめる。
「恵理ちゃんも、一途なタイプか」
美波がスプーンを口にくわえたまま、目をキラっと光らせる。
「ねぇ、恵理ちゃん、好きな男の子とか、いないの?」
「えっええー! いないよ、いない」
恵理が真っ赤になる。
「そんなにうろたえるなんて、あやしいなぁ。絶対、いるな、これは」
「違うよ。本当にいないよ。そんなこと聞かれたの、初めてだから、びっくりしただけ」
恵理は、眼鏡をずりあげて答える。
「好きな男の子かぁ……」
口に出すつもりはなかったのに、未来は呟いていた。
「なに未来。物思いにふけっちゃって。さては、恋の病か?」
美波が、ぼーっとしている未来の顔の前で手を振る。
「そんなんじゃないよ」
未来は慌てて答える。
「好きな子、できたの?」
美波がいたずらっぽい笑顔で、未来の顔を覗きこむ。
「違うってば! 美波こそ、彼氏でもできたんじゃないの?」
「わたしは、彼氏なんて作らないの! だってみんなの、アイドルだもん」
美波が頬に手をあて、大げさにウインクしてみせる。可愛すぎる。本物のアイドルみたいだ。
「美波ほどの子が、こんな田舎の中学で演劇しているなんて、ばかばかしくならない?」
「なんで? そんなことないよ。わたしは今やっていること、すべてが将来につながると思っているから。演劇部に所属していることだけじゃなくて、こうやって未来や恵理ちゃんとアイス食べていることだって全部」
美波はアイスを食べるのも忘れた様子で、一気に喋った。
「美波は前向きでえらいなぁ。わたしなんて、部活も中途半端だし」
「未来も、お芝居やればいいじゃん。高校行っても一緒にやろうよ」
「わたしは演技はちょっと、もういいや……」
「いつも他人が求める永野未来を演じているから? これ以上は演技したくないって?」
美波は笑いながら言ったが、その言葉は未来の胸の奥の急所を捉えた。未来は押し黙った。
「やっぱり、恋の病ですか?」
美波が、一点を見つめる未来の顔の前で手を振る。
未来は、反応できない。三人が黙ると、BGMに流れる洋楽のR&Bのリズムと、他の客の話し声が大きく聞こえてくる。
「ハルちゃんのこと? また何かあったの?」
恵理が沈黙を破った。
「うん、まぁ……。ちょっと、無理っぽい約束しちゃって」
「わたしたちにできることなら、協力するよ」
恵理が言った。
「うん。わたしも協力するよ」
それでも未来が黙っていると、
「ちゃんと言葉にしないと、伝わらないからね」
と、美波が言った。
美波の言い方はさっぱりしていて、嫌味な感じがない。未来は、この二人に話してみよう、と心を決めた。
「うちの学校の、中井翔太って知ってる?」
「知ってる、知ってる!」
美波が身を乗り出してきた。
「翔太君なら、わたしでも、知ってるよ。だって有名人だもん」
恵理も興味深そうに、目を輝かせた。
「翔太君、かっこいいよねー。未来と同じ小学校なんだよね? 未来が翔太君と友だちだったら、是非紹介してほしいくらい」
美波が胸の前で両手を組みながら、うっとりする。
「幼なじみ、なんだ。彼」
「えっ! うそ。だって、未来が翔太君と話しているの、見たことないよ」
翔太とのこれまでの付き合い、翔太を家に連れて行く約束をしてしまったことを二人に話すと、美波も恵理も予想以上に興奮して乗り気になった。
「絶対、これをきっかけにまた仲良くなるべきだよ。でもって、翔太君が未来の家に行く時は、もちろんわたしたちも行っていいよね?」
美波が念押ししてくる。
「それはもちろんだけど、今さら話しかけづらいんだよね」
未来は、コーンの中でドロドロに溶けてしまったアイスを、スプーンで混ぜた。
「わたしたちも一緒について行くから大丈夫だよ。ねっ、恵理ちゃん?」
「あっ、うん。わたし、緊張しちゃって何も喋れないと思うけど」
「明日、誘おうよ」
美波が、最後に残ったコーンのかけらを口に放りこむ。
「わたし、彼氏作らない主義だったのに、心が揺らぐなぁ」
「ほんと、他人ごとだと思って」
未来が美波を睨みつけると、あはは、と美波はわざとらしく笑った。
「でも、何か、元気でた。ありがとね」
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