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2友だち
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「せっかく来てくれたのに、嫌な思いさせて、ごめんね」
未来は家の門の外に出ると、二人に言った。
夕方5時前だが、外はもう薄暗くなっていた。
車のヘッドライトが、三人の顔を照らし出す。幅5メートルほどしかない道路に広がっていた三人は、一斉に隅に固まって車が通り過ぎるのを待つ。
「こっちこそ、ハルちゃんに嫌な思いさせちゃったみたい。ハルちゃんに、悪いことしちゃったな。やっぱり、わたし、来なければよかったのかも」
美波が、つま先で地面を蹴りながら言った。
「そんなことないよ。ハルちゃん、美波と恵理ちゃんが来てくれて、すごく嬉しそうだったもん。すぐ怒っちゃうのは、病気のせいだから、気にしなくていいよ」
「病気の……病気のせいだけかな」
恵理が、遠慮がちに言った。暗くて、表情はよく見えない。
「ハルちゃん、きっと寂しいんだと思う。わたし、ハルちゃんの気持ち、なんかわかる気がするの」
え? という未来の問いかけに、恵理が続けて話す。
「美波ちゃんと未来ちゃんが、二人で楽しそうに話していた時、わたしも何か喋らなくちゃって思うんだけど、何を言ったらいいのか全然わからなくて。わたし、人と話すの苦手だから……だから絵も家で描いているし」
恵理は、セーラー服のリボンをいじりながら、うつむき加減で話し続ける。
「みんなで一緒に同じ部屋にいるのに、わたし、なんか一人だなぁって思っちゃって。自分の部屋で一人でいるのは平気なのに、大勢でいる時の方がずっと、ずっと寂しくなるの」
「ごめんね。恵理ちゃんの気持ちに気づかずに、勝手に二人で盛り上がっちゃって」
未来は、美波と顔を見合わせた。美波もうなずいている。
「ううん、そんなつもりで言ったんじゃないの。未来ちゃんに誘われた時、わたし、本当に嬉しかったんだよ。わたし、学校以外で遊ぶ友だちなんていないから」
恵理が、顔を上げた。
「それなのに、わたし、うまく話ができなくて。自分で自分に腹が立って。もう爆発しそうって思った時に、ハルちゃんが爆発してくれて。なんかすっきりしたの。その時、わたしって、なんて性格悪いんだって思った。ハルちゃんに怒鳴られている二人を見て、いい気味だって思ったの。謝らなければならないのは、わたしの方。本当にごめんね」
「そんな……、恵理ちゃんは何も悪くないのに」
未来が言うと、美波も、
「そうだよ。悪いのはわたしたちだよ。恵理ちゃんの気持ちも知らないで、二人だけで話しちゃって」
と、勢いよく言った。
「ううん、二人ともわたしに気を使って話しかけてくれたの、わかってる。ハルちゃんの気持ちわかるとか言っちゃったけど、そんなの嘘。それだって、本当は自分の気持ち、こうやって吐き出したかっただけ。あれ、何かわたし、今すごくいっぱい喋ってる?」
美波が、プーっと噴き出した。
「喋ってる、喋ってる、一人で喋りまくりだよ」
「本当だ。人と話すの苦手って、それが大嘘なんじゃない?」
未来も笑いながら、恵理を肘で小突いた。
ふふふ、と恵理も堪えきれずに鼻から笑い声を漏らす。
「何、その笑い方ー!」
美波が恵理を指差すと、恵理は、アハハと声を立てて笑い出した。
「ねぇ、よかったら、また未来ちゃんの家、遊びに来てもいい?」
恵理が言う。
「もちろんだよ、もちろん」
「わたしもちゃんと、誘ってよねー。あっ、でもハルちゃん、わたしにはもう来てほしくないかな」
美波の声が小さくなっていく。
「大丈夫だよ。ハルちゃん、すぐ忘れるから。水に流すっていう意味じゃなくて、本当に忘れちゃうから。だから二人とも、また遊びに来て、お願い」
未来は、両手を顔の前で合わせた。
「未来の頼みじゃ断れないよねー」
そう言う美波に、
「誘われてもいないのに、強引に来たくせに」
笑って言ったのは、未来ではなく、恵理だった。
「恵理ちゃん、どくぜつー」
美波と未来の声が重なった。
未来は家の門の外に出ると、二人に言った。
夕方5時前だが、外はもう薄暗くなっていた。
車のヘッドライトが、三人の顔を照らし出す。幅5メートルほどしかない道路に広がっていた三人は、一斉に隅に固まって車が通り過ぎるのを待つ。
「こっちこそ、ハルちゃんに嫌な思いさせちゃったみたい。ハルちゃんに、悪いことしちゃったな。やっぱり、わたし、来なければよかったのかも」
美波が、つま先で地面を蹴りながら言った。
「そんなことないよ。ハルちゃん、美波と恵理ちゃんが来てくれて、すごく嬉しそうだったもん。すぐ怒っちゃうのは、病気のせいだから、気にしなくていいよ」
「病気の……病気のせいだけかな」
恵理が、遠慮がちに言った。暗くて、表情はよく見えない。
「ハルちゃん、きっと寂しいんだと思う。わたし、ハルちゃんの気持ち、なんかわかる気がするの」
え? という未来の問いかけに、恵理が続けて話す。
「美波ちゃんと未来ちゃんが、二人で楽しそうに話していた時、わたしも何か喋らなくちゃって思うんだけど、何を言ったらいいのか全然わからなくて。わたし、人と話すの苦手だから……だから絵も家で描いているし」
恵理は、セーラー服のリボンをいじりながら、うつむき加減で話し続ける。
「みんなで一緒に同じ部屋にいるのに、わたし、なんか一人だなぁって思っちゃって。自分の部屋で一人でいるのは平気なのに、大勢でいる時の方がずっと、ずっと寂しくなるの」
「ごめんね。恵理ちゃんの気持ちに気づかずに、勝手に二人で盛り上がっちゃって」
未来は、美波と顔を見合わせた。美波もうなずいている。
「ううん、そんなつもりで言ったんじゃないの。未来ちゃんに誘われた時、わたし、本当に嬉しかったんだよ。わたし、学校以外で遊ぶ友だちなんていないから」
恵理が、顔を上げた。
「それなのに、わたし、うまく話ができなくて。自分で自分に腹が立って。もう爆発しそうって思った時に、ハルちゃんが爆発してくれて。なんかすっきりしたの。その時、わたしって、なんて性格悪いんだって思った。ハルちゃんに怒鳴られている二人を見て、いい気味だって思ったの。謝らなければならないのは、わたしの方。本当にごめんね」
「そんな……、恵理ちゃんは何も悪くないのに」
未来が言うと、美波も、
「そうだよ。悪いのはわたしたちだよ。恵理ちゃんの気持ちも知らないで、二人だけで話しちゃって」
と、勢いよく言った。
「ううん、二人ともわたしに気を使って話しかけてくれたの、わかってる。ハルちゃんの気持ちわかるとか言っちゃったけど、そんなの嘘。それだって、本当は自分の気持ち、こうやって吐き出したかっただけ。あれ、何かわたし、今すごくいっぱい喋ってる?」
美波が、プーっと噴き出した。
「喋ってる、喋ってる、一人で喋りまくりだよ」
「本当だ。人と話すの苦手って、それが大嘘なんじゃない?」
未来も笑いながら、恵理を肘で小突いた。
ふふふ、と恵理も堪えきれずに鼻から笑い声を漏らす。
「何、その笑い方ー!」
美波が恵理を指差すと、恵理は、アハハと声を立てて笑い出した。
「ねぇ、よかったら、また未来ちゃんの家、遊びに来てもいい?」
恵理が言う。
「もちろんだよ、もちろん」
「わたしもちゃんと、誘ってよねー。あっ、でもハルちゃん、わたしにはもう来てほしくないかな」
美波の声が小さくなっていく。
「大丈夫だよ。ハルちゃん、すぐ忘れるから。水に流すっていう意味じゃなくて、本当に忘れちゃうから。だから二人とも、また遊びに来て、お願い」
未来は、両手を顔の前で合わせた。
「未来の頼みじゃ断れないよねー」
そう言う美波に、
「誘われてもいないのに、強引に来たくせに」
笑って言ったのは、未来ではなく、恵理だった。
「恵理ちゃん、どくぜつー」
美波と未来の声が重なった。
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