演じる家族

ことは

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「せっかく来てくれたのに、嫌な思いさせて、ごめんね」

 未来は家の門の外に出ると、二人に言った。

 夕方5時前だが、外はもう薄暗くなっていた。

 車のヘッドライトが、三人の顔を照らし出す。幅5メートルほどしかない道路に広がっていた三人は、一斉に隅に固まって車が通り過ぎるのを待つ。

「こっちこそ、ハルちゃんに嫌な思いさせちゃったみたい。ハルちゃんに、悪いことしちゃったな。やっぱり、わたし、来なければよかったのかも」

 美波が、つま先で地面を蹴りながら言った。

「そんなことないよ。ハルちゃん、美波と恵理ちゃんが来てくれて、すごく嬉しそうだったもん。すぐ怒っちゃうのは、病気のせいだから、気にしなくていいよ」

「病気の……病気のせいだけかな」

 恵理が、遠慮がちに言った。暗くて、表情はよく見えない。

「ハルちゃん、きっと寂しいんだと思う。わたし、ハルちゃんの気持ち、なんかわかる気がするの」

 え? という未来の問いかけに、恵理が続けて話す。

「美波ちゃんと未来ちゃんが、二人で楽しそうに話していた時、わたしも何か喋らなくちゃって思うんだけど、何を言ったらいいのか全然わからなくて。わたし、人と話すの苦手だから……だから絵も家で描いているし」

 恵理は、セーラー服のリボンをいじりながら、うつむき加減で話し続ける。

「みんなで一緒に同じ部屋にいるのに、わたし、なんか一人だなぁって思っちゃって。自分の部屋で一人でいるのは平気なのに、大勢でいる時の方がずっと、ずっと寂しくなるの」

「ごめんね。恵理ちゃんの気持ちに気づかずに、勝手に二人で盛り上がっちゃって」

 未来は、美波と顔を見合わせた。美波もうなずいている。

「ううん、そんなつもりで言ったんじゃないの。未来ちゃんに誘われた時、わたし、本当に嬉しかったんだよ。わたし、学校以外で遊ぶ友だちなんていないから」

 恵理が、顔を上げた。

「それなのに、わたし、うまく話ができなくて。自分で自分に腹が立って。もう爆発しそうって思った時に、ハルちゃんが爆発してくれて。なんかすっきりしたの。その時、わたしって、なんて性格悪いんだって思った。ハルちゃんに怒鳴られている二人を見て、いい気味だって思ったの。謝らなければならないのは、わたしの方。本当にごめんね」

「そんな……、恵理ちゃんは何も悪くないのに」

 未来が言うと、美波も、
「そうだよ。悪いのはわたしたちだよ。恵理ちゃんの気持ちも知らないで、二人だけで話しちゃって」
と、勢いよく言った。

「ううん、二人ともわたしに気を使って話しかけてくれたの、わかってる。ハルちゃんの気持ちわかるとか言っちゃったけど、そんなの嘘。それだって、本当は自分の気持ち、こうやって吐き出したかっただけ。あれ、何かわたし、今すごくいっぱい喋ってる?」

 美波が、プーっと噴き出した。

「喋ってる、喋ってる、一人で喋りまくりだよ」

「本当だ。人と話すの苦手って、それが大嘘なんじゃない?」

 未来も笑いながら、恵理を肘で小突いた。

 ふふふ、と恵理も堪えきれずに鼻から笑い声を漏らす。

「何、その笑い方ー!」

 美波が恵理を指差すと、恵理は、アハハと声を立てて笑い出した。

「ねぇ、よかったら、また未来ちゃんの家、遊びに来てもいい?」

 恵理が言う。

「もちろんだよ、もちろん」

「わたしもちゃんと、誘ってよねー。あっ、でもハルちゃん、わたしにはもう来てほしくないかな」

 美波の声が小さくなっていく。

「大丈夫だよ。ハルちゃん、すぐ忘れるから。水に流すっていう意味じゃなくて、本当に忘れちゃうから。だから二人とも、また遊びに来て、お願い」

 未来は、両手を顔の前で合わせた。

「未来の頼みじゃ断れないよねー」

 そう言う美波に、
「誘われてもいないのに、強引に来たくせに」

 笑って言ったのは、未来ではなく、恵理だった。

「恵理ちゃん、どくぜつー」

 美波と未来の声が重なった。
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