演じる家族

ことは

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1地雷

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 期待しないように。今日子の忠告を忘れて、未来は買い物に夢中になった。

 ホームセンターで、カーテンやベッドカバーなど大きな物を購入した後、駅前にあるお気に入りの雑貨屋に寄ってもらった。

 可愛い雑貨に囲まれていると、無意識にテンションが上がってしまう。

 ハート。うさぎ。いちご。ピンク。リボン。女の子の気持ちをぎゅっと掴んで離さない店だ。

 春子の為の買い物なのに、自分も欲しくなってしまう。

 忠義は、少し店を覗いただけで、車で待っているからと出て行った。明らかに店に不釣り合いな父の姿がいたたまれなくて、未来は忠義がいなくなってほっとした。

「未来みーっけ!」

 よく通る高い声に振り向くと、同じクラスで親友の川瀬美波が立っていた。

 透きとおるような白い肌。二重の大きな目は、いつも涙でうるんでいるかのようにキラキラしている。少し傾けた顔。ポニーテールの毛先が揺れている。

 美波の笑顔がまぶしすぎて、未来は目を細めたくなる。

 フードのついた白のダウン。イエローの花柄ミニワンピ。ロングブーツ。美波が身につけるだけで、何もかもが輝いて見える。

 美波は、その辺のアイドルなんかより、断然可愛い。自慢の親友だ。

「未来も買い物? なんか、めちゃめちゃいっぱい買ってんじゃん。金持ち~。」

 未来が抱えているクッションやフロアマットを、美波がうらやましそうに眺める。

「そんなことないよ。相変わらず金欠だよ。今日はちょっと特別なんだ。模様替えしようかと思って」

「未来、この間も部屋、模様替えしたとか言ってなかった?」

「ええっ! あっ、そうだった、かな?」

「やっぱり金持ちはやることが違うね~」

 美波が近所のオバサンがするみたいに、未来の肩をバンバンと叩いてくる。

「だからそんなことないって。模様替えするのは私の部屋じゃなくて……えっと」

「誰の部屋? まさか、未来のお母さんもこういう趣味? うちのおばさんとは違うなぁ。さすが未来のママだよ、若いね」

「じゃなくて、やっぱり私の部屋かも」

 未来の声はだんだんと小さくなっていく。

 美波の透きとおる大きな目から、視線をそらす。そらした視線は、手に持ったクッションから自分の足元へと泳いでいく。

 美波には春子の病気のことを話したことがない。話すつもりもない。

 だから話がややこしくなった。うまい嘘が見つからなくて、挙動不審になる。

「なんか今日の未来、変」

 まっすぐな美波の視線に、足がすくみそうになる。

「そ、そうかな」

「ま、いいや。模様替えしたら、今度見せてよ。遊びに行くから。ねっ!」

「うん。遊びに来て。じゃぁ、お父さんが駐車場で待っているから、私、行くね」

「お父さんと来てたんだ。車で送り迎えなんてやっぱりお嬢様じゃん」

「お嬢様なんかじゃないって」

「そっか、そっか、間違えました。お姫様だよね。未来姫、じゃあね。また明日学校でね」

「うん。美波姫、また明日。」

(遊びになんて来ないで)

 心でつぶやきながら、未来は小走りになった。
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