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12 演劇部
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はるかがいなくなると、教室に残されたのはミサとさゆりだけだった。
「ミサ……ちゃん?」
一点を見つめるミサに、さゆりは恐る恐る声をかけた。
だが、ミサはさゆりの方を見ようともしない。カバンを掴むと、教室の外に歩いていく。
「待って、ミサちゃん。一緒に帰ろ?」
はるかは追いかけたが、ミサは振り返らない。
(まさかわたし、ミサちゃんからも見えなくなっちゃったの?)
胸が締め付けられるような苦しさに、はるかは息切れがした。
「待って」
はるかは必死でミサを追いかけたが、度々めまいに襲われる。まるで夢の中で走っているかのように、足がもつれた。
ミサはどんどん先を行く。昇降口を過ぎ、その先にある階段をのぼる。4階に上がって廊下の角を右に曲がった。
ミサが、演劇部の看板が残された教室の前で立ち止まった。
「ミサちゃんっ」
さゆりがミサに追いつく前に、ミサはすっとその教室に入っていった。
さゆりは駆け足で、ミサが入っていった教室の前に立った。
「えっ。看板が……」
さゆりは、教室の扉の横にかけられた看板を見つめた。
それは、さゆりの記憶にあった看板とは違っていた。さゆりが前に見た時は、板は黒ずみ、かろうじて演劇部の文字が読め、真ん中に細く割れ目が入っていたはずだ。
「どうして、真新しくなっているの?」
目の前にある看板は、白木に鮮やかな赤い文字で『演劇部』と書かれていた。割れ目は一つもない。
さゆりは後ずさった。
改めて教室の扉や壁を見て、はっと息を飲む。
改築工事のされていない古びた北校舎が、いつの間にか塗り替えられたように綺麗になっている。
「怖い……」
さゆりは震える声でつぶやいた。
「もう帰ろ」
さゆりが素早く向きを変え、一歩踏み出した時だ。
ガラガラと後ろで扉の開く音がした。
さゆりは身を縮こまらせた。
「あー、発表会もうすぐなのにどうすんだよ」
突然の声に、さゆりは思わず振り返ってしまった。
一人の男子生徒が教室から出てきて立ち止まり、困ったように頭をかいている。
続いて男子生徒と女子生徒が一人ずつ出てきた。
三人とも、さゆりの知らない子だった。
「まだ1回もセリフ言えてないもんね、ミサちゃん」
女子生徒が困ったような顔をする。さゆりは女子生徒に違和感を覚えたが、その違和感がどこからくるのかわからない。
三人は、さゆりがそこにいるにも構わず話し始める。
(やっぱり、わたしのこと見えてないのかな?)
その現実に、さゆりはひどく心細くなる。
「顧問が、石田さんにもセリフ与えろって言うから悪いんだよな」
もう一人の男子生徒が、不満を漏らす。
「でも、セリフがあったらしゃべれるようになるかもって、ミサちゃんが言ったんでしょ? 親御さん通して」
女子生徒が腕を組む。
「だから期待して、結構重要なセリフ割り当てちゃったんだよなぁ」
最初に出てきた男子生徒が、大きなため息をつきながら言った。
「しっ。ミサちゃん来たよ」
女子生徒が口の前で人差し指を立てた。
「ミサ……ちゃん?」
一点を見つめるミサに、さゆりは恐る恐る声をかけた。
だが、ミサはさゆりの方を見ようともしない。カバンを掴むと、教室の外に歩いていく。
「待って、ミサちゃん。一緒に帰ろ?」
はるかは追いかけたが、ミサは振り返らない。
(まさかわたし、ミサちゃんからも見えなくなっちゃったの?)
胸が締め付けられるような苦しさに、はるかは息切れがした。
「待って」
はるかは必死でミサを追いかけたが、度々めまいに襲われる。まるで夢の中で走っているかのように、足がもつれた。
ミサはどんどん先を行く。昇降口を過ぎ、その先にある階段をのぼる。4階に上がって廊下の角を右に曲がった。
ミサが、演劇部の看板が残された教室の前で立ち止まった。
「ミサちゃんっ」
さゆりがミサに追いつく前に、ミサはすっとその教室に入っていった。
さゆりは駆け足で、ミサが入っていった教室の前に立った。
「えっ。看板が……」
さゆりは、教室の扉の横にかけられた看板を見つめた。
それは、さゆりの記憶にあった看板とは違っていた。さゆりが前に見た時は、板は黒ずみ、かろうじて演劇部の文字が読め、真ん中に細く割れ目が入っていたはずだ。
「どうして、真新しくなっているの?」
目の前にある看板は、白木に鮮やかな赤い文字で『演劇部』と書かれていた。割れ目は一つもない。
さゆりは後ずさった。
改めて教室の扉や壁を見て、はっと息を飲む。
改築工事のされていない古びた北校舎が、いつの間にか塗り替えられたように綺麗になっている。
「怖い……」
さゆりは震える声でつぶやいた。
「もう帰ろ」
さゆりが素早く向きを変え、一歩踏み出した時だ。
ガラガラと後ろで扉の開く音がした。
さゆりは身を縮こまらせた。
「あー、発表会もうすぐなのにどうすんだよ」
突然の声に、さゆりは思わず振り返ってしまった。
一人の男子生徒が教室から出てきて立ち止まり、困ったように頭をかいている。
続いて男子生徒と女子生徒が一人ずつ出てきた。
三人とも、さゆりの知らない子だった。
「まだ1回もセリフ言えてないもんね、ミサちゃん」
女子生徒が困ったような顔をする。さゆりは女子生徒に違和感を覚えたが、その違和感がどこからくるのかわからない。
三人は、さゆりがそこにいるにも構わず話し始める。
(やっぱり、わたしのこと見えてないのかな?)
その現実に、さゆりはひどく心細くなる。
「顧問が、石田さんにもセリフ与えろって言うから悪いんだよな」
もう一人の男子生徒が、不満を漏らす。
「でも、セリフがあったらしゃべれるようになるかもって、ミサちゃんが言ったんでしょ? 親御さん通して」
女子生徒が腕を組む。
「だから期待して、結構重要なセリフ割り当てちゃったんだよなぁ」
最初に出てきた男子生徒が、大きなため息をつきながら言った。
「しっ。ミサちゃん来たよ」
女子生徒が口の前で人差し指を立てた。
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