ドラゴンハンター

ことは

文字の大きさ
上 下
32 / 43
第三章 ドラゴンハンター03 後藤祐太

3-3

しおりを挟む
「なんだか、あちこちピリピリしびれるんだよなぁ」

 ドラゴン研究所からの帰り道、祐太は首をかしげた。

 いつもはみんなと一緒に帰るが、今日は一人だ。下手なことを言って、みんなに嘘がばれるのが怖かった。

 生暖かい突風が吹いて髪が乱れる。祐太は歩きながら髪をなでつけた。

「イテッ」

 髪を触った瞬間、すごい静電気がおきた。

「いってーなぁ」

 ピリピリする手をTシャツになでつけると、またバチンと音がした。

「うわ、サイアク」

 その時、ビルの陰にいる男と目が合った。

 祐太は、全身の産毛がゾワリと逆立つ気がした。男の服装が異様だったからだ。

 黒の長袖Tシャツに黒のパンツ。それだけなら不審に思わないが、夏だというのに黒のニット帽。サングラスにマスク。まるで銀行強盗にでも入るみたいな格好だ。

 祐太は早足で歩いた。しばらく歩いて振り返ると、男が後をついてきていた。

(まさか、偶然だよな。オレの後をつけてるわけじゃないよな?)

 気のせいかとも思った。

 だが、祐太が立ち止まると男も立ち止まる。そのうち、不審な男は二人に増えた。まるっきり同じ格好をした男が、後をついてくる。

「まくしかないな」

 駅前通りを抜けて、祐太は裏路地に入った。角を曲がったとたんに、走り出す。祐太はチラッと後ろを振り返った。

「チッ。しつこいな」

 二人の男が、走ってくる。

 祐太はスピードを上げた。右。左。右。右。祐太はとにかく角を曲がり続けた。このまま行くと、また元の駅前通りに出てしまう。

 そう思った時、グッと後ろから腕をつかまれた。振り返ると、全身黒づくめの男の顔がすぐ近くにあった。

(裏路地なんかに入るんじゃなかった)

 助けを呼ぼうにも、周りには誰もいなかった。

 祐太は思い切りそいつのお腹をけった。グフッと声がして、男はうずくまった。祐太が逃げようとすると、もう一人の男に腕をつかまれた。

「誰かっ」

 祐太はお腹の底から声を出した。

 もう少し行けば駅前通りだ。大声を出せば誰かの耳に届くかもしれない。

「助けてくれー」

 祐太のどなり声に、男はひるんだ様子で左右を見回した。

「うわーーー、うわーーー」

 祐太はデタラメに叫び続けた。

「祐太っ」

 よく知っている声が聞こえてきた。駅前通りに続く道から飛び出してきたのは、圭吾だった。

 祐太は男の手を振りきろうとしたが、男は離さない。圭吾が走りながら叫んだ。

「火事だ火事だ火事だー」

 何ごとかと、駅前通りの方からゾロゾロと人が集まってくる。

「まずい」

 男がつぶやいた。うずくまっているもう一人の男の腕をひっぱる。そのまま二人はどこかへ行ってしまった。

「火事ってどこですか?」

 通りからやってきたおばあさんが、圭吾にたずねる。

「今、二人組の男が火事だって叫んで逃げて行きましたけど、いたずらですかね?」

「まぁ、いやだわ」

 集まってきた人たちはそれを聞くと、安心したようながっかりしたような顔をして駅前通りへ戻っていった。

「あいつら、何者なんだ?」

 圭吾がたずねてきた。

「おれだって知らないよ。いきなり追いかけてきたんだ。それより圭吾、どうしてここに?」

 祐太は、男につかまれた右腕をさすりながら言った。

「田中さんに聞いたんだ。ドラゴンを放し飼いにしてるって言ったら、祐太が急に口を押さえて具合が悪くなったって。田中さん笑ってたよ、ドラゴンが見える人には寄生しないのにって」

「あ、あぁ。それは知ってるけど」

 祐太は、もごもごと口の中でつぶやいた。

「けどぼく、もしかしたらって思って、祐太のこと探してたんだ」

「もしかしたらって?」

「祐太にはドラゴンが見えていないんじゃないかって……違う?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

踊るねこ

ことは
児童書・童話
ヒップホップダンスを習っている藤崎はるかは、ダンサーを夢見る小学6年生。ダンスコンテストに出る選抜メンバーを決めるオーディション前日、インフルエンザにかかり外出禁止となってしまう。 そんな時、はるかの前に現れたのは、お喋りができる桃色のこねこのモモ。キラキラ星(せい)から来たというモモは、クローン技術により生まれたクローンモンスターだ。どんな姿にも変身できるモモは、はるかの代わりにオーディションを受けることになった。 だが、モモはオーディションに落ちてしまう。親友の結衣と美加だけが選抜メンバーに選ばれ、落ちこむはるか。 一度はコンテスト出場を諦めたが、中学1年生のブレイクダンサー、隼人のプロデュースで、はるかの姿に変身したモモと二人でダンスコンテストに出場することに!? 【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。 https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl

ちょっとだけマーメイド~暴走する魔法の力~

ことは
児童書・童話
星野桜、小学6年生。わたしには、ちょっとだけマーメイドの血が流れている。 むかしむかし、人魚の娘が人間の男の人と結婚して、わたしはずっとずっと後に生まれた子孫の一人だ。 わたしの足は水に濡れるとうろこが生え、魚の尾に変化してしまう。 ――わたし、絶対にみんなの前でプールに入ることなんてできない。もしそんなことをしたら、きっと友達はみんな、わたしから離れていく。 だけど、おぼれた麻衣ちゃんを助けるため、わたしはあの日プールに飛び込んだ。 全14話 完結

小悪魔ノート

ことは
児童書・童話
「わたしのノートを見つけてほしいの。願いを叶える、本物の、小悪魔ノート❤︎」 小学5年生の颯太の部屋に現れたのは、背中にコウモリの翼のような羽と、頭にツノが生えた小さな可愛い女の子。小悪魔のライアだった。 ライアが探しているのは、人間と小悪魔が契約を結ぶための小悪魔ノート。それが颯太の担任が配ったノートの中に、紛れ込んでしまったというのだ。 正式な契約を結んでいないノートは危険だという。 颯太とライアは、クラスメイトに配られたノートの中から、本物の小悪魔ノートを探し出せるのか!?

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

おかたづけこびとのミサちゃん

みのる
児童書・童話
とあるお片付けの大好きなこびとさんのお話です。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...