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第三章 ドラゴンハンター03 後藤祐太
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「なんだか、あちこちピリピリしびれるんだよなぁ」
ドラゴン研究所からの帰り道、祐太は首をかしげた。
いつもはみんなと一緒に帰るが、今日は一人だ。下手なことを言って、みんなに嘘がばれるのが怖かった。
生暖かい突風が吹いて髪が乱れる。祐太は歩きながら髪をなでつけた。
「イテッ」
髪を触った瞬間、すごい静電気がおきた。
「いってーなぁ」
ピリピリする手をTシャツになでつけると、またバチンと音がした。
「うわ、サイアク」
その時、ビルの陰にいる男と目が合った。
祐太は、全身の産毛がゾワリと逆立つ気がした。男の服装が異様だったからだ。
黒の長袖Tシャツに黒のパンツ。それだけなら不審に思わないが、夏だというのに黒のニット帽。サングラスにマスク。まるで銀行強盗にでも入るみたいな格好だ。
祐太は早足で歩いた。しばらく歩いて振り返ると、男が後をついてきていた。
(まさか、偶然だよな。オレの後をつけてるわけじゃないよな?)
気のせいかとも思った。
だが、祐太が立ち止まると男も立ち止まる。そのうち、不審な男は二人に増えた。まるっきり同じ格好をした男が、後をついてくる。
「まくしかないな」
駅前通りを抜けて、祐太は裏路地に入った。角を曲がったとたんに、走り出す。祐太はチラッと後ろを振り返った。
「チッ。しつこいな」
二人の男が、走ってくる。
祐太はスピードを上げた。右。左。右。右。祐太はとにかく角を曲がり続けた。このまま行くと、また元の駅前通りに出てしまう。
そう思った時、グッと後ろから腕をつかまれた。振り返ると、全身黒づくめの男の顔がすぐ近くにあった。
(裏路地なんかに入るんじゃなかった)
助けを呼ぼうにも、周りには誰もいなかった。
祐太は思い切りそいつのお腹をけった。グフッと声がして、男はうずくまった。祐太が逃げようとすると、もう一人の男に腕をつかまれた。
「誰かっ」
祐太はお腹の底から声を出した。
もう少し行けば駅前通りだ。大声を出せば誰かの耳に届くかもしれない。
「助けてくれー」
祐太のどなり声に、男はひるんだ様子で左右を見回した。
「うわーーー、うわーーー」
祐太はデタラメに叫び続けた。
「祐太っ」
よく知っている声が聞こえてきた。駅前通りに続く道から飛び出してきたのは、圭吾だった。
祐太は男の手を振りきろうとしたが、男は離さない。圭吾が走りながら叫んだ。
「火事だ火事だ火事だー」
何ごとかと、駅前通りの方からゾロゾロと人が集まってくる。
「まずい」
男がつぶやいた。うずくまっているもう一人の男の腕をひっぱる。そのまま二人はどこかへ行ってしまった。
「火事ってどこですか?」
通りからやってきたおばあさんが、圭吾にたずねる。
「今、二人組の男が火事だって叫んで逃げて行きましたけど、いたずらですかね?」
「まぁ、いやだわ」
集まってきた人たちはそれを聞くと、安心したようながっかりしたような顔をして駅前通りへ戻っていった。
「あいつら、何者なんだ?」
圭吾がたずねてきた。
「おれだって知らないよ。いきなり追いかけてきたんだ。それより圭吾、どうしてここに?」
祐太は、男につかまれた右腕をさすりながら言った。
「田中さんに聞いたんだ。ドラゴンを放し飼いにしてるって言ったら、祐太が急に口を押さえて具合が悪くなったって。田中さん笑ってたよ、ドラゴンが見える人には寄生しないのにって」
「あ、あぁ。それは知ってるけど」
祐太は、もごもごと口の中でつぶやいた。
「けどぼく、もしかしたらって思って、祐太のこと探してたんだ」
「もしかしたらって?」
「祐太にはドラゴンが見えていないんじゃないかって……違う?」
ドラゴン研究所からの帰り道、祐太は首をかしげた。
いつもはみんなと一緒に帰るが、今日は一人だ。下手なことを言って、みんなに嘘がばれるのが怖かった。
生暖かい突風が吹いて髪が乱れる。祐太は歩きながら髪をなでつけた。
「イテッ」
髪を触った瞬間、すごい静電気がおきた。
「いってーなぁ」
ピリピリする手をTシャツになでつけると、またバチンと音がした。
「うわ、サイアク」
その時、ビルの陰にいる男と目が合った。
祐太は、全身の産毛がゾワリと逆立つ気がした。男の服装が異様だったからだ。
黒の長袖Tシャツに黒のパンツ。それだけなら不審に思わないが、夏だというのに黒のニット帽。サングラスにマスク。まるで銀行強盗にでも入るみたいな格好だ。
祐太は早足で歩いた。しばらく歩いて振り返ると、男が後をついてきていた。
(まさか、偶然だよな。オレの後をつけてるわけじゃないよな?)
気のせいかとも思った。
だが、祐太が立ち止まると男も立ち止まる。そのうち、不審な男は二人に増えた。まるっきり同じ格好をした男が、後をついてくる。
「まくしかないな」
駅前通りを抜けて、祐太は裏路地に入った。角を曲がったとたんに、走り出す。祐太はチラッと後ろを振り返った。
「チッ。しつこいな」
二人の男が、走ってくる。
祐太はスピードを上げた。右。左。右。右。祐太はとにかく角を曲がり続けた。このまま行くと、また元の駅前通りに出てしまう。
そう思った時、グッと後ろから腕をつかまれた。振り返ると、全身黒づくめの男の顔がすぐ近くにあった。
(裏路地なんかに入るんじゃなかった)
助けを呼ぼうにも、周りには誰もいなかった。
祐太は思い切りそいつのお腹をけった。グフッと声がして、男はうずくまった。祐太が逃げようとすると、もう一人の男に腕をつかまれた。
「誰かっ」
祐太はお腹の底から声を出した。
もう少し行けば駅前通りだ。大声を出せば誰かの耳に届くかもしれない。
「助けてくれー」
祐太のどなり声に、男はひるんだ様子で左右を見回した。
「うわーーー、うわーーー」
祐太はデタラメに叫び続けた。
「祐太っ」
よく知っている声が聞こえてきた。駅前通りに続く道から飛び出してきたのは、圭吾だった。
祐太は男の手を振りきろうとしたが、男は離さない。圭吾が走りながら叫んだ。
「火事だ火事だ火事だー」
何ごとかと、駅前通りの方からゾロゾロと人が集まってくる。
「まずい」
男がつぶやいた。うずくまっているもう一人の男の腕をひっぱる。そのまま二人はどこかへ行ってしまった。
「火事ってどこですか?」
通りからやってきたおばあさんが、圭吾にたずねる。
「今、二人組の男が火事だって叫んで逃げて行きましたけど、いたずらですかね?」
「まぁ、いやだわ」
集まってきた人たちはそれを聞くと、安心したようながっかりしたような顔をして駅前通りへ戻っていった。
「あいつら、何者なんだ?」
圭吾がたずねてきた。
「おれだって知らないよ。いきなり追いかけてきたんだ。それより圭吾、どうしてここに?」
祐太は、男につかまれた右腕をさすりながら言った。
「田中さんに聞いたんだ。ドラゴンを放し飼いにしてるって言ったら、祐太が急に口を押さえて具合が悪くなったって。田中さん笑ってたよ、ドラゴンが見える人には寄生しないのにって」
「あ、あぁ。それは知ってるけど」
祐太は、もごもごと口の中でつぶやいた。
「けどぼく、もしかしたらって思って、祐太のこと探してたんだ」
「もしかしたらって?」
「祐太にはドラゴンが見えていないんじゃないかって……違う?」
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