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第三章 ドラゴンハンター03 後藤祐太
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「見えません」
祐太はふてくされた態度で答えた。空っぽのガラスケースを目の前に、そう答えたのはこの3日間で何回目だろう。
長机に置かれたガラスケース。椅子に座ってそれを見つめる祐太。机の向こう側には、黒縁メガネに白衣を着た田中が立っている。
「そうか、見えないか」
田中が、またも同じ言葉を繰り返す。
「田中さん、言い方が冷たいっすね」
「そんなことはない」
田中はいたって冷静だ。
「田中さんには簡単に見えるのに、どうしてオレには見えないんだって思ってるんでしょ?」
祐太はパイプ椅子にふんぞり返った。
「そんなことは思ってない。ぼくにも見えないからね、ドラゴンが」
田中がメガネを人差し指で押し上げる。
「ええーー! 田中さん、見えないんですか?」
「まぁね」
田中は悪びれる様子もない。
「見えないのにドラゴンの講義してんですか? 説得力ないじゃないですか」
「ぼくには、ドラゴンに関する知識は十分にある。ドラゴンはいると確信もしている。ただ目に見えないというだけじゃないか」
田中がムッとした顔で答えた。
「は? 見えないものを、どう信じろっていうんですか」
祐太は頭を抱えた。
学校で『ドラゴンハンター募集』のチラシが配られた時は、祐太はそれが本物のドラゴンのことだなんて思いもしなかった。
その日の帰りに、圭吾にはドラゴンが見えると言われた時も、全く信じていなかった。
だが、圭吾だけでなく美鈴にもドラゴンが見えると聞いて、少しだけ信じる気持ちがわいてきた。美鈴は、子どもじみた冗談に付き合うキャラじゃない。
圭吾に誘われ、面白半分で参加したドラゴンハンター養成講座。最初12人いた参加者は、次の日に4人に減った。
つまり、残ったのは圭吾と美鈴、敦也と祐太の4人だけだ。
初日に他の参加者が、こんなのインチキだと話しているのを祐太は聞いた。
もし圭吾と美鈴が友達ではなかったら、祐太も二日目から来なくなっていたかもしれない。目に見えないものの存在を信じるのは難しい。
三日目の今日、ついに敦也にもドラゴンが見えるようになった。ドラゴンが見えるようになると、別の部屋で訓練を受けるようになる。
そういうわけで、今、会議室にいるのは祐太と田中の二人だけだ。
「もう一度、ドラゴンのイメージを高めるために、イラストを見よう」
田中が、ドラゴンの描かれたイラスト集を祐太の前に置いた。ドラゴン研究所で飼われているドラゴンを描いたものらしい。
(早くおれもみんなと一緒のことしたいなぁ)
椅子に座っているだけではつまらなかった。イラスト集は見飽きていた。
祐太は、机に置かれたガラスケースを眺めた。
(そうだ)
祐太は、いいことを思いついた。ガラスケースに顔を近づけていく。
「見えた!」
祐太は目を見張った。
「本当か?」
田中が机に手を置いた。
「すげー! すげー」
(ちょっと大げさすぎるかな)
空っぽのガラスケースを見ながら、圭吾は演技をした。ドラゴンが見えるフリをしたのだ。
「おめでとう。よかったね」
田中が祐太の肩を叩いた。
「みんなのところ、行っていいですか?」
祐太が期待をこめて聞くと、田中が腕時計を見た。
「今日はもうあまり時間がないから、明日からにしようか」
「えー! ちょっとだけ、お願い」
祐太は手を合わせた。このままでは、一人だけ仲間はずれみたいでいやだった。
「仕方ないな。今日はちょっと見学するだけだよ」
「やったぁ!」
「ぼくはあまりあの部屋に行きたくないんだけど」
田中がブツブツ言いながら、会議室を出て行く。祐太はスキップを踏むように、その後を追った。
祐太はふてくされた態度で答えた。空っぽのガラスケースを目の前に、そう答えたのはこの3日間で何回目だろう。
長机に置かれたガラスケース。椅子に座ってそれを見つめる祐太。机の向こう側には、黒縁メガネに白衣を着た田中が立っている。
「そうか、見えないか」
田中が、またも同じ言葉を繰り返す。
「田中さん、言い方が冷たいっすね」
「そんなことはない」
田中はいたって冷静だ。
「田中さんには簡単に見えるのに、どうしてオレには見えないんだって思ってるんでしょ?」
祐太はパイプ椅子にふんぞり返った。
「そんなことは思ってない。ぼくにも見えないからね、ドラゴンが」
田中がメガネを人差し指で押し上げる。
「ええーー! 田中さん、見えないんですか?」
「まぁね」
田中は悪びれる様子もない。
「見えないのにドラゴンの講義してんですか? 説得力ないじゃないですか」
「ぼくには、ドラゴンに関する知識は十分にある。ドラゴンはいると確信もしている。ただ目に見えないというだけじゃないか」
田中がムッとした顔で答えた。
「は? 見えないものを、どう信じろっていうんですか」
祐太は頭を抱えた。
学校で『ドラゴンハンター募集』のチラシが配られた時は、祐太はそれが本物のドラゴンのことだなんて思いもしなかった。
その日の帰りに、圭吾にはドラゴンが見えると言われた時も、全く信じていなかった。
だが、圭吾だけでなく美鈴にもドラゴンが見えると聞いて、少しだけ信じる気持ちがわいてきた。美鈴は、子どもじみた冗談に付き合うキャラじゃない。
圭吾に誘われ、面白半分で参加したドラゴンハンター養成講座。最初12人いた参加者は、次の日に4人に減った。
つまり、残ったのは圭吾と美鈴、敦也と祐太の4人だけだ。
初日に他の参加者が、こんなのインチキだと話しているのを祐太は聞いた。
もし圭吾と美鈴が友達ではなかったら、祐太も二日目から来なくなっていたかもしれない。目に見えないものの存在を信じるのは難しい。
三日目の今日、ついに敦也にもドラゴンが見えるようになった。ドラゴンが見えるようになると、別の部屋で訓練を受けるようになる。
そういうわけで、今、会議室にいるのは祐太と田中の二人だけだ。
「もう一度、ドラゴンのイメージを高めるために、イラストを見よう」
田中が、ドラゴンの描かれたイラスト集を祐太の前に置いた。ドラゴン研究所で飼われているドラゴンを描いたものらしい。
(早くおれもみんなと一緒のことしたいなぁ)
椅子に座っているだけではつまらなかった。イラスト集は見飽きていた。
祐太は、机に置かれたガラスケースを眺めた。
(そうだ)
祐太は、いいことを思いついた。ガラスケースに顔を近づけていく。
「見えた!」
祐太は目を見張った。
「本当か?」
田中が机に手を置いた。
「すげー! すげー」
(ちょっと大げさすぎるかな)
空っぽのガラスケースを見ながら、圭吾は演技をした。ドラゴンが見えるフリをしたのだ。
「おめでとう。よかったね」
田中が祐太の肩を叩いた。
「みんなのところ、行っていいですか?」
祐太が期待をこめて聞くと、田中が腕時計を見た。
「今日はもうあまり時間がないから、明日からにしようか」
「えー! ちょっとだけ、お願い」
祐太は手を合わせた。このままでは、一人だけ仲間はずれみたいでいやだった。
「仕方ないな。今日はちょっと見学するだけだよ」
「やったぁ!」
「ぼくはあまりあの部屋に行きたくないんだけど」
田中がブツブツ言いながら、会議室を出て行く。祐太はスキップを踏むように、その後を追った。
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