ドラゴンハンター

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第二章 ドラゴンハンター02 良知美鈴

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 殺風景な長い廊下が続く。床も壁も天井も真っ白だ。美鈴は小走りで圭吾の横に並んだ。知らない場所で、一人だけはぐれてしまったら嫌だ。

 彩芽がエレベーターの扉を開けて待っている。美鈴は急いでエレベーターに乗り込んだ。

「美鈴ちゃん、だっけ?」

 彩芽がにっこりと笑いかけてくる。

「あ、はい」

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

「あ、はい」

 ぎこちない返事を繰り返す美鈴に、圭吾がクスクス笑う。

「圭吾くんは、この研究所のことをよく知ってるから、なーんでも聞いてね」

「えっ? そんなに詳しくないですよ」

 圭吾の焦った顔に、彩芽が吹き出した。つられて美鈴も笑ったら、少しは気が楽になった。

 高い音がして、エレベーターが8階についた。

 エレベーターの扉が開くと、そこは別世界だった。まず、空気が澄んでいる。それから青い草の匂いと、甘い蜜のような匂いが鼻をついた。

「なに、ここ」

 白い廊下が見えると思いこんでいた美鈴は驚いた。

 そこには植物園のような景色が広がっていた。

 曲がりくねって続く石畳。通路の左右には、緑の葉を茂らせた木々が立ち並んでいる。地面には色とりどりの花が咲き、小さな川まで流れていた。

「天井が高い」

 美鈴は頭上をあおいだ。

「8階から10階まで吹き抜けになっているの」

 彩芽が歩きながら説明した。

 彩芽の後に続いて歩いてくと、美鈴の目の前をなにかが横切った。

「わっ」

 驚いて見ると、一匹の小さなドラゴンが宙を飛んでいた。

「驚かせてごめんね。ドラゴンを放し飼いにしているの」

 彩芽が笑った。

 よく見ると、木の陰や花の上にもドラゴンがいる。かなりの数だ。

「もしかして、知ってた?」

 美鈴がたずねると、圭吾がおかしそうにうなずいた。

「ここで橋本さんの特訓を受けているから」

「ドラゴンがゾロゾロいる場所って、ここのことだったんだ」

 美鈴は前に圭吾に聞いた話を思い出した。

 ドラゴンは、美鈴たちの様子をうかがっているみたいに、こっちを見てくる。

「ねぇ、寄生されたりしない?」

 美鈴は不安になった。

 彩芽が声を立てて笑った。

「大丈夫よ。ドラゴンが見える人には寄生したりしないわ」

「本当?」

 美鈴はたよりない声で、彩芽に聞いた。

「うん。絶対に大丈夫。だって見える人に寄生したら、すぐに追い出されちゃうの、ドラゴンもわかっているもの。ドラゴンは、見えない人にこっそり寄生するのよ」

 彩芽の話を聞いて、美鈴は安心した。

「見て見て、美鈴ちゃん」

 圭吾の声に、美鈴は振り向いた。

「やだぁ」

 美鈴は顔をしかめた。

 圭吾の肩や頭に、何十匹ものドラゴンが乗っていた。

「飛べ!」

 圭吾が叫ぶと、ドラゴンが一斉に飛び立った。数匹のドラゴンが、美鈴の顔をかすめる。

「きゃぁ」

 美鈴は、頭を抱えた。

「何十匹も同時に操れちゃうんだからねぇ、圭吾くんは。ドラゴンハンターは天職みたいなものね。でも、いたずらはほどほどに」

 彩芽があきれたような声で言った。

「わたしにも、ドラゴンを操れるようになるんですか?」

 美鈴は期待をこめて聞いた。

「試しに、あそこにいるドラゴンを呼んでみたら?」

 彩芽が、すぐ近くの木に止まっているドラゴンを指さした。青緑色の体に、黒い目をしたドラゴンだ。それが手の平に乗るかと思うと、美鈴は寒気がした。

「でもちょっとわたし、実はああいうの見た目が苦手で……」

「まぁ。それでよく、ドラゴンハンターになろうと思ったわね」

 彩芽が目を丸くした。

「圭吾くんが持っているような、きれいな青い目のドラゴンだったらまだ触れるかも」

「圭吾くんの身守りドラゴンのことね」

 彩芽が言った。

「身守りドラゴンって?」

「ドラゴンハンターの身を守ってくれるドラゴンのことよ。寄生したドラゴンと直接対決するのは危険だから、代わりに戦ってくれるの」

 彩芽がファイティングポーズを取る。

「ドラゴンは普段は大人しく言うことを聞くんだけど、寄生している時は凶暴になるんだ」

 圭吾が近くのドラゴンをなでながら言った。

「ドラゴンハンターは、ドラゴンを捕まえるのが仕事だ。人に寄生していないドラゴンも寄生しているドラゴンもみんな、見つけ次第捕まえる」

「美鈴ちゃんもドラゴンハンターになるなら、自分の身守りドラゴンを見つけなくちゃいけないわ」

 彩芽が、美鈴の頭をポンポンと叩いた。

「そうだ! 美鈴ちゃんが気に入りそうなドラゴンがいるわ。こっちに来て」

 彩芽が小走りで、さらに奥の方へ向かった。
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