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第二章 ドラゴンハンター02 良知美鈴
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良知美鈴は、茶色い玄関ドアの前に立ち、チャイムを鳴らした。同じクラスで親友の柴田ルイの家だ。
「はーい」
弾けるような声とともに玄関ドアが開く。
ルイが、ぴょこんと顔を出す。
ツインテールにした長い髪。ポップな英字ロゴが入った黄色いTシャツに、デニムのミニスカート。いつも元気いっぱいのルイだが、なんだか気まずそうな顔をしている。
「あー、ごめん。今日遊べない」
美鈴は一瞬、意味がわからなかった。
「えっ、だって遊びに来てって言ったのは、ルイちゃんの方でしょ?」
「けど、今から桜ちゃんちに行くんだもん」
ルイが頬を膨らます。
「なんで? わたし、来る時間、間違えた?」
美鈴は腕時計を見た。時計の針は、午後3時4分を指している。
ルイが首を横に振った。
「そういうことじゃなくて」
「どういうこと?」
「桜ちゃんから電話があって、ウサギを飼いはじめたから見に来てって言われたの」
「今から?」
「そう。今から」
「行くの?」
ルイがわざとらしく、ハァーッとため息を吐いた。
「わたし、今、ウサギがすごーく見たいの」
「だって、わたしとの約束はどうなるの?」
美鈴はワンピースのすそをギュッとつかんだ。
おろしたての黄色い花柄のワンピース。ルイが可愛いってほめてくれると思った。しかも今日のルイのTシャツと同じ色。「シンクロじゃーん」なんて、いつもなら盛り上がるのに。でも今日のルイは、ワンピースのことなんか全然見ていない。
「だからぁ、遊べないって言ってるじゃん」
ルイが腕を組んだ。
「ルイちゃん、最近おかしいよ」
「なにが?」
「前はこんなことしなかったじゃない」
「こんなことって?」
「だから、約束破られたわたしの気持ち、わかる?」
ルイが首をかしげる。まったく悪気のなさそうな顔。ルイから返事は返ってこない。
「じゃぁ、こうしようよ。わたしも桜ちゃんちに……」
一緒に行こうと言おうとしたが、突然玄関ドアが閉められてしまった。
「なに、それ。ルイちゃん、ひどいよ」
美鈴は喉が熱くなった。鼻の奥がツーンとする。
美鈴はクルリと向きを変え、大股で歩き始めた。
まっすぐ家に帰る気にはなれない。それに、ルイの家に遊びに行ったはずの美鈴があまり早く帰ったら、お母さんに理由を聞かれるだろう。説明するのも面倒だ。
美鈴はうんと遠回りして帰ることにした。怒りにまかせて、とにかくめちゃくちゃに歩きまくった。
歩き疲れたころ、小さな公園に着いた。隣のクラスの本田敦也が、小さな子たちとキャッチボールをしていた。そのうち一人の子が、敦也のことをお兄ちゃんと呼んでいる。ベンチに座ってそれを眺めた。
「兄弟がいるっていいなぁ。わたしにもお姉ちゃんがいたらよかったのに」
そしたらこんな日はすぐに家に帰って、お姉ちゃんに相談する。
一人っ子の美鈴が相談する相手といえば、友だちかお母さん。友だちに意地悪されたなんて、お母さんには話しにくい。悩みの原因の張本人であるルイに相談するわけにもいかないし。やっぱりお姉ちゃんがいたらよかった。
美鈴はため息をついた。
「そろそろ、帰ろうかな」
美鈴はゆっくり立ち上がった。
ノロノロと歩き出す。美鈴は足元を見つめながら歩いた。歩いているうちに、怒りが少しずつおさまってくる。
(ルイちゃん、いったいどうしちゃったんだろう)
幼稚園の頃からずっと仲良しで、わざと意地悪するような子ではなかった。
だが、最近のルイは、学校でも自分勝手な行動が目立っていた。
(なにか悩み事でもあるのかな)
ルイが理由もなく、意地悪をするとは思えなかった。
「落ちこんでいてもしょうがない」
そうつぶやくと美鈴は、顔を上げた。
道路の向こうを、誰かが歩いている。サラサラの髪。紺のTシャツ。黒のハーフパンツ。真っ黒に日に焼けた足。美鈴はその後ろ姿に見覚えがあった。
胸がトクンと鳴る。
「はーい」
弾けるような声とともに玄関ドアが開く。
ルイが、ぴょこんと顔を出す。
ツインテールにした長い髪。ポップな英字ロゴが入った黄色いTシャツに、デニムのミニスカート。いつも元気いっぱいのルイだが、なんだか気まずそうな顔をしている。
「あー、ごめん。今日遊べない」
美鈴は一瞬、意味がわからなかった。
「えっ、だって遊びに来てって言ったのは、ルイちゃんの方でしょ?」
「けど、今から桜ちゃんちに行くんだもん」
ルイが頬を膨らます。
「なんで? わたし、来る時間、間違えた?」
美鈴は腕時計を見た。時計の針は、午後3時4分を指している。
ルイが首を横に振った。
「そういうことじゃなくて」
「どういうこと?」
「桜ちゃんから電話があって、ウサギを飼いはじめたから見に来てって言われたの」
「今から?」
「そう。今から」
「行くの?」
ルイがわざとらしく、ハァーッとため息を吐いた。
「わたし、今、ウサギがすごーく見たいの」
「だって、わたしとの約束はどうなるの?」
美鈴はワンピースのすそをギュッとつかんだ。
おろしたての黄色い花柄のワンピース。ルイが可愛いってほめてくれると思った。しかも今日のルイのTシャツと同じ色。「シンクロじゃーん」なんて、いつもなら盛り上がるのに。でも今日のルイは、ワンピースのことなんか全然見ていない。
「だからぁ、遊べないって言ってるじゃん」
ルイが腕を組んだ。
「ルイちゃん、最近おかしいよ」
「なにが?」
「前はこんなことしなかったじゃない」
「こんなことって?」
「だから、約束破られたわたしの気持ち、わかる?」
ルイが首をかしげる。まったく悪気のなさそうな顔。ルイから返事は返ってこない。
「じゃぁ、こうしようよ。わたしも桜ちゃんちに……」
一緒に行こうと言おうとしたが、突然玄関ドアが閉められてしまった。
「なに、それ。ルイちゃん、ひどいよ」
美鈴は喉が熱くなった。鼻の奥がツーンとする。
美鈴はクルリと向きを変え、大股で歩き始めた。
まっすぐ家に帰る気にはなれない。それに、ルイの家に遊びに行ったはずの美鈴があまり早く帰ったら、お母さんに理由を聞かれるだろう。説明するのも面倒だ。
美鈴はうんと遠回りして帰ることにした。怒りにまかせて、とにかくめちゃくちゃに歩きまくった。
歩き疲れたころ、小さな公園に着いた。隣のクラスの本田敦也が、小さな子たちとキャッチボールをしていた。そのうち一人の子が、敦也のことをお兄ちゃんと呼んでいる。ベンチに座ってそれを眺めた。
「兄弟がいるっていいなぁ。わたしにもお姉ちゃんがいたらよかったのに」
そしたらこんな日はすぐに家に帰って、お姉ちゃんに相談する。
一人っ子の美鈴が相談する相手といえば、友だちかお母さん。友だちに意地悪されたなんて、お母さんには話しにくい。悩みの原因の張本人であるルイに相談するわけにもいかないし。やっぱりお姉ちゃんがいたらよかった。
美鈴はため息をついた。
「そろそろ、帰ろうかな」
美鈴はゆっくり立ち上がった。
ノロノロと歩き出す。美鈴は足元を見つめながら歩いた。歩いているうちに、怒りが少しずつおさまってくる。
(ルイちゃん、いったいどうしちゃったんだろう)
幼稚園の頃からずっと仲良しで、わざと意地悪するような子ではなかった。
だが、最近のルイは、学校でも自分勝手な行動が目立っていた。
(なにか悩み事でもあるのかな)
ルイが理由もなく、意地悪をするとは思えなかった。
「落ちこんでいてもしょうがない」
そうつぶやくと美鈴は、顔を上げた。
道路の向こうを、誰かが歩いている。サラサラの髪。紺のTシャツ。黒のハーフパンツ。真っ黒に日に焼けた足。美鈴はその後ろ姿に見覚えがあった。
胸がトクンと鳴る。
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