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第一章 ドラゴンハンター01 戸井圭吾
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圭吾は、5年2組のクラスメイト、後藤祐太の家を訪ねた。
「ゲームやろうぜ」
祐太はリビングで、テレビゲームを始めようとする。
「兄ちゃん、圭吾とゲームするからどいて」
中学1年生の兄、哲司がソファに寝転んでテレビを見ていた。
「ダメだよ。今、おれがサッカー見てるじゃないか」
「なんでだよっ」
小柄な祐太が、哲司に体当たりする。しかし、すぐに哲司に蹴飛ばされてしりもちをついた。圭吾は祐太の腕をつかんで立ち上がらせた。
「今日はゲームをやりに来たんじゃないから」
祐太が首をかしげた。
「じゃぁ外に行く? サッカーでもやる?」
圭吾は首を横に振った。
「ぼく、どうしてもこれを見せたくて」
胸に抱いていた虫かごを、祐太の目の前に突き出した。
虫かごの中で、ドラゴンが翼をはためかせた。人に見られる時のかっこいいポーズを心得ているみたいだった。圭吾は思わずみとれてしまう。
「今の見た?」
圭吾は顔を上げた。虫かごのケース越しに、祐太と目が合う。
「今のって、圭吾の変顔のことか?」
「変顔?」
圭吾は眉をしかめた。
「今、お前ニターっとしたぞ」
「そ、そりゃ、ドラゴンがかっこよかったからさ」
「ドラゴン?」
祐太が不思議そうな顔をする。
「見えないのか? この中にいるんだぞ、ドラゴン」
祐太が、クルリと背を向けた。
「兄ちゃん、大変だぞ。圭吾がおかしくなった」
ふざけた調子で、祐太が言う。
「うっせーな、今いいとこなんだよ」
サッカーの試合に夢中の哲司は、こっちを見向きもしない。
「シカトかよ」
祐太のとがった声にも、哲司はまるで反応しない。
「で、どんな遊びなんだ? そのドラゴンって」
祐太がちゃかしたように言う。
「もう帰るわ」
「はっ? もう帰るの? おまえなにしに来たんだよっ」
祐太の声が追いかけてきたが、圭吾は玄関でさっさと靴を履いた。
もう4時過ぎだ。祐太の家でゆっくりしている場合ではない。門限は5時。今日中に誰かにドラゴンを見せたかった。
それに部屋に出しっぱなしにしてきてしまったお菓子のゴミのことも気になっていた。
部屋で食べたのがお母さんに見つかったら、しばらくおやつ抜きの刑にされるかもしれない。早めに帰って、こっそり片づける時間も必要だ。
圭吾は祐太のことはあきらめ、本田敦也の家に行くことにした。敦也とは今はクラスが違うが、4年生の時まで一緒のクラスで、今でも仲がいい。
もう一つ角を曲がれば敦也の家に着くという時だ。
「あっ、戸井圭吾くんだ」
シャボン玉がはじけるような、ふわりと可愛らしい声がした。
圭吾が振り向くと、黄色い花柄のワンピースが目に入った。
クラスメイトの良知美鈴だった。クリッとした目にポニーテイルが可愛いと、男子にも女子にも人気がある。
美鈴は、圭吾から3メートルほど離れたところに立ち止まっていた。
「土曜日に会うなんてめずらしいね」
美鈴に微笑まれて、圭吾は顔が熱くなった。
「敦也の家に行くところなんだ」
胸のドキドキに気づかれないように、圭吾は出せる限りのクールな声で話した。
「敦也くんなら、近くの公園にいるのを見たよ」
美鈴は、進行方向とは反対側を指さした。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「ねぇ、なに持ってるの?」
美鈴が、スキップを踏むように近づいてきた。
だが、圭吾の1メートル手前で急に立ち止まった。さっきまでの笑顔がみるみるうちに消えていく。美鈴がきゃっと、小さい悲鳴を上げた。
大きく見開かれた美鈴の目。圭吾は、美鈴の視線をたどった。美鈴が見ているのは、圭吾が持っている虫かごではないだろうか。いや、虫かごではない。
おそらく、虫かごの中のドラゴン……。そう思い当たった時、圭吾の心臓がドクンと飛び跳ねた。
「もしかして、見えるの?」
圭吾は一歩前に踏み出した。それに合わせるように、美鈴が後ずさる。
「かっこいいでしょ?」
圭吾の顔に、自然に笑みが出た。しかし、美鈴は顔をしかめ、首を横に振った。
「よく見てよ」
圭吾は虫かごを突き出すように、美鈴に近づいた。
「いや。いい、いい」
美鈴が遠慮するように手を振る。
圭吾は美鈴の嫌そうな顔を見て、とたんに気分が落ち込んだ。
「じゃあね、ばいばーい」
美鈴は逃げるように圭吾の横を走り抜けた。
「待って、美鈴ちゃん!」
圭吾は追いかけようとしたが、しつこくして美鈴に嫌われたくなかった。
10メートルほど離れたところで美鈴が振り返った。
「また月曜日に学校でね!」
美鈴が手を振っている。美鈴が笑顔に戻っているのを見て、圭吾はほっとした。
「ゲームやろうぜ」
祐太はリビングで、テレビゲームを始めようとする。
「兄ちゃん、圭吾とゲームするからどいて」
中学1年生の兄、哲司がソファに寝転んでテレビを見ていた。
「ダメだよ。今、おれがサッカー見てるじゃないか」
「なんでだよっ」
小柄な祐太が、哲司に体当たりする。しかし、すぐに哲司に蹴飛ばされてしりもちをついた。圭吾は祐太の腕をつかんで立ち上がらせた。
「今日はゲームをやりに来たんじゃないから」
祐太が首をかしげた。
「じゃぁ外に行く? サッカーでもやる?」
圭吾は首を横に振った。
「ぼく、どうしてもこれを見せたくて」
胸に抱いていた虫かごを、祐太の目の前に突き出した。
虫かごの中で、ドラゴンが翼をはためかせた。人に見られる時のかっこいいポーズを心得ているみたいだった。圭吾は思わずみとれてしまう。
「今の見た?」
圭吾は顔を上げた。虫かごのケース越しに、祐太と目が合う。
「今のって、圭吾の変顔のことか?」
「変顔?」
圭吾は眉をしかめた。
「今、お前ニターっとしたぞ」
「そ、そりゃ、ドラゴンがかっこよかったからさ」
「ドラゴン?」
祐太が不思議そうな顔をする。
「見えないのか? この中にいるんだぞ、ドラゴン」
祐太が、クルリと背を向けた。
「兄ちゃん、大変だぞ。圭吾がおかしくなった」
ふざけた調子で、祐太が言う。
「うっせーな、今いいとこなんだよ」
サッカーの試合に夢中の哲司は、こっちを見向きもしない。
「シカトかよ」
祐太のとがった声にも、哲司はまるで反応しない。
「で、どんな遊びなんだ? そのドラゴンって」
祐太がちゃかしたように言う。
「もう帰るわ」
「はっ? もう帰るの? おまえなにしに来たんだよっ」
祐太の声が追いかけてきたが、圭吾は玄関でさっさと靴を履いた。
もう4時過ぎだ。祐太の家でゆっくりしている場合ではない。門限は5時。今日中に誰かにドラゴンを見せたかった。
それに部屋に出しっぱなしにしてきてしまったお菓子のゴミのことも気になっていた。
部屋で食べたのがお母さんに見つかったら、しばらくおやつ抜きの刑にされるかもしれない。早めに帰って、こっそり片づける時間も必要だ。
圭吾は祐太のことはあきらめ、本田敦也の家に行くことにした。敦也とは今はクラスが違うが、4年生の時まで一緒のクラスで、今でも仲がいい。
もう一つ角を曲がれば敦也の家に着くという時だ。
「あっ、戸井圭吾くんだ」
シャボン玉がはじけるような、ふわりと可愛らしい声がした。
圭吾が振り向くと、黄色い花柄のワンピースが目に入った。
クラスメイトの良知美鈴だった。クリッとした目にポニーテイルが可愛いと、男子にも女子にも人気がある。
美鈴は、圭吾から3メートルほど離れたところに立ち止まっていた。
「土曜日に会うなんてめずらしいね」
美鈴に微笑まれて、圭吾は顔が熱くなった。
「敦也の家に行くところなんだ」
胸のドキドキに気づかれないように、圭吾は出せる限りのクールな声で話した。
「敦也くんなら、近くの公園にいるのを見たよ」
美鈴は、進行方向とは反対側を指さした。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「ねぇ、なに持ってるの?」
美鈴が、スキップを踏むように近づいてきた。
だが、圭吾の1メートル手前で急に立ち止まった。さっきまでの笑顔がみるみるうちに消えていく。美鈴がきゃっと、小さい悲鳴を上げた。
大きく見開かれた美鈴の目。圭吾は、美鈴の視線をたどった。美鈴が見ているのは、圭吾が持っている虫かごではないだろうか。いや、虫かごではない。
おそらく、虫かごの中のドラゴン……。そう思い当たった時、圭吾の心臓がドクンと飛び跳ねた。
「もしかして、見えるの?」
圭吾は一歩前に踏み出した。それに合わせるように、美鈴が後ずさる。
「かっこいいでしょ?」
圭吾の顔に、自然に笑みが出た。しかし、美鈴は顔をしかめ、首を横に振った。
「よく見てよ」
圭吾は虫かごを突き出すように、美鈴に近づいた。
「いや。いい、いい」
美鈴が遠慮するように手を振る。
圭吾は美鈴の嫌そうな顔を見て、とたんに気分が落ち込んだ。
「じゃあね、ばいばーい」
美鈴は逃げるように圭吾の横を走り抜けた。
「待って、美鈴ちゃん!」
圭吾は追いかけようとしたが、しつこくして美鈴に嫌われたくなかった。
10メートルほど離れたところで美鈴が振り返った。
「また月曜日に学校でね!」
美鈴が手を振っている。美鈴が笑顔に戻っているのを見て、圭吾はほっとした。
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