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第一章 ドラゴンハンター01 戸井圭吾
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「ウォータードラゴンじゃなくて?」
圭吾は思わずつっこんだ。ひとり言のつもりだったが、その声は意外と大きかった。
女の人が、圭吾に向かって微笑んだ。
「ドラゴンで合っているの、ド・ラ・ゴ・ン」
女の人が圭吾の顔をのぞきこむように言う。
「ドラゴンだって?」
近くでイモリを見ていた男の子が近づいてきた。小学校1、2年生くらいだろうか。
「ド、ラ、ゴ、ン、が、い、る、よ」
男の子は、ゆっくりと青い文字を読み上げた。
「えっ、本当?」
男の子は興奮したように、小さなガラスケースの前にしゃがみこんだ。ケースの中をじっとのぞきこむ。そのままちっとも動かない。
圭吾も見たかったが、小さなケースの前は定員1名様って感じだ。ガラスケースは男の子の体の陰に、すっかり隠れてしまった。
しばらくして男の子が顔を上げた。
「なんにもいないよ。見て損したー」
立ち去ろうとする男の子の腕を、女の人が素早くつかんだ。
「ほら、あそこ。止まり木の下の方にかくれてる」
女の人がケースの中を指さす。
「えー、なにもいないじゃん」
男の子が口をとがらせた。
「君には、見えないかぁ」
女の人は残念そうにため息をついた。
男の子が立ち去ると、圭吾は待っていましたとばかりにガラスケースをのぞきこんだ。
パッと目に入ったのは、小さな止まり木。その上にはなにもいない。
期待半分、冷めた気持ち半分。圭吾は視線を下にずらしていく。
止まり木の下。ある一点で圭吾の視線が止まる。
圭吾はゴクンとつばを飲んだ。
黒に近い、濃い緑色。トカゲのような体。そして背中には金色に輝くタテガミと、ゴツゴツとした翼。サファイアのように、青くきらめく瞳。鋭い目つきをしていたが、その体は、手の平にのるほど小さかった。体長5センチくらいだろうか。
ソレが、口を大きく開けた。ボッと鋭い音がして、目の前が真っ赤になった。顔が熱い。
圭吾は小さな悲鳴を上げた。床にしりもちをつく。目を固くつぶった。
「お兄ちゃん、なに見てるの?」
目を開けると隣に、結衣がしゃがんでいた。
「それ」
圭吾はガラスケースを指さした。驚きのあまり、それ以上言葉が出なかった。
結衣がガラスケースをのぞきこむ。
圭吾は立ち上がった。結衣の小さな頭を見つめた。心臓が激しく音を立てている。さっきのは、ソレが火を噴いたのだと、圭吾は今になって気づいた。
結衣が振り返る。
「なんにもいないね、お兄ちゃん」
結衣は、キョトンとした顔をしている。
「あ、あぁ」
圭吾は答えた。
わけがわからなかった。さっきの男の子にも、結衣にも見えない。では、圭吾が見ているものは、いったい何なのだろう。どうして自分にだけ見えるのだろうか。
頭の中が、クエスチョンマークでいっぱいになった。得体の知れない焦りが、お腹の底からわき上がってくる。
自分だけが人と違う。その事実は、圭吾をひどく不安な気持ちにさせた。
気が付くと、さっきの女の人がじっと圭吾を見つめていた。
「もしかして君、見えるの?」
「なにがですか?」
圭吾はとぼけた。
「君には見えるの? ドラゴンが」
女の人は、真剣な顔をしている。圭吾は怖くなってきた。
ドラゴン。それは見てはいけない物のような気がした。
もしも見えると言ったら、この女の人は圭吾をどうする気だろう。踏み込んではいけない世界に、連れていかれてしまうのではないか。
わけのわからない恐怖に、胸の奥が冷たくなる。圭吾はこの場から逃げ出してしまいたかった。
「見えるの?」
女の人が質問を重ねる。
圭吾はすかさず答えた。
「いいえ、なにも見えませんけど」
声が震えていた。
女の人は、疑うように圭吾の顔をマジマジと見てくる。圭吾は先に視線をそらした。嘘がばれただろうか。心臓の音が、耳の奥でドクドクと鳴る。
「そっか。君にも見えないか」
女の人がため息をつきながら言った。
「じゃぁ、お願いします」
女の人は店員に挨拶すると、店を出て行った。意外にもあっさり終わって、圭吾は拍子抜けした。
「もう1回、ワンちゃん見てくるねー」
結衣が、あっという間に走り去る。
ただの見間違いだった、ということもあるかもしれない。圭吾は、胸をドキドキさせながら、もう一度ガラスケースをのぞいた。
だがやはり、そこには本当にいた。マンガや映画やゲームの中でしか見たことがなかったドラゴン。それが、本当にここにいる。
ただし、まるでミニチュアみたいに小さい。ドラゴンの赤ちゃんなのかもしれない。
ドラゴンの光り輝くタテガミや、美しく青い瞳に、圭吾の気持ちは吸い寄せられる。
今では、隣のウォータードラゴンがくすんで見えるほどだった。さっきまであれほど夢中だったというのに。
先ほど感じた恐怖や不安は、あっという間にどこかに吹き飛んでしまった。それほどドラゴンの姿は、圭吾にとって魅力的だった。
その時圭吾の頭の中に、ある考えがひらめいた。その考えは、ダイヤモンドのように光り輝いている。
(このドラゴンなら、飼うことができるのではないか)
なぜなら、他の人にはドラゴンが見えない。それならば、お母さんや結衣に内緒で堂々とドラゴンをペットにすることができる。
問題は、このドラゴンがいくらかということだ。ケースに値段は書かれていなかった。
圭吾は思わずつっこんだ。ひとり言のつもりだったが、その声は意外と大きかった。
女の人が、圭吾に向かって微笑んだ。
「ドラゴンで合っているの、ド・ラ・ゴ・ン」
女の人が圭吾の顔をのぞきこむように言う。
「ドラゴンだって?」
近くでイモリを見ていた男の子が近づいてきた。小学校1、2年生くらいだろうか。
「ド、ラ、ゴ、ン、が、い、る、よ」
男の子は、ゆっくりと青い文字を読み上げた。
「えっ、本当?」
男の子は興奮したように、小さなガラスケースの前にしゃがみこんだ。ケースの中をじっとのぞきこむ。そのままちっとも動かない。
圭吾も見たかったが、小さなケースの前は定員1名様って感じだ。ガラスケースは男の子の体の陰に、すっかり隠れてしまった。
しばらくして男の子が顔を上げた。
「なんにもいないよ。見て損したー」
立ち去ろうとする男の子の腕を、女の人が素早くつかんだ。
「ほら、あそこ。止まり木の下の方にかくれてる」
女の人がケースの中を指さす。
「えー、なにもいないじゃん」
男の子が口をとがらせた。
「君には、見えないかぁ」
女の人は残念そうにため息をついた。
男の子が立ち去ると、圭吾は待っていましたとばかりにガラスケースをのぞきこんだ。
パッと目に入ったのは、小さな止まり木。その上にはなにもいない。
期待半分、冷めた気持ち半分。圭吾は視線を下にずらしていく。
止まり木の下。ある一点で圭吾の視線が止まる。
圭吾はゴクンとつばを飲んだ。
黒に近い、濃い緑色。トカゲのような体。そして背中には金色に輝くタテガミと、ゴツゴツとした翼。サファイアのように、青くきらめく瞳。鋭い目つきをしていたが、その体は、手の平にのるほど小さかった。体長5センチくらいだろうか。
ソレが、口を大きく開けた。ボッと鋭い音がして、目の前が真っ赤になった。顔が熱い。
圭吾は小さな悲鳴を上げた。床にしりもちをつく。目を固くつぶった。
「お兄ちゃん、なに見てるの?」
目を開けると隣に、結衣がしゃがんでいた。
「それ」
圭吾はガラスケースを指さした。驚きのあまり、それ以上言葉が出なかった。
結衣がガラスケースをのぞきこむ。
圭吾は立ち上がった。結衣の小さな頭を見つめた。心臓が激しく音を立てている。さっきのは、ソレが火を噴いたのだと、圭吾は今になって気づいた。
結衣が振り返る。
「なんにもいないね、お兄ちゃん」
結衣は、キョトンとした顔をしている。
「あ、あぁ」
圭吾は答えた。
わけがわからなかった。さっきの男の子にも、結衣にも見えない。では、圭吾が見ているものは、いったい何なのだろう。どうして自分にだけ見えるのだろうか。
頭の中が、クエスチョンマークでいっぱいになった。得体の知れない焦りが、お腹の底からわき上がってくる。
自分だけが人と違う。その事実は、圭吾をひどく不安な気持ちにさせた。
気が付くと、さっきの女の人がじっと圭吾を見つめていた。
「もしかして君、見えるの?」
「なにがですか?」
圭吾はとぼけた。
「君には見えるの? ドラゴンが」
女の人は、真剣な顔をしている。圭吾は怖くなってきた。
ドラゴン。それは見てはいけない物のような気がした。
もしも見えると言ったら、この女の人は圭吾をどうする気だろう。踏み込んではいけない世界に、連れていかれてしまうのではないか。
わけのわからない恐怖に、胸の奥が冷たくなる。圭吾はこの場から逃げ出してしまいたかった。
「見えるの?」
女の人が質問を重ねる。
圭吾はすかさず答えた。
「いいえ、なにも見えませんけど」
声が震えていた。
女の人は、疑うように圭吾の顔をマジマジと見てくる。圭吾は先に視線をそらした。嘘がばれただろうか。心臓の音が、耳の奥でドクドクと鳴る。
「そっか。君にも見えないか」
女の人がため息をつきながら言った。
「じゃぁ、お願いします」
女の人は店員に挨拶すると、店を出て行った。意外にもあっさり終わって、圭吾は拍子抜けした。
「もう1回、ワンちゃん見てくるねー」
結衣が、あっという間に走り去る。
ただの見間違いだった、ということもあるかもしれない。圭吾は、胸をドキドキさせながら、もう一度ガラスケースをのぞいた。
だがやはり、そこには本当にいた。マンガや映画やゲームの中でしか見たことがなかったドラゴン。それが、本当にここにいる。
ただし、まるでミニチュアみたいに小さい。ドラゴンの赤ちゃんなのかもしれない。
ドラゴンの光り輝くタテガミや、美しく青い瞳に、圭吾の気持ちは吸い寄せられる。
今では、隣のウォータードラゴンがくすんで見えるほどだった。さっきまであれほど夢中だったというのに。
先ほど感じた恐怖や不安は、あっという間にどこかに吹き飛んでしまった。それほどドラゴンの姿は、圭吾にとって魅力的だった。
その時圭吾の頭の中に、ある考えがひらめいた。その考えは、ダイヤモンドのように光り輝いている。
(このドラゴンなら、飼うことができるのではないか)
なぜなら、他の人にはドラゴンが見えない。それならば、お母さんや結衣に内緒で堂々とドラゴンをペットにすることができる。
問題は、このドラゴンがいくらかということだ。ケースに値段は書かれていなかった。
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