小悪魔ノート

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7 真の悪魔

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「そういうわけで、小悪魔ノートがクラスのみんなに配られちゃったってわけ」

「へー。そうだったのかぁ。すごいよくわかった」

 颯太が、感心したようにうなずいている。

「ね? 小悪魔ノートを探さなくちゃいけない理由、よーくわかったでしょ?」

「そうじゃなくて、美恵先生って結構イタイヤツだったんだなぁ。フフッ」

 学校で、先生が自分のことを魔女だと言った時のことを思い出した。

 あの時は先生の瞳に吸い込まれそうになって、背筋が冷たくなった。

(あれは完全に気のせいだな。ライアも、魔法の本はインチキだって言ってたし)

「もう、なに笑ってるのよ! 小悪魔ノート探し、協力してくれるよね?」

「やーだねー、自分で探せば?」

 颯太が、バカにしたように言う。

「どうしてよっ! わたし一人で探すには限界があるから、頼んでいるんじゃない」

 ライアが腰に手をあて、目をつり上げている。

「だいたい、探す必要なんてないだろ」

「探す必要あるわよっ」

「ないない」

 颯太は、手をヒラヒラ振った。

「なんで、颯太が決めるのよ」

「だって、新しいノート買ってあげるから、また作ればいいじゃん。小悪魔ノート」

 ライアは困り顔で、首を横に振った。

「1冊しか作れないのよ、小悪魔ノートは。あれが世界で唯一の、わたしの小悪魔ノートなのよ」

「まったく面倒なルールだなぁ」

 颯太は、眉間にしわを寄せた。

「みんなに配られたノート見て、どれが本物かわからなかったの?」

 ライアは首を横に振った。

「わからないわ」

「なんだよ、それ。自分が作ったんだろ?」

 颯太があきれたように言う。

「だって、パッと見はどれも同じなんだもん」

 ライアは、しょんぼりとうなだれた。

「隅から隅までよく探せば、ノートのどこかに小さなクロアゲハが舞っているはずなんだけど。姿を見せずに、クラス全員分調べるのは難しいわ」

 ライアが、大きなため息をつく。

「それ探し出して、おれに何か得ってあるの?」

「もし見つけたら、わたしと契約できる。颯太の願いを、何でも叶えてあげられるのよ」

 ライアが、颯太を指さした。

「寿命とひきかえに、だろ?」

 颯太が顔をしかめた。

「1年くらい、いいじゃない」

「そんなに簡単に言うなよ」

 颯太が怒ったように言う。

「どんな大きな夢だって叶うのよ。不老不死以外ならね」

「でも、もしおれの寿命があと1年しかなかったら、死んじゃうってことだろ?」

 ライアが首を横に振った。

「颯太の寿命は、まだまだあるわ。それは、わたしが保障する」

「信用できねー。だってライア、悪魔だろ?」

 ライアが、鋭い目で颯太を見返す。

「わかったわかった。小悪魔ちゃん、ね?」

 ライアが、こくりとうなずいた。

「もし、もしもよ。万が一にでもよ。米粒ほどでもいいから、良心ってものが颯太にほんのちょっとでもあるなら」

「なに、その、おれには良心のかけらもないみたいな言い方。おれって、結構いいやつだろ?」

「一刻も早く、小悪魔ノートを見つけるべきよ。ノートの存在を知ったからには、その義務がある」

 ライアが強気な態度でせまってくる。

「おれの質問の答えは? もう一度言うけど、おれって結構いいやつだろ? 」

「小悪魔ノートはね、人間と小悪魔が契約してこそ成り立つもの」

 ライアが、机の上を行ったり来たりしながら言った。

「シカトかよっ」

 颯太が叫んだが、ライアは気にとめる様子もない。

 ライアがふと立ち止まり、颯太を見上げる。

 そして、そっと息をひそめるように言った。

「契約が成立していないノートに願いを書きこんだら、大変なことになるわ」

「願いと反対のことが起きるとか? っていうか、さっきの質問の答えは? おれって、結構……」

「願いは叶うわ。そう、叶うの。でも、小悪魔と契約を結んでいないから、寿命を引き渡す必要もない」

「うわっ、それっていいことづくめじゃん。ノートを手に入れても、ライアと契約しなければいいんだ」

 颯太がバンザイをして、ベッドに仰向けに横たわった。

「いいこと聞いちゃったな。もういいや、質問の答えは」

 ライアが追いかけてきて、ギロっと颯太をにらむ。

「颯太って、やっぱり悪魔ね」

「いいって言ってるだろ、質問の答えは」

 颯太は体をひねって横向きになり、ライアに背中を向けた。

 ライアは、パタパタと羽をはばたかせ移動した。

 颯太の顔の前に、降り立つ。

「あのね、小悪魔ノートっていうのは、恐ろしい怪物よ。それこそ真の悪魔」

 ライアが、颯太をにらみつけるように言う。

「正式な契約が成立していない小悪魔ノートは、願いを叶えるたびに、人間のあらゆる欲求という欲求を根こそぎ吸い取っていくの。最後には願いや夢なんか、もちろん何も持たなくなる」

「無欲になるなら、いいことじゃないか」

「あのね、欲求っていうのは、生きていくために必要なエネルギー。それがなければ、無気力人間になって何もしなくなる。動きたくないし、考えることもしない。ご飯さえ食べられなくなっちゃうのよ」

 そこまで言うと、ライアはくっと眉間にしわを寄せた。

「でも、寿命が残っているから、寝たきりの植物状態になってでも生かされる。鼻にさしたチューブから、栄養をとってね」

 ライアが低い声で、ささやくように言った。

 颯太は起き上がって、ベッドにあぐらをかいた。

「クラスの誰かが、そうなる可能性があるってこと?」

 頭の中に、敦也やゆかりや亜美、他のみんなの顔が浮かんでは消える。

 ライアが、ゆっくりとうなずいた。

「そうなる前に、小悪魔ノートの暴走を、食い止めなくちゃいけないの。わたしって、結構いい小悪魔ちゃんでしょ?」
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