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魔法召いのブレェス
望んだ世界
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全機関にドラゴンへの攻撃を禁止されてから、西ブリゲイドにドラゴンの姿が現れるのは不思議ではなくなった。
「平和になったものね」
「手のひらを返したようにドラゴンとの交流が始まってなんか妙だよね」
その場面を見ていたフウコとライハルトは感嘆しているようだ。が、浮かない顔をしている二人を見てリキは別のことを感じ取った。
「嫌なの?」
「そうじゃなくて、なんか一瞬にして世界が変わったようだなって。もちろん嬉しいことだよ。僕たちが小さい頃、ドラゴンが学園に連行されるように歩いていったの見たことあるからさ」
「ああ、あれね」
同じ孤児院にいたライハルトとフウコは黒ドラゴンが魔法学園に連れて行かれている光景を思い出す。
厳重に警戒している学園の者たちの中にいたのは、大きないかつい顔をした漆黒のドラゴン。
「あのときはびびったわ。孤児院を出て学園に行くことになったときはあのドラゴンが頭にちらついてほんとこわかった。あんなのと戦うのって」
「僕もこわかったな。でもあんなのと対決することができるようになるのかって興味津々だった」
「あんたはほんと好奇心旺盛な子供だったわよね、妙なところで」
「それは褒め言葉? そうとして受け取っておくよ」
スマイルスルーするライハルトと、フウコの会話を目の前にしてロザントは改めて思う。
「あんたたちって本当に仲良しよね」
フウコは心底嫌そうな顔をする。
「やめてちょうだい」
「いやー照れるなー」
「ライハルト、思ってもないこと言わないで、柄にもない。せめて棒読みにして」
「僕たち仲良しでしょーーうっ」
「きもい。やめて。ほんと気色悪い」
顔面をぐーで殴られる始末。眉間のあたりがじんじんとしてライハルトは手でおさえる。
「眼鏡壊れる」
「壊れたときはライハルトの貯金でどうぞよろしく」
「酷いな……」
その光景を見ながら呆れたようにロザントは息を吐く。
「吐き気がするほど仲良しね」
それに反応して向き直ったフウコがわざとらしい笑みを見せた。
「ところでロザントちゃんはなぜここにいるのかしら?」
「柄にもなく丁寧な言葉遣いだね」
「殴るわよ」
「殴るというより今蹴りが入ったけど」
回し蹴りは難なくかわすライハルト。
一行に話が進まない。と、呆れきった目で自分たちを見るロザントにフウコは簡潔的に問うことにした。
「ロザント、ここへ来た理由を述べよ」
「なんで出題みたいになってんの。別にあんたたちに会いに来たわけじゃないわよ。リキがここにいるって聞いて来たの」
「リキに何か用?」
「別に用ってほどのことではないわよ」
なるほどというようにライハルトの眼鏡が光る。
「用がないのに会いに来たってわけだ」
「なるほど、顔を見にきたのか。あんたってほんとお姉ちゃんっ子よね」
「な、なにそれ!?」
「リキってほらお姉ちゃんぽいところあるでしょ。おしとやかで怒ったりもしないで、なんでも許してくれるような存在っしょ」
「フウとは正反対だ」
「それは認めるわ」
珍しくも嫌味にも聞き取れるものにフウコは素直に頷いた。そのまま話の対象である人物に視線を向ける。
「私としてはストレス溜まって爆発しそうな気がするけど、しそうになったりしないの?」
「村にいたときは同い年の子があまりいなくて喋る機会なかったから、そんなにお喋りじゃないのかも……」
困ったように笑う。リキは小さい頃を思い出すが、同い年の子と遊んだという記憶がなかった。話すとすれば自分よりうーんと年上のおじいさんや両親と同じくらいの女の人と男の人。といっても両親は物心ついたときにはもういなくて、精神的に頼れる人がいなかった。周りには優しい人ばかりで不自由はしなかったが。
心の開ける友人がいないからか愚痴をこぼすこともなく、遊ぶとすれば森の探検。で、そこで会った大きな鳥さんは唯一心を全開にできる存在となった。
人間同士だとやはり大人と子供の区別があるわけで、どうしてもそこを考えてああ違うんだなと思う。けれど大きな鳥さんには容姿もかもしれないが、不思議な雰囲気があって他の何ものでもないと感じた。
落ち着いた声に、自分の話を聞いてくれようとする姿勢、それは村の人たちにもあった。されど一つだけ異なる。
いつ関わりをなくしてもいいとある意味一線を引いているものを感じとっていたから、リキは関係を紡ぎたかったのかもしれない。離れたくないと。
関わりたいと思いながらも離れていこうとする者は初めてだった。ただ単純に大きな鳥さんという初めて目にするものに興味が湧いていたからという理由も間違いではない。
「愚痴とか言ってもいいのよ?」
「フウみたいになんでもかんでも言う子じゃないからね、リキは」
「なにそれどういう意味」
「人それぞれ、十人十色ってわけ」
あんたリキには優しいわよね、と言われたライハルトはそう? と含んだ笑みで答え。沈黙を挟んでから向き合う。
「リキ、ドラゴンと敵対しなければならない環境を変えてくれてありがとう」
それはいきなりのことで「急にどうしたの」とフウコは驚く。「お礼を言わないとと思って」と聞いてから何か考えているような顔をする。
そして同じように姿勢を正し、リキの手を取り両手で握る。
「リキ、私からもありがとう。ドラゴンと戦うなんて本当嫌だったから夢みたい」
続くようにロザントが腕を組みながらに当然の顔をして言う。
「私はリキが変えてくれるって信じてた。最初はもちろん何言ってんの馬鹿みたいって思ってたけど、あなたの本気さが伝わったから。できないことをしようと試みるんじゃなくて、叶えたいことを成し遂げようとする姿が……なんとなくわかった。まあ私はなんもしてないけどね、あなたが全部やった」
一緒に行動できなかったことを後悔しているようにどこか不服そうだ。
「私だけじゃ何もできなかったよ。皆の力があってできたことだから」
謙遜しているように見えるが実際、周りにいる者たちがいろいろとしてくれた。問題にぶちあたったりもしたが誰かがその壁を必ず壊してくれる。ただその風に乗っていたようなものだ。当の本人はそう思っている。のだが。
「そうだぴょん! 私たちを忘れるなぴょん!」
リキの肩に乗っている子兎のラピは偉そうに胸をはる。
「ほーんと、うさぴょんは自分の手柄みたいに」
「いやいやいや、ちゃんと私〝たち〟と言ったぴょん!」
「だからその私たち召喚獣のおかげだぞっていう姿勢が……」
フウコは思わず笑ってしまう。どうしてそんなに自分に自信があるのか。
つられるように皆が笑うのでラピは周りを不思議そうに見回した。
「リキはとんだ俺様召喚獣をよんだな」
「俺様!? 私はメスぴょん!」
「へえ女の子だったんだ」
「まじで」
「声で気づけぴょん! ばかやろう!」
ライハルトとの会話に素で驚いたフウコまで喝をいれられる。考えてみれば失礼だなと思ったフウコは視線を真横にそらす。
「私は気づいてたよ、うん」
「絶対嘘だぴょん」
フウコのことを疑いの目で見ていれば、自分のことをじっと見つめるロザントの姿に気づく。
「なに見てるんだぴょん」
「いや、召喚獣にオスメスあるんだなあと」
感心しているように驚いている。そんなロザントも学園での演習のとき、二匹の兎姿をした召喚獣を出していた。一匹はクリーム色のした兎で、もう一方は漆黒。大きさはラピの二、三倍といったところ。肩に乗れるほど小さくはないが、黒兎の方は羽がついていて常に空中に浮かんでいた。
「そういえば貴様も兎みたいな召喚獣出していたぴょん」
「キサマってなによ? あの子たちはオスメスわからないのよ、喋らないから。ーーってなに驚いた顔してんの」
「喋らないって、ありえないぴょん」
「すごいびっくりって感じだけど、あんたの存在の方がありえないのよ。べらべら喋って気持ち悪い」
本音を言っただけだ。
それなのにあのラピが泣きべそをかく。
何を言われてもどんな罵倒でも怒って反抗してくるのに。
「気持ち悪いって言われたぴょん……ぐすっ……リキ、そいついじめるぴょん」
「なっ」
まるでロザントは悪者になった気分になる。
リキはよしよしなんてラピの頭を撫でているし。
ーーそこ変わりなさい。
なんて頭の片隅に浮かんだものより大事なことがある。リキの許しを貰わなければ。
されどそんな必要はなかった。
「ロザントは悪気あって言ったことじゃないよ。そいつって言うのはやめよう?」
「でも」
「うん。辛いこと言われたね。でもラピが喋るのは全然気持ち悪くないよ。ただラピが喋るのはありえないすごいことだから他の人にもそう言われることがあるかもしれない」
喋る兎に初めて出会ったときには誰もが驚くだろう。驚きをこえて気持ち悪いなんて思ってそれを正直に口にしてしまう人もいるかもしれない。それでもラピはラピなのだから、喋ることが普通であるのだからおかしいと気にすることではない。
「なるほど! ありえないすごいことだから驚いてそう言ったぴょんね!」
「そうそう」
すぐに元気を取り戻す。単純だとラピはよく言われるが純粋な子なのである。
「ほんとリキはうさぴょんを乗せるのがうまいね」
「あたりまえだぴょん! ずっとここに乗ってるんだぴょん」
「いや、そういうことではなくて」
肩に乗せていることを言ったのではないが、まあいいかとライハルトは暖かく笑う。
リキはドラゴンであるフェリスと行動を共にすることが多いが基本ここ、西ブリゲイドにいた。他の者たちはドラゴンとともに各地の討伐機関にいる。
北フォースにはシルビアとユキ。シルビアが小さい頃に灰色のドラゴンであるユキに名前をつけたことで絆ができた関係だ。
東ブリゲイドにはファウンズとデスタン。ファウンズの父クラウスに黒色ドラゴンのデスタンは命をかけて守ってもらった。人間がどうして、など思いながらデスタンはクラウスの息子であるファウンズに彼への恩を返そうとして側にいる。あるいは罪償い。
南トループ、そこにはルーファースとアフェクト。
赤ドラゴンのアフェクトとルーファースはお互い小さい頃に仲が良く一度縁の切れた関係だったが、ファウンズたちの行為により修復された。
ルーファースが謝罪をしアフェクトがそれを許す。それだけのはずだったがアフェクトのほうも謝っていた。ひどいことを言ってごめんなさいと。
トループにはユークもいた。あの時の話を聞いたユークはルーファースが一人だとまた暴走するかもしれないからと、見張り役をかってでたのだ。
冗談めかして『兄として側にいるよ』と言ったユークをルーファースは理解できないといった顔で凝視していた。
リキのいる西ブリゲイドにはロキもいるのだが、朝が弱いために未だ部屋で寝ている。
各地にドラゴンがいるのはいわば宣伝活動のようなものである。ドラゴンは人間の仲間、人間はドラゴンを傷つけない。そのことを少しずつお互いに知ってもらうために。
「フェリスや皆が傷つけ合わない平和な世界、になったよね」
両の手のひらの上に包むようにして持ち聞いてくるリキにラピは柔らかい表情を向けた。
フウコとライハルトは、やっと起きてきたロキに話しかけている。ロザントだけがリキの言葉を聞いていた。
「ラピ、私のために生まれてくれてありがとう」
ラピだけは他の召喚獣と少し違って、リキがなくなってしまえば共に消える存在となっている。どうしてそうなるのか、どうしてそうなることを知っているのか。ずいぶん前にリキに問われたラピはわからないと言った。
わからないけれど、リキがご主人さまで、最後まで一緒にいられるのは嬉しいと。
「平和になったものね」
「手のひらを返したようにドラゴンとの交流が始まってなんか妙だよね」
その場面を見ていたフウコとライハルトは感嘆しているようだ。が、浮かない顔をしている二人を見てリキは別のことを感じ取った。
「嫌なの?」
「そうじゃなくて、なんか一瞬にして世界が変わったようだなって。もちろん嬉しいことだよ。僕たちが小さい頃、ドラゴンが学園に連行されるように歩いていったの見たことあるからさ」
「ああ、あれね」
同じ孤児院にいたライハルトとフウコは黒ドラゴンが魔法学園に連れて行かれている光景を思い出す。
厳重に警戒している学園の者たちの中にいたのは、大きないかつい顔をした漆黒のドラゴン。
「あのときはびびったわ。孤児院を出て学園に行くことになったときはあのドラゴンが頭にちらついてほんとこわかった。あんなのと戦うのって」
「僕もこわかったな。でもあんなのと対決することができるようになるのかって興味津々だった」
「あんたはほんと好奇心旺盛な子供だったわよね、妙なところで」
「それは褒め言葉? そうとして受け取っておくよ」
スマイルスルーするライハルトと、フウコの会話を目の前にしてロザントは改めて思う。
「あんたたちって本当に仲良しよね」
フウコは心底嫌そうな顔をする。
「やめてちょうだい」
「いやー照れるなー」
「ライハルト、思ってもないこと言わないで、柄にもない。せめて棒読みにして」
「僕たち仲良しでしょーーうっ」
「きもい。やめて。ほんと気色悪い」
顔面をぐーで殴られる始末。眉間のあたりがじんじんとしてライハルトは手でおさえる。
「眼鏡壊れる」
「壊れたときはライハルトの貯金でどうぞよろしく」
「酷いな……」
その光景を見ながら呆れたようにロザントは息を吐く。
「吐き気がするほど仲良しね」
それに反応して向き直ったフウコがわざとらしい笑みを見せた。
「ところでロザントちゃんはなぜここにいるのかしら?」
「柄にもなく丁寧な言葉遣いだね」
「殴るわよ」
「殴るというより今蹴りが入ったけど」
回し蹴りは難なくかわすライハルト。
一行に話が進まない。と、呆れきった目で自分たちを見るロザントにフウコは簡潔的に問うことにした。
「ロザント、ここへ来た理由を述べよ」
「なんで出題みたいになってんの。別にあんたたちに会いに来たわけじゃないわよ。リキがここにいるって聞いて来たの」
「リキに何か用?」
「別に用ってほどのことではないわよ」
なるほどというようにライハルトの眼鏡が光る。
「用がないのに会いに来たってわけだ」
「なるほど、顔を見にきたのか。あんたってほんとお姉ちゃんっ子よね」
「な、なにそれ!?」
「リキってほらお姉ちゃんぽいところあるでしょ。おしとやかで怒ったりもしないで、なんでも許してくれるような存在っしょ」
「フウとは正反対だ」
「それは認めるわ」
珍しくも嫌味にも聞き取れるものにフウコは素直に頷いた。そのまま話の対象である人物に視線を向ける。
「私としてはストレス溜まって爆発しそうな気がするけど、しそうになったりしないの?」
「村にいたときは同い年の子があまりいなくて喋る機会なかったから、そんなにお喋りじゃないのかも……」
困ったように笑う。リキは小さい頃を思い出すが、同い年の子と遊んだという記憶がなかった。話すとすれば自分よりうーんと年上のおじいさんや両親と同じくらいの女の人と男の人。といっても両親は物心ついたときにはもういなくて、精神的に頼れる人がいなかった。周りには優しい人ばかりで不自由はしなかったが。
心の開ける友人がいないからか愚痴をこぼすこともなく、遊ぶとすれば森の探検。で、そこで会った大きな鳥さんは唯一心を全開にできる存在となった。
人間同士だとやはり大人と子供の区別があるわけで、どうしてもそこを考えてああ違うんだなと思う。けれど大きな鳥さんには容姿もかもしれないが、不思議な雰囲気があって他の何ものでもないと感じた。
落ち着いた声に、自分の話を聞いてくれようとする姿勢、それは村の人たちにもあった。されど一つだけ異なる。
いつ関わりをなくしてもいいとある意味一線を引いているものを感じとっていたから、リキは関係を紡ぎたかったのかもしれない。離れたくないと。
関わりたいと思いながらも離れていこうとする者は初めてだった。ただ単純に大きな鳥さんという初めて目にするものに興味が湧いていたからという理由も間違いではない。
「愚痴とか言ってもいいのよ?」
「フウみたいになんでもかんでも言う子じゃないからね、リキは」
「なにそれどういう意味」
「人それぞれ、十人十色ってわけ」
あんたリキには優しいわよね、と言われたライハルトはそう? と含んだ笑みで答え。沈黙を挟んでから向き合う。
「リキ、ドラゴンと敵対しなければならない環境を変えてくれてありがとう」
それはいきなりのことで「急にどうしたの」とフウコは驚く。「お礼を言わないとと思って」と聞いてから何か考えているような顔をする。
そして同じように姿勢を正し、リキの手を取り両手で握る。
「リキ、私からもありがとう。ドラゴンと戦うなんて本当嫌だったから夢みたい」
続くようにロザントが腕を組みながらに当然の顔をして言う。
「私はリキが変えてくれるって信じてた。最初はもちろん何言ってんの馬鹿みたいって思ってたけど、あなたの本気さが伝わったから。できないことをしようと試みるんじゃなくて、叶えたいことを成し遂げようとする姿が……なんとなくわかった。まあ私はなんもしてないけどね、あなたが全部やった」
一緒に行動できなかったことを後悔しているようにどこか不服そうだ。
「私だけじゃ何もできなかったよ。皆の力があってできたことだから」
謙遜しているように見えるが実際、周りにいる者たちがいろいろとしてくれた。問題にぶちあたったりもしたが誰かがその壁を必ず壊してくれる。ただその風に乗っていたようなものだ。当の本人はそう思っている。のだが。
「そうだぴょん! 私たちを忘れるなぴょん!」
リキの肩に乗っている子兎のラピは偉そうに胸をはる。
「ほーんと、うさぴょんは自分の手柄みたいに」
「いやいやいや、ちゃんと私〝たち〟と言ったぴょん!」
「だからその私たち召喚獣のおかげだぞっていう姿勢が……」
フウコは思わず笑ってしまう。どうしてそんなに自分に自信があるのか。
つられるように皆が笑うのでラピは周りを不思議そうに見回した。
「リキはとんだ俺様召喚獣をよんだな」
「俺様!? 私はメスぴょん!」
「へえ女の子だったんだ」
「まじで」
「声で気づけぴょん! ばかやろう!」
ライハルトとの会話に素で驚いたフウコまで喝をいれられる。考えてみれば失礼だなと思ったフウコは視線を真横にそらす。
「私は気づいてたよ、うん」
「絶対嘘だぴょん」
フウコのことを疑いの目で見ていれば、自分のことをじっと見つめるロザントの姿に気づく。
「なに見てるんだぴょん」
「いや、召喚獣にオスメスあるんだなあと」
感心しているように驚いている。そんなロザントも学園での演習のとき、二匹の兎姿をした召喚獣を出していた。一匹はクリーム色のした兎で、もう一方は漆黒。大きさはラピの二、三倍といったところ。肩に乗れるほど小さくはないが、黒兎の方は羽がついていて常に空中に浮かんでいた。
「そういえば貴様も兎みたいな召喚獣出していたぴょん」
「キサマってなによ? あの子たちはオスメスわからないのよ、喋らないから。ーーってなに驚いた顔してんの」
「喋らないって、ありえないぴょん」
「すごいびっくりって感じだけど、あんたの存在の方がありえないのよ。べらべら喋って気持ち悪い」
本音を言っただけだ。
それなのにあのラピが泣きべそをかく。
何を言われてもどんな罵倒でも怒って反抗してくるのに。
「気持ち悪いって言われたぴょん……ぐすっ……リキ、そいついじめるぴょん」
「なっ」
まるでロザントは悪者になった気分になる。
リキはよしよしなんてラピの頭を撫でているし。
ーーそこ変わりなさい。
なんて頭の片隅に浮かんだものより大事なことがある。リキの許しを貰わなければ。
されどそんな必要はなかった。
「ロザントは悪気あって言ったことじゃないよ。そいつって言うのはやめよう?」
「でも」
「うん。辛いこと言われたね。でもラピが喋るのは全然気持ち悪くないよ。ただラピが喋るのはありえないすごいことだから他の人にもそう言われることがあるかもしれない」
喋る兎に初めて出会ったときには誰もが驚くだろう。驚きをこえて気持ち悪いなんて思ってそれを正直に口にしてしまう人もいるかもしれない。それでもラピはラピなのだから、喋ることが普通であるのだからおかしいと気にすることではない。
「なるほど! ありえないすごいことだから驚いてそう言ったぴょんね!」
「そうそう」
すぐに元気を取り戻す。単純だとラピはよく言われるが純粋な子なのである。
「ほんとリキはうさぴょんを乗せるのがうまいね」
「あたりまえだぴょん! ずっとここに乗ってるんだぴょん」
「いや、そういうことではなくて」
肩に乗せていることを言ったのではないが、まあいいかとライハルトは暖かく笑う。
リキはドラゴンであるフェリスと行動を共にすることが多いが基本ここ、西ブリゲイドにいた。他の者たちはドラゴンとともに各地の討伐機関にいる。
北フォースにはシルビアとユキ。シルビアが小さい頃に灰色のドラゴンであるユキに名前をつけたことで絆ができた関係だ。
東ブリゲイドにはファウンズとデスタン。ファウンズの父クラウスに黒色ドラゴンのデスタンは命をかけて守ってもらった。人間がどうして、など思いながらデスタンはクラウスの息子であるファウンズに彼への恩を返そうとして側にいる。あるいは罪償い。
南トループ、そこにはルーファースとアフェクト。
赤ドラゴンのアフェクトとルーファースはお互い小さい頃に仲が良く一度縁の切れた関係だったが、ファウンズたちの行為により修復された。
ルーファースが謝罪をしアフェクトがそれを許す。それだけのはずだったがアフェクトのほうも謝っていた。ひどいことを言ってごめんなさいと。
トループにはユークもいた。あの時の話を聞いたユークはルーファースが一人だとまた暴走するかもしれないからと、見張り役をかってでたのだ。
冗談めかして『兄として側にいるよ』と言ったユークをルーファースは理解できないといった顔で凝視していた。
リキのいる西ブリゲイドにはロキもいるのだが、朝が弱いために未だ部屋で寝ている。
各地にドラゴンがいるのはいわば宣伝活動のようなものである。ドラゴンは人間の仲間、人間はドラゴンを傷つけない。そのことを少しずつお互いに知ってもらうために。
「フェリスや皆が傷つけ合わない平和な世界、になったよね」
両の手のひらの上に包むようにして持ち聞いてくるリキにラピは柔らかい表情を向けた。
フウコとライハルトは、やっと起きてきたロキに話しかけている。ロザントだけがリキの言葉を聞いていた。
「ラピ、私のために生まれてくれてありがとう」
ラピだけは他の召喚獣と少し違って、リキがなくなってしまえば共に消える存在となっている。どうしてそうなるのか、どうしてそうなることを知っているのか。ずいぶん前にリキに問われたラピはわからないと言った。
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