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魔法召いのブレェス

赤ドラゴンとの仲直り3

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『ボクたちを傷つける人間なんていなくなっちゃえばいいのに』

 口を開き何かを言いかけたルーファースが、ドラゴンのこぼした発言によって凍りついた。

 自分を否定された、自分の存在を。
 ドラゴンのことを信頼しきっていたルーファース。
 確かに裏切り行為をしてしまった、それでも親ドラゴンが死んだなんて嘘だ。
 そんなことで自分を否定されるなんて思ってもみなかった。

 そこまで考えてルーファースの思考までもが固まる。

 ーーああ、お前にとって一番大事なのは〝とうさん〟なんだな。

 すでにルーファースには父という存在がなかった。母という存在もなかった。大切なものなんて赤ドラゴン以外になかった。
 それでもドラゴンには自分より大事なものが存在していた。
 自分なんて大事に思われていなかったのかもしれない。

『ハハッ……』

 自嘲的な笑いが更に自分自身を苦しめる。
 ルーファースの乾いた声は誰も聞いてはいなかった。

 これをきっかけにひねくれ者のルーファースは更にひねくれ者になった。
 ドラゴンからは人間がいなくなればいいのにと言われ、大人にはドラゴンを含んだ魔物がいなくなればいいと言われ、子供のルーファースは「人間も魔物もどちらもいなくなればいい」それが一番いいことなのだという考えにいきついた。

 自分を含む全部がなくなればいいんだ。

 そう思っていたから自暴自棄な行動をとれていたし、周りのやつらなんてどうでもいいと思っていた。

 赤ドラゴンのことも、自分を捨てたのだからどうでもいいと思っていた。あの時のことに対しても少し自分が悪いと思っていても何もすべきではない、もう関わるべきではないと考えていた。

 けれど今は目の前にいる。

 フェリスが、ファウンズがちゃんと謝れと言う。

 だからルーファースはあの時の本当のことを話し、謝ることにした。

 本意ではない。謝れと脅されたから約束してしまったから。

 だから謝る。だからあの時の真実を話した。

「……ごめん」

 自分に言い訳をして、謝罪を口にした。
 自分が悪いなんて感じているつもりはなかった。
 それなのに、謝罪の台詞を言うと悲しくなった。
 だから最後の声が掠れた。

 ルーファースは戸惑う。

 罪の意識の重さを感じたはずはなかったはずだと。

 そのはずが昔のことを口にし思い出し辛くなった。

 なんてことを自分はしてしまったのだろうと反省してしまったのかもしれない。
 まさか。
 ルーファースは自分を疑った。

 もし本当にあの時のことについて罪の意識を感じているとして、今目の前にいる赤ドラゴンが謝罪のたった一言で許してくれるだろうか。
 昔とは比べほどにならないほど大きくなった赤ドラゴン。少し力を出せば人間を蹴散らせる。そんなことは容易いドラゴンが謝罪を受け入れるだろうか。

 ーーいや、受け入れないな。

 頭を下げ瞳をつむったままに半端諦めに笑った。

 なんでこんなことをさせるんだとファウンズたちをうらんだ。
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