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魔法召いのブレェス
黒ドラゴンとの戦い4
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「ご主人さま!」
「ラピ……?」
「勝手に出てきて申し訳ないぴょん。だけどリキが困っているようだったから。私に考えがあるぴょん」
兎姿の召喚獣ラピはいつでも自分の意思で出現することができる。
ラピはリキの肩で名案を耳打ちする。
この状態を打破するにはその名案しかリキはないと思った。
強力な火玉を受け止めているせいで魔力も減ってきている。これ以上減ってからでは遅い。かけるしかない。
リキは攻撃魔法《炎の渦(ファイアスワール)》を発動した。
火玉はそれによって爆発する。
大きな炎の光と大きな爆発音。熱い蒸気のような突風にユークとロキは腕で顔を隠した。
風が収まり様子を伺うと火玉はなくなっていた。
今にもシールドを破ろうとめらめらと燃えていた火玉は消滅したのだ。リキの炎魔法によって。
視界からなくなったのは火玉だけではなかった。視野が開けて、なくなってはいけないものまでなくなっていることに気づいてロキは視線を下げた。
同時にロキの隣に立っていたユークがそこへ駆ける。
しゃがみこんだユークを見てまさかとロキは思う。
いきなり駆けたユークによって視界が遮られたがまさか、そこにいるのは……。
「守ることしかできない女なのだな。お前らは傷つけることしかできない奴らなのだな」
「あんただってそうだろ。傷つけることしかできない。俺たちは誰かを守るために傷つける。おまえと一緒にしないでくれる」
「我はそういう意味で言ったわけじゃない。その女は我を攻撃せず、身を守るために守る行為をとった」
地へ降りたドラゴンと地にしゃがみ込んでいるユークの会話でロキは何が起こったのか理解した。理解して怒りが湧いた。
珍しく慌てた様子で駆けしゃがんだユークの背中。そこにいるのはリキなのだろうと心配気にロキは見つめる。
「お前たちは身を守るために傷つけるという行為しかとれないだろう」
状況を理解して冷静になったのかドラゴンの最後の言葉が異様にロキの耳に響く。
「それがいけないって言うのか?」
言いながらロキは視線を上げドラゴンに射抜くような赤い目を向ける。
「いけないかどうかは我の口からは言えない。ただその女が可哀想だと思っただけだ」
「可哀想? そう思うならなぜこんなことをした」
「お前らを守るためにまさか犠牲になるとは思わなかった。まあ、我にはむかうならこうなることに変わりはなかったが」
ロキの次にドラゴンの言葉に突っかかったユークの声が苛立っているのがわかる。先ほどもドラゴンを呼ぶときの言葉遣いがいつもより悪かった。いつもなら言葉を選んでから発言されたようなものが多かったのに、今では感情とともに言葉が出ているようだ。
それはロキも同じ。
「偉そうにしやがって。力があるのがそんなに偉いのか?」
「ロキ、今はそういう話をしているんじゃない」
「そういう話をしているんだろ? 俺がこいつをぶっ倒す力があればこんなことにはならなかったんだろ?」
「それはわからない」
「何がわからないんだよ。そういうことだろ」
「落ち着けロキ」
「落ち着いてるよ。落ち着いてないのはお前のほうだろ」
視線を一度も交わさずに繰り広げられる会話。
こちらを見ようともしないユークの背中をロキは力強い瞳で見て返答を待つ。
「仲間割れとかまじ勘弁なんだけど」
溜息をつくように呆れた様子でユークは瞼を閉じる。その声には少し棘がある。
「仲間割れしてるつもりはねーよ。お前が落ち着いているふりしてイライラしているのがいけねえんだろ」
「ロキがイライラを全面に出しているのがそもそもの原因なんだと俺は思うけど?」
まだ言ってくるロキにユークは振り返り正論を言うと、ロキは顔をしかめる。
「口喧嘩の原因はいつも俺ってわけか? クールぶってるやつが、だからムカつくんだよ」
「なに? クールぶってるって。いつ俺がクールぶったよ。俺はいつも自然体でやってるつもりだよ」
「いつもクールぶってるだろ。ああ自然体でいつもクールぶってるのか」
「自然体でいつもクールぶってるかどうかは置いておいて、本当にいまこんなくだらないこと話している場合じゃなかったよねそういえば」
ヒートアップする口喧嘩。口答えするロキにユークも止められなかった。というより自身ものみこまれていた。
ドラゴンに対する怒りがこんなふうにさせてしまうのか。
「そういえばってなんだよ。そういえばじゃなくて承知の上だよ俺は」
「承知の上とかそんな言葉普通に使えるようになったんだロキ」
「馬鹿にしてんじゃねえぞ。俺の何を知ってる」
「……いい加減、静かにしてくれ」
「それはこっちのセリフだ」
馬鹿、馬鹿、馬鹿。リキがこんなことになっているのにこんなバカみたいな言い合いしてる場合か。
ユークはリキを抱えながらに思う。
自分も馬鹿だがもっともバカなのは状況を収めようとしている自分の気も知らず、己の気持ちを吐き出そうとしているやつ。ロキだと。
ユークには冷静さが欠けていた。ドラゴンへの怒り、リキの心配。その二つでいっぱいいっぱいだった。ロキの怒りなど受けとめてなどいられない。
ーーお願いだから誰か止めてくれ。
余裕がなくなったユークが切実に願ったとき。
「馬鹿野郎どもが」
背後から声がした。
「ラピ……?」
「勝手に出てきて申し訳ないぴょん。だけどリキが困っているようだったから。私に考えがあるぴょん」
兎姿の召喚獣ラピはいつでも自分の意思で出現することができる。
ラピはリキの肩で名案を耳打ちする。
この状態を打破するにはその名案しかリキはないと思った。
強力な火玉を受け止めているせいで魔力も減ってきている。これ以上減ってからでは遅い。かけるしかない。
リキは攻撃魔法《炎の渦(ファイアスワール)》を発動した。
火玉はそれによって爆発する。
大きな炎の光と大きな爆発音。熱い蒸気のような突風にユークとロキは腕で顔を隠した。
風が収まり様子を伺うと火玉はなくなっていた。
今にもシールドを破ろうとめらめらと燃えていた火玉は消滅したのだ。リキの炎魔法によって。
視界からなくなったのは火玉だけではなかった。視野が開けて、なくなってはいけないものまでなくなっていることに気づいてロキは視線を下げた。
同時にロキの隣に立っていたユークがそこへ駆ける。
しゃがみこんだユークを見てまさかとロキは思う。
いきなり駆けたユークによって視界が遮られたがまさか、そこにいるのは……。
「守ることしかできない女なのだな。お前らは傷つけることしかできない奴らなのだな」
「あんただってそうだろ。傷つけることしかできない。俺たちは誰かを守るために傷つける。おまえと一緒にしないでくれる」
「我はそういう意味で言ったわけじゃない。その女は我を攻撃せず、身を守るために守る行為をとった」
地へ降りたドラゴンと地にしゃがみ込んでいるユークの会話でロキは何が起こったのか理解した。理解して怒りが湧いた。
珍しく慌てた様子で駆けしゃがんだユークの背中。そこにいるのはリキなのだろうと心配気にロキは見つめる。
「お前たちは身を守るために傷つけるという行為しかとれないだろう」
状況を理解して冷静になったのかドラゴンの最後の言葉が異様にロキの耳に響く。
「それがいけないって言うのか?」
言いながらロキは視線を上げドラゴンに射抜くような赤い目を向ける。
「いけないかどうかは我の口からは言えない。ただその女が可哀想だと思っただけだ」
「可哀想? そう思うならなぜこんなことをした」
「お前らを守るためにまさか犠牲になるとは思わなかった。まあ、我にはむかうならこうなることに変わりはなかったが」
ロキの次にドラゴンの言葉に突っかかったユークの声が苛立っているのがわかる。先ほどもドラゴンを呼ぶときの言葉遣いがいつもより悪かった。いつもなら言葉を選んでから発言されたようなものが多かったのに、今では感情とともに言葉が出ているようだ。
それはロキも同じ。
「偉そうにしやがって。力があるのがそんなに偉いのか?」
「ロキ、今はそういう話をしているんじゃない」
「そういう話をしているんだろ? 俺がこいつをぶっ倒す力があればこんなことにはならなかったんだろ?」
「それはわからない」
「何がわからないんだよ。そういうことだろ」
「落ち着けロキ」
「落ち着いてるよ。落ち着いてないのはお前のほうだろ」
視線を一度も交わさずに繰り広げられる会話。
こちらを見ようともしないユークの背中をロキは力強い瞳で見て返答を待つ。
「仲間割れとかまじ勘弁なんだけど」
溜息をつくように呆れた様子でユークは瞼を閉じる。その声には少し棘がある。
「仲間割れしてるつもりはねーよ。お前が落ち着いているふりしてイライラしているのがいけねえんだろ」
「ロキがイライラを全面に出しているのがそもそもの原因なんだと俺は思うけど?」
まだ言ってくるロキにユークは振り返り正論を言うと、ロキは顔をしかめる。
「口喧嘩の原因はいつも俺ってわけか? クールぶってるやつが、だからムカつくんだよ」
「なに? クールぶってるって。いつ俺がクールぶったよ。俺はいつも自然体でやってるつもりだよ」
「いつもクールぶってるだろ。ああ自然体でいつもクールぶってるのか」
「自然体でいつもクールぶってるかどうかは置いておいて、本当にいまこんなくだらないこと話している場合じゃなかったよねそういえば」
ヒートアップする口喧嘩。口答えするロキにユークも止められなかった。というより自身ものみこまれていた。
ドラゴンに対する怒りがこんなふうにさせてしまうのか。
「そういえばってなんだよ。そういえばじゃなくて承知の上だよ俺は」
「承知の上とかそんな言葉普通に使えるようになったんだロキ」
「馬鹿にしてんじゃねえぞ。俺の何を知ってる」
「……いい加減、静かにしてくれ」
「それはこっちのセリフだ」
馬鹿、馬鹿、馬鹿。リキがこんなことになっているのにこんなバカみたいな言い合いしてる場合か。
ユークはリキを抱えながらに思う。
自分も馬鹿だがもっともバカなのは状況を収めようとしている自分の気も知らず、己の気持ちを吐き出そうとしているやつ。ロキだと。
ユークには冷静さが欠けていた。ドラゴンへの怒り、リキの心配。その二つでいっぱいいっぱいだった。ロキの怒りなど受けとめてなどいられない。
ーーお願いだから誰か止めてくれ。
余裕がなくなったユークが切実に願ったとき。
「馬鹿野郎どもが」
背後から声がした。
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