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魔法召いのブレェス
魔操師1
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「あーあ、やっと見つけた」
足元が暗くなり何か音がする方を見ると、そこにはルーファースがいた。ドラゴンの上に立ちリキたちを見下ろしている。
不敵な笑みは何の意味を示すのか。口角を上げて目をぎらつかせている。
何の目的があってルーファースがここに来たのかリキ、ファウンズ、フェリスーーここにいる者全員わからなかった。ルーファースがドラゴンを従えていることさえ知らなかった。
学園を卒業してからリキとは一年ぶりでファウンズとは二年ぶりか。
ルーファースは、フェリスのドラゴンである存在に驚いた素振りをすることはなかった。
ドラゴンが地上に着地すると、ルーファースはドゴンの首辺りからジャンプし地上に着地した。
「まず何が言いたいかというと、ドラゴンと仲良しごっこしようとするのやめてくれる?」
少し歩いてきたかと思うと立ち止まってそんなことを言う。
リキもフェリスも理解ならなかった。その言葉の意味をすぐ理解できたのはファウンズ。
「そう言っているやつが、そのドラゴンと仲良くしているように見えるのは幻覚か?」
「こいつとは利害が一致して今回だけ行動しているだけだ」
利害が一致。つまりは、こうしてここに来て自分たちにこんなことを言うことが互いの目的なのだろう。とファウンズは見解する。
黒いドラゴン。純白のドラゴン、フェリスとは真反対だ。漆黒と言っていいほどの黒さ。邪悪さも感じる。
「で、答えは?」
冷えた目でルーファースは問う。
「断る」
「……お前の聞いてんじゃねえよ。そこの女」
見据えられたリキは動揺する。
確かにずっと目が合っていたかのように感じていたが、まさか意識的に向けられていたものとは思っていなかった。
「どうして私なの?」
「この男はただの手伝いだろ」
「……私はルーファースのその頼みは聞けない。どうしてそんなこと言ってくるのかわからないけど、ファウンズさんは協力してくれていてフェリスは人との友好を望んでいるから、私だけの答えじゃないよ」
まるで自分に選択権があるかのような物言いにリキは遠回りに否定する。
どうしてドラゴンと仲良くしようとするのがいけないのか。どうしてルーファースは望んでいないのか。
各地にいる全てのドラゴンと和解することができれば人々は助かるはずだ。ドラゴンは危険な魔物ではないと安心することができ、ドラゴンが本当の魔物を倒してくれれば平和になれる。
ドラゴンを必要とするだけじゃなくて、ドラゴンも人間の許しを必要としているから。青い空を自由に飛べる、陽がさすところで安心して寝れる権利を。
それはお互いに信じ合うことができなければ成立することはない。
「なあドラゴン、そこにいる白いドラゴンをここから離れさせることはできるのか?」
「……同胞であるドラゴンに手をかけることはしない。それに今回は見るだけと言ったはずだ」
喋らないと思っていた黒ドラゴンが喋った。
「チッ。使えねえな」
目を合わせずドラゴンと会話し終えたルーファースは杖を手に持ち、何かを唱える。
「こんな手使いたくなかったんだけどな。ーー混沌たる闇 ここに集え。魔物(モンスター)フェアザンメルン」
魔物が集まる光景にリキは目を疑う。
「こんな、魔物を操るような魔法なんてあったんですか?」
「聞いたことがない」
ファウンズも知らないということは魔法学園で使える者はいなかったのだろう。
「目標(ターゲット)はドラゴン。ここから離れさせろ」
「そやつの目的は私のようだ。大人しく言うことをきいてみるとしよう。心配するなリキ」
飛行する魔物たちによってフェリスは囲まれ、羽ばたいてしまった。
どうやらフェリスはルーファースの企みに乗っかるようだ。
「これでハンデはなしだな。……いや、まだあったか」
フェリスが羽ばたいていったところを見ていた目がぎろりとリキに向けられる。
「目標はそこにいる女」
「ご主人様。心配する必要ないぴょん」
「……うん」
私がついてるぴょん、と心強いラピにリキは勇気付けられた。
「本当はあいつをぶちのめす予定だったんだけどな、優先順位的にお前が先になった」
魔物たちに囲まれないようにと走って行ってしまうリキを追いかけようとしたファウンズだが、目の前にいるルーファースによって遮られる。
「なぜこんなことをする」
「ドラゴンと人間が仲良くするなんてつまらないだろ」
「……」
「魔物は俺が殺す。ドラゴンに魔物をやられるなんてくそもったいない」
「憎んでいる、のか。そんな魔物を今お前は戦闘道具として使っているようだが気分はどうだ」
「最悪だ」
憎んでいるからこそ、自分一人で魔物を倒したいのだとファウンズは理解した。
いつかの日のように剣を交え互角の戦いが行なわれる。
巧みさを身につけたのか前より滑らかな動きをするようになったルーファースは負けず劣らず近距離で攻撃を受け止め合い。隙をついたファウンズの攻撃をさけるため後方へしりぞいたルーファースの顔は笑っていて、大鎌を持っていない片方の手に杖を握るとまたあの術を唱えた。
『混沌たる闇ここに集え。魔物(モンスター)フェアザンメルン』
以前のこともあり自分一人ではやはりファウンズに勝てないと悟ったのだろう。集う魔物たちを見て顔に焦りの色を見せないファウンズにルーファースは嘲笑う。
「スカした顔してんじゃねえよ。俺は何にも動じねえんだって顔しやがって。テメーはそんなに強いのか。もしそう思い込んでるとしたら何様だよ、神様? 俺様? ふざけんじゃねえよ」
「ふざけているのきさまのほうだと思うが?」
凄みのある声が聞こえそちらの方を向こうとしたルーファースは、巨大な体をしたドラゴンーーフェリスによって吹き飛ばされる。
自らを狙う魔物を倒して来たのだろう。
「少なくともきさまよりファウンズの方が強いだろう。それは確かだ、私が相手したのだからな。スカした顔をしているところが気にくわないのはまあわかる」
一体何を聞かされているのか。
倒れ込んでいるルーファースは起き上がる気配を見せない。頭を強く打ったのか、霞む視界に映る黒いドラゴンは羽ばたき去ろうとしていた。
ドラゴンと仲良くしようとしている人間を拝見して、用が済んだらおしまいか。
以前、学園の演習のときに一度だけ相棒となったロザントが使えなかったことを思い出す。
「くそ。とりあえずの相棒なんてやっぱ使えねえな……」
自分がこんな状況になっているのに自ら手を差し出そうとしない。
「当たり前だ。とりあえずの相棒なんて存在しない」
とりあえず、のつく相棒は相棒ではない。それは存在していないのと同じ。
ファウンズのその言葉とともにルーファースは意識を手放した。
目覚めたルーファースは縄で拘束されていた。
後ろ手を縄で縛られ横になっているルーファースの視野にまず入ったのは、自分の前に立っているファウンズとリキで。瞬間的に目を覚ましたことを気づかれた。
「ドラゴンと人間の関係を良くしようとする計画を邪魔しようとしたのは魔物を自分の手で倒したいからなんだそうだな。なぜそんなに魔物を憎んでいる」
「魔物を操っていたことに関しても気になるな」
後ろからあのドラゴンーーフェリスの威圧さを感じさせる低い声に続いてファウンズの問いかけに、偉そうだと苛立つルーファース。
「知らねーよ」
「自分に関することなのに知らないと?」
「知ってても喋るか、くそ」
「言葉づかいが悪い」
「ドラゴンにそう言われちゃ終いだな」
拘束された身だが心まで屈するつもりはない。
そんなルーファースの態度にファウンズの口が開く。
「真意も知らずに安易に拘束を解くわけにもいかない。また襲われたり、物事をこれ以上複雑にされたりしたら困る」
「だから悪いが拷問とやらをする。私が考えたことではない許せ」
「は?」
瞬間、後ろ手の縄が引かれルーファースは地面を擦る。
フェリスとともにルーファースは空高く浮かんでいった。
「痛ってえんだよ、降ろせ」
「全てを話してくれたらな」
「全てってなんだよ」
「関節的な理由で私たちを襲ったーー。ドラゴンと人間を仲良くさせまいとするほどの憎しみを魔物になぜ持っているのか。その憎しみは本当に私たちの邪魔をしなければ晴らせないのか? あとはまあファウンズの言っていた、魔物を操っていたことに関しても聞いておかなければな」
「……本当に全て、だな。そんな全部話すと思っているのか」
「話してもらわなければ困る」
地上から離れてからしばらく経つ。
寒い上に、縄で縛り上げられている手の感覚がなくなりつつありルーファースは限界を感じていた。
「わかったよ、話す。このままってわけにもいかないしな。てきとうに話ぶっ飛ばすからちゃんと聞けよ」
そしてルーファースはフェリスだけに話す。
ルーファースの父は魔物狩りだったと。魔物であるドラゴンを見つけては他の者と協力して倒していた。それが普通だと思っていた。
だからドラゴンをやられてしまう子ドラゴンの気持ちがわからなかった。
『助けてくれと強く願ったのに』
赤いドラゴンと目が合ったあのときだ。全てが狂ったのは。
命まではとらない、と成長した赤ドラゴンは高く飛んでいった。
せっかく育ててやったのに。
そんな感情が浮かんで消えた。
父は魔物狩り。魔物であるドラゴンを捕らえることも誇りである父の息子。
「何が正しいのかわからなくなった。だから自分自身でその答えを見つけた。単純に楽しいことをしているのが一番正しいと。ーー誰も否定しなかった。なんせ魔物を倒せば全員喜んだ。これは正しい、俺のしていることは正しくていいことなんだって、あんな環境下だったら誰だってそう思うだろ。……やっぱり魔物を倒すのは楽しい。感情のある人間を痛ぶるのも、ドラゴンをいじめるのも全部。全て俺が正しい」
ねじ曲がった感情をもつ。それがルーファース。
彼がこうなってしまった理由に納得いくような話だがフェリスはルーファースの話を信用していなかった。
「嘘を言うのはよせ」
「……嘘だと?」
「初対面だが嘘を言っているのはわかる。話もぶっ飛んでいたが何より、お前のその声が嘘だと言っている」
「俺のこと何も知らねーのにそんなことわかるわけねえだろ! 全部本当だよ。これがあいつの言っていた真意だよ。だから早く降ろせ!」
フェリスの持つ一筋の縄に後ろ手を縛られ空中に吊るされているような状態のルーファース。
手首だけにルーファース自身の重みの負荷がかかっているのだろう。そう思えば痛々しい。
フェリスは縄を持つ手とは逆の手でルーファースを支えるとそのまま両手でルーファースのことを包みこむように持った。
「私はお前の真意に興味はない。だが聞かせてはくれないか」
「……は、なんだそれ」
「何も知らないやつの真意なんか知っても知らなくても同じだ、本心を言えばな。私に話して百人に伝わるわけではない、話せばお前は何事もなく解放される、悪い話ではないだろう」
フェリスの目は透き通っていた。全てを話させるための嘘を言っているようには思えない。人間からは感じない神秘的なものも感じる。
ルーファースはもうどーでもいいやと秘密に近い過去のことをどうでもいいもののように見て、とりあえず手短に現在に近いことから話すことにした。
「……まずひとつ。俺はここに来るまで、お前たちを探し当てるまでドラゴン共を痛ぶっていた」
「なぜ?」
「もちろんお前らの話を聞き入れさせないため」
「ドラゴンと人間が仲良くなれば、人間の頼みでドラゴンに魔物を倒されてしまうと警戒していたのだったな。私たちが魔物を相手にしたからといって全滅するわけでもない」
「わかんねーだろ。……いや、そっからちょっとずれてんな」
「ずれている?」
「俺の昔話をする。別にお前に聞かせたいからじゃない。話さなければ解放されずにあのムカつく奴の傍にいなければいけなくなるからだからだ」
ルーファースは両親を魔物に殺されある男に育てたられた。
ルーファースという呼び名は姓であり、名ではない。魔物を操る村の一族は全員ルーファースという姓で呼びあっている。
祖父に魔物を操る訓練を受けたルーファースは魔操師にもドラゴンを操ることはできないことを知っていた。だからドラゴンは魔物ではないのだと、自分と対等の生き物だと理解しているつもりだった。そんなルーファースと親しくなった子ドラゴンは知らずに利用され親ドラゴンを学園に売るようなことをされーールーファースは子ドラゴンから拒絶された。
魔物が村を襲ってくるのはルーファース一族がお金稼ぎなどの目的のために魔物を操っているため。魔物は本来、村を襲うために集って来るような頭の賢い生き物ではない。村を魔物に襲われているところをまるで通りすがりの者が手助けしたかのように魔物を倒せば、魔物討伐の報酬以外になんらかの報酬が期待できるからやっている。
ドラゴンの出来事から自分の置かれている状況を色々と考えたルーファースは、魔物を操るように言う祖父に反発するようになった。
ルーファースの母親と父親は魔物たちによって殺された。つまりは仲間だと思っていた者の裏切り。ある男が魔物を使っていたのをルーファースは見ていた。魔物を操っているという考えにいたったのはしばらく後のことだった。
ルーファースは魔操師がいることを知っていて魔物を全て殺そうとしている。その考えに至ったのは裏切った形になってしまった子ドラゴンで、その類であるドラゴンの力は借りたくない。
「だからまあ魔物を倒すべきなのは俺で、倒したいと強く思っているのも俺。それをドラゴンなんか、関係ないやつの力なんて借りたくない」
ファウンズに苦手意識を抱いているルーファースはどうしても早めに解放されたくて、自分の生い立ちを話した。
足元が暗くなり何か音がする方を見ると、そこにはルーファースがいた。ドラゴンの上に立ちリキたちを見下ろしている。
不敵な笑みは何の意味を示すのか。口角を上げて目をぎらつかせている。
何の目的があってルーファースがここに来たのかリキ、ファウンズ、フェリスーーここにいる者全員わからなかった。ルーファースがドラゴンを従えていることさえ知らなかった。
学園を卒業してからリキとは一年ぶりでファウンズとは二年ぶりか。
ルーファースは、フェリスのドラゴンである存在に驚いた素振りをすることはなかった。
ドラゴンが地上に着地すると、ルーファースはドゴンの首辺りからジャンプし地上に着地した。
「まず何が言いたいかというと、ドラゴンと仲良しごっこしようとするのやめてくれる?」
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リキもフェリスも理解ならなかった。その言葉の意味をすぐ理解できたのはファウンズ。
「そう言っているやつが、そのドラゴンと仲良くしているように見えるのは幻覚か?」
「こいつとは利害が一致して今回だけ行動しているだけだ」
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黒いドラゴン。純白のドラゴン、フェリスとは真反対だ。漆黒と言っていいほどの黒さ。邪悪さも感じる。
「で、答えは?」
冷えた目でルーファースは問う。
「断る」
「……お前の聞いてんじゃねえよ。そこの女」
見据えられたリキは動揺する。
確かにずっと目が合っていたかのように感じていたが、まさか意識的に向けられていたものとは思っていなかった。
「どうして私なの?」
「この男はただの手伝いだろ」
「……私はルーファースのその頼みは聞けない。どうしてそんなこと言ってくるのかわからないけど、ファウンズさんは協力してくれていてフェリスは人との友好を望んでいるから、私だけの答えじゃないよ」
まるで自分に選択権があるかのような物言いにリキは遠回りに否定する。
どうしてドラゴンと仲良くしようとするのがいけないのか。どうしてルーファースは望んでいないのか。
各地にいる全てのドラゴンと和解することができれば人々は助かるはずだ。ドラゴンは危険な魔物ではないと安心することができ、ドラゴンが本当の魔物を倒してくれれば平和になれる。
ドラゴンを必要とするだけじゃなくて、ドラゴンも人間の許しを必要としているから。青い空を自由に飛べる、陽がさすところで安心して寝れる権利を。
それはお互いに信じ合うことができなければ成立することはない。
「なあドラゴン、そこにいる白いドラゴンをここから離れさせることはできるのか?」
「……同胞であるドラゴンに手をかけることはしない。それに今回は見るだけと言ったはずだ」
喋らないと思っていた黒ドラゴンが喋った。
「チッ。使えねえな」
目を合わせずドラゴンと会話し終えたルーファースは杖を手に持ち、何かを唱える。
「こんな手使いたくなかったんだけどな。ーー混沌たる闇 ここに集え。魔物(モンスター)フェアザンメルン」
魔物が集まる光景にリキは目を疑う。
「こんな、魔物を操るような魔法なんてあったんですか?」
「聞いたことがない」
ファウンズも知らないということは魔法学園で使える者はいなかったのだろう。
「目標(ターゲット)はドラゴン。ここから離れさせろ」
「そやつの目的は私のようだ。大人しく言うことをきいてみるとしよう。心配するなリキ」
飛行する魔物たちによってフェリスは囲まれ、羽ばたいてしまった。
どうやらフェリスはルーファースの企みに乗っかるようだ。
「これでハンデはなしだな。……いや、まだあったか」
フェリスが羽ばたいていったところを見ていた目がぎろりとリキに向けられる。
「目標はそこにいる女」
「ご主人様。心配する必要ないぴょん」
「……うん」
私がついてるぴょん、と心強いラピにリキは勇気付けられた。
「本当はあいつをぶちのめす予定だったんだけどな、優先順位的にお前が先になった」
魔物たちに囲まれないようにと走って行ってしまうリキを追いかけようとしたファウンズだが、目の前にいるルーファースによって遮られる。
「なぜこんなことをする」
「ドラゴンと人間が仲良くするなんてつまらないだろ」
「……」
「魔物は俺が殺す。ドラゴンに魔物をやられるなんてくそもったいない」
「憎んでいる、のか。そんな魔物を今お前は戦闘道具として使っているようだが気分はどうだ」
「最悪だ」
憎んでいるからこそ、自分一人で魔物を倒したいのだとファウンズは理解した。
いつかの日のように剣を交え互角の戦いが行なわれる。
巧みさを身につけたのか前より滑らかな動きをするようになったルーファースは負けず劣らず近距離で攻撃を受け止め合い。隙をついたファウンズの攻撃をさけるため後方へしりぞいたルーファースの顔は笑っていて、大鎌を持っていない片方の手に杖を握るとまたあの術を唱えた。
『混沌たる闇ここに集え。魔物(モンスター)フェアザンメルン』
以前のこともあり自分一人ではやはりファウンズに勝てないと悟ったのだろう。集う魔物たちを見て顔に焦りの色を見せないファウンズにルーファースは嘲笑う。
「スカした顔してんじゃねえよ。俺は何にも動じねえんだって顔しやがって。テメーはそんなに強いのか。もしそう思い込んでるとしたら何様だよ、神様? 俺様? ふざけんじゃねえよ」
「ふざけているのきさまのほうだと思うが?」
凄みのある声が聞こえそちらの方を向こうとしたルーファースは、巨大な体をしたドラゴンーーフェリスによって吹き飛ばされる。
自らを狙う魔物を倒して来たのだろう。
「少なくともきさまよりファウンズの方が強いだろう。それは確かだ、私が相手したのだからな。スカした顔をしているところが気にくわないのはまあわかる」
一体何を聞かされているのか。
倒れ込んでいるルーファースは起き上がる気配を見せない。頭を強く打ったのか、霞む視界に映る黒いドラゴンは羽ばたき去ろうとしていた。
ドラゴンと仲良くしようとしている人間を拝見して、用が済んだらおしまいか。
以前、学園の演習のときに一度だけ相棒となったロザントが使えなかったことを思い出す。
「くそ。とりあえずの相棒なんてやっぱ使えねえな……」
自分がこんな状況になっているのに自ら手を差し出そうとしない。
「当たり前だ。とりあえずの相棒なんて存在しない」
とりあえず、のつく相棒は相棒ではない。それは存在していないのと同じ。
ファウンズのその言葉とともにルーファースは意識を手放した。
目覚めたルーファースは縄で拘束されていた。
後ろ手を縄で縛られ横になっているルーファースの視野にまず入ったのは、自分の前に立っているファウンズとリキで。瞬間的に目を覚ましたことを気づかれた。
「ドラゴンと人間の関係を良くしようとする計画を邪魔しようとしたのは魔物を自分の手で倒したいからなんだそうだな。なぜそんなに魔物を憎んでいる」
「魔物を操っていたことに関しても気になるな」
後ろからあのドラゴンーーフェリスの威圧さを感じさせる低い声に続いてファウンズの問いかけに、偉そうだと苛立つルーファース。
「知らねーよ」
「自分に関することなのに知らないと?」
「知ってても喋るか、くそ」
「言葉づかいが悪い」
「ドラゴンにそう言われちゃ終いだな」
拘束された身だが心まで屈するつもりはない。
そんなルーファースの態度にファウンズの口が開く。
「真意も知らずに安易に拘束を解くわけにもいかない。また襲われたり、物事をこれ以上複雑にされたりしたら困る」
「だから悪いが拷問とやらをする。私が考えたことではない許せ」
「は?」
瞬間、後ろ手の縄が引かれルーファースは地面を擦る。
フェリスとともにルーファースは空高く浮かんでいった。
「痛ってえんだよ、降ろせ」
「全てを話してくれたらな」
「全てってなんだよ」
「関節的な理由で私たちを襲ったーー。ドラゴンと人間を仲良くさせまいとするほどの憎しみを魔物になぜ持っているのか。その憎しみは本当に私たちの邪魔をしなければ晴らせないのか? あとはまあファウンズの言っていた、魔物を操っていたことに関しても聞いておかなければな」
「……本当に全て、だな。そんな全部話すと思っているのか」
「話してもらわなければ困る」
地上から離れてからしばらく経つ。
寒い上に、縄で縛り上げられている手の感覚がなくなりつつありルーファースは限界を感じていた。
「わかったよ、話す。このままってわけにもいかないしな。てきとうに話ぶっ飛ばすからちゃんと聞けよ」
そしてルーファースはフェリスだけに話す。
ルーファースの父は魔物狩りだったと。魔物であるドラゴンを見つけては他の者と協力して倒していた。それが普通だと思っていた。
だからドラゴンをやられてしまう子ドラゴンの気持ちがわからなかった。
『助けてくれと強く願ったのに』
赤いドラゴンと目が合ったあのときだ。全てが狂ったのは。
命まではとらない、と成長した赤ドラゴンは高く飛んでいった。
せっかく育ててやったのに。
そんな感情が浮かんで消えた。
父は魔物狩り。魔物であるドラゴンを捕らえることも誇りである父の息子。
「何が正しいのかわからなくなった。だから自分自身でその答えを見つけた。単純に楽しいことをしているのが一番正しいと。ーー誰も否定しなかった。なんせ魔物を倒せば全員喜んだ。これは正しい、俺のしていることは正しくていいことなんだって、あんな環境下だったら誰だってそう思うだろ。……やっぱり魔物を倒すのは楽しい。感情のある人間を痛ぶるのも、ドラゴンをいじめるのも全部。全て俺が正しい」
ねじ曲がった感情をもつ。それがルーファース。
彼がこうなってしまった理由に納得いくような話だがフェリスはルーファースの話を信用していなかった。
「嘘を言うのはよせ」
「……嘘だと?」
「初対面だが嘘を言っているのはわかる。話もぶっ飛んでいたが何より、お前のその声が嘘だと言っている」
「俺のこと何も知らねーのにそんなことわかるわけねえだろ! 全部本当だよ。これがあいつの言っていた真意だよ。だから早く降ろせ!」
フェリスの持つ一筋の縄に後ろ手を縛られ空中に吊るされているような状態のルーファース。
手首だけにルーファース自身の重みの負荷がかかっているのだろう。そう思えば痛々しい。
フェリスは縄を持つ手とは逆の手でルーファースを支えるとそのまま両手でルーファースのことを包みこむように持った。
「私はお前の真意に興味はない。だが聞かせてはくれないか」
「……は、なんだそれ」
「何も知らないやつの真意なんか知っても知らなくても同じだ、本心を言えばな。私に話して百人に伝わるわけではない、話せばお前は何事もなく解放される、悪い話ではないだろう」
フェリスの目は透き通っていた。全てを話させるための嘘を言っているようには思えない。人間からは感じない神秘的なものも感じる。
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「……まずひとつ。俺はここに来るまで、お前たちを探し当てるまでドラゴン共を痛ぶっていた」
「なぜ?」
「もちろんお前らの話を聞き入れさせないため」
「ドラゴンと人間が仲良くなれば、人間の頼みでドラゴンに魔物を倒されてしまうと警戒していたのだったな。私たちが魔物を相手にしたからといって全滅するわけでもない」
「わかんねーだろ。……いや、そっからちょっとずれてんな」
「ずれている?」
「俺の昔話をする。別にお前に聞かせたいからじゃない。話さなければ解放されずにあのムカつく奴の傍にいなければいけなくなるからだからだ」
ルーファースは両親を魔物に殺されある男に育てたられた。
ルーファースという呼び名は姓であり、名ではない。魔物を操る村の一族は全員ルーファースという姓で呼びあっている。
祖父に魔物を操る訓練を受けたルーファースは魔操師にもドラゴンを操ることはできないことを知っていた。だからドラゴンは魔物ではないのだと、自分と対等の生き物だと理解しているつもりだった。そんなルーファースと親しくなった子ドラゴンは知らずに利用され親ドラゴンを学園に売るようなことをされーールーファースは子ドラゴンから拒絶された。
魔物が村を襲ってくるのはルーファース一族がお金稼ぎなどの目的のために魔物を操っているため。魔物は本来、村を襲うために集って来るような頭の賢い生き物ではない。村を魔物に襲われているところをまるで通りすがりの者が手助けしたかのように魔物を倒せば、魔物討伐の報酬以外になんらかの報酬が期待できるからやっている。
ドラゴンの出来事から自分の置かれている状況を色々と考えたルーファースは、魔物を操るように言う祖父に反発するようになった。
ルーファースの母親と父親は魔物たちによって殺された。つまりは仲間だと思っていた者の裏切り。ある男が魔物を使っていたのをルーファースは見ていた。魔物を操っているという考えにいたったのはしばらく後のことだった。
ルーファースは魔操師がいることを知っていて魔物を全て殺そうとしている。その考えに至ったのは裏切った形になってしまった子ドラゴンで、その類であるドラゴンの力は借りたくない。
「だからまあ魔物を倒すべきなのは俺で、倒したいと強く思っているのも俺。それをドラゴンなんか、関係ないやつの力なんて借りたくない」
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