魔法召いのリキ・ユナテッド

リオ

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魔法召いのブレェス

幸せな

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「そやつは……」

 自分の目の前にいるリキともう一人の男を目にして、純白のドラゴンは難しい顔をした。それに気づかないリキは嬉しそうに言う。

「ファウンズさんがドラゴンとの交渉を手伝ってくれるって」
「あの金髪の青年ならまだしも、なんでそやつなんだ」
「もしかしてフェリス、歓迎してない?」

 そういえばそうだ、空を飛行したとき、背中に乗せてくれたのは自分と金髪であるシルビアで。落ちてもいいかのように手の中に収まっていたのは、ロキ、ユーク、その中にファウンズもいた。
 ファウンズはフェリスを攻撃したことがあった。だから信用にかけないのだろう。

「フェリス?」

 初めて聞く名にファウンズは少しながら疑問をもつ。前までは目の前にいる純白のドラゴンのことは名前で呼んでおらず、リキは「ドラゴンさん」と呼んでいた。ずっと前には、「大きな鳥さん」と。

「私がドラゴンさんの名前つけたの」

「昔につけると約束してくれてな。フェリス、っていうのは他の国の言葉で〝幸せな〟というらしい。私が幸せであるように。私の存在が全ての者に幸せをもたらすように」

 言うか迷いながらも純白のドラゴンは、自分の名前の由来を言った。

「いい名前だな」
「……本気で言っているのか?」
「ああ」

 嘘をついているように見えないファウンズにフェリスは、少しいいやつなんじゃないかと見る目を変える。単純だと思うだろうが、真っ黒なオーラを放つファウンズが、残忍な性格をしているのだろうと偏見を持って見ていた相手ファウンズが、自分が思っていることと同じことを言ったのだ。

 言ってほしい言葉だったのかもしれない。

 リキが良いと思ってつけてくれたはずに違いない名前。名前がつけられた当初、いい名前だな、と気に入って何度か言うとリキは毎回『いい名前だね』と答えてくれていた。
 他人からまさかそんなふうに言われる時がくるなんて思ってもみなかったフェリスは、嬉しいと思った。ファウンズの存在が初めていい感情を与えてくれた。

「まあ協力する者が増えても負担になるわけではないしな。特別、協力してもらっている間は背中に乗せてやってもいい」

「礼を言う。またあの時のように手に持たれたりして落とされでもしたら一巻の終わりだからな」

 フェリスとファウンズは自分では気づかないであろう穏やかな表情をしていた。

 自分の望むことを成し遂げるため、自分の望むことは何なのか知るため、それぞれ目的は違うが同じ旅を共にする。



「それで、何をすればいい」

 飛行している純白のドラゴンーーフェリスの背中でファウンズは問う。

「とりあえずはこうして他のドラゴンを探してもらう」
「こんな距離で見えるのか?」
「気配ぐらいするだろう。それよりお前、リキに近付きすぎではないか?」
「仕方がない。こうしなければ落ちる」

 リキを後ろからぎゅっと抱きしめているような状態のファウンズを見て、ドラゴンであるフェリスはどこかむっとした顔をしていた。
 リキはというと、いつも通りの顔をしていてフェリスはもっと嫌な気分になる。少しだけ照れたようにしているがそれは、暖かいぬくもりに嬉しそうにしているようだ。ずっと一人だったから。

「私がリキを落とすヘマをすると思うか? 落とすとしたらお前だけ落とすさファウンズ」
「ずいぶんと器用なことするんだな」

 嫌味だということはわかった。けれど本気で言っていることではないこともわかる。フェリスが初めてファウンズの名を言った瞬間でもあった。ふとフェリスの纏う空気が変わる。

「同性が嫌いというわけではない。ただ……リキ以外、完全に信じられないだけだ」
「悪いな。そうした原因に俺も入ってる」

 学園にいたころ、任務の一環でフェリスのことをファウンズは攻撃したことがある。敵意を向けられた相手に心を許すなど簡単なことではない。

「今更そんなこと言われてもな」
「今更だからこそだ」

 こうやって協力するようになってお互いに信じ合う存在にならなければいけなくなった今。
 些細なことでも相手が気にしていることなら言葉にしなければ伝わらない。思っていても伝わらなければ意味がない。伝わらなければそれは思っていないのと同じになってしまうーー相手からしてみれば。
 それはもったいない。



 一度、地上へ降りたフェリス。近くにドラゴンがいるのかと思いきや、ファウンズとリキの位置を逆にしろというフェリスのちょっとした我儘で二人は乗る位置を変えた。

 後ろだったファウンズが前で、前だったリキが後ろ。

 ファウンズがリキを抱きしめているような状態がフェリスは気に食わなかったのだが、今度はリキがファウンズに縋るような状態も気に食わなかった。二度も同じことは言えず、前者よりまだましだった後者を許した。



 フェリスが二度目に降りたところにドラゴンはいた。ファウンズが声をかけるとそのドラゴンは目を向けてきたが、言葉が通じていないようだった。故に、敵意を向けられ攻撃をされた。

 二度目に会ったドラゴンは会話は通じたが、人間とドラゴンの約定の話については一切耳に入れてもらえなかった。「これ以上馬鹿げた話を私の耳に入れるようなら、私も考えるぞ」と、即刻立ち去らなければ炎を吐くぞと威嚇された。

 三体目のドラゴンも同様。
 四体目のドラゴンも以下同文。

「ドラゴンが魔物を滅するかわり、人間はドラゴンを攻撃しないなんてーーずいぶん身勝手な要求だと思わないか」
「それを人間のお前が言ったらおしまいだ」

「人間なんてドラゴンからしてみればアリみたいな存在なんだろうな。それなのに踏みつぶさないでいるのは良心なのか、ただ単に興味ないのか。そもそもドラゴンから積極的に攻撃を受けていないだけで感謝すべきなのかもな」

「本当にどうした。考え方が変わったか?」

「別に。ただおかしいと思った、今更だが。ドラゴンを攻撃するのは人間の勝手だ、ドラゴンが俺たちを積極的に攻撃してこないのは誰の勝手とも思えない。勝手にしているのは俺たちだ、俺たちだけだ。それをあたかもどちらも勝手にしているかのように、行動を統制する約定をしようとして」

 ドラゴンから断られ続け何かが吹っ切れたかとフェリスは一瞬思っていたが、そうではなかった。ちゃんと経験をして思ったことなのだ。

「魔物を倒してくれと頼めば、あいつらも反応は違ったのかもな」
「……」

 確かにとドラゴンであるフェリスは思った。

 頼まれれば、魔物なんて容易い雑魚倒してやらないこともない。急に人間から「ドラゴンが魔物を滅するかわり、人間はドラゴンを攻撃しない」なんて偉そうに言われたらなんのこっちゃって話だ。

 自分たちは人間を攻撃しないのに、目があったら攻撃をしてくるのは人間たちだ。だから正当防衛として攻撃するドラゴンもいるのかもしれない。それをあたかも最初からドラゴンは人間を傷つけようとしていたかのように。そう感じとられて、こちらは迷惑だ。

「(ファウンズ、お前はわかろうとしてくれているんだな)」

「ただの予想にすぎないが」
「ファウンズさん、私もそう思います。そのこと聞くまで〝ドラゴンを攻撃しないから魔物を倒してほしい〟って言葉で伝わると思っていました。……でも、そんなんじゃ伝わらなかった」

 ファウンズが協力者として共に行動してくれる前、リキは何体かのドラゴンに声をかけていた。〝ドラゴンを攻撃しないから魔物を倒してほしい〟と。ばかばかしいと話を聞き入れてもらえなかった。

 平和でありたい。そのために警戒対象であるドラゴンへの攻撃をやめ、言葉が伝わるのだからかわりに信用できることをしてもらいたかった。
 平和を脅かしている魔物を倒してもらえたら一石二鳥だなんて簡単な言葉で言い表せないけど、互いに尊重できる存在になれると思った。
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