魔法召いのリキ・ユナテッド

リオ

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魔法召いのブレェス

卒業という名の

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 リキが学園に来て半年が過ぎるころ、二十二歳となったユークは卒業を迎えた。
 旅立ちを見送ろうと全員で学園の外まで来たところ、ユークは名残惜しそうに学園を見つめていた。

「いつにも増して頭からっぽそうな顔してんな。そんな卒業すんのが嬉しいのかよ」
 視界に入った赤髪の、ロキは相変わらずだ。
「十何年も縛られていたからな。何しようかわくわくだよ」
「働けよ」
「言われなくてもそうする。とりあえず最初はフリーで依頼とか受け賜ろうかな」
「まあ、健全に生きろ」
「そっちこそ。何かあったらファウンズに言えよ」
「こいつに相談してもただ頷くだけだろ。いや頷きもしねーと思うわ」
 はっ、と軽く笑ったロキの頭がふいに前に傾く。
「今のなに」
 後頭部に何か当たった気がする。後ろ見るがなにもない。
「ファウンズ、嫌なことあったらたまには手出していいから。今のように。もうグーでいっていいよ、ロキ相手には」
「え、今のこいつがやったの」
 ファウンズが手を出すなんてありえない。

「そういえば、リキと離れることになったらバードとも会えないんだっけ。会わせてくれる?」
 バードだけ、と思ったがリキはここにいるラピ以外の召喚獣を召喚した。リキ兼ロキにつく炎属性ラピーーファウンズにつく水属性スイリュウーーシルビアにつく雷地属性ラッキー、そしてユークにつく風属性バード。別れのときはいつか必ずやってくるもので、ユークはそのことを人一倍理解している。

「バード、おまえと一緒にいられて良かった。ウインドバードって単純な名前嫌かと思ったけど、それしか思いつかなかったんだ。許してくれ。バード、俺を選んでくれてありがとう」
 リキの召喚獣は選ばれた者にしかつかない。召喚獣自身が何を基準にしているかわからないが、召喚獣が選んだ者がそばにいなければその召喚獣はこの世界に出現しない。
「リキやシルビア、それからロキとは短い付き合いになるけど、楽しかったよ」
 ユークは目の前にいる三人と、後方にいるファウンズを見る。ファウンズだけは短い付き合いではない。
 これで最後とは思っていない、けれど学園で過ごす日々はなくなり、学園の生徒として関わり合うことはなくなる。次会うときは、互いに学園を卒業し自分の道を歩んでいる最中になるのだろう。別れの言葉などいらないのかもしれない。
 ロキがいつも通りなのに対し、リキとシルビアはどこかおとなしめだ。悲しいのだろうか、自分がいなくなることに悲しんでくれているのだろうか。そう思ったらユークは悲しむどころか卒業することに嬉しさを感じていた。リキたちもこうして同じように旅立つときがくる。そんなときに自分を必要としてくれている人がいるというのは貴重なことだ。

 学園から出て外に出るには、長い橋を渡る必要がある。崖につくられているため頑丈で幅広い橋だ。任務を向かう際はいつもそれを渡っていた。今日は違う。任務のためではなく、学園(ここ)から卒業するため。一度渡ってしまえばもう二度と戻ってくることは叶わない。それでも渡る必要があった。
 別れの言葉も言わず、楽しかったという一言で済ませ身を翻(ひるがえ)した。橋の途中でユークは止まった。その顔は悲しさで染まったものではなく、ある人の幸せを願ってのもの。
「ファウンズ、楽しくやっていけよ」
 学園を出るには二十一歳になってからという決まりがある。ユークは二十二歳となった。学園を卒業できる歳になってもなぜ卒業しなかったのか、それはファウンズの存在があったから。どうせならあと一年、ファウンズが卒業するまで一緒にいてもよかった。一年前まではそうしようと思っていた、だが今ではその必要はなくなった。リキとロキとシルビアそしてその他召喚獣、一年前にはファウンズの前にいなかった者たちが今はいる。

(必要のなくなった俺はおさらば、なんてな)

 必要とされていたわけではなかった。ファウンズに一緒(ここ)にいてくれと言われたわけではない。ユークがファウンズの心配を勝手にしていた。少し似ていると思っていたから。親を目の前でなくしたという同じ点は大きかった。
 ーー風の音。何気なく後ろを見るとバードがこちらに来ていた。

「バードなにしてるんだ。お別れはもうしただろ。リキから離れすぎると消えてしまうぞ、……って、ほらな、言った通り」

 リキから離れすぎたバードは空気に溶かされるように消えてしまった。リキから魔力を受け渡され存在するリキの召喚獣は、やはりリキなしでは存在し続けられないのだ。

(ああ、そうか。俺がいなくてもおまえは)

 召喚獣が選んだ者が召喚師のーーつまりリキのそばにユークがいないと、バードは出現することができない。できない、のかは定かではないが、リキとユークが一緒にいないとバードは出現しない。

(お前はおれにとって必要だ、とでも言いたかったのか。召喚獣のくせに)

 別れは悲しいものではない。永遠に会えないわけではないから。永遠に会えない別れは、死より苦しいものだろう。


 そして一年後。ファウンズとシルビアが卒業する歳となった。どちらも卒業することを選んだ。ここに留まる理由がなかったから。
「もう卒業だね。せっかくリキちゃんに会えたのに。もう数年のことのように感じるよ」
「実際に会ってから数年しか経ってないもんな」
「ラッキーにも会えなくなっちゃうし……」
 シルビアたちが卒業することに特にこれといって悲しんでいないのか、ロキは無表情でツッコミをいれる。ラッキーというのは猫の姿をしている雷地属性の、シルビアの召喚獣だ。
「また会いたくなったら会えばいいよ」
「そうだね。そうしよう!」
 柔らかい顔で言ったリキの言葉に、シルビアは朗らかに笑った。
「皆でまた会おう。ユークも入れて」
 一年前に卒業してしまったユーク。ばらばらに卒業していく皆が果たして揃うときがやってくるのか。
  

 その一年後は、リキ、ロキ、フウコ、ライハルトの四名が卒業することになった。
「ロザント、バイバイ」
「またね……でしょ?」
 そうだね、とリキは自分より一つ下の、身長の低いロザントを見つめる。
「私たちに挨拶はないわけ?」
「ああ、風の子か」
「フウコよ! フ・ウ・コ」
 この二人(ロザントとフウコ)は仲が悪いのか良いのかわからない。
「僕にも挨拶ないなんて、悲しいな」
「イカれた頭してなに言ってんのよ」
 ロザントはライハルトの爆発している頭を冷たい目で見る。
「これはね、兎にやられたんだよね」
「ごめんね、ライハルトくん」
「いいよ、いいよ。気にしないで」
 謝るべきなのはペットを飼っている主人ではなく、ペット自身だ。
 兎こと、ラピは、ライハルトの頭に泣きつき髪をボサボサにした。大丈夫? と優しく接すればするほど、うぇぇぇんと髪の毛をさらに爆発させたのだ。
「気にするのは兎本人なのに、兎くんは未だ泣きべそかいてるし」
 あてるべきところがない。
「かいてないぴょん! これでもうロキとも他の召喚獣とも会えないとか思ってないぴょん。悲しいなんて全然思ってないぴょん。ご主人様だけがいれば幸せなんだぴょん。私の幸せ壊すなぴょん」
「誰も壊そうとしてないけどね」
 ライハルトは自分の名前ではなくロキの名前がでたことに、ああやっぱりと思った。ラピは自分と会えなくなるのが悲しいわけではなく、ロキと会えなくてなってしまうのが悲しいのだ。どちらも素直ではないから、ラピはロキに甘えられず、ロキはラピに甘えさせない。というよりラピが甘えてくるわけがないと思っている。
「(最後くらい、甘えさせてあげればいいのに)」
 ロキのほうを見れば、どこかぼっーとしていた。珍しく静かで、ラピが代わりにうるさくしたというところか。視線を追えばそこには泣きつくラピを胸元に受け止めているリキの姿があった。ああ、となんとなく理解した。
「モンキーさんもリキにそうしてもらえば?」
「あ?」
 モンキーに反応したのか、それとも別のことに反応したのか。
「会えなくなるのが悲しいならさ、最初で最後で、リキにぎゅっとしてもらえばいいじゃん」
 馬鹿なのか?という顔をされた。
「そういうお前こそしてもらえばいいだろ。してもらいたいんならだけど」
 どーせ冗談だろ、というような言い方。挑発じみている。
「じゃあしてもらおうかな。リキ、僕にもしてくれる?」
「は?」
「え? ……っと、どんな風に?」
 さすがは息ぴったり。これまでのロキとの会話でリキも少しは理解しているようだ。
「そうやってラピにやるようにぎゅっと僕もしてもらいたいな」
「そんなの駄目に決まってんだろ……!」
「そんなの駄目に決まってるぴょん!」
 こちらもこちらで息ぴったり。ロキと同じように、振り返ったラピまでもが抗議してくる。
「ここは私のテリトリーなんだぴょん!それを見ず知らずのやつに譲るわけないぴょん!」
「僕って見ず知らずの人?」
「リキに比べたら見ず知らずぴょん」
 ぷんぷんと怒っている。悲しきことかな。

「まあーー会えなくなるのは確かだよな。それがどのくらいになるかってだけで」
「ヘタすれば一生会えないかもしれない」
「それは全力で回避するわ、できるなら」
「会えないのが嫌ならまた会えばいいだけぴょん」
「どこにいるのかわからなくても、私は会いに行くよ」
「私だって追いついてやるんだから!」
 ロキ、ライハルト、フウコ、ラピ、リキ、ロザント。一つ年下のロザントを除いて、卒業となった。
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