34 / 71
魔法召いのブレェス
続々過去/さらば
しおりを挟む
「どうしてその人殺しちゃったの」
「己の平和を守るためだ」
「大きな鳥さん、何かしちゃったの?」
「最初に何かをしたのはどちらなのか」
ドラゴンを探しているという男を少女は洞窟に案内した。そこにいるのは少女にとってただの「大きな鳥さん」で、男の探しているドラゴンとは微塵も思っていなかった。そのドラゴンを見つけたらどうするのかも聞いていない。
男の探しているものと関係ない、けれど仲良くなってくれればと。大きな鳥さんの話し相手を増やしたかった。ときどき独りを寂しそうにする大きな鳥さんのためと、そう信じて。
ーーそれなのに。
それは間違っていた。大きな鳥さんは嬉しがると、思い込みにすぎなかった。
「大きな鳥さん、どこか行っちゃうの?」
背を向けてどこかへ羽ばたこうとするように見えたドラゴンは振り返る。
「私はドラゴンだ。人の目に入れば命を狙われる。願っているのは安息の地。ずっと探しているがそんな場所はない。私はこの身の命が尽きるまでその場所を探そうと思っている」
「安心できる場所を探している? だったらここは安全だよ」
村の人たちは温厚な人たちばかりだ。殺そうとする人なんていない。口でどう言っていても行動には移さないから。ーー移せないから。
「一度約束を破ったお前の側が安全だというのか」
村の近くが逆に安全だとドラゴンも考えてあの洞窟にいた。
「私は、私がここにいるということを誰にも言わずにいてほしいと言った」
腹いせというより、ただ悲しかった。リキの傍にいられないという事実があってそれはどうしても避けられないもので。
永遠に一緒にいられたら、そんなことはできない。できないとわかっているはずだ。
一緒にいれば、仲良くしているところを人間がみれば、リキまで人間として扱わられなくなりいつしかそれがリキを滅ぼす元凶となるだろう。
だからこれで最後だと自分に言い聞かせた。
「……約束だったの?」
「約束とは言っていなかったな。ただの私の哀れな願いだった」
初めての〝大きな鳥〟に興奮していてちゃんと聞いていなかったことを知っている。
「大きな鳥さんとの約束……破っちゃったんだ。そのせいで、大きな鳥さんの居場所がなくなった。私が奪った」
真実を知ったリキはあえて、大きな鳥さんと呼び続けた。
まるで自分の知っている者はドラゴンではなく、大きな鳥だと言いたいかのように。
「お前は悪くない」
悪いのは誰でもない。複雑そうに見えて単純でそれでも明解できない。何重にもなった現実というリアル。
とにかく少女のせいではない。
「大きな鳥さんの名前、まだ決めてないよ」
「それでいい。会うのはこれで最後」
もし会うことがあるならそれは彼女が大人に近づいた時で、今の心を忘れ、自分との思い出も忘れ、きっと敵となる。そんな存在となるのだから名前なんて付けられたところでやはり、もう一度その名を呼ばれることはない。虚しいだけ。だったら付けられないほうがずっとマシだ。
「さらば」
最後まで、大きな鳥さんだった。ドラゴンではなく、大きな鳥。
「己の平和を守るためだ」
「大きな鳥さん、何かしちゃったの?」
「最初に何かをしたのはどちらなのか」
ドラゴンを探しているという男を少女は洞窟に案内した。そこにいるのは少女にとってただの「大きな鳥さん」で、男の探しているドラゴンとは微塵も思っていなかった。そのドラゴンを見つけたらどうするのかも聞いていない。
男の探しているものと関係ない、けれど仲良くなってくれればと。大きな鳥さんの話し相手を増やしたかった。ときどき独りを寂しそうにする大きな鳥さんのためと、そう信じて。
ーーそれなのに。
それは間違っていた。大きな鳥さんは嬉しがると、思い込みにすぎなかった。
「大きな鳥さん、どこか行っちゃうの?」
背を向けてどこかへ羽ばたこうとするように見えたドラゴンは振り返る。
「私はドラゴンだ。人の目に入れば命を狙われる。願っているのは安息の地。ずっと探しているがそんな場所はない。私はこの身の命が尽きるまでその場所を探そうと思っている」
「安心できる場所を探している? だったらここは安全だよ」
村の人たちは温厚な人たちばかりだ。殺そうとする人なんていない。口でどう言っていても行動には移さないから。ーー移せないから。
「一度約束を破ったお前の側が安全だというのか」
村の近くが逆に安全だとドラゴンも考えてあの洞窟にいた。
「私は、私がここにいるということを誰にも言わずにいてほしいと言った」
腹いせというより、ただ悲しかった。リキの傍にいられないという事実があってそれはどうしても避けられないもので。
永遠に一緒にいられたら、そんなことはできない。できないとわかっているはずだ。
一緒にいれば、仲良くしているところを人間がみれば、リキまで人間として扱わられなくなりいつしかそれがリキを滅ぼす元凶となるだろう。
だからこれで最後だと自分に言い聞かせた。
「……約束だったの?」
「約束とは言っていなかったな。ただの私の哀れな願いだった」
初めての〝大きな鳥〟に興奮していてちゃんと聞いていなかったことを知っている。
「大きな鳥さんとの約束……破っちゃったんだ。そのせいで、大きな鳥さんの居場所がなくなった。私が奪った」
真実を知ったリキはあえて、大きな鳥さんと呼び続けた。
まるで自分の知っている者はドラゴンではなく、大きな鳥だと言いたいかのように。
「お前は悪くない」
悪いのは誰でもない。複雑そうに見えて単純でそれでも明解できない。何重にもなった現実というリアル。
とにかく少女のせいではない。
「大きな鳥さんの名前、まだ決めてないよ」
「それでいい。会うのはこれで最後」
もし会うことがあるならそれは彼女が大人に近づいた時で、今の心を忘れ、自分との思い出も忘れ、きっと敵となる。そんな存在となるのだから名前なんて付けられたところでやはり、もう一度その名を呼ばれることはない。虚しいだけ。だったら付けられないほうがずっとマシだ。
「さらば」
最後まで、大きな鳥さんだった。ドラゴンではなく、大きな鳥。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる