魔法召いのリキ・ユナテッド

リオ

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魔法召いのブレェス

続々過去/さらば

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「どうしてその人殺しちゃったの」
「己の平和を守るためだ」
「大きな鳥さん、何かしちゃったの?」
「最初に何かをしたのはどちらなのか」

 ドラゴンを探しているという男を少女は洞窟に案内した。そこにいるのは少女にとってただの「大きな鳥さん」で、男の探しているドラゴンとは微塵も思っていなかった。そのドラゴンを見つけたらどうするのかも聞いていない。
 男の探しているものと関係ない、けれど仲良くなってくれればと。大きな鳥さんの話し相手を増やしたかった。ときどき独りを寂しそうにする大きな鳥さんのためと、そう信じて。
 ーーそれなのに。
 それは間違っていた。大きな鳥さんは嬉しがると、思い込みにすぎなかった。

「大きな鳥さん、どこか行っちゃうの?」

 背を向けてどこかへ羽ばたこうとするように見えたドラゴンは振り返る。

「私はドラゴンだ。人の目に入れば命を狙われる。願っているのは安息の地。ずっと探しているがそんな場所はない。私はこの身の命が尽きるまでその場所を探そうと思っている」
「安心できる場所を探している? だったらここは安全だよ」

 村の人たちは温厚な人たちばかりだ。殺そうとする人なんていない。口でどう言っていても行動には移さないから。ーー移せないから。

「一度約束を破ったお前の側が安全だというのか」

 村の近くが逆に安全だとドラゴンも考えてあの洞窟にいた。

「私は、私がここにいるということを誰にも言わずにいてほしいと言った」

 腹いせというより、ただ悲しかった。リキの傍にいられないという事実があってそれはどうしても避けられないもので。
 永遠に一緒にいられたら、そんなことはできない。できないとわかっているはずだ。
 一緒にいれば、仲良くしているところを人間がみれば、リキまで人間として扱わられなくなりいつしかそれがリキを滅ぼす元凶となるだろう。
 だからこれで最後だと自分に言い聞かせた。

「……約束だったの?」
「約束とは言っていなかったな。ただの私の哀れな願いだった」

 初めての〝大きな鳥〟に興奮していてちゃんと聞いていなかったことを知っている。

「大きな鳥さんとの約束……破っちゃったんだ。そのせいで、大きな鳥さんの居場所がなくなった。私が奪った」

 真実を知ったリキはあえて、大きな鳥さんと呼び続けた。
 まるで自分の知っている者はドラゴンではなく、大きな鳥だと言いたいかのように。

「お前は悪くない」

 悪いのは誰でもない。複雑そうに見えて単純でそれでも明解できない。何重にもなった現実というリアル。
 とにかく少女のせいではない。

「大きな鳥さんの名前、まだ決めてないよ」
「それでいい。会うのはこれで最後」

 もし会うことがあるならそれは彼女が大人に近づいた時で、今の心を忘れ、自分との思い出も忘れ、きっと敵となる。そんな存在となるのだから名前なんて付けられたところでやはり、もう一度その名を呼ばれることはない。虚しいだけ。だったら付けられないほうがずっとマシだ。

「さらば」

 最後まで、大きな鳥さんだった。ドラゴンではなく、大きな鳥。
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