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魔法召いのブレェス
過去/大きな鳥
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どこから来たのかある男の人に幼い頃の十もいかないくらいのリキは声をかけた。容姿からして見知らぬ人だった。
「おじさん何しにきたの」
「ドラゴンを探しているんだよ」
「ドラゴン?」
「ちょっとした仕事みたいなもんでな。嬢ちゃん、どこかにドラゴンがいたとかそういう情報ねえか?」
知ってるわけがない。男もリキもそう思っていた。
「大きな鳥さんなら知ってる」
「鳥?」
「すごく大きくて、真っ白な体して牙があって、普通の鳥じゃないみたいなの」
違うなと思う一方、男は妙な勘が働いて追求という選択をする。
「その大きな鳥さんをどこで見た?」
「森の中にいるよ」
「無理な要件かもしれねえけど、そこに案内してくれねえか」
うーん、と考えては、リキはいいよと答えた。
言ってはいけない。その言葉を忘れていた。
「大きな鳥さんをいつ見たんだ」
「昨日も背中に乗せてもらった。いつもは洞窟にいるんだけど、呼べば出てきてくれるんだ」
森の中を案内しているうちに大きな鳥のことを話した。
背中に乗れば大きな鳥は笑ってくれると。笑って何かを言うのだ。
初めてのときは戸惑っていた。
『何をしている』
『大きな鳥さんの背中っておっきいね。それに景色が綺麗に見える』
大きな鳥が背中に乗られることに慣れたころには。
『乗るのがうまくなったな』
『まあね。大きな鳥さんちっさくなったんじゃない?』
『まさか』
数十日で背丈がそれほど伸びているわけでもないのに簡単に乗れるようになったのは、筋肉がついたからなのかただ単に慣れたからなのか。一つの遊びとして行わられていたものはある意味リキを成長させた。
洞窟前でリキは止まり両手を口の横に当て、よく声が通るよう大きく口を開ける。
「大きな鳥さーん」
ほどなくして洞窟の中から音がしてきて、男は目を凝らした。ズシズシと重い足音のような音が男の勘をあてることとなる。
影から出てきたのは男の知っているドラゴン。希少な白銀竜。
男を見てドラゴンは目を見張らせた。
現状に理解が及ばないようでどちらも固まる。
「……どうして子供以外の人間がここに」
「大きな鳥さんのいるところに案内してくれって言われて連れてきた。この人、ドラゴン……? を探してるんだって」
純粋無垢な子供ほど恐ろしいものはない。人間の大人が一番恐く子供は例外だと思っていたがそうではないとこのときドラゴンは思い知った。
成長したリキの姿は子どもの頃の面影を残しつつ大人びたものへと変わっていた。髪も長く伸ばして女性らしい服を着て。子どもの頃とは違う。短パンに白いシャツその上に薄い上着、動きやすい服を着ていたときとは異なる容姿。
愛着の湧く顔でなんとなく脳裏をよぎった。
「やはりお前はリキだったのか。あんな昔のことをよく覚えていたな。あんなに幼き頃のことを」
リキにとっては『昔』のこと。ドラゴンにとっては十数年前のこと。
幾年過ぎてもドラゴンの記憶が薄れることはなかった。初めて言葉を交わした子供、心を通じることのできた唯一の人間。あの日以降誰かと交わるということは一切なくひとり、寂しい月日を送った。
「魔物への恨みはないのか?」
「魔物を恨んだことはないよ」
何年も生きて魔物の被害を受けてきたはずの人間が魔物を恨まないわけがない。
親を殺された。記憶はない。殺されたところは目撃していない聞いただけ、と子どもの頃リキが言っていたのを思い出し確認したかったのかもしれない。
大人になって物心ついたばがりの子供と違って自我の覚醒を果たし、他の人間同様憎しみを持つものだと覚悟していたから。
「私は……大きな鳥さんに恨まれていると思ってた」
「なぜ、私が」
お前を恨むなど。
「約束、破って、居場所を奪って。とても酷いことをしたから」
小さいながらに悪いことをしたのだと感じていたのだろう。
「本当に変わらないな。それは約束ではないと言ったはずだ。あれは私の願いだった。げんに約束などしなかっただろう」
「おじさん何しにきたの」
「ドラゴンを探しているんだよ」
「ドラゴン?」
「ちょっとした仕事みたいなもんでな。嬢ちゃん、どこかにドラゴンがいたとかそういう情報ねえか?」
知ってるわけがない。男もリキもそう思っていた。
「大きな鳥さんなら知ってる」
「鳥?」
「すごく大きくて、真っ白な体して牙があって、普通の鳥じゃないみたいなの」
違うなと思う一方、男は妙な勘が働いて追求という選択をする。
「その大きな鳥さんをどこで見た?」
「森の中にいるよ」
「無理な要件かもしれねえけど、そこに案内してくれねえか」
うーん、と考えては、リキはいいよと答えた。
言ってはいけない。その言葉を忘れていた。
「大きな鳥さんをいつ見たんだ」
「昨日も背中に乗せてもらった。いつもは洞窟にいるんだけど、呼べば出てきてくれるんだ」
森の中を案内しているうちに大きな鳥のことを話した。
背中に乗れば大きな鳥は笑ってくれると。笑って何かを言うのだ。
初めてのときは戸惑っていた。
『何をしている』
『大きな鳥さんの背中っておっきいね。それに景色が綺麗に見える』
大きな鳥が背中に乗られることに慣れたころには。
『乗るのがうまくなったな』
『まあね。大きな鳥さんちっさくなったんじゃない?』
『まさか』
数十日で背丈がそれほど伸びているわけでもないのに簡単に乗れるようになったのは、筋肉がついたからなのかただ単に慣れたからなのか。一つの遊びとして行わられていたものはある意味リキを成長させた。
洞窟前でリキは止まり両手を口の横に当て、よく声が通るよう大きく口を開ける。
「大きな鳥さーん」
ほどなくして洞窟の中から音がしてきて、男は目を凝らした。ズシズシと重い足音のような音が男の勘をあてることとなる。
影から出てきたのは男の知っているドラゴン。希少な白銀竜。
男を見てドラゴンは目を見張らせた。
現状に理解が及ばないようでどちらも固まる。
「……どうして子供以外の人間がここに」
「大きな鳥さんのいるところに案内してくれって言われて連れてきた。この人、ドラゴン……? を探してるんだって」
純粋無垢な子供ほど恐ろしいものはない。人間の大人が一番恐く子供は例外だと思っていたがそうではないとこのときドラゴンは思い知った。
成長したリキの姿は子どもの頃の面影を残しつつ大人びたものへと変わっていた。髪も長く伸ばして女性らしい服を着て。子どもの頃とは違う。短パンに白いシャツその上に薄い上着、動きやすい服を着ていたときとは異なる容姿。
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「やはりお前はリキだったのか。あんな昔のことをよく覚えていたな。あんなに幼き頃のことを」
リキにとっては『昔』のこと。ドラゴンにとっては十数年前のこと。
幾年過ぎてもドラゴンの記憶が薄れることはなかった。初めて言葉を交わした子供、心を通じることのできた唯一の人間。あの日以降誰かと交わるということは一切なくひとり、寂しい月日を送った。
「魔物への恨みはないのか?」
「魔物を恨んだことはないよ」
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「私は……大きな鳥さんに恨まれていると思ってた」
「なぜ、私が」
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